第12話 初めての討伐
しっかり休養を取り、魔臓の魔素吸収速度が回復した。
これならまたウィンドシックルを何度も発動できそうだ。
生成魔法を使っているときは気にならなかったが、MPってこの世界にもあるんだな。
MPが無くなっても溜めが長くなるだけで魔法が使えなくなるわけじゃないけど。
昨日見た森の地図によると、街から見ると森は扇形状に広がっていて、街に一番近いところにゴブリンの拠点が1つ、その少し奥に村が2つある。
それ以外にもいくつか村や拠点があるが、手前の3つ以外は規模不明だ。
俺が今日偵察するのは村がまだ発見されていない空白地帯。
職員には太い木があるだけで何も無いと言っていたが、俺の見立てでは違う。
おそらく、ここにゴブリンの王がいる。
これだけ大きな森だ。王がいない方がおかしい。
職員がそれを把握していないのは、王に見つかったやつは全員殺されているからだ。
だが、俺なら殺されることはない。
ゴブリンの王がどんなに強かろうと、俺のウィンドシックルなら一撃だ。
そして、そんな強いゴブリンの王を倒した俺は一躍ベルハイムの英雄になる。
俺が今日街に戻るとき、それは俺がベルハイムの英雄になるときだ。
……そう思っていたんだが、なかなかゴブリンの王が見つからない。
まさか本当に大きな木があるだけ?
いや、そんなはずはない。
何か……何かあるはずなんだ。
しかし、どんなに探せどもゴブリンの王どころか、 普通のゴブリン一匹すら見つからない。
帰ろうかな。
『今日も供物はベリーだけか?』
『はい、畑の方はなかなかうまくいかないようです』
これはゴブリンの声?
……あれか!
長い棒を持ったゴブリンが二匹、こっちに向かってきている。
供物っていうことはやっぱりここにゴブリンの王がいるのか?
木陰に隠れゴブリンの様子を伺っていると、先頭のゴブリンが木の実を大きな木の前に置いて、祝詞のようなものを唱え始めた。
供物ってゴブリンの王のためじゃなかったのかよ。
あの大きな木がゴブリンにとっての神なのか?
二匹のゴブリンがいなくなったのを確認してから、ゴブリンの神のところに行くと、木の前には小さな木製の祭壇とその上にいくつかの小物、そして先程供えた木の実が置いてあった。
ゴブリンが木を神様として祀っているなんて俺しかしらないはず。
この情報と祭壇を持ち帰れば金になるんじゃないか?
ゴブリンの信仰の第一発見者として特別な報酬が出たり……。
よし、この祭壇を丸ごと持って帰ろう。
ちょっと重いが持ち帰れないことはない。
『お前、そこで何をしている!』
ゴブリンの声がして振り返ると、そこには先程の二匹のゴブリンがいた。
くそっ、なんで戻ってきたんだよ。
『罰当たりめ!今すぐそこから離れろ!』
二匹のゴブリンが神事で使っていた棒で襲いかかってきた。
……ああ、前はゴブリンが怖かったなあ。
だけど、今は全く怖くない。
ウィンドシックル、いやウィンドカッターで十分か。
それぞれのゴブリンへ向けてウィンドカッターを発動すると、ゴブリンの胸に見事命中した。
『ぎゃあああああああ』
片方のゴブリンは瞬殺できたが、もう片方はまだ生きている。
流石俺、ゴブリンなんて敵じゃない。
トドメを差してもいいが、叫ばれたせいで他のゴブリンが寄ってくると面倒だな。
さっさと祭壇を持って逃げよう。
◇◆◇◆◇
陽がすっかり暮れたが、なんとかベルハイムに戻ってくることができた。
祭壇が重かったのと、森にはゴブリンがあちこちにいて中々脱出できなかったせいで、ここまで時間がかかった。
これだけ苦労して持ってきたんだ。
祭壇が二束三文でしか売れなかったらキレるぞ。
ギルドの扉を開けると、時間が遅くなったせいか、職員しかいなかった。
「ユフィ!すごいものを持ってきたぞ!」
「コーマさん、無事で良かったです。そちらは何でしょうか?」
「これはな、ゴブリンの祭壇だ!
あの森の空白地帯にはゴブリンが神と崇めている大きな木があって、この祭壇はそこから持ってきたんだ」
「ゴブリンの祭壇ですか……」
あれ、あんまりリアクションが大きくない。
「ゴブリンが木を信仰しているのは誰かが発見していたのか?」
「どうでしょう……。私は知りませんでした」
「この情報は高く売れるよな?証拠まで持ってきたんだ」
「ギルドで買い取る情報は主に拠点の位置や規模でして、その情報では最低金額しかお渡しすることしかできません」
「はあ!?これをここに持ってくるまでにどれだけ苦労したのか分かっているのか!?」
「いっ、いえ、その……。し、支部長を呼んで参りますので少々お待ち下さい」
ユフィが急いで階段を上がっていった。
こんな時間まで頑張ったんだぞ。
それなのに最低金額って、そんなのおかしいだろ。
しばらく待っていると、支部長が階段から降りてきた。
「ゴブリンが神を信仰していたというのは驚いたが、それだけだな。今日の報酬は最低金額だ」
「嘘だろ!?祭壇を持ってきたんだぞ?」
「そうか。持って返っていいぞ」
「要らねえよ、こんなもん!」
「そうだろうな。我々も要らない」
……くそっ。
どうしようもないのか。
「わかった最低金額でいい。
だが、この祭壇を手に入れるときゴブリンを一匹倒した。
その討伐報酬はくれ」
「ゴブリンを倒したのか?」
「そうだ。だから最低金額にその報酬を上乗せできるだろ?」
「受付でゴブリンと遭遇しても戦わずに逃げろ。
戦った場合は報酬が無しになるって聞かなかったか?」
「そんなこと……」
聞いた気がする。
「だが、戦わなきゃ逃げられなかったんだ!仕方ないだろ!」
「なら、その状況に陥ったことが問題だ。次からはそうならないように周囲に気を配れ」
「俺は一人だったんだ。そこまではできなかった」
「……受付で一人で森に行かないように言われなかったか?」
そんなことも言っていたな。
手柄を独り占めしたかったから従わなかったが。
「今日はその祭壇を持って帰れ」
くそっ、どうしようもないのか。
祭壇を持って、その場を後にした。
◇◆◇◆◇
昨夜はストレスが溜まっていたが、一晩寝てスッキリした。
昨日は運が悪かった。
そうだ、運が悪かっただけなんだ。
祭壇をたまたま見つけてしまったのが悪かったんだ。
それに一人でしか受けなかったのも悪かった。
一昨日は昇格試験、昨日は報酬0、そのせいで手持ちの金が尽きそうだ。
今日も森の偵察に行って報酬が0だったらやばい。
だから今日は確実に金を稼げる外壁工事だ。
「コーマ?星3に昇格したんじゃなかったのか?」
レオンとセレナが外壁工事の集合場所に来た。
「そうなんだが、一人でも達成できそうな依頼が無くてな」
「じゃあ、他の星3の人と一緒にやればいいんじゃないか?」
「いや、俺はお前たちと一緒に依頼を受けたいんだ」
っていうか知らない人たちに頭を下げてまで一緒に依頼を受けたいと思わない。
「……前にも言ったが、俺達は外の仕事をする気はない。
この前遷移魔法を教えてもらったのは、より安全に外壁工事をするためだ」
「ゴブリンを倒したら報酬が0になるぞ」
「そんな話は聞いたことがないんだが……」
「いや、本当だ!俺は昨日ゴブリンを倒して報酬を貰えなかったんだ!」
「そうだとしても、安全の方が大事だ」
どうすれば説得できるんだ……。
「あっ、コーマ!星3の仕事は止めたの?」
「フェリシア!フェリシアは一緒に森の偵察の依頼をやってくれるよな?」
「えっ、うーん。遷移魔法をもっと上手く扱えるようになったら、また考えようかな」
「じゃあ今日の依頼中に練習しよう。そしたらすぐに上達するから」
「私はコーマじゃないんだから、そんなにすぐ上達しないよ……」
フェリシアは遷移魔法が上達さえすれば俺のパーティに入る。
あとはこの二人だ。
「セレナ、今すぐじゃなくて良い。
遷移魔法が上達した後で良いんだ。
もっと良い生活がしたいよな?」
「それはそうでしょうけど……」
「星4になってゴブリンを沢山倒れるようになれば毎日肉を食べても金が余るんだ。最高だろ?」
「……レオンはどう思う?」
「毎日肉か……。いや、でも……」
「まずは遷移魔法の練習をしよう。どれだけ練習しても無駄になることはないんだ」
「まあ、そうだな……」
よし、二人の説得もできた。
あとはウィンドカッターを使えばゴブリンなんて簡単に倒せるってことを実感させればいいんだ。
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