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第4話 初めての宿(挿絵あり)

※本作に登場する挿絵は、AI画像生成モデル(Animagine XL V3.1)を用いて著者自身が生成したものです。

※書籍化できた際には現在の挿絵は全て差し替える予定です。

※2025年7月7日に差し替えました。過去絵はみてみんで見られます。

ギルドの近くにあった宿兼酒場と書いてあるお店を見つけた。


中を覗いてみると、空いているテーブルは1つしか無かった。

このお店は結構繁盛しているのかな。


「あら、かわいいお客さんね。買うのは食事?それとも私?」


挿絵(By みてみん)


席につくと際どい格好をしたウェイトレスさんが話しかけてきた。


「私......ってなんですか?」

「あら、坊や。何も知らずにここに来たのね。

ここは食事と快楽を提供するお店よ」


快楽って、......まさか大人のお店!?

入るお店間違えちゃったかな?


「心配しなくても、必ず誰かを指名しなきゃいけないわけじゃないわ。

食事をして、宿で寝るだけというお客さんも大歓迎よ」


それなら良かった。

初めてがお店の人っていうのはちょっと気が引ける。

やっぱり最初は愛する彼女と俺の部屋の中で、だよなあ。

俺の部屋無いけど。

部屋どころか家も無いけど。


「えっと、じゃあ食事だけで」

「あら、つれないわね。気が変わったらいつでも言って。坊やならいつでも歓迎よ。

食事は、今日はスープと豚肉、あとはゴブリン肉の3種類ね」

「ゴブリン肉!?」


ゴブリンってあの人型で緑色のちいさいやつ?

人型の生物の肉を食べるの?


「ええ、冒険者がゴブリン肉を取ってきたのよ。あんまり美味しくないけど、安いわよ」

「おいマリア!俺がゴブリン肉を取ってきたんだぞ。今日のゴブリン肉は美味いに決まってるだろ!」

「ならあんた、自分でゴブリン肉を食べればいいじゃないの」

「いや、今日は豚肉を食べたい気分なんだよ......」


横のテーブルにいたガタイの良い男性が話しかけてきた。

この人がゴブリンを倒してきたのか。

ゴブリンって弱いイメージだけど、あんな強そうな人が威張るような敵なのかな。

あと、このウェイトレスさんはマリアさんと言うらしい。


「それぞれの値段を教えていただけますか?」

「スープが20ゼニー、豚肉が130ゼニー、ゴブリン肉が30ゼニー。私は200ゼニーにまけとくよ」

「今日は随分と気前がいいじゃねえか!それなら俺が買ってやるよ!」

「うるさいね!あんたなら2000ゼニーだよ」


また横のテーブルの男性が話しかけてきた。

もしかして、この人はマリアさんに気があるのかな。

あしらわれたらすぐ食事に戻ってるけど、多分耳はこっちに集中してるんだろうな。


「で、どうする?私が200ゼニーなんて格安よ」

「また今度にしときます......」

「そう。私を指名したくなったらいつでも言ってね」


こんなに綺麗なお姉さんに笑顔でそんなことを言われると心が揺らいでしまう。

でもやっぱり初めては彼女(リリア)とが良い。

あれ、リリア?

いやリリアは可愛いけど、まだ好きとかってわけじゃ......。


「それで食事は?」


マリアさんに急かされてしまった。

ゴブリンの肉は食べたくないな。

こっちの世界の人は躊躇無く食べられるんだろうけど、俺は人型の肉を食べるのには抵抗がある。

そうなるとスープか豚肉だけど、流石に豚肉は高過ぎるかな。

肉は食べたいけど、まだお金を稼げるようになったわけじゃないんだし、節約しよう。


「スープでお願いします」

「ええ、分かったわ。あともう10ゼニーでパンが付くんだけど、どうする?」


パンくらいだったら良いよね?

流石にパンも食べられないんじゃ明日頑張れないよ。


「じゃあパンもお願いします!」

「持ってくるわ。少し待っててね」

「......ふぅ」


マリアさんが酒場の奥の方に行った。

あんな綺麗な人が際どい格好で迫ってくるから緊張してしまった。

まだお金の価値が分かってないけど、多分あの人を指名するとしたらものすごく高いんだろうな。

そんな人が格安にしておいてくれるって言ったんだから、やっぱりあの人を指名しといた方が良かったのかな。


---


「お待たせ、スープとパンよ」

「ありがとうございます」


マリアさんが料理を運んできてくれた。

スープからは湯気が立っており、具は玉ねぎと人参、そして......あとはなんだろう?野菜っぽいけど、よく分からない。

パンは今朝見たような黒いパンで、あまり美味しそうには見えない。

マリアさんは料理を置くと、そのまま俺の目の前に座り、片肘をついてじっと俺を見つめてくる。


「熱いから気をつけてね」

「あっ、はい......」


促されるように、スープをスプーンで掬い口に運ぶと、濃い塩味と仄かな酸味が口いっぱいに広がった。

濃い味だが、その方が俺の好みと合致している。


「どう?美味しい?」

「はい、美味しいです!濃い味で良いですね」

「そう?なら良かった。パンを浸して食べても美味しいよ」

「そうなんですね。ありがとうございます」


マリアさんに言われるまま、パンを一口サイズにちぎってスープに浸してから口にいれると、塩味が少し和らぎ、パンの酸味とスープの仄かな酸味が合わさって、絶妙なバランスになった。


「とっても美味しいです!」

「良かったわ。少し前までは干し肉入りのスープもメニューにあったんだけど、最近家畜がゴブリンたちに襲われて高騰しちゃってメニューから無くなったのよね...」


ゴブリンって家畜を襲うこともあるのか......。

やっぱり退治した方が良いんだろうな。


「そういえば、先ほどの男性とは仲が良いんですか?」

「ああ、ゴルドのこと?一応常連なのよね。

一度相手にしてからずっと私だけを指名してくるのよね。

私は安くないから、相当儲かっているんでしょうね」


マリアさんだけを指名してるって絶対ゴルドさんはマリアさんのこと好きじゃん。


「ゴルドさんは冒険者なんですか?」

「ええ、そうよ。ベテランらしいわ」


ベテラン冒険者ならマリアさんみたいな高い人でも何度も指名できるんだ!

なんだか夢が広がるなあ。

でもやっぱりゴルドさんの話をしているときのマリアさんは元気が無さそうだ。

もしかして、マリアさんはゴルドさんが苦手なのかな?


「坊やも冒険者なの?」

「今講習で魔法の練習をしていて、まだ冒険者じゃないんです」

「そうなの。でも坊やならすぐ一流の冒険者になれるわよ」

「そうですかね。ありがとうございます」

「マリア!2000ゼニーだ。上に行くぞ」


ゴルドさんが、苛立った様子で声を上げた。

苛立っているのは、俺とマリアさんが親しげに話していたからかな?

上っていうことはベッドがある部屋のことを指しているんだろう。

つまり、ゴルドさんはマリアさんを指名したってことだ。


「......そう。分かったわ。じゃあね、坊や。また今度ね」


マリアさんは笑顔で誤魔化しているが、やっぱり元気がない。

ゴルドさんの相手をするのは嫌なんだろうな。


「小僧、一つ教えてやる。

この店じゃ他の客が指名しても、部屋に入る前なら他の客が出した金額以上の金を出せば自分を優先させることができる。

俺と金で勝負してみるか?」


2000ゼニーを超える金額を出せば、マリアさんを助けることができる。

手持ちの金額は分からないけど、多分全て出せば2000ゼニーは超えることができるだろう。

でもそうしたら明日の講習を受けられないし、ご飯も食べられなくなる。

マリアさんは助けたいけど......。


「坊や、無理はしなくていいのよ。

私は大丈夫だから」

「どうした小僧。ここまで言われて何もせず引き下がるのか?」


悔しい......。けど俺はまだ何もできない。

もっと早く俺がお金を稼げるようになっていれば。


「まあ、まだ講習を受けてるようなガキじゃ無理だろうな。

マリア、早く上に行くぞ」

「分かったわ。坊や気にしないでいいからね。私は大丈夫だから。」


マリアさんは笑ってくれているが、無理をして笑っているのは簡単に分かった。


「はい、ごめんなさい......」


ゴルドさんはマリアさんを連れて階段を上がっていった。

俺はマリアさんの背中を見送ることしかできなかった。

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