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第17話 側室

 仕事の報告を終え、リリアとシノと俺の3人で俺の部屋に集まっている。

 以前、俺の部屋で側室の話をしてから一ヶ月が経った。

 今日はシノを本当に側室として迎え入れるかどうかを話す日だ。


「シノ、リリアと仲良くなれた?」

「うん。今度一緒に買い物に行く約束もしている」


 一緒に出掛ける予定まで…。

 思っていたよりも仲良くなっていたようだ。


「リリアはどう?」

「シノと仲良くなれたと思う。

 マサキを好きな気持ちは本当だし、前みたいに私を排除して自分だけっていう気は無いと思う」

「うん、そんな気はない。リリアと一緒にマサキの奥さんになりたい」


 奥さん……。

 そうだよな、この2人が俺の奥さんに……。


「だから、側室としてなら、うん……」


 やっぱりリリアとしては複雑な気持ちなのかな。

 リリアは俺を独占したい、と。

 ……改めて考えるとなんだか恥ずかしい。


「リリア、お願い。私を側室にさせて」

「うん、いいよ。一緒にマサキの奥さんになろう」

「ありがとうリリア!大好き!」

「ちょっと、シノ……」


 シノがリリアに抱きついた。

 2人が仲良くなってくれて本当に良かった。

 俺はリリアが大好きだ。

 でもそれと同じくらいシノが好きだし、大事にしたい。

 そんな2人が仲良くなって俺も嬉しい。


「マサキ、もうこれ以上の側室は絶対に許さないからね」

「うん、私もヤだ」

「絶対に増やさないから!約束する!」


 これはフラグじゃない。

 絶対に増やさないって言ったら絶対に増やさない。

 俺はこの2人だけを愛するんだ。


「じゃあ、私はギルドの寮に帰るね」

「えっ、今日は泊まっていかないの?」

「うん、体調が良くないし。それに、シノは初めては2人きりが良いでしょ?」


 もう付き合っているんだから我慢しなくていいんだ。

 俺だってシノとそういうことシたい。

 シノの方を見ると赤くなって、あたふたしている。


「もう行くね」


 リリアが立ち上がり、ドアへ向かう。


「待って。せめて送っていくよ」

「……うん、じゃあお願いしようかな」

「シノ、少し待っててね」

「うん、いってらっしゃい」


 シノに見送られ、リリアと一緒に部屋を出た。

 空は完全に闇に包まれており、家から漏れる明かりが無ければ何も見えなくなっているだろう。

 そんなことを考えながら歩いていると、リリアが突然立ち止まった。


「ねえ、マサキ。少しだけ胸を貸して」


 そう言ってリリアが俺の胸に顔を埋めながら抱きついてきた。

 リリアが俺に抱きつく寸前、わずかに見えたリリアの顔には涙が流れていた。


「やっぱり嫌だよ。このままずっとマサキを独占したいよ」

「ッ……」


 リリアが我慢していないわけがなかった。

 リリアを悲しませないって心に決めたはずなのに、悲しませているじゃないか。

 リリアの性格は分かっていたはずだ。

 リリアが受け入れてハッピーエンドなんて、そんな甘いわけがない。


「やっぱりシノを側室に迎えるのは断ろう」

「ううん、いいの。シノとマサキと私。3人で暮らすのを私も楽しみにしてる。だからいいの」

「リリア……」


 そっとリリアを抱きしめ返す。

 リリアは俺の腕の中でまだ涙を流している。

 やっぱり3人で誰も不満を抱えることなく楽しく暮らすことなんて無理なのかな。

 リリアが一番大事だ。それは今も変わらない。

 でもシノが俺を本気で思ってくれていて、俺はその気持ちに応えたい。

 リリアの気持ちを大切にしつつ、3人で楽しく暮らす方法なんて……。


「この一ヶ月、本当に幸せだった。

 マサキを独占して、沢山甘えさせてもらった。

 でも、もうこんなことは無くなっちゃうんだね」

「そんなことはない!

 2人と結婚した後だってそういう日があってもいいはずだ」


 リリアは俺と2人だけで過ごす時間が無くなることが嫌だったんだ。

 2人だけの時間が欲しいのは、きっとシノも一緒。

 だから、例えば一日ずつ交互に2人きりで過ごすとか……。

 後日3人で話して決めよう。

 それがリリアの、そしてシノのためになるはずだ。


「そう、だよね……。もうあの幸せな日々が無くなるなんてことはないんだよね」

「そうだよ!また2人だけで出かけたり、夜の散歩したりしよう!」

「うん……」


 リリアがそう言った後、無言になり静かな時間が流れた。


 少し時間が経ち、リリアが俺の胸から離れた。


「うん、もう平気。ありがとね!」


 そう言いながら笑うリリアの目は、まだ赤く腫れていた。

 リリアを悲しませるのは、本当にこれっきりにしよう。


 ◇◆◇◆◇


 リリアをギルドの寮まで送り、俺の家に帰ってきた。

 シノはさっきのリリアのことは知らない。

 何か言うべきかな。


「シノ、ただいま」

「おかえり」


 シノとの間に微妙な空気が流れる。

 俺がなんて切り出すか迷っていると、シノが口を開いた。


「ねえマサキ、私はまだここにいていいの?」

「うん、それはもちろんだよ!もう俺とシノは恋人同士だよ!」

「そっか。良かった」


 シノはリリアがやっぱり嫌だからシノを側室として受け入れないでって言ったかもしれないって思ったんだ。

 リリアを送って帰るだけにしては時間がかかってしまったから、その間シノはずっと不安だっただろうな。

 シノを安心させたい。そのためには……。


「えっ、マサキ?」


 無言でシノを抱きしめたからシノは戸惑っている。

 そう言えば俺からシノにスキンシップを取るのは初めてだ。

 いつもはシノからだったな。


「もう俺達は恋人同士だから、我慢する必要ないんだよ。お互いにね」

「マサキ……」


 シノが抱きしめ返してくれた。


 しばらくそのまま抱きしめ合っていると、シノが突然離れた。


「ねえマサキ。私もう我慢できない」

「ちょっと、シノ!?」


 シノに手を引かれ、シノをベッドに押し倒す形になってしまった。

 シノは無言で目を閉じて何かを待っているようだった。


「シノ、好きだよ」


 そう言ってからシノの唇に口づけをする。

 何度か口づけをした後、少し離れて目を開けると、シノが物欲しそうな目でこちらを見ていた。

 俺ももう我慢できない。


 ◇◆◇◆◇


 朝になり、部屋が明るくなっていた。

 外では鳥がチュンチュンと鳴いている。

 横を見るとシノは目を開けてこちらをジッと見つめていた。


「おはよう、マサキ」


 そう言うシノの顔は優しく微笑んでいた。


「おはよう」


 一夜明けた今ではシノが前より一層愛おしく感じる。

 そっと手でシノの頬を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。

 本当に愛おしいな。


「んっ、もう一回する?」


 シノの足に当たり、シノが気付いてしまったようだ。


「これは生理現象だから!起きてご飯食べて仕事に行こう!」

「仕事は午前中だけにしよ」

「そうだね、そうしよっか」


 朝からそんな可愛いこと言われると我慢できなくなってしまう。

 正直今すぐもう一回したいところだけど、我慢だ。

 リリアの様子が気になるし、一度はギルドに顔を出さないと。


 ◇◆◇◆◇


 家を出てギルドの前に辿り着いた。


「ねえシノ、外だからもう少し離れて……」


 シノは家を出てからずっと腕を組んでいる。

 腕にはシノの体温と、シノの大きくて柔らかな感触が伝わってくる。


「だめ?」


 シノが上目遣いで聞いてきた。

 この顔をされると断りづらいな。


「いいよ、そのままで……」

「うん!」


 シノは元気よく返事をして頭をこちらに預けてきた。

 リリアは怒ったりしないかな。

 ギルドのドアを開け、リリアのいる受付の前に行く。

 昨日は目元が腫れていたけど、今はいつも通りの可愛い顔をしたリリアだ。


「おはよう、リリア」

「おはよう」


 俺とシノがリリアに挨拶をすると、リリアはなんとも言えない表情をした。

 怒っているわけではなさそうだけど。


「はい、おはようございます。シノさん、なんでそんなにべったりくっついているんですか?」

「マサキが良いって言ったから」


 シノはそう言って俺の腕に顔を擦り付けている。

 服の袖にシノの甘い香りが移りそうだ。


「シノさん、ここはギルドですから、そういうのは家の中だけにしてください」


 リリアは心の整理はついたけど、それはそれで、やっぱり目の前でいちゃいちゃされるのは嫌なのかな。

 シノを引き剥がしたほうが良いかな。


「いいんじゃないの?リリアもあんな感じだったわよ」


 隣の受付にいたノエルさんが会話に参加してきた。

 ノエルさんがそんなことを言うなんて意外だ。

 ノエルさんはリリアが大好きだから、なぜリリアだけじゃないんだって怒るかと思ってたけど。


「ノエルさん!そんなことないですよ!ねっ、マサキ!」

「えっと、どうだったかな……」


 俺の家からギルドに向かうときとか、一緒に昼食に行くときは同じだったんだよな。


「マサキ!?」


 リリアから視線を逸らしつつ、この世界では珍しいガラスの窓から外の景色を眺める。

 こんな日常がずっと続けばいいな。


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