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第10話 下水道掘削

 リリアに告白してOKを貰った日の午後、ルンルンで仕事をしていると、シノさんが話しかけてきた。


「マサキ、どうしたの?何か良いことあった?」

「はい、少しだけ」

「そう」


 リリアと付き合っていることをわざわざ言いふらす必要は無いし、言わないでおこう。

 そのうち気付くだろうけど、今言わなくてもいいはずだ。

 今はシノさんと一緒に土を運んでいるところだ。

 俺が壁を掘って出た土をシノさんにだけ運ばせるのが申し訳なかったため、土を運ぶ人のルールは廃止し、二人で土を運ぶことにした。


「もう運んで来たか。土を地上に運ぶ係はもう一人欲しいな」


 ブルクさんがぼやいている。

 俺とシノさんが土を運ぶのはブルクさんのところまでで、そこから地上に運ぶ担当はブルクさんのみだ。

 今まではシノさんの魔臓を休める時間があったため土を運ぶペースが遅かったのだが、俺も掘るようになってから魔臓を休める時間が無くなったため、ペースが上がりブルクさんの休む時間が短くなった。


「新しい人って雇えるんですか?」

「ああ、土を地上に運ぶだけなら魔法は使える必要ないし、今の予算でも十分だろう」


 遷移魔法が使えなきゃいけないのは崩落の可能性がある場所だけ。

 ブルクさんがいるような場所なら崩落の危険は無いから誰でも良いのか。


「それなら雇ってもすぐ辞めないでしょうし、良かったですね、シノさん」

「っ!?ブルク、話したの?」

「ああ、ダメだったか?」

「シノさん、安心してください。俺は辞めたりしません!」

「勝手にして」


 シノさんが拗ねて掘削するところに向かってしまった。


「土は運んでおく。俺が戻って来たときにいてくれればいいから、シノのところに行っても構わんぞ」


 一人でここで待ってても暇だし、シノさんのところに行こうかな。

 シノさんともっと仲良くなりたいし。


「ありがとうございます!じゃあ行ってきます」

「おう!……桶も一セットずつ購入すべきか」


 ブルクさんはぼやきながらも土の入った桶を持って地上に向かった。

 予算のことを考えたこと無かったけど、日給300ゼニーってやっぱり予算を圧迫しているのかな。

 だとしたら少し申し訳なく感じる。


 ◇◆◇◆◇


「シノさん!待ってくださーい」


 先を歩いていたシノさんが止まってくれた。


「何?」

「一人で行かないでください。暇になるじゃないですか」

「そう」


 相変わらず愛想は無いなあ。


「そういえばシノさんはいつからこの仕事をしているんですか?」

「この下水道掘削プロジェクトが始まったときから」


 シノさんが最古参だったのか。

 道理で色々詳しいわけだ。


「ブルクさんも同じですか?」

「そう、ブルクとはそのとき初めて知り合った。もう2年前のことかな」

「2年もずっとこの仕事をしていたんですか!?」

「そう。最初は地下への道を掘るために地面を掘って、その後は壁を掘ってる」


 2年間もずっと掘り続けていたんだ。

 休日はあるとは言え、2年間も掘り続けるなんて並大抵の精神じゃ耐えられないはずだ。

 どれだけ辛い時間だっただろう。

 その上、その辛い時間を共に過ごせる同僚もすぐに居なくなってしまう。

 シノさんにはすごい心労が掛かっているんだろうな。

 これからは俺が一緒に頑張ろう。


「シノさん、よく今まで頑張りましたね。これからは一緒に頑張りましょう」

「ありがとう、来なくなったら許さない」


 許さないって……。

 来なくなるつもりは無いけど。


「あとマサキ、敬語じゃなくていいよ。名前も呼び捨てでいい」


 そうだな。これから長い時間一緒に仕事をしていくんだ。

 いつまでも敬語じゃ壁を感じてしまう。


「分かったよ、シノ!」


 ◇◆◇◆◇


 俺が下水道掘削の仕事に参加してから数週間が過ぎた。


「シノ、壁の向こうから光が漏れてるよね?」

「そう、だね。コンパスも、方角は合ってる」

「じゃあ、このまま掘るね!」


 ドドドドッ


 壁を遷移魔法で掘った後、土煙の向こうから風が吹き込んできて砂に襲われた。

 風が収まり、目を開けると、そこには渓谷が広がっていた。

 洞窟内の茶色とは違い、目の前には大きな川、広々とした草原、そして切り立った崖が広がっている。

 洞窟内は土煙や酸素が薄いせいで少し息苦しかったが、外に出たことで清らかな空気で肺を満たすことができた。

 そういえば、ここって街の外だよね?

 街の外に出たのはこの世界に来てから初めてだ。


「シノ、ようやく貫通したねー」


 体を伸ばしながらシノさんに声を掛けてみたが、返答がない。


「シノ?」


 シノの顔を見てみると目に涙が浮かんでいた。


「ブルクッ!」


 シノはそう叫んで下水道の中へ走っていってしまった。

 ブルクさんに渓谷に到達したことを伝えに行ったのかな。

 2年間ずっと成果が出ずに頑張っていたんだ。

 2人には色々あるんだろう。

 俺ももう少し早くこの仕事に携われたら……いや、そんなこと考えても仕方ないか。

 シノとブルクさんが来るまで時間あるだろうし、近くの草原で寝転がっていよう。

 ブルクさんよりはマシなんだろうけど、土が入った桶を何度も往復していたんだ。

 ……シノは大丈夫なのかな?俺より筋肉少ないよね?

 魔法で楽できたりするのかな。

 後で聞いてみよう。


 ◇◆◇◆◇


「本当に渓谷に繋がってやがる……」

「うん、繋がったんだよ。やったよ、私達」


 シノがブルクさんを連れてきたようだ。

 ブルクさんは信じられないものを見ているかのような表情だ。


「ありがとう。シノ、マサキ……」


 ブルクさんの瞳にも涙が浮かんでいる。

 下水道掘削の途中の苦労を思い出しているんだろうな。

 壁の掘り方や柱の間隔など、何も分からない状態から二人で手探りで始めたと聞いた。

 入口付近の崩落後の数を見ればどれだけ苦労していたかは想像に難くない。

 それにこの下水道掘削のための予算は税金から出ていると聞いた。

 税金ってことは予算を通すために色々会議があったんだろうな。

 その会議のたびに無理なんじゃないか、予算の無駄なんじゃないか、と言われていたのかもしれない。

 ブルクさんの涙には達成感以外にもそういう思いがある、そんな気がした。


 俺が関われたのはたった数週間だけ。

 シノとブルクさんが積み上げた2年間に対して、あまりにも短すぎる。

 俺は、この2人の中には入れない。

 でもこの下水道が完成したときは、2人と一緒に喜べると良いな。


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