第1話 転生(挿絵あり)
プロローグの女神さまと同様に受付の女の子も生成AIで生成しました。
背景等上手く生成できていないので、あくまで参考程度にお考えください。
※本作に登場する挿絵は、AI画像生成モデル(Animagine XL V3.1)を用いて著者自身が生成したものです。
※2025年7月7日に差し替えました。過去絵はみてみんで見られます。
視界に光が戻ると、どこかの路地裏のようだった。
石造りの建物の間にいるようで、全体的に暗く狭い。見上げると青空が覗いていた。
左側は狭くてこれ以上奥には行けなさそうだけど、右側は少し明るく、喧騒が少し聞こえる。
そんなことより、臭い!
ものすごく臭い。なんだこの匂い。
締め切られた公衆トイレのような臭い匂いがする。
とりあえず、明るい方に行ってみよう。
狭い路地裏を抜け、ようやく大通りが見えた。
普通大通りに来たら匂いが収まるものだと思うけど、なんだか余計匂いがキツくなった気がする。
大通りの一歩目、と思ったが、路地と大通りの間に30cmくらいの溝がある。
匂いはこの溝から出ているものが一番強く、溝の底にはこげ茶色のヘドロが張り付いている。
「なんだこれ。うんこ?」
この強烈な匂いの原因はこれか。
溝は大通りに沿って続いており、見渡す限りうんこが張り付いていた。
「こんなに汚いなんて、すぐ病気になりそう」
あれ?女神さまに病気にならないようにしてもらったんだっけ。
じゃあ気にしなくていい?
もしかしたら女神さまにすごいことをお願いしていたかも。
それはそれとして、絶対に溝には落ちないようにしよう。
溝を慎重に渡り顔を上げると、大通りには木製の屋台がびっしりと並んでいた。
すぐ近くの屋台はパン屋で、そこには黒いパンや切れ込みが入ったパンが並べられている。
ビニールに包まれているなんてことはなく、そのままこの汚い空気に触れるように。
……食べたくないな。
商品を見ていると、横から体格の良い男性が入ってきた。
「おばちゃん、黒パンを4個ちょうだい」
「はいよ。40ゼニーだよ」
屋台の店主のおばちゃんがそう言うと、男性はポケットから赤茶色で5円玉みたいに真ん中に穴が空いている硬貨を4枚渡した。
「まいど」
男性は硬貨を渡し終えると麻のような袋に黒いパンを4個入れて帰っていった。
お金の単位はゼニーで、赤茶色の硬貨が一つで10ゼニー。
硬貨を見たってそれが何なのか分からないし、女神さまが言ってた文化を覚えなきゃいけないっていうのはこういうことかな。
「兄ちゃんは何か買うのかい?」
パン屋のおばちゃんが話しかけてきた。
まだお腹空いてないし、今は要らないかな。
そもそも食べたくないし。
「ごめんなさい。見てるだけです」
「買わないなら早くとっかに行きな。邪魔だよ」
「はい……ごめんなさい」
……何、あの態度。
確かに買う気が無いのに店の前を占領していたのは悪いと思うけど、だからってあんな言い方は酷い。
クレーム入れられても文句言えないよ。
クレームなんてしたことないけど。
そういえば、お金……。
元の世界のお金なんて持ってても意味ないし、服装も違うから持ってるわけないけど。
無一文で送り出されてなんてないよね?
スボンのポケットを漁ってみると、硬貨が何個か入っていた。
さっきの10ゼニー硬貨は無い。
今手元にあるのは……銀かな?
真ん中に穴が空いている銀の硬貨が2枚と、穴が空いていない銀の硬貨が4枚ある。
さっきの赤茶色の硬貨より価値が低いなんてことはないだろうけど、どれくらいの価値があるんだろう。
何にせよ、お金を持たせてくれてありがとうございます、女神さま。
このお金が尽きないうちにバイト、というか仕事を探さないと。
◇◆◇◆◇
「冒険者ギルド」と書かれている立派な建物を見つけた。
話ができるだけじゃなくて文字も読めるなんて、女神さまには感謝が尽きない。
冒険者という言葉の意味は分からないけど、これまで見てきた建物の中で一番立派な建物だ。
もしかしたら雇ってくれるかもしれない。
両開きのドアを開けると、目の前に大勢の人がいた。
中学生くらいの子供から、定年近くの人まで様々な人が集まっている。
「魔法講習の第3グループの方は移動します!
付いてきてくださーい」
建物の奥の方からそんな声が聞こえてきて、13歳くらいの男の子と、ここにいた半分くらいの人が奥にある階段を上っていった。
魔法……講習?
魔法って、あの魔法?
講習を受けたら魔法が使えるようになるのかな?
「本日の魔法講習の最終グループの受付をまもなく終了しまーす!
まだ受付していない方はいらっしゃいませんかー?」
またもや奥の方から声が聞こえた。
今度は若い女の子の声だ。
最終グループっていうことは、今受付しなかったら今日は講習を受けられないってこと?
はやく受付しないと!
「はーい!魔法の講習を受けたいです!」
第3グループがいなくなったおかげで空いたスペースを小走りで通ると、受付のカウンターの奥にはウェーブがかかった茶髪のかわいい女の子がいた。
年は俺と同じくらいだ。
白を基調として、緑のアクセントがあるギルドの制服がよく似合っている。
街を歩いていた人や今ここに集まっている人の服と比べて、綺麗で清潔感がある服を着ている。
「魔法講習を受けますかー?」
「……はい!お願いします!」
「座学と実習の両方受けるということでよろしいでしょうかー?」
魔法に座学なんてあるんだ。
すぐに使えるようになるわけじゃないのかな?
少し悩んでいると、受付の女の子が追加で説明してくれた。
「座学では魔法の種類とか私達【庶民派】について説明しますよー!
実習は実際に魔法を使う練習ですー!
実習だけだと魔法を習得できないことが多かったので、座学で魔法について解説することにしたんですー」
「庶民派?」
「庶民派といのはー……。いえ、それも含めて座学で説明します!」
この世界のこと何も知らないんだし、座学は受けておいた方が良さそう。
それに、座学に加えて実習も受けたら魔法を使えるようになれるなら、受けて損はない!
「座学と実習の両方をお願いします」
「では2つ合わせて200ゼニーになりまーす!」
うっ、お金を払うのか。損があった……。
200ゼニーっていうことは、さっきのパン20個分。
……あのパンがどのくらい価値があるのか分からないからパンで換算しても分からなかった。
「講習が終わって魔法を習得できましたら、私達から仕事の紹介ができますー!
その仕事をこなしたら200ゼニーなんてあっという間に回収できますよー!
それに魔法を習得するのにたった200ゼニーなんて格安なんですよー?」
仕事の紹介をしてもらえる!?
元々は仕事を探しに来たんだ。
一石二鳥どころか三鳥だ!
「分かりました。えっと200ゼニーですよね」
穴が空いている10円玉みたいなのが10ゼニー硬貨だったから、同じく穴が空いている銀の硬貨は100ゼニー硬貨かな?
「これで良いですか?」
二枚あった100ゼニー硬貨っぽいものを差し出した。
「1000ゼニー硬貨ですねー。
1枚で大丈夫ですよー!」
そう言って女の子は一枚だけ受け取った。
思っていた金額の10倍だ。
っていうことは、これ一枚で結構な期間生活できる?
女神さま、本当にありがとうございます。
「では800ゼニーのお返しですー!」
女の子から渡されたのは四角い赤茶色の硬貨が3枚と、丸い赤茶色の硬貨が1枚だ。
どっちも穴は空いていない。
「えっと、すみません、それぞれ何ゼニー硬貨ですか?」
「……はい、丸い硬貨が50ゼニー硬貨で、四角い硬貨が250ゼニー硬貨ですー」
すごく不審がりながら教えてくれた。
こんな常識も知らなくてごめんなさい。
「教えていただきありがとうございます!」
「いいえー!」
それにしても、50ゼニー硬貨と250ゼニー硬貨か。
50ゼニー硬貨は良いとしても、250?
中途半端じゃない?
アメリカでは25セント硬貨があるって聞いたことあるけど、それと同じ感じなのかな?
「もうすぐ講習が始まりますので、ちょっとだけ待っていてくださいねー?」
「はい、ご丁寧にありがとうございます」
お辞儀をして受付の前から離れる。
あの受付の子可愛かったなあ。
あとで連絡先とか聞いちゃダメかな?
いや、ダメだろ。こんなにすぐ他の子に浮気しちゃ。
でも絵美に俺のことは忘れて幸せになってほしいって伝言を残してきたし。
それなら俺も絵美のことを忘れた方が良いのかな。
……はあ、忘れてほしくないな。
◇◆◇◆◇
ボーンという低く大きな音が遠くから聞こえた。
時報みたいなものかな?
そういえば、これだけ立派な建物なのに時計が無い。
「それでは最終グループも移動しまーす!
私に付いて来てくださーい!」
受付で話した女の子に続いて階段を上がると、そこは左右に部屋が並んでいる廊下だった。
部屋を覗いてみるとあの女の子と同じような服を着ている子が教壇のような台に立って何かを話している。
講習中かな?
それぞれの部屋には5掛ける5に並べられた椅子に座っている受講生がいるけど……何か違和感がある。
なんだろう。
女の子に連れられて部屋に入ると、他の部屋にあった椅子と同じ椅子が沢山あった。
全部で30個くらい。
他の部屋よりも多そう。
「では皆さん着席してくださいー。
椅子が足りなかったら持ってきますねー」
空いている椅子に座ると、違和感の正体に気付いた。
机が無い。
これじゃあ、せっかく講義を受けているのにノートを取れない。
筆記用具もノートも持ってないけど。
周りを見てもノートを持参している様子は無いし、ノートを取らなくて良いのかな?
忘れちゃったらどうするんだろ。
「1、2、3・・・皆さんいらっしゃいますねー。
それでは本日の魔法講習を始めます。
担当のリリアと申しますー!」
受付の子はリリアという名前らしい。
ノートは取れないんだ。
しっかり覚えておこう。
「まずは魔法とは何か、から説明しますねー。
魔法とは、私達のお腹の上、胸の下あたりにある【魔臓】という臓器が、空気中の【魔素】というエネルギーのようなものを取り込んで、何かを出現させたり、物を動かしたりできるものです!」
魔法を発動するためには魔臓と魔素っていうのが必要なのか。
……あれ?
魔素は空気中にあるから良いとして、今の俺の体って魔臓はあるの?
元の世界の体と一緒だし、もしかして「魔臓が無いから魔法が使えません」とか無いよね?
女神さま!大丈夫ですよね!?
「「「おおーーーー」」」
周囲の人達がいきなり歓声を上げた。
何事かと思いリリアの方を見てみると、リリアの手から水が溢れ出ていた。
……あれが魔法か。
魔法って、こう、ピカーっと光ったり、魔法陣が出てきたりしないのかな?
いや、すごいんだけどね?
水道とか無く出てきているんだし。
「えへへー、ありがとうございますー。
でも注意点があります!
このお水、絶対に飲んではいけませんよー!」
「「「えっ」」」
周りの人たちの歓喜に満ちた表情が一変して、驚きの表情になった。
まさか実は魔法で出てきた水は汚いから飲んじゃ駄目とか?
溝にうんこが張り付いている世界で?




