サイドストーリー第四話 ニック(ゴルド視点)
【ゴルド視点】
冒険者になってから数ヶ月が経過した。
初めてゴブリンと遭遇した日とは違い、俺はもうゴブリンを倒せるようになった。
支部長に俺がゴブリンと対峙し、いかにして切り抜けたかを語ったところ、俺にはシミターという剣が似合っていると言われ、それ以来このシミターで数々のゴブリンを屠ってきた。
ゴブリンの倒し方は最初のゴブリン戦を切り抜けたときとほぼ同じ、ゴブリンの横を駆け抜けざまにシミターをゴブリンの首に添わせるだけだ。
言うだけなら簡単だが、実際にはかなり難しい。
何度もゴブリンと戦うことで、ようやく俺の戦闘スタイルを確立できたほどだ。
これはもう剣術と言ってもいいレベルだ。
そう、名付けてゴルド流剣術!
現在門下生を募集中だ。
ニックは周囲を立体的に把握できるとかなんとかで、弓矢を使っている。
ゴブリンが複数出たときにはニックが指示して、俺が従うことで今まで倒せてきた。
正直、俺は前に突っ走ることしかできないから、ニックの存在は助かっている。
今日もゴブリン退治だ。
そろそろ平原での戦いに飽きてきたし、別のところに行きたいな。
ギルドに入ると、リリアが受付にいた。
セラは……どうせ今日もちびっ子と遊んでいるんだろうな。
「リリア!今日もゴブリンの偵察か?」
「ゴルドさん!はい、でも今日からは西の森の中の偵察をお願いしますー!」
「ついに森か!」
この数ヶ月ずっと、ゴブリンと遭遇しては倒し、遭遇した地点を地図に書き込んできた。
そのおかげで、はぐれゴブリンが随所に存在することと、ゴブリンの大きな集落が西の森に存在することが分かった。
「森の中は気をつけてくださいねー?
ゴブリンは木の上に潜んでいることがありますから!」
「木の上か……」
ゴブリンに弓矢で狙われている中、悠長に木を昇るわけにはいかないし、俺は何もできないな。
まあ、そのときどうすればいいかも含めてニックに任せればいいか。
「ニックはもう来ているのか?」
「はい、もう二階にいますよー」
二階にはギルドでレンタルする防具の倉庫がある。
シミターは購入したが、防具はまだ購入できていない。
本当は防具も購入したかったんだが、シミターが高かったのと、毎日マリアに会っているおかげで防具は後回しになった。
「分かった。じゃあ、また後でな」
「はい!」
◇◆◇◆◇
街を後にし、西の森までやってきた。
「改めて見ると、でけえ森だな」
「ああ、太い木が多いし、見晴らしも悪い。慎重に進まないとな」
森には大小様々な木が生い茂っており、大きい木は根本からは頂上が見えない。
小さい木はところどころに生えており、ゴブリンの姿を隠すには十分な大きさだ。
それに加えて、足元には背の高い草が多い。
歩くだけでも一苦労だ。
森の中を警戒しながらしばらく進むと、ニックが急に小さな声を発した。
「ゴルド、止まれ!」
「お、おう……」
ニックに言われ、立ち止まる。
ニックの方を見ると、静かにしろというようなジェスチャーをしている。
何か音が聞こえたのか?
ニックに習い耳をすませると、俺達以外の草をかき分ける音が聞こえる。
まっすぐこちらに向かってきているようだ。
シミターを抜き、その音の方向を警戒する。
シミターを握る手に緊張の汗がにじむ。
さあ、何が出てくる……。
低い木をかき分け出現したのは……ゴブリンだ!
ニックが矢を一発放つが、肩に命中する。
その瞬間ゴブリンは俺達を認識し、大声を上げた。
「ゴルド、早くトドメを!」
「ああ!」
ゴブリンのもとに走り、がら空きになっている胴を横に斬りつける。
ゴブリンは絶命し、叫び声を上げていた口は静かになった。
シミターに滴る血を払い、鞘に収めるとニックが口を開いた。
「ゴルド、まずいぞ。森のあちこちからゴブリンの叫び声が聞こえる」
「ああ、早く逃げるぞ」
ゴブリンを解体することなく死体を放置し、急ぎ森の出口を目指す。
くそっ、せっかくゴブリンの解体が上手くなってきたのに。
森の出口へ向けて走っていると、左側にゴブリンが何体か並走しているのが見えた。
平原なら振り切れるが、ここは森の中だ。
低い木が点在しているせいでまっすぐ歩けないし、背の高い草が走りにくくさせる。
「森の出口だ!」
これで助かる!
森を出て、開けた場所に出た。
ここにはもう走るのを邪魔する木は無い。
あとは走り抜けるだけだ。
そう思った刹那、左から矢が飛んできた。
「うおっ!」
驚いて足を止めてしまった。
「おいゴルド、足を止めるな!……ぐぁっ!!」
「ニック!」
ニックを見ると、足にゴブリンの矢が突き刺さっている。
足?
足って、走れるのか?
頭が真っ白になる。
「ニック、走れるか?」
「……無理だ、立てねえっ……」
走れない?
俺が立ち止まったから?
どうする、ニックをおぶって走るか?
無理だ。絶対にゴブリンに追いつかれる。
「ゴルド、行け!お前だけでも生き残れ!」
「馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」
さっき見えたゴブリンは3体ほど。
あれくらいなら……倒せるはずだ!
「ニック、待ってろ。今あいつらを倒してくる!」
「止めろ!まだ援軍が来るはずだ!」
近くのゴブリンはグガグガと何かを叫んでいる。
くそっ、どうすれば……。
「早く逃げろ!お前なら振り切れるはずだ……!」
逃げる……。
俺が逃げればゴブリンが追ってくるんじゃないか?
そうだ、それしかない。
「ニック、隠れていろ!
俺が引き付けるから、帰ってくるまで絶対に死ぬんじゃねえぞ!」
幸いニックが倒れた箇所は森に近く、まだ背の高い草で生い茂っている。
素早く立ち上がり、街の方角へゆっくり走り出す。
ゴブリンが追って来れるように。
「おいゴブリン共!俺はここだ!早く追ってこい!!」
俺が叫ぶと、弓矢を持ったゴブリン3体が俺の方に向かって走ってきた。
よし、ニックの場所を知っているゴブリンは釣れた。
あとはこいつらを倒してニックのところへ戻れば……。
森から離れ、背の高い草が無くなり、俺が思いっきり走れる場所に出た。
ゴブリンの走る速さはバラバラなのか、3体とも少しだけ離れている。
特に一番後ろのゴブリンはスタミナ切れを起こしている。
これなら倒せる!
シミターを抜いてからブレーキをかけ、先頭のゴブリンに向かって全速力で走り出す。
ゴブリンはまだ矢を番えていない。
先頭のゴブリンの横に着いた瞬間、シミターでゴブリンの首を切り落とす。
「次!」
次のゴブリンは矢を手に持ってはいるが、まだ引いてない。
こいつも問題ない。
二体目のゴブリンの首を切り落とした瞬間、一本の矢が俺の方目掛けて飛んできた。
「ぐっ!」
左肩にその矢が刺さり、激痛が走る。くそ痛え!
あの三体目!バテてたんじゃねえのかよ!
痛みをこらえながら、三体目に向かって走る。
ここでうずくまっていたらもう一発撃たれる!
三体目の首を落とし、矢が刺さった場所を見ると、血がじんわりと滲んでいた。
「確か矢を抜いちゃ駄目なんだったな」
支部長に教わったことを思い出しつつ、揺れて余計に傷まない程度に矢を短く折り、ニックの元へ走り出す。
「ニック……、無事でいてくれよ」
森の入口付近に着き、ニックが隠れた場所を見ると、複数のゴブリンが集まっていた。
まさか……。
「何やってんだお前らああああ!!!」
こちらに振り返ったゴブリンの手には……人間の腕!?ニックの?
そんな……。
集まっていたゴブリンのうちの2体が俺の方に向かってくる。
俺もついでに殺そうってか?
……良い度胸だ。殺してやる!!
すれ違い様に一体殺し、もう一体にはタックルして押し倒し、首を刎ねる。
残りはニックのところにいる二体だけ。
殺せる!
一体を瞬殺し、残った無防備なゴブリンの頭に向かってシミターを突き刺す。
「ニック!」
ゴブリンを全滅させ、足元を見ると、目を開いたまま、絶命しているニックがそこにいた。
先程まで言葉を発していたその口は、もう動かない。
「くっそおおおお」
まだ温かいニックの体を抱きしめる。
俺があのとき立ち止まらなければ!
弓矢を持ったゴブリンを瞬殺できる力があれば!
俺のせいだ。
俺のせいでニックが死んだ。
大量の涙が徐々に熱を失っていくニックにこぼれ落ちる。
ゴブリンとの戦いは命がけ、俺はそんな当たり前のことをいつの間にか忘れていた。




