プロローグ
新章です!
これからは新しい主人公になります。
この世界に俺の居場所はない。
学校に行っても誰も話してくれない。
みんな俺を無視するんだ。
SNSに渾身の投稿をしても「リプライ」は0件。
いいねが来ることはあっても業者のアカウントから。
家に帰っても誰もいない。
誰も、俺を認識してくれない。
頬を通り抜ける風が冷たい。
夏は過ぎ去り、連日の熱帯夜は終わりを迎えた。
4階建ての建物の屋上から見上げても薄暗い空が広がるだけ。
星空はそこには見えない。
眼下にはコンクリートの地面。
生け垣の無い場所を選んだ。
ここで頭から落ちれば、明日のニュースは俺の話題で持ち切りのはずだ。
そう、ここから落ちれば……。
「いや、やっぱ怖ええええええ」
頭から落ちれば死ぬって本当?
もし生き残っちゃって、半身不随とかになったらどうなんの?
ちゃんと死ぬって確証あんの?
っていうか頭から落ちるってどうやんの?
ジャンプして飛び込んだら足が下になるでしょ。
まさかプールに飛び込むみたいにするってこと?
いや、無理無理無理無理。
怖すぎて無理。
はあ、せっかく屋上の鍵を盗み出せたのに。
……帰るか。
学校からの帰り道は大通りを歩く。
プリウスが突っ込んできてくれないかとか、トラックが居眠り運転をして歩道に突っ込まないかとかいつも考えているが、それが叶ったことは一度もない。
突っ込んできてくれないなら、俺から車道に入ればいいと思ったが、結局トラックが来ても踏み出すことはできなかった。
俺には自殺する勇気も無いんだ。
あとまだ他に試していないことがあるとすれば……。
ちょうど大きな明かりを放つホームセンターが視界に入った。
「ロープ、買ってみるか」
◇◆◇◆◇
ロープを結ぶのって思ったより難しいんだな。
動画投稿サイトの動画を何度もじっくり見てようやく準備が出来た。
窓を開け、家の前の通りからこちらを簡単に見ることができる位置にロープをセットした。
時刻は2時を回っている。
人通りは無いから邪魔をされることはないだろう。
朝になったら家の前を通りかかった人が俺を発見してくれるはずだ。
そしたら大きなニュースになる。
朝のニュース番組は俺の話題で持ち切りになり、SNSでは俺のアカウントが探し出されてトレンドに乗る。
俺のことを無視した学校の奴ら、俺のフォロワーなのに何もリプライをしてこなかった奴ら、みんなSNSで晒されてしまえばいい。
それで一生後悔すればいい。
親は……俺が死んだらどう思うんだろう。
毎月生活費は口座に振り込まれるけど、顔を合わせることはない。
最後に家に帰って来たのがいつだかも思い出せない。
……もう、いいか。
俺が死んだあとのことなんて。
このロープを首に掛けて、今立っている椅子を蹴り飛ばせば俺は死ぬ。
ロープを引いても解けたりしない。
ロープを首に掛けるとチクチクした硬い糸が首を刺激する。
ちょっと痛いけど、どうせもうすぐ痛みなんて感じなくなるんだ。
あとは、もう椅子を蹴り飛ばせば……。
椅子を……。
死ぬ前に何かやり残したことなかったっけ。
通知……は今日は一度も鳴っていない。
ご飯……は別にいいや。
あと何か。
いや、無いか。
死ぬ準備だけはいつも万端だったから。
だからあとは椅子を蹴るだけ。
ピコンッと近くのテーブルに置いてあるスマホから通知音が鳴る。
誰かからリプライが来た!?
確認しないと!
テーブルに向けて一歩踏み出すと、椅子が後ろに蹴り飛ばされ、首にロープが締まる。
やばい、ロープ掛けてたの忘れてた。
苦しい……。
せめて最後に通知の確認だけでも……。
◇◆◇◆◇
気がつくと、真っ白な空間に立っていた。
首にあったロープは消えている。
もしかしてここが死後の世界?
「天沢昂真さん」
名前を呼ばれ振り返ると、そこには大きな翼を生やした綺麗なお姉さんが立っていた。
「お疲れ様でした。
悲しい人生でしたね。
ここは最後の審判、とでも言うべき場所です。
あなたが天国に行くか、それとも別の場所へ行くかを決めます」
最後の審判って言うと、死後それまでの人生を踏まえて天国に行くか地獄に行くか決めるやつ?
っていうことは目の前の人は閻魔様……?
閻魔様ってこんな感じなの?
いかついオッサンじゃないの?
普通の女神さまって感じなんだけど。
それより二択が天国と地獄じゃなかった気がするんだけど。
「いきなりのことで戸惑っていますか?」
あっ、さっきから一言も喋ってなかった。
何か喋らないと。
えっと、何を喋れば良いんだっけ?
天気の話とか?
今日は晴れ……あれ、太陽が無いや。
周りには何もなく、ただ白い空間だけが広がっている。
こんなときどんな話をしたら良いんだ?
「天沢昂真さんは自信が亡くなったことをご理解できてますか?」
亡くなったって、やっぱり俺は死ねたんだ。
とりあえず良かった。
……じゃない!
何か返事しないと。
「は……はい……」
しゃ、喋れた!
やった!
これで会話したことになるかな?
人と会話したことなんていつぶりなんだろう。
「天沢昂真さんはこれから天国に行くか、別の世界に転生するか選べます」
転生!?
それって、異世界転生ってやつ?
その手のラノベは大好きだったんだ!
俺も異世界転生したいってずっと思ってて、でもそのためには転生トラックに轢かれないといけないから道路に飛び出そうとしていたんだけど、結局勇気が出なくて出来なかったんだ。
なんだよ、転生トラックに轢かれなくても異世界転生できるのかよ。
それならそうと誰か教えてくれよ。
「天沢昂真さんは天国に行くか転生するか、どちらにしますか?」
「て、転生……します」
うん、段々と喋るのにも慣れてきた。
俺だって昔は普通に喋れていたんだ。
慣れればまた元のとおりに喋れるようになるはずだ。
「かしこまりました。
では天沢昂真さんをその世界にお送りするにあたって、お願い事を一つ叶えようと思うのですが、何かございますか?」
お願い事……つまりチートスキルっていうことか!
でも一つだけかあ。
鉄板なのは鑑定とかアイテムボックスとかだけど、一つだけじゃちょっと微妙な気がする。
何か……あっ、そうだ!
「女神さま、に一緒に来てもらうことって、できますか?」
そう、これだよこれ。
女神さまに一緒に来てもらって、女神様の力を使ってもらおうと思うけど、結局女神様は何も出来ないやつ!
あれ、何も出来ないんだったら駄目じゃない?
「申し訳ございません。
私はこの空間を離れられないため、それは叶えられません。
他に何かございますか?」
何でもは叶えてくれないの?
なんだよ、使えないな。
じゃあ、他のかあ……。
そういえば、一個しかチートスキルを貰えないときの鉄板があった。
「経験値100倍っていうスキルをください」
そう、これだよこれ。
最初は苦労するけど、時間が経ったら無双できるやつ!
100倍だったら全然苦労しないかもしれないけど。
「経験値……というのは何しょうか?」
は?
女神さまのくせに経験値も知らないの?
本当に転生の女神さま?
「……経験値っていうのは、レベルアップするために必要なやつですよ」
「レベルアップ?
それは何でしょうか?」
はあ!?
レベルアップすら知らないの?
何なの、この女神さま。
「……レベルアップすれば段々と強くなるでしょ。
ゲームとかやったことないんですか?」
「ゲーム……?
申し訳ございません、そのような経験はございません」
マジかよ。
ポケモンすらもやったことないのかよ。
なんて説明したらいいんだよ。
いや、ゲームをやってもらった方が速いか?
「レベルアップすれば強くなる、ということは筋力が上がったり、足が速くなったり、ということでしょうか?
経験値というのはその指標……ということでしょうか。
ということは、経験値100倍というのは、筋力トレーニングなどをしたときの筋肥大などが通常の100倍の速度で行われる、ということでよろしいでしょうか?」
えっ、何この人。
いきなり変なこといい出したんだけど。
筋力トレーニングとかじゃないよ。
モンスター倒したら得られるやつだよ。
「少々席を外します」
そう言って女神さまはスーッと消えた。
えっ、消えるの?
この何も無い空間に一人きりなんだけど?
あの女神さまは話が通じないし、異世界転生ってこんな感じなの?
もうちょっと楽な感じだと思ってたんだけどなあ。
早くチートスキルもらって、異世界で無双したい。
それでモテモテになってハーレムを築いたり……。
あとダンジョン攻略とかもしたいな。
それで、この世界は元の世界のはるか未来だった!とか。
実は俺が死んだ翌日に世界は崩壊して、俺と可愛い女だけが生き残って、っていう展開もいいな。
あー、早く異世界転生したい。
まだかな女神さま。
……女神さまっていうのもなんだか嫌だな。話通じないし。
他の呼び方……いや、いっそのこと名前呼びか?
これから俺は異世界でモテモテになるんだから、女を呼び捨てにするのに慣れておくか。
あと敬語も止めよう。舐められる気がするし。
「お待たせしました」
いきなり女神さまが現れた!
消えるときといい、突然だな。
……よし、モテモテな男になるぞ!
「おかえりなさい、お姉さん」
「えっ……はい……」
「そういえば、お姉さんの名前を聞いていなかったと思ってね。
君の名前を教えてくれるかい?」
「イリス……です」
「イリスか。いい名前だ」
こんな感じかな?
なんか違う気がする。
これじゃただのナンパだ。
うーん、難しいな。
「えっと、経験値100倍について検討したのですが、100倍というのは難しく、10倍が上限でした」
えー、100倍にできないの?
まあ、10倍でもいいか。
そんなにインパクトは強くないけど、それでも十分でしょ。
「分かった。じゃあ10倍にしてくれ」
「……はい。かしこまりました。
では、これから注意点を2点説明しますね。
まず言葉ですが、できるだけそのまま使えるようにします。
しかし、文化や文明の発展レベルが異なりますので、一部通じない言葉があります。
言葉が通じるからといって、文化を覚えることを怠らないでください」
キタキタ!
やっぱり異世界翻訳は定番だよな!
このスキルのおかげで古代語が分かったりして、失われた古代魔法が使えたりするんだよなあ。
スキルは一つだけなのかと思ったけど、そんなことないじゃん。
「次に、これから行く世界には人間以外に高度な知能を持った生物がいます。
世界は人間のもの、というわけではありませんのでお気をつけください」
高度な知能!?
ドラゴンとかかな?
ハーレムの一人は人化した美少女ドラゴンで決まりだな!
「説明は以上です。何か質問はございますか?」
「……あっ、転生後の体ってどんな感じ?」
「天沢昂真さんの元の身体そのままの予定です」
それはマズい。
俺は運動部に入ったことはなく、体育の成績はいつも1か2だ。
それに顔も……、モテモテになるためには全部変えてもらわないと!
「転生後の身体は別人の身体にしてくれ。
顔は……そうだな、イリスの好みのイケメンにしてくれ」
イケメンって言っても色々な種類があるからな。
イリス好みの顔だったら、転生後もイリスが色々サービスしてくれるかもしれないし。
「かしこまりました。運動ができるような身体に調整します。
顔についてはその要望を承ることはできかねます。
ですが、整ったお顔になるように調整しますね」
なんだよ、できないことばっかりだな。
まあ、顔なんてイケメンであればどうでもいいか。
ハーレムっていうのは俺の能力と内面に惹かれてできあがるもんだからな。
「他にはもうございませんか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
「かしこまりました。
では新しい世界にお送りします」
これから俺の異世界ハーレムライフが始まる!
最後まで読んでいただきありがとうございます!
新章の主人公は前章の主人公のマサキとは全然違う主人公です。
彼がこれからどんな人生を歩むのか、楽しみにしてください。
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