サイドストーリー第五話 後悔(ゴルド視点)
【ゴルド視点】
冷たくなったニックを抱きしめながら、ギルドに入る。
ちびっ子たちは……いないな。
「ゴルドさん、おかえりな……っ!ニックさん!?」
リリアが信じられないものを見るかのような、忘れていたかのような表情で近寄ってくる。
「セラを、呼んでくれるか?」
「……はい、すぐに呼んできます」
少し待っていると、階段からリリアとセラ、ノエルが降りてきた。
「……ニック……」
悔しそうな表情をしながらセラが呟いた。
「ゴルド、すまなかった。私の判断ミスだ……。
ニックは私が預かろう。
ノエル、ゴルドの肩の傷の手当をしてくれ」
肩?
……そういえばゴブリンの矢を受けていた。すっかり忘れていた。
思い出したら急に痛くなってきた。
ニックをセラに預け、椅子に座る。
「ニックが死んだのは俺のせいだ。
俺があの時立ち止まらなければ……、俺に大量のゴブリンと正面から戦って瞬殺できる力があれば……」
「……生成魔法と消滅魔法は前に教えたな?
魔法にはもう一つ、遷移魔法という魔法がある。
これがあればゴブリンなんて敵ではなくなる」
「そんなものがあったのか!?
なんでそれをニックや俺に教えてくれなかったんだ!」
「遷移魔法は危険すぎる。誰でも使えていい魔法じゃない。
だからお前達を信用できるようになるまでは教えないと決めていたんだ」
「……なんだよそれ。これだけ俺たちを働かせておいて、信用していなかったっていうのかよ!?」
「……そうだ。すまなかった」
「すまないじゃねえ!そのせいでニックは死んだんだろ!」
「……そうだな」
遷移魔法とかいうのを教えてくれていたら……。
くそっ、ニック……。
「もうお前の顔を見たくない。早くどこかに行ってくれ」
「ああ……」
そう言って、ニックを連れて建物から出て行った。
俺の左ではノエルが傷の手当てをしてくれている。
「ノエルは、遷移魔法を使えるのか?」
「はい……、私とリリアは使えます」
「そうかよ……」
あいつは自分のお気に入りのリリアとノエルにだけ教えて、そうじゃない俺とニックには教えなかったっていうことかよ。
「あの、セラさんを責めないであげてください。
あの人は昔、遷移魔法を教えて、その教えた子が貴族の前で魔法を使い、殺されてしまったんです」
「は?貴族の前で魔法を使ったら殺されるのか?」
「はい、ですから私たちが遷移魔法を教わった時、人前では絶対に使わないようにかなりキツく言われました。
どこから貴族に話が伝わるか分からないからって。
リリアより下の子にはまだ魔法を教えていない理由はそこにあるんだと思います」
「そうか……」
なんだよ、それ。
俺たちを守るためだったって言うのかよ。
それじゃセラを責めにくいじゃねえか。
結局、俺の力不足が原因ってことか。
「はい、治療が終わりました。しばらくは左肩を動かさないでくださいね」
「ああ、ありがとうな。
俺はこれからおやっさんのところに行ってくる。
そのあとまた戻ってくるから……、セラにはさっきは悪かったと伝えてくれるか?」
「分かりました。お待ちしております」
◇◆◇◆◇
ニックの埋葬を終えた日の夜、おやっさんに誘われギルド直営の酒場に来た。
「おやっさん、濃いエールでいいですよね?」
「ああ……」
「マリア、濃いエールを二つ」
「ええ、分かったわ」
注文を聞きにきてくれたマリアにそう告げ、おやっさんと二人きりになった。
「ゴルドも濃いエールを飲むようになったのか」
「はい、沢山稼がせてもらってるので」
「まあ、そうじゃないと割りに合わないよな……。
俺が、お前に冒険者を勧めなければこんなことには……」
「おやっさん、やめてください!
俺は冒険者になって良かったと思ってるんです。
ニックは……、いや、ニックが死んだのは俺のせいなんです。
俺にゴブリンを瞬殺するだけの力があれば……」
「俺はゴブリンなんて見たこともないから分からないが、それはお前も数ヶ月前までは同じだっただろう?
この短期間でゴブリンを倒せるようになった、それだけでもすごいさ」
「おやっさん……」
いつの間にか来ていたエールを手に取り、おやっさんと一緒に口に運ぶ。
ニックの思い出話を語りながら飲んでいると、近くのテーブルから話し声が聞こえてきた。
「お前また仕事で失敗したのか。冒険者になったらどうだ?」
「えー、流石にそこまで無能じゃないっすよー」
「そういや、お前はとっくに見習いは卒業していたか!」
「それにゴブリンに殺されるとか死んでも御免っす」
「ゴブリンに殺されたら食われるんだろ?
いくら報酬が高いって言われてもそれだけはなー」
「この前死んだっていう冒険者も、冒険者になる前は安い給料だったんでしょうね。
どうせ何か簡単なミスをして殺されたんでしょ」
「結局、無能はどんな仕事に就いても無能のままってことだな」
「あいつら……!!」
「おい、よせゴルド!」
近くのテーブルで飲んでいた奴らに向かって殴りかかる。
「はっ?なんだお前……ぶっ!」
「ぐっ!」
二人とも殴り倒し、さらに馬乗りになり殴り続ける。
「ニックは無能なんかじゃねえ!ニックは大工としても、冒険者としても優秀だった!」
「お前、もしかして無能な冒険者か?」
「なんだと?がっ……!」
先に殴り倒した奴が立ち上がり、俺の脇腹を蹴り上げた。
「お前……、殺してやる!」
「やってみろよ、冒険者風情が!」
殴りかかろうとしたそのとき、酒場のドアが勢いよく開いた。
「ゴルド!今すぐやめろ!」
「セラ……」
「よそ見してんじゃねえよ!……って、え?」
目の前の奴が俺に殴りかかろうとしていたが、俺の目の前に見えない壁があるかのように、拳が止まっている。
「ゴルド、こっちに来い」
セラが俺の方へ手をかざしながら俺を呼ぶ。
「分かり、ました……」
セラに着いて行き、冒険者ギルドのセラの部屋に入った。
セラは部屋の奥の椅子に座り、俺は机を挟んで前に立つ。
「はあ……、ゴルド、やってくれたな」
「あいつがニックを無能だなんて言うから!」
「それで乱闘騒ぎを起こしたと?」
「そうだ!あのまま黙って言わせておけって言うのか!」
「その通りだ。お前は絶対に乱闘騒ぎを起こしてはいけなかった」
「なんでだよ!?」
「お前は奨励冒険者だ。
これはお前のようなやつでも冒険者になれば良い暮らしができるという宣伝のための制度だ」
「なんだよ、それ。
セラまで俺が無能だって言うのかよ!」
「そうだ」
「ふざけんじゃねえぞ!」
セラに殴りかかろうとするが、見えない壁に阻まれる。
「なんだよ、これ……!」
「これが遷移魔法だ。お前に教えるはずだった、な」
壁を殴りつけるがびくともしない。
なんなんだよ、この壁!
「ゴルド、お前は奨励冒険者の資格剥奪だ。
これから教える予定だった遷移魔法も、もうお前に教えることはない」
「は?資格剥奪?俺は普通の冒険者になるってことか?」
「そうだな。割引も、専属娼婦の制度も無くなる」
「マリアは……。マリアはどうなるんだ?」
「普通の娼婦として他の客を取ることになる」
「そんな……、それだけはやめてくれ!
もっと働くから、それだけは!」
「ニックがいないお前に、どれだけの価値がある。
お前はただ少し足が速いだけだ」
足の力が抜け、膝から崩れ落ちる。
俺は、本当に無能だったのか?
そんなはずは……。
「話は終わりだ。私は酒場にマリアが専属娼婦ではなくなったことを伝えに行く」
セラが立ち上がり、部屋の外へと向かう。
そうだ。ここでセラを倒せば俺は無能ではないことになるし、専属娼婦の話も伝わらない。
セラが俺に完全に背を向けたのを確認し、後ろから殴りかかる。
が、またしても見えない壁に阻まれた。
「つくづく、お前に遷移魔法を教えなくて良かったと思う。
お前が私に勝てる可能性なんて、万に一つもない」
なんだよ、それ。
手も足も出ないのかよ。
これじゃあ、本当に俺は無能じゃねえか。
セラが部屋から出ていき、部屋の中に一人取り残された。
くそっ、俺はこれからどうしたら……。
おやっさん……。
おやっさんはまだ酒場にいるかな。
酒場に、行くか。
ギルドの一階に降りると、ノエルとリリアが俺を心配そうに見ていた。
そんな目で見るなよ。
余計惨めになる。
酒場に着くと、そこにはもうおやっさんの姿は無かった。
さっきのあの男二人組もいないな。
セラも……いないか。
先ほどまでおやっさんと二人で飲んでいたテーブルには、温くなったエールが二つ取り残されていた。
椅子に座り、そのエールをちびちびと飲んでいると、マリアと目があったが、すぐに目を伏せられてしまった。
さっきまでは目があったら笑いかけてくれてたのにな。
いつかの日のようにマリアを目で追っていると、見知らぬ男がマリアに話しかけていた。
大方マリアを買おうと交渉してるんだろ。
いつも通りマリアは……、マリアが頷き三階への案内を始めた。
そうか、もう俺の専属娼婦じゃないから……。
階段を上がる前、マリアがチラリと俺を見た。
その目は悲しそうで、涙が溢れ出そうだった。
俺はそんなマリアをただ見送ることしかできなかった。
以前全五話の予定と書きましたが、訂正します。
全六話です。
流石にこれで終わりにはしません。
サイドストーリーもあと一話。
最後までお付き合いください。




