サイドストーリー第二話 壁外(ゴルド視点)
前回全二話と書きましたが、あれは嘘です。
全五話の予定に変更です。
【ゴルド視点】
冒険者になった翌日。
今日は冒険者として、初めての仕事の日だ。
昨夜は本当に最高な夜だった。
これから毎日あんな夜を過ごせるようになるなんてな。
あの夜のためならどんな仕事でも頑張れる。
冒険者ギルドに入ると、正面の受付に女の子が立っていた。
「奨励冒険者のゴルドだ。どんな仕事をすれば良いんだ?」
「ゴルドさんですねー。
本日は初日ですので、ゴブリンを1匹倒してきてくださいー
西の森でなくても、はぐれのゴブリンでも構いません」
「いきなりゴブリンか!?」
最初はもっと簡単な仕事だと思っていたんだが。
っていうか、ゴブリンの倒し方なんて知らねえよ。
「えっと、はい……難しいでしょうか?」
「俺はゴブリンを見たことがないどころか、この街の壁の外にすら出たことがないんだぞ!」
「そっか……。そう、ですよね……」
受付の女の子は忘れていたというような反応をして、考え込んでしまった。
このギルドは本当に大丈夫か?
街の外に出たことがある人間なんて滅多にいないことくらい分かるだろ。
この女の子も働き始めるにはまだ少し早いし。
そういえば、孤児院から孤児がいなくなったとかっている噂を聞いたな。
「少々お待ち下さい。支部長に話してきます」
「おう」
女の子はそう言って階段を上がっていった。
受付の奥のスペースを見てみると、どこかから運び込んだばかりなのか物が散乱しており、それを片付けているのは全員子供だ。
その子供の中には明らかにまだ働くような年齢ではない子供もいる。
……浮浪児や物乞いにならないならそれでいいか。
しばらく待っていると、階段から先程の女の子と、昨日面接した支部長、そしてニックが降りてきた。
「ニック!?お前、どうしてここに?」
「俺も冒険者になることにしたんだ。これからまた一緒だ」
「大工の仕事はどうしたんだよ!お前は有望株なんだろ!?」
「ミケルがいるさ。それに、お前を放っておけないしな」
1人で不安じゃなかったと言えば嘘になる。
ニックが一緒に冒険者になってくれたら嬉しい。
だが、ニックは俺と違って大工としての将来があった。
俺が冒険者にならなければ、ニックも大工のままだったはずだ。
「冒険者になることは俺が決めたんだ。お前のためじゃない。
それにお前だけいい女を抱くのはずるいだろ」
「ニック……」
「そろそろいいか?
今日の仕事だがな、お前たち奨励冒険者にはまず、街の外のマップを作ってもらう。
どこでゴブリンを見ただとか、その程度でいい」
「ゴブリンを見つけたら、どうすればいいんですか?
さっき倒してこいとか言われましたけど」
「さっきのは忘れてくれ。
ゴブリンと会ったら全力で逃げろ。
門の近くまで逃げられたら追ってこなくなるはずだ」
「それならできそうだな」
「よし、ゴルド、早く行こうぜ!それで今夜は娼館だ!」
「待て。どうやってマップを作るつもりだ。
それにそんな普通の服装で街の外に出るな」
改めて俺とニックの服装を見ると、いつもの布の服だった。
「俺達、こういう服しか持ってないんですけど」
「ギルドで膝当てと肘当てを貸してやる。
あとマップを作るための紙もだ」
「紙もあるんですか!?」
「ああ、貴重だから破ったりするなよ」
紙なんて見る機会は滅多にない。
それどころか、紙に書くことができるなんて。
そんなのおやっさんくらいしか経験していないはずだ。
「えっと……膝当てと肘当てか……。
どこだったかな。
ノエルー、貸出し用の装備ってどこだ?」
支部長が受付の奥の散らかったスペースを片付けている子供の中で一番の年長に声を掛けた。
あの子はノエルっていうのか。
ここの子どもたちの中ではお姉さんなんだろうな。
「そこの棚の横にまとめてあります!」
「おお、この箱か。ありがとな。
じゃあお前たちはリリアに習ってこれを装備してくれ。
私は紙とペンを取ってくる」
そう言って支部長は階段を上がっていった。
残ったこの女の子はリリアという名前なのか。
「では一緒に装備しましょー」
◇◆◇◆◇
膝当てと肘当てを装備した後、ニックと街の外に出た。
「これが街の外か。広くて風が気持ちいいな」
「ああ、街の外はこんなにも広かったんだな」
目の前はどこまでも草原が広がっており、草の匂いが鼻をくすぐる。
肌に当たる爽やかな風が心地良い。
「じゃあ俺がマップを作るから、ゴルドはゴブリンがいないか探してくれ」
「おいずるいぞ。俺も紙に書きてえ」
「お前は設計図を読むことさえできないだろ」
「ニックは設計図を読めるのかよ?」
「ああ、この前おやっさんに教わったからな」
「はっ!?おやっさん、俺にはそんな素振りは全く無かったぞ!」
「お前はサボってるからだろ」
くそっ、俺もこいつみたいに真面目に仕事をしていれば……。
◇◆◇◆◇
壁の外に出てから長い時間が経ち、一度昼飯を食べに街の中に戻ったりしながら草原の上を散歩していると、明らかに木ではなく人でもない、1匹の人型の生物を見つけた。
「おい、ニック。あれがゴブリンってやつじゃないか?」
「おお、あれか!?えっと現在地は……」
ニックが紙に書き込んだマップをじっくりと見て動かない。
ゴブリンの方を見ると、こちらに気付いたのか、走って向かってきた。
ゴブリンは何か持っているな。あれは……石の斧か!?
「おいニック、気付かれてる上に、あいつは俺達を殺す気だ。早く逃げるぞ!」
「なっ!?くそ、せっかく現在地が分かったのに……」
ようやく動いたニックと共に走って街の入口を目指すが……ニックの足が遅い!
このままじゃゴブリンに追いつかれる。
せっかく俺に付いてきてくれたニックをここで死なせるわけには……。
「ニック、お前はこのまま街を目指せ」
「お前はどうするんだよ!?」
「俺はあいつを引き付ける」
逃げる足を止め、ゴブリンと正面から向き合う。
ゴブリンも俺を警戒し、俺から少し離れたところで立ち止まった。
「ゴルド!」
「早く行け!」
「くそっ……、ちゃんと戻ってこいよ!」
ニックが街の入口に向かって再び走り出した。
これで俺がすぐニックを追いかけたら、ゴブリンも追ってきて同じことになってしまう。
本当は今すぐにでも逃げ出したい。
だが、そんなことをしたらニックが死んでしまう。
つっても俺にゴブリンと戦うような力はない。
後ろに逃げるのが駄目なら右か左か?
いや、逃げ足の速度を見てゴブリンがニックを追いかけてしまうかもしれない。
それなら正面……いや無理だろ!
あいつ石の斧を持ってるんだぞ!
あれで殴られたら死ぬわ!
どうするべきか悩んでいると、痺れを切らしたのか、ゴブリンがこちらに走って向かってきた。
くそっ、こうなりゃヤケクソだ。
ゴブリンに合わせ前へ走り出す。
ゴブリンが右手に持った斧を振り上げる。
そのタイミングでゴブリンの右側へ急加速する。
ゴブリンの石の斧は空を切り、俺はそのままゴブリンを置き去りにし前へと駆け抜ける。
俺は怪我をしていない!
ゴブリンは俺の遥か後ろだ!
ゴブリンを見ると、まだ何が起こったのか理解できずにキョロキョロとしている。
っよし!俺の勝利だ!
足の速さで俺に勝てるやつなんていない。
このまま街の周りを一周してニックがいる門まで戻ろう。
◇◆◇◆◇
「おう、ニック!無事だったか」
「ゴルド!!お前こそ無事だったのかよ!」
「当たり前だ!俺の俊足で置き去りにしてきたわ。
それよりマップの方はどうだ?」
「バッチリだ。もう日が暮れてきたし、これを見せて支部長を驚かせてやろう!」
「そうだな!」
門から街の中に入ると、見慣れていた景色が今までと変わって見えた。
なんだか、街が輝いて見える。
「なあ、ニック。街ってこんなに綺麗だったか?」
「ん?……ああ、お前今まで仕事サボってたもんな。
それが一仕事を終えた後の景色だ」
「そうだったのか……」
これが仕事を終えた後の景色……。
つくづく、なんで俺は今まで仕事をさぼっていたんだろうな。
冒険者ギルドの建物に入ると、受付の前の広いスペースで支部長が小さい子と粘土で遊んでいた。
「お〜綺麗なお人形さんができたねー。これで家族みんなできたかな?
……ん?
お前たち、いつからそこにいた?」
「今来たばかりです」
「そうか……お前たちは何も見なかった。いいな?」
「はい、分かりました……」
「セラー?」
「ああ、ごめんね。ちょっとお仕事するから、二階に行っててくれる?」
「うん……」
支部長が子供に向ける顔は随分と優しい顔だ。普段とはまるで違う。
セラと遊んでいた子供は粘土でできた人形を持って、悲しそうに階段を上がっていった。
「さて、出来上がったマップを見せてもらおう」
支部長はそう言って、粘土で汚れた手を差し出してきた。
「先に手を洗った方が良いんじゃ……」
支部長は自分の手を見て粘土で汚れていることに気付いた。
「くっ……。少し待っていろ」
支部長がそう言った後、建物から出て、すぐに戻ってきた。
「手を綺麗にした。これでいいだろ?」
そう言いながら、綺麗になり、しかも水気が一切ない手を見せつけてきた。
「えっ、今ちょっと外に出ただけですよね?」
「ああ、まあ気にするな。そのうち教えてやる。
それよりもマップを見せろ」
「はい……」
ちょっとこすって落としたような感じの綺麗さではなかった。
明らかに水で洗ったかのようだった。
だが水気は一切無いし、井戸はここから大分遠いはずだ。
どうやったらあんな短時間で綺麗になるんだ。
「ほう、すごいじゃないか。白紙だった状態からよくここまで。
正直ここまで精細な地図になるとは思わなかった。
これを書いたのは誰だ?」
「俺です」
「ニックか。すごいな。
これからもよろしくな。
ゴブリンとは……一度しか会わなかったか」
「はい、最後に一度だけ」
「夕暮れ時を狙ったか……。
うん、今日はご苦労だった。
リリア!二人への報酬を持ってきてくれ!」
「はーい」
リリアから受け取った金額は200ゼニーだった。
「えっ、初日でこんなに?俺達なんて前まで一日働いても120ゼニーしか貰えませんでしたよ」
「危険な仕事だからな。ゴブリンを一匹倒したら、それと同じ金額を渡す。
上達すればするほど貰える金額は多くなるぞ」
「そうなんですか!?ニック、明日からもこの仕事するぞ!」
「そうだな!夢が広がっていくぜ」
これからは充実した日々が続く。
生きてるって楽しいな。




