第3話 スキル
「そうだ、俺はこの世界とは別の世界から来た」
さあ、どんな反応をする?
別の世界って知っているってことは、過去に俺以外にも来ていたんだろ?
その過去の異世界人は偉業を成し遂げたから、俺も未来の偉人だって称えるか?
それとも世界を滅ぼしかけた魔王が異世界人だったか?
「そうか」
……それだけ?
もっと他にあるだろ。
え?無いの?
ここが盛り上がりどころじゃないの?
「……マサキとは全然違うな」
ゴルドがぼそっと言った。
俺は聞き逃さなかったぞ。
マサキっていうのは、絶対日本人の名前だ。
こいつは今、そいつと俺を比べて俺を見下したのか?
そいつがどんな偉業を成し遂げたのか知らないが、俺は経験値10倍を貰ったんだぞ?
最強のチートスキルを貰った俺が、他のやつよりも劣るわけがないだろ。
こいつは絶対に許さねえ。
俺を馬鹿にしたこと、そして、さっきのゴブリンを殺したこと、絶対後で償わせてやる。
「俺はゴブリンを解体する。お前は一人で街に戻っていろ」
言われなくても戻るに決まってるだろ。
もうこいつなんかとは少しも一緒にいたくない。
そうだ、ギルドに戻ってあの二人に何かするのもいいな。
ノエルは俺のハーレム候補だったが、まあいい。
女なんていくらでもいるだろ。
それよりもこいつに仕返ししないと気がすまねえ。
こっちには剣があるんだ。
女二人、しかも一人は妊婦だ。
俺が負けるわけがない。
街に向けて歩き出すと、ゴブリンに殴られた脇腹が痛み出しだ。
そういえば、この痛みってあのゴブリンのせいだったな。
じゃあ敵討ちなんてしなくていいか。
俺を馬鹿にしたことは絶対に忘れないがな。
とはいえ、こんなに痛むんじゃ歩きにくいしなんとかしないと。
「なあ、あんた。
ポーション持っていないか?低級でもいい」
ポーションというのは異世界の定番の回復アイテムだ。
ランクが付けてあって、低級ポーションだと回復量が少なく、味も悪いのが常套だが、これだけ痛いから背に腹は変えられない。
流石のこいつでも価格の低い低級ポーションなら持っているだろ。
「なんだそれは?そんなもんはこの世界にはない」
は?ポーションが無い?
魔法が出せないだけならまだしも、ポーションまで無いって、この世界どんだけ欠陥だらけなんだよ。
女神があんなだし、それも仕方のないことなのか?
……はあ、転生する世界を間違えたな。
ポーションが無いなら仕方ない。
痛みがあまり出ないようにゆっくり帰ろう。
◇◆◇◆◇
ようやく街に着いた。
太陽はちょうど頭の上くらいにある。
街はちょうどお昼ご飯を食べる頃なのか通りが賑わっている。
少し腹が減ったし何か食うか。
そういや俺って金を持っているのか?
ポケットを漁ってみると、真ん中に穴が空いている銀貨が2枚入っていた。
銀貨2枚だけかよ。
イリスめ、気が利かない上にケチじゃねえか。
金が入る見込みが無いし、我慢するか?
それに、ご飯を食べていたら、その間にゴルドが帰ってきてしまう。
あの2人に何かするなら今のうちだ。
なんなら、あの2人から少しだけお金をもらったっていいか。
力がある者は力のない者からお金をもらう権利がある。
前の世界では、俺は力のない者の側だったが、この世界では違う。
俺は文字通り生まれ変わったんだ。
腹の痛みはほとんど引いた。
俺はこの世界では好き勝手に生きるんだ。
ギルドの扉を開けると、壁に寄せてあるベンチに二人で腰掛けていた。
よし、ゴルドはまだ帰ってきていないな。
「お一人ですか?ゴルドさんは……」
ノエルがベンチから立ち上がり俺に声をかけた。
「ゴルドはもうすぐ帰ってくるよ。
それよりも二人にはお願いがあってね」
腰の剣に手を掛け、剣を抜く……?
……あれ、抜けない。
さっきのように剣を鞘から抜けないとかではなく、手を上から何かで押さえつけられているみたいだ。
「もしその剣を抜くようでしたら、私もそれ相応の対応をしなければなりません」
ノエルが俺の方へ手を伸ばしながら、低い声で言った。
俺に警告しているつもりか?
女のくせに生意気だ。
お前は黙って俺の女になっていればいいんだ。
剣を握っている手にかかっている力はそれほど強くない。
これなら……。
「風魔法だがなんだか分からないが、こんなもので俺を止められると思うなよ」
「風魔法?……貴族みたいなことを言いますね」
「うぉぉぉーっ」
剣を持つ手に思いっきり力を入れ、剣を鞘から引き抜いた。
どうだ、これが俺の力だ。
俺を舐めるなよ。
「抜いてしまいましたね……」
ノエルが冷静に告げる。
余裕ぶっているが、内心は驚きと恐怖でいっぱいなんだろ。
その態度、この剣で改めさせてやる。
斬りつけたりなんかはしないが、峰打ちで少し痛めつけてやる。
それで力の差を思い知らせてやる。
抜身の剣を構えてノエルの方へ一歩踏み出すが、見えない壁に阻まれているかのように、それ以上進めない。
なんだこれ?
まさか壁系の風魔法……ウィンドウォールか?
「セラさんに格下から襲われそうになったらこうすると良いって教わっていたことを実践することになるとは……」
格下?
……俺が?
ゴルドだけじゃなく、ノエルまで俺を見下すっていうのか?
ふざけんな。
こんな壁、すぐ剣で壊してやる。
剣でウィンドウォールを何回か叩きつけた頃、後ろの扉が開いた。
「おおっ、なんだか懐かしい光景だな」
くそっ、ゴルドが帰ってきた。
これじゃあ流石に分が悪いか。
剣を鞘に収めゴルドの横を通ってギルドを出ようとする。
「まあ、待てよ。
剣を抜いたやつをそのまま帰すわけないだろ。
装備品もまだ返してもらってないしな」
ゴルドが俺の肩に手を置いて俺を制止した。
無理やり振りほどこうとするが、ゴルドの力が強く、うまく振りほどけない。
従うしかないか……。
装備を返却し、ギルドのホールの中央に置かれた椅子に座る。
出口の方にはゴルドが立っており、ノエルとマリアは先程のベンチに腰掛けている。
「なぜノエルを襲おうとたんだ?冒険者登録をさせないことへの腹いせか?」
ああ、そういやそんなこともあったな。
もう遥か昔のことのように感じてるよ。
「……まさか、俺が原因か?」
「そうだ」
「俺は何かしたか?何もしてないだろ」
とぼけやがって。
俺は忘れてないからな。
「俺のことを馬鹿にしただろ!」
「そりゃ、こいつには冒険者は無理だなとは思ったが、それだけだろ」
ん?そうだったっけ?
そういえば、そうだった気がする。
寧ろゴブリンにトドメを刺されそうなところを助けてもらったんだっけ?
あれ、もっと酷いことを言われたような気がしたんだけどな。
「マサキと同じように他の世界から来たって言っていたな。
マサキはこの世界に来るときに、女神さまに病気にならないようにしてもらったって聞いたんだが、お前は何をお願いしたんだ?」
病気にならないようにって……。
チートスキルを貰えるチャンスを不意にしたな。
「俺は経験値10倍のスキルを貰ったんだ」
「経験値?なんだそれは」
こいつも経験値を知らないのか。
まあ、女神ならまだしも、この世界の人間だからな。
知らなくて当然か。
「経験値っていうのは、敵を倒したりしたときに貰える数値で、これを集めるとレベルアップするんだ」
「なんだそれ……。ノエルは知っているか?」
「いえ、私も聞いたことがありません」
経験値は浸透していない……か。
なら俺が広めるしかないな。
将来的には俺のおかげで効率的なレベル上げができるようになって、俺が称賛される、なんてこともあり得るかもな。
「レベルアップっていうのは何だ?」
「レベルっていうのはそいつの強さを表す数値だ。
これが上がることによって、筋力とかのステータスが上がるんだ」
「ゴブリンを倒したら筋肉が付くなんて聞いたことないけどな……」
なんだか段々と面倒になってきたな。
いつになったら理解するんだよ。
「それで、経験値10倍っていうのはどういうことなんだ?」
「ゴブリンを1体倒したら、10体倒したときと同じ経験地が貰えるようになるんだ」
「それは凄そうだな……」
そうだろう?
ようやく俺の凄さに気がついたか。
「経験値が10倍……それって敵を倒したときだけなんですか?」
ノエルは何を言っているんだ?
経験値なんだから、敵を倒したときにしかもらえないだろ。
「まだ仕組みを理解出来ていませんが、筋力が上がったりするなら、ゴブリンを倒したときだけではなく、重いものを持ったときとか、そういうときでも10倍になったりするんじゃないかなって……。
例えば、重いものを持って一往復したら十往復したときと同じくらいの効果があるとか」
「……そういえば、お前はやけに疲れるのが早かったな」
「疲れていたわけじゃねえよ」
そうだ、身体は元気だった。
ただ、ちょっと飽きていただけだ。
「身体には影響しない、ということでしょうか?
一時間しか歩いていないのに十時間歩いているように感じたとかはありましたか?」
「そういえば、そうだった気がする……」
もう今朝のことなんて覚えてねえよ。
……いや、まさか、この感覚がそうだっていうのか?
俺の経験値10倍は精神的なものだけで、肉体には影響がないのか!?
「もしそうなら、一度しか言われていないことでも、10回言われたように感じる、ということがあってもおかしくないかもしれません」
まさか、チートスキルだと思っていたスキルが、実はハズレスキルだった!?
最後まで読んでいただきありがとうございます!
感想や評価、リアクションをいただけると、とても励みになります!




