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サイドストーリー第六話 マサキ(ゴルド視点)

【ゴルド視点】


 ニックが死んでから4年が経った。

 あれから俺は未だに冒険者をやっている。

 変わったことと言えば、冒険者が増え、冒険者の制度が整ったくらいだ。

 俺自身は何も変わっちゃいねえ。

 この街のギルドができた時から冒険者をやっているからベテラン冒険者。

 経験だけはあるから冒険者ランクは最高位の星5。

 やってることと言えば、走ってゴブリンを斬るだけ。

 足が少し速い以外には何の取り柄も増えちゃいねえ。

 俺は今年で20歳。これから先は衰えていくだけだ。

 いつまでこの仕事をできるか分からねえが、かと言って俺にこれ以外の仕事ができるとは思えん。

 これから先どうなるんだろうな。


 酒場のドアが開き一人の男が入ってきた。

 見慣れない顔だな。

 ほぼ毎夜この酒場にいるおかげで、常連客の顔は全員覚えた。

 この街に住む人間は全員一度は顔を見たことがある。

 あの男は顔が随分と整っている上に、肌艶も髪質も良い。

 あんな顔は貴族くらいでしか見たことがないが、身なりが貴族とは思えない。


「あら、かわいいお客さんね。買うのは食事?それとも私?」


 マリアめ。

 俺の専属娼婦を外れてからというもの、俺に見せつけるかのように客に自分をアピールしやがる。

 俺がここにいる間は絶対に他の男に買わせはしない。

 あの日した約束、専属を外さないという約束は守れなかったが、マリアを手放さないと言う約束だけは守る。

 それに俺以外には抱かれたくないというあの言葉、あれは絶対に忘れない。


「私……ってなんですか?」

「あら、坊や。何も知らずにここに来たのね。

 ここは食事と快楽を提供するお店よ」


 何も知らないガキか。

 どうやってこの街に来たかは知らんが、そのうち顔を見なくなるだろ。


「心配しなくても、必ず誰かを指名しなきゃいけないわけじゃないわ。

 食事をして、宿で寝るだけというお客さんも大歓迎よ」

「えっと、じゃあ食事だけで」

「あら、つれないわね。気が変わったらいつでも言って。坊やならいつでも歓迎よ。

 食事は、今日はスープと豚肉、あとはゴブリン肉の3種類ね」

「ゴブリン肉!?」

「ええ、冒険者がゴブリン肉を取ってきたのよ。あんまり美味しくないけど、安いわよ」


 美味しくない?

 首を切り落とした後即座に血抜きをし、硬い筋や筋膜を丁寧に取り除いた俺のゴブリン肉が美味しくないだと!?


「おいマリア!俺がゴブリン肉を取ってきたんだぞ。今日のゴブリン肉は美味いに決まってるだろ!」

「ならあんた、自分でゴブリン肉を食べればいいじゃないの」

「いや、今日は豚肉を食べたい気分なんだよ……」


 美味いは美味いんだが、あいつらの死に際の顔を思い出しながら食べたくない。

 食べるのは豚肉を買う金がない奴らだけで良いだろ。


「それぞれの値段を教えていただけますか?」

「スープが20ゼニー、豚肉が130ゼニー、ゴブリン肉が30ゼニー。私は200ゼニーにまけとくよ」


 200ゼニー?

 いつもはその10倍だろ?

 他の客と競る時はその倍の額になることだってある。

 ……そんなにそのガキが気に入ったってことかよ。


「今日は随分と気前がいいじゃねえか!それなら俺が買ってやるよ!」

「うるさいね!あんたなら2000ゼニーだよ」


 おお怖え。

 段々母ちゃんに似てきたな。

 女っていうのは歳を取るとああなるのかね。

 昔はお淑やかで良かったんだがなあ。


「で、どうする?私が200ゼニーなんて格安よ」

「また今度にしときます……」

「そう。私を指名したくなったらいつでも言ってね」


 指名したってすぐ値段を釣り上げるけどな。

 お前にはマリアを渡さねえよ。


「それで食事は?」

「スープでお願いします」

「ええ、分かったわ。あともう10ゼニーでパンが付くんだけど、どうする?」

「じゃあパンもお願いします!」

「持ってくるわ。少し待っててね」


 思った通りの貧乏人だ。

 まあ、俺もあのくらいの歳の時は大工をやっていたから同じようなもんだったが。


 チビチビとエールを飲んでいると、マリアがガキの食事を持ってきた。


「お待たせ、スープとパンよ」

「ありがとうございます」

「熱いから気をつけてね」

「あっ、はい……」


 は?……マリアがガキのテーブルに着いた。

 マリアが誰かのテーブルに着くことなんて今まで無かった。

 俺のテーブルに座ったことだって、専属だった時が最後だ。

 俺とそのガキで何が違う?

 顔か?年齢か?

 そんなのどうしようもないだろ。


「どう?美味しい?」

「はい、美味しいです!濃い味で良いですね」

「そう?なら良かった。パンを浸して食べても美味しいよ」

「そうなんですね。ありがとうございます」


 さっきから一々礼を言いやがって、男ならそんなに何回も言ってんじゃねえ!

 ……いや、マリアが惹かれているのはそういうところなのか?

 俺も言うべきなのか?


「とっても美味しいです!」

「良かったわ。

 少し前までは干し肉入りのスープもメニューにあったんだけど、最近家畜がゴブリンたちに襲われて高騰しちゃってメニューから無くなったのよね……」


 そういや東の牧草地帯でそんな話があったな。

 東だからはぐれの一団だろうが……、そんなところにはぐれが出るなんて珍しいな。

 明日あたり調査してみるか。


「そういえば、先ほどの男性とは仲が良いんですか?」

「ああ、ゴルドのこと?一応常連なのよね。

 一度相手にしてからずっと私だけを指名してくるのよね。

 私は安くないから、相当儲かっているんでしょうね」


 専属だったことは言わないのかよ。

 まあ、今は奨励冒険者の制度自体が無くなっているから言う必要もないか。


「ゴルドさんは冒険者なんですか?」

「ええ、そうよ。ベテランらしいわ」


 この街1番のベテランだぞ。

 マリアも知ってるだろ。


「坊やも冒険者なの?」

「今講習で魔法の練習をしていて、まだ冒険者じゃないんです」


 まだ講習を受けている最中かよ。なら無職か。

 無職が宿に泊まろうだなんて随分な御身分だな。


「そうなの。でも坊やならすぐ一流の冒険者になれるわよ」

「そうですかね。ありがとうございます」


 一流だと?そのガキが俺を超えるって言うのか?

 ふざけんじゃねえ。


 残っていたエールを一気に飲み干し立ち上がる。


「マリア!2000ゼニーだ。上に行くぞ」

「……そう。分かったわ。じゃあね、坊や。また今度ね」


 ガキが俺を生意気な目で見てきやがる。

 何もできない無職のガキが。


「小僧、一つ教えてやる。

 この店じゃ他の客が指名しても、部屋に入る前なら他の客が出した金額以上の金を出せば自分を優先させることができる。

 俺と金で勝負してみるか?」


 手持ちの金の計算でもしているのか?

 やめておけ。

 俺と金で勝負して無職のお前が勝てるわけないだろ。


「坊や、無理はしなくていいのよ。

 私は大丈夫だから」

「どうした小僧。ここまで言われて何もせず引き下がるのか?」


 うんともすんとも言いやしねえ。

 こんなガキのどこが気に入ったって言うんだ。


「まあ、まだ講習を受けてるようなガキじゃ無理だろうな。

 マリア、早く上に行くぞ」

「分かったわ。坊や気にしないでいいからね。私は大丈夫だから」

「はい、ごめんなさい……」


 ◇◆◇◆◇


 それから数日が経ち、いつものように酒場で酒を飲んでいるとマリアが俺のテーブルにやってきた。


「どうしたんだ?」

「あの坊やのこと覚えてる?」


 坊や……ああ、あのガキか。

 冒険者になり、しかもすぐに遷移魔法を覚えたっていうのは聞いたが、何かあったのか?


「覚えているが、どうしたんだ?」

「あの子、リリアと付き合ったみたいよ」

「リリアと?……そういやリリアもそんな歳か」


 少し前まではちびっ子たちの前でお姉さんぶっている子供だったが、もうそんな歳になったのか。

 あの時のちびっ子も今では少しずつギルドの仕事を手伝い始めた。

 レンタル品の装備が綺麗になったって喜んでる新人をこの前見かけたな。


「……今はゴルド以外お客さんいないし、私もお酒飲んでいい?」

「ああ……、いいぞ」

「今持ってくるわ」


 珍しいな。最近は誘っても絶対にテーブルに着かなかったのに。

 マリアは酒を持ってくるなり席に座り、一気に飲み始める。


「初めからそんなに飲んで大丈夫か?」

「大丈夫よー、私お酒に強いから。ゴルドよりはね」


 確かに俺は酒に弱いが、マリアも強そうには見えないぞ。

 顔が少し赤くなってるし。


「はぁ、あの坊や、どんなに私が誘っても絶対に私を買おうとしなかったのよねえ。

 私ってそんなに魅力……ないわけないか」

「マリアは俺が今まで見てきた女性の中で一番魅力的だ」


 あの日、初めてマリアを見た時からこの想いは変わっていない。


「……そう」


 そっぽを向いてしまった。

 照れてるのか?言われ慣れてそうだと思ったが。


 あの小僧がマリアを買わなかった理由か……。


「歳じゃないか?あいつリリアよりも下だろ」

「私はまだ18!あの子は17よ!そんなに歳は離れてないわ」

「えっ、あいつ17だったのか!?」


 見た目に反して結構歳いってるんだな。


「あいつ、名前はなんて言うんだ?」

「マサキよ。珍しい名前よね」


 マサキか。やっぱりこの街の出身じゃないな。

 冒険者になるってことは商人ではないだろうし、どうやってこの街に来たんだ?


「マリアが人の名前を覚えているなんて珍しいな。やっぱりあいつは特別だったのか?」

「……失礼ね。私は宿に泊まった客の名前は全員覚えているの。あの子が特別なんじゃないわ」


 その割にはマリアが他の客の名前を呼んでいるところを見たことないんだが。

 でも、そうか。あいつはマリアにとって特別というわけではなかったのか。


「やっぱり職業かしら……。こんな職業だし、幸せな結婚生活なんて送れるわけないわよね」


 そう言いながら、マリアは俺の目をジッと見てくる。

 俺の答えはいつでも変わんねえよ。


「俺は今でもマリアを身請けしたいと思ってる。金も貯まってきた。もうすぐだ」

「……ふふっ」


 マリアは満足したのか、少し笑って酒を一気に飲み干した。


「今日も私を買っていくでしょ?サービスするわ」


 そう言って立ち上がり、厨房の方へと消えていった。

 今夜は最高の夜になりそうだ。


以前全六話と書きましたが、訂正します。

全七話です。

プロット書いただけだと実際の文字数って分からないものですね……。

今度こそ次話が最後です!

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