第9話 初めての報酬
初日の仕事を終え、服に付いて砂埃を水の生成魔法で落としてからギルドに戻ってきた。
今朝と同じようにリリアの窓口に向かう。
「マサキさん!本日はお疲れ様でした。初日の仕事はいかがでしたかー?」
リリアが笑顔で出迎えてくれた。
「ありがとうございます。リリアさんもお疲れ様です。
ちょっとミスしちゃったんですけど、これからもやっていけそうです!」
「良かったです。マサキさんなら大丈夫だと思っていました」
リリアは心配してくれていたみたいだ。
俺のことを考えていてくれたってだけでも嬉しいのに、心配までしてくれているなんて。
「これも師匠に沢山魔法を教えてもらったおかげです」
「えへへ、ありがとうございます」
照れているリリアも可愛いなあ。
「これが本日のマサキさんの報酬です」
「ありがとうございます」
リリアから300ゼニーを受け取った。
俺が初めて働いて稼いだお金だ。
前世でもバイトはしたことなかったから、正真正銘人生で初めての給料だ。
使い道は決めていた。
この世界に来て、何も知らなかった俺に、この世界で生きる術を身に着けさせてくれたリリアへのお礼だ。
「リリアさん、今日この後って空いてますか!?」
「この後ですか?えっと……」
リリアの返事を待っていると、横から机を思いっきり叩くような大きな音がした。
「マサキ、あんた本気?
この子のこと真剣に考えてるんじゃなかったの?」
隣で受付をしていたノエルさんだ。
優しい雰囲気だったノエルさんがこんなにも怒りをあらわにするなんて。
そんなに変なことを言ったのかな?
「真剣です!だからこの後夕ご飯を一緒にどうかなって」
「夕ご飯を誘うってことが真剣に考えてないって言ってんの!」
なんで?
ただ夕飯に誘っただけじゃないか。
夕飯に誘うのがそんなにいけないことなの?
「報酬を受け取ったならさっさと出ていって!あんたなんかに私のリリアは任せられない!」
ノエルさんの有無を言わせぬ剣幕に何も言い返すことができず、ギルドを後にした。
何がいけなかったんだ。
こんなにも女性に拒絶されたのは初めてだ。
ギルドの正面にある、いつも宿泊している宿が目に入った。
マリアさん、いるかな。
◇◆◇◆◇
宿屋内の酒場の席に着くと、マリアさんが注文を取りに来てくれた。
「今日はスープと豚肉よ」
豚肉か……。
リリアと一緒に食べたかったな。
でもせっかくの初給料だし、豚肉を食べようかな。
「豚肉とパンをお願いします」
「130ゼニーだね」
ぴったりの金額をポケットから出し、机の上に置く。
「ちょうどね。ちょっと待ってね」
マリアさんは昨日の昼にリリアと来て以来、少し冷たい。
初日が少し異常だったのかもしれないけど。
少し待っていると、マリアさんが料理を運んできてくれた。
「はい、お待ちどうさま」
「ありがとうございます……」
マリアさんは椅子に座らない。
このまま他の誰かの注文を取りに行ったりするんだろうな。
マリアさんともう少し喋りたいけど、どうすれば……そうだ。
「マリアさんっておいくらでしたっけ?」
「……2000ゼニーよ」
高いな。
今の手持ちじゃ払えそうもない。
それに初日はもっと安かったはずだ。
「坊や、何かあったの?あの子絡み?」
「はい、リリアとさっき少しあって……。
聞いてもらえますか?」
「良いわよ。少し客足が落ち着いてきたから」
マリアさんが椅子に座ってくれた。
これだけでも嬉しいな。
「ありがとうございます。さっきギルドで……」
◇◆◇◆◇
「なるほどね。それは坊やが悪いわね」
「そうなんですか?」
やっぱり俺が悪かったんだ……。
「ええ。坊や……マサキとリリアはまだ恋人同士じゃないんでしょ?」
「はい、そうです」
「まず一緒に夕飯を食べるということは、そのあと同じベッドで寝ることを意味するわ」
それってつまり……。
「いや、俺はそんなつもりじゃ……」
「そうなんでしょうね。でも周りはそうは思わない」
マリアさんがピシャリと言い切った。
そうだったのか。
俺はリリアに対してそんな誘いをしていたのか。
「その上、二人は付き合っていないと知られれば、リリアは付き合っていない男と寝る女と見られるわね」
「リリアはそんな子じゃ……」
「そうね。でもマサキがそういう女の子にしようとしたの」
俺がリリアにそんなことを……。
それじゃあ恩を仇で返すようなものじゃないか。
なんてことをしてしまったんだ。
「ノエルが怒った意味が分かった?」
「はい、とんでもないことをしていました」
「分かったならいいわ。
さっき私の値段を聞いてきたことは黙っておいてあげる。
明日、しっかりしなさいよ」
「はい、ありがとうございました」
マリアさんは席を立って他のお客さんのところに行ってしまった。
明日、リリアとノエルさんに謝ろう。
そしてノエルさんには俺を止めてくれたお礼を言わないと。
今日の豚肉の塩味はいつもより濃いように感じた。
◇◆◇◆◇
翌朝、鐘が7回鳴ると同時にギルドに来た。
7時はギルドの仕事受付開始の時間で、他の冒険者が開始時間ぴったりに来ることはない。
今が一番ギルドが空いている時間だ。
ギルドのドアを開け、受付窓口を見る。
そこには昨日の夜と同様、リリアとノエルさんが二人で座っていた。
真っ先にリリアの前に行き、深く頭を下げる。
「リリアさん、昨日はごめんなさい!
まさか夕飯を誘うという行為がそういう意味を含んでいるとは思いませんでした!」
リリア……許してくれるかな。
「マサキさん、顔を上げてください。
多分マサキさんはそんな意味で誘ってくれたんじゃないだろうなって思ってましたから。
少しびっくりしましたけど、私は全然気にしていませんよ」
良かった。
本当に良かった。
このままリリアに見限られるんじゃないかってすごく心配していたから。
「ありがとうございます」
次にノエルさん。
ノエルさんの前に行き、深く頭を下げる。
「ノエルさん、昨日は突然あんなことを言ってごめんなさい。
そして、止めてくれてありがとうございました!」
「いいわ。こうして朝一で謝りに来たんだから許してあげる」
「ありがとうございます!」
良かった。
ノエルさんも許してくれた。
「それで、昨日の件なんですけど、ノエルさんは俺とリリアの関係を認めてくれますか?」
「認めるも何も、あんたたちまだ付き合ってもいないじゃない」
「そっか、そうですよね……」
そうだった。
今はただの受付嬢と冒険者の間柄だ。
この関係は認めるとかそういう関係じゃなかった。
「そんなこと言ったら、もう告白しているようなもんだけどね」
「え?あっ……」
自分が言ったことを思い返して恥ずかしくなる。
これじゃ俺がリリアを好きだと言っているようなものじゃないか。
リリアの方を見ると、顔を赤くして俯いていた。
えっと、この後どうするんだっけ……そうだ。
「リリアさん!」
「はっ、はい!」
「今日のお昼、ご一緒していただけませんか?」
「あー……はい、お願いします」
あれ、少し残念がってる?
周囲を見てみると、奥にいた職人さんの視線までも集めていたようで、全員で「あーあ……」と言いたげな表情をしていた。
「マサキらしいよ」
ノエルさんに言われて、なんのことかと思考を巡らせてみる。
……もしかして、今ってリリアに告白する流れだった?
◇◆◇◆◇
午前中の仕事が終わり、昼休憩になった。
昼休憩が楽しみ過ぎて、午前中は仕事に手がつかなかった。
俺はリリアが好きだ。
勘違いだとか一時の気の迷いとかではない。
昼食後にリリアに告白しよう。
ギルドに着き、受付の方を見るとリリアがいた。
「マサキさん!今行きますね!」
リリアが小走りで駆け寄ってきてくれた。
リリアが好きだと自覚するとリリアの全ての行動が可愛く感じる。
「前と同じ酒場で良いですか?」
良いですかって聞いてもそこ以外知らないんだけど。
「はい、あそこのお店がこの街で一番美味しいですから!」
一番なんだ。
初日になんとなく入った宿屋だったけど、当たりだったんだな。
◇◆◇◆◇
食事を終え宿屋を出た。
「今日のご飯も美味しかったですねー」
「はい、流石この街一番のお店です」
よし、告白しよう。
大丈夫。リリアが意識していないなんてことはない。
断られないはずだ。
でもやっぱり緊張するな。
断られたらどうしよう。今後気まずくなるよなあ。
いや、当たって砕けろだ。
「リリアさん!」
「はっ、はい!」
よし、言うぞ。
怖気付くな。
「あなたの笑顔が好きです。一目見たときから好きでした。
これからもあなたの笑顔を一番近くで見ていたいです。
あなたの笑顔をこれからも作り続け、そして守っていきたいです。
俺と付き合ってください!」
「……はい。私もマサキさんが好きです。これからよろしくお願いします」
やった……。
本当にやったんだ。
リリアと付き合える!恋人同士になれたんだ。
リリアにも好きって言ってもらえた!
リリアにはいつでも笑顔でいてもらえるように、午後も仕事頑張るぞ。
父さん、母さん。この世界で元気に生きていくよ。
絵美。俺はこっちで幸せになるから、絵美も絵美の幸せを掴んでくれ。




