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第20話 戦争

 俺以外の全員が倒れている。

 なぜこんなことになった。


「リリア、大丈夫?何があったの?」

「痺れ花の花粉……」

「痺れ花?」


 確か森にある花で、絶対に近づいちゃいけない花だって聞いたけど。

 なんでそんな花の花粉がこんなところに。

 いや花粉だとしたら、なぜ俺だけ大丈夫なんだ?


「ゴブリンが来る……!」


 ゴブリン?

 まさか、ゴブリンがこれを引き起こしたっていうのか!?

 もしそうだとしたら、みんなが動けない今のうちに攻めてくる。

 そんなことされたら戦うこともできずにみんな殺されちゃうじゃないか。


「そんな……どうすれば」

「カタパルトを作動させて……」


 そうだ、カタパルトだ!

 あれならゴブリンを撤退させられるかもしれない。


「ありがとう、リリア!行ってくるよ!」


 リリアを地面に寝かせ、カタパルトへ向かう。

 カタパルトの近くにはブルクさんやノエルさんが横たわっていた。


「ブルクさん!カタパルトの操作方法を教えてください」


 ブルクさんの体を起こして聞いてみると、目を見開いた様子で驚いている。


「レバー……」


 ブルクさんの目線の先を見ると、カタパルトの横側にレバーが付いていた。

 これを引けばカタパルトから石が射出されるということか。

 勢いよくレバーを引くと、すごい勢いでかごが持ち上げられ、石が宙を舞った。

 しばらくすると遠くで地を割るような轟音と、地割れが起こるのではないかと思うほど大きな揺れが起こった。

 結果を見るため急いで外壁の上に昇ると、打ち出された石はゴブリンの集団に当たっていたようだが、残りのゴブリンの集団は構わず突進してきていた。

 ゴブリンの集団はまだ約7000体もいる。


「まずい、このままじゃみんな殺されちゃう」


 これじゃ歴史に名を残すどころか、街が無くなってしまう。

 リリアもシノも、この街の人たちもみんな死んでしまう。


 俺があのゴブリンを殲滅しなきゃ。たとえ一人でも。

 大丈夫。今日のために沢山魔法を練習してきた。

 やってやるんだ。


 ブルクさんたちを門の中に避難させて、門をしっかりと閉める。

 門の外にいるのは、もはや俺だけだ。

 これから7000体ものゴブリンがこの門を目掛けて突進してくる。

 足も手もガクガク震えてるし、呼吸も浅くなっている。

 正直怖いし今すぐ逃げ出したい。

 でもリリアやシノの顔を思い出すと、体の奥底から力が湧いてくる。


 地鳴りが響き、地面が揺れる。

 もうゴブリンの集団が近い。

 両手から魔素を出す。

 イメージは鞭だ。

 シノと一緒に沢山練習したこの鞭で、ゴブリンを倒す。


『人間が一人立っているぞ!』


 やっぱりゴブリンの声が聞きとれる。

 これから殺すやつらの声なんて聞きたくないんだけどな。


 ゴブリンの先頭が俺の鞭の射程範囲に入った。

 右手を左に伸ばし、それと一緒に魔素の鞭を目一杯左に伸ばす。

 そして右に大きく薙ぎ払う。

 その瞬間、先頭のゴブリンたちの首が一斉に飛ぶ。

 本当に、簡単に多くの命が奪えてしまった。


『止まれ!』

『いや、突っ込め!!』


 止まろうとしたゴブリンは後ろから来たゴブリンに踏み潰されて絶命した。

 いや、見ちゃダメだ。

 今殺した命のことを考えたら俺が死ぬんだ。


 今鞭の射程に入ってきたゴブリンたちに向けて、左手の鞭を振るう。


『待て!あいつは普通の人間じゃない!超能力者だ!』

『全体止まれ!』


 ゴブリンの突進が止まり、地鳴りが収まった。

 射程範囲内のゴブリンはいない。

 仲間の死体の位置で射程範囲を見破られたか。


『痺れ花部隊前へ!やつに花粉をたっぷりと浴びせてやれ!』


 ゴブリン数匹が隊列の前に出てきた。

 あいつらがみんなが動けなくなった原因だ。

 あいつらさえ倒せば……!

 気付けば前へ駆け出していた。

 痺れ花部隊のゴブリン達は麻袋を開き、中から痺れ花を取り出した。

 それと同時に俺の鞭がゴブリン達を襲う。


 痺れ花は取り出されてしまったが、ゴブリン達が持っている痺れ花の数は分かった。

 あれを奪い、もう一度麻袋の中に戻せばみんなが動けるようになるはずだ。


『弓矢部隊前へ!あいつを取り囲め!』


 くそっ、弓矢か!

 盾を出しながら攻撃する練習はしていなかったんだ。

 卵型の盾を出し、矢の攻撃を受ける。

 鏃は石製。

 これなら問題無く弾ける。

 そう油断した刹那、一本の弓矢が腕に突き刺さる。


「痛ってええええ!!」


 痛い痛い痛い!

 なんで矢が突き刺さったんだ!?

 矢が突き刺さった腕を見ると、鈍く光る金属色がそこにはあった。


「鉄!?ゴブリンは鉄を加工できないんじゃ」


 矢羽根を見ると、そこには冒険者ギルドのマークがあった。

 ゴブリン共は倒した冒険者の装備をそのまま使っているんだ。

 鉄の矢はあと何本だ?

 今こうしている間にも矢は何本も飛んできているが、全ての矢の鏃は石製で、盾で弾き返せている。

 鉄の矢の数は少なそうだ。

 どいつだ。どのゴブリンが鉄の矢を持っている?


 ゴブリンを1匹ずつ順番に見ていくと、見覚えのある顔があった。

 あの顔はエルドさんを助けたときに見たゴブリンだ。

 あのゴブリンも俺に気付き、ニヤリと笑った。


『壁の上を狙え!あそこにこいつの仲間が寝ている!』


 アイツッ!!

 動けない人たちを狙うなんて卑怯だろ!

 あのゴブリン以外は弓矢を上へ向け、壁の上を狙っているが、あのゴブリンだけは鉄の矢を番え俺を狙っている。

 壁の上を守るためには多くの魔素を上空に展開しなければならない。

 だが、そうすればあのゴブリンの鉄の矢を防げない。

 壁の上にはシノがいるんだ。

 もし俺がここで壁の上を守らなければシノを失うことになる。


 ……決まったな。

 シノが死ぬのに俺だけ生き残ったって意味がない。

 この世界に来てからまだ1年経っていないけれど、元々俺の人生はあの日、病院で終わっていたはずなんだ。

 父さん、母さん、ごめん。

 俺はこの世界で長生きすることはできなかったよ。


『放て!!』


 その合図と共に大量の石の矢が上空に放たれる。

 まるで矢のカーテンだ。

 あんなものが降り注いだら城壁の上だけじゃない。

 広場にいるリリアだって無事じゃ済まない。


 俺のありったけの魔素を上空で扇状に展開させる。

 上空ではキキキキンッと音を立てて矢が弾かれ、速度を失った矢が地面に落ちていく。

 そして、俺の顔を目掛けて一本の矢が迫ってきた。

 矢がやけにスローモーションで近づいてくる。

 死を覚悟したその刹那、ガキンッという音が響き渡った。

 高密度の魔素が矢を弾いてくれた。


「お待たせ!」

「リリア!!」


 後ろを振り返ると、手から魔素を出したリリアが立っていた。

 なぜだろう。いつも天使だけど、今は本当にリリアが天使に見える。


「もう、体は大丈夫なの?」

「大丈夫!マサキのおかげで吸い込んだ花粉の量が少なかったみたい……って、マサキ、その腕どうしたの!?」

「さっき矢を防ぎきれなくて……」


 鉄の矢なんてないと高を括って油断したせいだなんて言えない。


「止血するから私のことも守ってくれる?」

「絶対に矢を一本も通さないから任せて」


 盾に使う魔素の量を増やせば、リリアみたいに鉄の矢だって防げるんだ。

 魔臓には少し負担がかかし、腕はズキズキと痛むけど、リリアが止血してくれるまでの間だけなら問題ない。


『斧部隊は回り込んで街の中に入れ!急いで中の人間共を皆殺しにしろ!』


 自分の位置を確認すると、門から大分離れてしまっていた。


「リリア、急いで門まで戻ろう!このままじゃゴブリンに街に入られちゃう」

「えっ?」


 リリアが止血の手を止め、周りを見渡しゴブリンの動きを認識すると不敵に笑った。


「時間稼ぎはもう十分だよ。この街(トラメリア)の冒険者は精鋭ばかりなんだよ」


 門に向かったゴブリンの行方を目で追っていると、門に近づいたところで首から上が剣で吹き飛ばされた。


「マサキ、遅れてすまねえ!街の防衛は任せとけ!」

「ゴルドさん!!」


 ゴルドさんとそのパーティが倒した方向と逆方向から回り込んでいたゴブリンは一斉に首が吹き飛んだ。


「こっちは任せて」

「シノ!!」


 ゴルドさんとシノが復活した!

 これなら百人力だ!


「なあ、なんでこいつらはこんなに回り込んでくるんだ?」

「この内側はマサキの射程範囲内だから」

「うおっ、マジか。あんたもおっかねえとは思っていたが、マサキもおっかねえな」


 後ろでシノとゴルドさんが会話している。

 人を化物みたいに言わないでよ。

 俺はシノと比べたらまだ普通だよ……。


 でも、これでもうゴブリンに負ける気はしない。

 このまま犠牲者無しでこのスタンピードを乗り切ってやる!

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