表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/69

サイドストーリー第七話 結末(ゴルド視点)

【ゴルド視点】


 マサキと初めて会ったときから数ヶ月が経った。

 あれ以来、マリアがマサキに色目を使うことはなくなった。

 マリアが俺の目の前で他の客を煽ることはあるが、それでも格安に値引きしたりということはない。

 どんなに値引きしようと俺が釣り上げるから意味がないんだが。


 昨日までは護衛の仕事をしており、今日は昼間から酒場で冒険者パーティのメンバーと打ち上げだ。

 このまま飲み続け、夜になったらマリアと夜を過ごす。

 護衛の仕事は数日かかるため、マリアとの夜は久しぶりだ。

 今夜は眠れないかもな。


 豚肉を口に入れようとしたとき、ノエルが勢いよく酒場に入ってきた。


「ゴルドさん!ついにセラさんが遷移魔法を教える許可を出しました!」

「本当か!?なんで急に!?」

「あっ、そうです。

 ここにいる冒険者の皆さん、聞いてください。

 西の森でスタンピードの兆候が確認されました。

 本日よりゴブリンの討伐報酬を二倍にします。

 可能な限り、森のゴブリンの殲滅をお願いします。

 また、ゴルドさんだけではなく、皆さんにも遷移魔法をお教えする許可が出ました。

 ご希望の方はギルド職員までお声がけください」

「スタンピードって……そっちが本題だろ!」

「すみません、嬉しくてつい……」


 スタンピード……いつの間にそんなことに……。

 ノエルが頬を掻きながら俺達がいるテーブルに近づいてくる。


「それで、ゴルドさん!この後すぐに遷移魔法の練習しますよね!?」


 あのとき習得できなかった遷移魔法。

 今すぐにでも習得したいが……、森の様子も気になるな。

 ここしばらくは護衛やらはぐれゴブリンの退治で森には近づいていなかった。

 今森がどうなっているかを先に確認した方が良いだろう。


「いや、先に森に行って状況を見てくる。

 様子を見たらすぐに戻ってくるから、練習はその後でもいいか?」

「流石です、ゴルドさん。

 本当はセラさんもゴルドさんを頼りにしているんですよ」


 一応経験だけは豊富だからな。

 スタンピードの兆候を確認したっていうことならある程度は調査したんだろうが、他の人が調査することで別のことが分かるかもしれない。

 それにしてもセラが俺を頼りにしている……か。


「俺に少し足が速いだけの無能って言ったのにか?」

「そんな昔のこと……。

 確かにそのときはそうだったかもしれませんが、今のゴルドさんは沢山の仕事をこなしてきたトラメリア(いち)のベテラン冒険者ですから」


 無能だったことは否定しないのかよ。

 自分では今でも大して変わらないと思っていたが……、冒険者を辞めずに、この職にしがみついていた意味が少しはあったのかもな。

 それなら、期待には応えないわけにはいかない。


「じゃあ、手始めにゴブリンの首100個をセラに送るか」

「いえ、それは迷惑なので止めてください」

「……心臓は?」

「要りません」

「……そうか」

「いつもどおり討伐証明部位(右耳)だけにしてくださいね」

「……ああ、分かった」

「じゃあ、私はギルドの広場で準備してくるので、早く帰ってきてくださいね」


 そう言ってノエルはすぐに酒場から出ていってしまった。

 首も心臓も要らないのか……。

 良い贈り物だと思ったんだかなあ。


 ◇◆◇◆◇


 森の偵察を済ませ、冒険者ギルドに戻ってくると、受付でセラが待ち構えていた。

 森にはパーティメンバーと行っていたが、疲れたから酒場に行くと言い、ここには俺一人だ。


「ゴルド、久しぶりだな」

「ああ、久しぶり」


 最近はギルドの冒険者の業務はノエルやリリア、他の孤児院出身者で回せるようになり、セラを一階で見ることは無くなっていた。

 最近は貴族や商人、冒険者ギルドの本部との打ち合わせで忙しいらしい。

 子供の世話は相変わらず続けているようだが。


「森の様子はどうだった?」

「確かにゴブリンは痩せていた。それに数が多過ぎる。

 あんなに多かったらいくら畑を耕しても食い扶持を賄いきれんだろ。

 秋までは保つかもしれんが、冬は越せないだろうな」


 実際ゴブリンが多過ぎた。

 森の入り口の罠はまだしも、普段なら森の中に入っても、奥まで行かなければゴブリンと出会うことはないが、少し歩いただけで大量のゴブリンと遭遇した。

 今日だけで100体も倒す気はなかったんだが、結局100体を超えてしまった。


「シノの推測と同じだな。他には何かあったか?」

「ゴブリンの集落が増えていた。

 以前森全体を調査したとき、ゴブリンの集落は3つ程度だったろ。

 おそらくその倍はある。

 一つ一つの集落は小さかったが……、この短期間で何があった?」

「小さい集落を?……その集落に子供はいたか?」

「子供はいなかったな。全員武装していた」

「森の入口の監視が目的か?

 ……頭がいいやつ(ゴブリンリーダー)がいるかもしれんな」

「ああ、あといくつかの集落を見て回ったんだが、食料以外にも痺れ花を栽培していた。

 何に使っているのか分からんが」


 痺れ花の花粉には触った箇所を痺れさせる効果がある。

 だがそれも直に触ればの話。

 風で飛んだ花粉に当たっても、大量に浴びなければ痺れることはない。

 麻酔として使うこともあるらしいが、何度も使えば耐性ができてしまう。

 新人の頃は痛み止めとして使うこともあったが、今はほとんど効かなくなってしまった。


「痺れ花か。目的が分からんな。

 ……ゴルド、よくやってくれた。

 どれも有益な情報だ。

 あと……」

「なんだ?」


 セラが言い淀むなんて珍しいな。

 よっぽど言いにくいことなのか?


「その、昔、お前に価値が無いなんて言ってすまなかった。

 今のお前は頼れる冒険者だ」


 まさか、セラに直接謝罪されるなんて。

 俺が頼れる冒険者か。

 今まで続けてきて、本当に良かった。


「セラさん偉いです!

 よく謝れましたね!」

「これくらい当然だ!

 ……それよりなんだその言い草は」

「セラさんがいつも教育について語ってるじゃないですか。

 こういうときにはしっかり褒めないといけないんですよね?」

「私はもう大人なんだが……。

 まあ、いい。

 それよりゴルド。

 奨励冒険者についてだが、もう一度なってみる気はあるか?」


 かつて剥奪された奨励冒険者……!

 そうなればまたマリアを俺の専属にできる。

 もう俺がこの街にいない間でも、マリアは他の男の相手をしなくてすむようになる。


「奨励冒険者にならせてくれ!」

「ああ、それで専属娼婦だが……」

「もちろんマリアだ。

 だが、娼婦の料金の割引は不要だ。

 あれはギルドへの負担が大きいんだろ?」

「良いのか?正直かなり助かるが……」

「ああ。もうすぐマリアの身請けができるしな」


 そう、今まで毎日走ってきたおかげでかなり貯金ができている。

 マリアが娼婦として働いてから5年が経っている。

 借金額もかなり減っているはずだ。


「ノエル。

 これの個数と、パーティメンバーで按分した俺の報酬額、俺がギルドに預けている金額。

 そして、マリアの残りの借金額を教えてくれ」


 そう言って、手に持っていたゴブリンの右耳(討伐証明部位)が大量に入った麻袋をノエルに手渡す。


「……はい、すぐに数えます」


 麻袋を受付の裏に持っていき、そこにいた職員全員ですぐに数え始めた。

 ノエルが少し気落ちしているように見えるのは気の所為か?


「そんなに貯まっていたのか?」

「ここ一年くらいは護衛の仕事ばかりしていたからな。

 そろそろ借金を全額返済できるはずだ」

「5年で400万ゼニーを返済か……。

 アピールポイントとしては十分だな」

「この街ではもう十分冒険者はいるだろ?

 これ以上増やしてどうするんだ?」

「まだまだ足りないさ。

 それに、近々他の街にもギルドの支部を作る予定なんだ。

 成功事例が多いに越したことはない」


 そりゃあ、森の中に入って無事に戻ってこれる冒険者は少ないだろうが、今の人数だけでも時間をかければゴブリンを制圧できるはずだ。


「数え終わりました!

 合計で132個。

 パーティメンバーは3名ですので、ゴルドさんの取り分は17,600ゼニーです。

 これを全てギルドでお預かりする場合、ゴルドさんの貯金額は1,988,400ゼニーになります!

 そしてマリアさんの残りの借金額ですが……2,018,600ゼニーです」


 残り3万ゼニー……!

 今日の報酬分で考えると、あと2日働けばマリアを身請けできる。

 普通の娼館なら借金に利子が乗せられるし、礼金を娼館に払わなければいけないが、ギルド直営のおかげでそんなものはない。

 マリア、もう少しでお前を自由にできるぞ!


 ◇◆◇◆◇


 翌朝、窓から溢れる朝日で目が覚めた。

 隣ではマリアが眠っている。

 ここで見るマリアの寝顔も、後少しだ。


「ん……、もう朝?」

「おはよう、マリア」

「おはよう。いつも目覚めるのが早いわね」

「大事な話があるんだ。聞いてくれるか?」


 マリアは眠い目を擦りながら少し沈黙してから口を開いた。


「顔を洗ってくるわ。少し待ってて」


 そう言ってマリアは起き上がり、洗面所へと移動した。

 生成魔法はこういうとき便利だな。

 わざわざ水を汲みに行かなくても自分で出せばいいだけなんだから。


「お待たせ。それで大事な話っていうのは?」


 ベッドに座っている俺のすぐ横にマリアも腰掛ける。

 身請けを申し込むというのは、貴族や大商人でない俺にとっては結婚を申し込むようなもの。

 つまり、これはプロポーズだ。


「昨日、マリアの残りの借金額と俺のギルドに預けている貯金額を聞いてきた。

 俺の貯金額を全て使えば、もうすぐマリアの借金額を全て返せるようになる。

 だから、全額返済できるようになったら、マリアを身請けさせてくれ!」


 マリアの表情には驚きや歓喜の様子は無く、ただ悲しそうな表情のみが浮かび上がっている。


「これだけ頻繁に私を買って、その上でそんなにお金を貯めたのね。

 凄いわ。

 それを聞いたら、街中の女性があなたに結婚を申し込みそうね」

「何を、言っているんだ……?」

「ゴルドの貯金はゴルドのために使って。

 私はあなたには身請けされないわ」


 断られた?

 借金が無くなって自由になれるんだぞ?

 マリアにとって良いことしか無いはずだ


「……なぜだ?なんでそんなことを言うんだ?」

「私は娼婦よ。

 あなたには私よりももっと相応しい人がいるわ」

「そんな人はいない!

 俺はマリア、お前が良いんだ!」

「ノエルとか良いんじゃないかしら。

 あなた達仲良さそうだし、あの子は貴族の血筋でしょう?」

「他の女のことは関係ないだろ!

 マリア、どうして俺をそんなに拒絶するんだ……」


 俺は今までマリアのために頑張ってきたのに……。

 なぜ……なぜマリアは俺の気持ちに応えてくれないんだ。


「そんなに、俺のことが嫌いなのか?」

「そうじゃないわ」

「じゃあ、なぜ……」


 マリアがしばらく沈黙した後、静かに口を開いた。


「……私はあなた以外の男も沢山相手にしてきた。

 もうあなたしか知らなかった、あの頃の私じゃない。

 あなたのおかげで私の借金はかなり減ったわ。

 それは感謝してる。

 でも飽くまでも私は娼婦!

 あなたの側に一生いるような存在じゃないわ!

 あなたも見てきたでしょう?

 私は様々な男を誘惑してきた。

 そんな私にあなたと一緒にいる資格はないわ」


 俺があのとき喧嘩をしてしまったからだ……。

 あのとき喧嘩さえしなければ、奨励冒険者の資格を剥奪されず、マリアが俺の専属娼婦でなくなることも無かった。

 俺のせいだ。


「……あの日、俺達が会って二日目の夜にした約束。

 専属娼婦を外さないって約束を守れなくて申し訳なかった」

「それはっ……。

 私はあのとき、あなたを利用するためにああしただけよ」


 俺を利用……?

 マリアが?


「あれは……嘘だったのか?」

「……いえ、本心よ」

「なら関係ない!

 俺はマリアのことならなんでも受け入れられる。

 もう、あの頃の俺じゃないんだ!

 だから……」

「そうね。ゴルドはあの頃とは比べ物にならないくらい成長したわ。

 でも、私はただ年齢を重ねただけ。

 それに、どうやっても過去は消えないわ」

「それでも!俺はマリアが良いんだ!

 マリアのおかげで俺はここまで頑張ってこれた。

 この先マリアがいない世界なんて想像できない。

 だからマリア。俺と一緒になってくれ」

「そこまで私を思ってくれているのね。

 ……本当に私でいいの?」

「ああ、マリアが良いんだ」


 マリアが顔を伏せ、あのときと同じように問いかけてくる。


「……私を捨てない?」

「ああ、もう二度と。

 今度こそ絶対にマリアを手放したりなんてしない」

「……信じるわ。ずっと一緒にいましょう」


 もたれかかってきたマリアをそっと抱きしめる。

 もう二度と離さない。

 これからの未来を一緒に生きていこう。


サイドストーリー完結です。

第一章やサイドストーリーの感想や評価、リアクションをいただけると、とても励みになります!


最近最初の話を読み返したのですが、読みにくい上に文章が下手くそですね。

ちゃんと時間を取って書き直します。

話の流れは変わりません。


次回からは第二章になり、新しい主人公になります。

現在はストックが全く無く、毎回ギリギリでの投稿をしています。

これからストックを作るために休載します。


次回更新は11月4日です。

第二章も週の平日の初めと終わりに投稿する予定です。

ブックマークしてお待ちいただけると大変喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ