第2話 出会い
目の前いっぱいに広がる草原。
そして見えないところまで続く踏み跡。
これだよこれ!
異世界と言ったらこの風景だよ。
ああ、風が気持ちいい。
「お前は今までどんな仕事をしていたんだ?」
人が気持ちよさを感じていたときに話しかけてくるなよ。
十分感じたからいいけど。
こういうときは異世界から転生してきたことは内緒にしておくのが定番だ。
だからこそ、ここは定番の返しだ。
「東にある遠くの国にいた」
「東ねえ……」
ゴルドのこの様子から考えるに、こいつは東の国のことを知らないな。
異世界では東に独自の文化を築いた国があるというのは常識なんだ。
こいつはそんな常識も知らないんだな。
イリスもそうだが、常識が通じいない相手と話すのは疲れるな。
「まずは周囲のことを説明してやる。
今から1年半前、ゴブリンのスタンピードが起こったが、そのときゴブリンはあの西の森から来た。
何度も見回りをして、既に全滅していることを確認した」
スタンピード!?
あの異世界の事件の定番のスタンピードが起こったのか!?
くそっ、俺もそれに参加したかった。
そのスタンピードで活躍するところから俺の特異性が発覚し始めるっていうのが定番だろ。
イリスめ。
転生させる時期まで間違えてるじゃねえか。
「この道を真っ直ぐ行くと別の街に辿り着く。
西の森のゴブリンを全滅させる前は、道中でゴブリンに遭遇することがよくあったが、今ではほとんど遭遇しない。
逃げ足に自信があるなら護衛無しで目指してみるのもいいかもな」
そう言ってゴルドは目の前に続く踏み跡の道を指差す。
西の森っていうのが左にあるから、街があるのは北か。
「東にも街はあるが、その街の近くにはゴブリンの巣がある。
冒険者ギルドもあるから、登録するならそっちの方が良いだろうな。
トラメリアのノエル以外のギルド職員はそっちに移った」
やけに閑散としていたのは職員が移ったせいだったのか。
俺がその街に移動するならノエルも一緒に連れて行こう。
昔の同僚と一緒に働けるならそっちの方がいいだろ。
「南には大きな川が流れているが、川を渡らない限りはゴブリンに遭遇することはない」
川と言えば水浴び!
若い女性が身体を綺麗にするために頻繁に川を訪れるという。
……覗きに行かなければ!
いや違う。
俺も水浴びをしようと川に行ったら、たまたま時間が被ってしまっただけなんだ。
だから偶然覗いてしまうことがあっても俺は悪くない!
「今トラメリアのギルドにはゴブリンの討伐か護衛の仕事しかないが、護衛の仕事をするためには、ある程度の数のゴブリンを倒した実績が必要だ。
だから新人の冒険者は必然的にゴブリンの討伐しか仕事がない。
もし今日ゴブリンを倒せたら、俺からノエルに言って冒険者登録させてやる」
冒険者登録の最初の依頼はゴブリンの討伐か。
薬草採取からと思っていたが、まあいい。
ゴブリンなんて軽く一掃してやる。
「まずはゴブリンを探すぞ。いるとしたら東だ」
◇◆◇◆◇
飽きた。
あれからどれだけ時間が経過したか分からないが、ずっとゴブリンが見つからない。
景色もずっと草原のまま。
何も変わらない。
退屈過ぎる。
「なあゴルド。まだ見つからないのか?」
「……東の巣からここまでは距離がある。
一日中探しても一匹も見つからないことはある」
じゃあ無駄に歩いていただけってことかよ。
偉そうにしていたわりにこいつ使えないな。
「まだ探し始めてから一時間くらいだ。
その程度の忍耐力なら他の仕事を探せ」
たった一時間!?
もう一日ずっと歩きっぱなしだった気分なんだけど。
「だが運が良い。
ゴブリンを二匹見つけた」
ゴルドが遠くを指差すが、そこには草原しかない。
……いや、何かが動いてる?
よく見えないけど、あれがゴブリンなのか?
「まずは近づくぞ。付いてこい」
走り出したゴルドに続く。
結構速いな。
前世ではこんなに速く走ったことはない。
これが俺の身体……。
最高だ!
しばらく走った後、ゴルドがいきなり地面に突っ伏した。
何やってんだ、こいつ。
こんな汚そうな地面で何も敷かずに寝転ぶとか正気かよ。
「何やってんだ!早く伏せろ!」
「は?なんで?」
なにか視線を感じる……。
どこだ?
視線の元を探してみると、ゴブリンが二匹、俺を見ていた。
「チッ……。
片方は俺が殺す。
お前はもう片方を殺せ」
そう言ってゴルドは駆け出し、いつの間にか抜刀していた剣で即座に一匹のゴブリンの首を落とした後、そのまま向こう側へ走り抜けていった。
速っ!?
オリンピックの選手と同じくらい速いんじゃないか?
よし、俺もゴブリンを殺すぞ。
剣で殺すのもいいが、せっかくの異世界なんだ。
最初は魔法で殺すのがいいだろ。
本当は魔法の使い方を教えてもらって、即魔法をマスターして「あいつは何者なんだ!?」っていう展開が良かったが、誰にも魔法を教わっていないのに魔法を使って「どこで教わったんだ!?」みたいな展開も悪くない。
なんたって、魔法の使い方はラノベで覚えて沢山練習していたからな!
元の世界では魔力が無かったから発動できなかったが、異世界ならそんなことはない。
さあ、これが俺の初めての魔法。
手のひらをゴブリンにかざしながら魔法の名前を唱える。
「ファイヤーボール!!」
……あれ?
手から何も出ない。
いきなり無詠唱は駄目か?
仕方ない、中学生の頃から考えてきたカッコいい詠唱を唱えるか。
「地獄の業火よ。我が手に集いて球をなせ。ファイヤーボール!!」
……何も出ない。
なぜ?
イメージが足りなかった?
『お前は弱そうだ。お前から殺してやる』
え!?
今誰が喋った?
周りには俺とゴルド以外はいない。
まさか、ゴブリン?
ゴブリンって喋るの?
ゴブリンが腰にぶら下げていた石製の棍棒?のようなものを抜いて走ってきた。
えっと、魔法はなんでか使えないし、何か……。
そうだ、腰に剣があるんだった。
これを抜いて……、って、あれ?
この剣が長過ぎて全部抜き切れない。
くそ、もうゴブリンがすぐそこまで!
『死ねえええ!』
その瞬間左の脇腹に衝撃が走った。
痛えええ!
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。
こんな痛み今まで一度も受けたことない。
こんなに痛いなんて聞いてない!
その場に蹲っていると、影が俺を覆った。
見上げると、そこには棍棒を振り上げたゴブリンが立っていた。
ああ、俺は死ぬんだ。
転生したばっかりだったのに。
ハーレムを築いて沢山の美少女とイチャイチャしたかった。
生を諦めたその瞬間、目の前からゴブリンが消え去った。
「よう、動けるか?」
ゴルド……。
俺はこいつに命を救われたのか?
ふざけるな。
なんでこんなやつに助けられなきゃいけないんだ。
こんなはずじゃなかったんだ。
「ゴブリンはまだ生きている。
冒険者になりたいならトドメを刺してみろ」
ゴルドが指さした方向を見てみると、ゴブリンがピクピクと動きながら倒れていた。
こいつ、剣の鞘で殴り倒したのか。
さっきよりは痛みが引いてきた。
動けないほどじゃない。
剣を抜いて……、あっ抜けないんだった。
「左手で鞘を抑えないと抜けないぞ」
ゴルドの言う通り左手で鞘を下に押したら剣が抜けた。
知らねえよ、剣の抜き方なんて。
あとはこのゴブリンを殺すだけ。
ゴルドがやっていたように剣で首を切ればいいんだ。
『うっ……』
ゴブリンが起きた。
まずい、早く殺さないと。
『待ってくれ!殺さないでくれ!
さっき殴ったのは悪かったから。
頼む、命だけは助けてくれ!』
うっ、命乞いなんかしないでくれ、殺しづらいだろ。
「何をやっている、早く殺せ!」
ゴルド……、言っていることは分かるが……。
でも命乞いをしているやつを殺すことなんて。
『ありがとう、もう一生人間には近づかないから。
森で静かに暮らすから』
そう言って、ゴブリンは起き上がって逃げていった。
お礼を言われたの久しぶりだ。
ゴブリンが走り出したのを見届けると、ゴルドが追い、ゴブリンの首を落とした。
「なんで逃がした!?」
「お前こそなんで殺した!
そのゴブリンは俺にお礼を言ってくれた!
良いゴブリンだったんだぞ!」
「お前、まさかゴブリンの言葉が分かるのか?」
あっ、ゴブリンの言葉が分かるのって俺が転生者だからなのか?
「もしや、別の世界から来たとか言わないよな?」
転生者だってバレた?
まずい、このままじゃ異世界から来た勇者だとバレて国王とかと面会しなきゃいけなくなる!
……あれ、そんなに悪くないな。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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