プロローグ(挿絵あり)
初投稿です。
ラノベ自体書くのが初めてです。
女神の画像は生成Aで作成しました。
筆者はそれほど上手く扱えていないため、イメージと少し異なります。
※本作に登場する挿絵は、AI画像生成モデル(Animagine XL V3.1)を用いて著者自身が生成したものです。
高校二年生の夏、一年の頃から好きだった子に告白して、初めて彼女ができた。
部活のサッカーでもレギュラーになれて毎日が楽しかった。
そんなある日、朝起きたら体がダルかった。
風邪かな?熱がある気がする。
でも今日は。
今日だけは倒れるわけにはいかない。
リビングのドアを開けると、母さんが朝ご飯の用意をしていた。
「昌樹、あなた具合が悪いんじゃないの?」
「大丈夫だよ、母さん。今日はサッカーの試合があるんだ。今休むわけにはいかないよ」
そう、今日はサッカーの試合の日。
しかもレギュラーになってから初めての試合の日だ。
今日休んだら次の試合ではレギュラーとして出場できないかもしれない。
なんとしても試合に出場するんだ。
「そんなこと言って、倒れたらどうするのよ」
「こんなのただの風邪だよ。試合に集中していたらそのうち治ってる」
そうだよ、こんなのただの風邪。
サッカーには何の問題もない。
◇◆◇◆◇
風邪を引いてから数週間が経った。
風邪が治るどころか、血尿や内出血などの症状が出てきて、ますます症状が酷くなるばかり。
サッカーをするにも集中力が続かないし、意識が、飛びそうだ。
「どうした進藤、熱中症か?」
顧問の先生だ。
大丈夫です。って言わなきゃいけないのに……声が出ない。
「坂井!すぐに保健の先生を呼んできてくれ!進藤が熱中症になった!」
違う、先生。俺は熱中症じゃない。
少し休んだらすぐ動けるようになるから。
だから……
◇◆◇◆◇
あれ、気を失ってた?
ここは……グラウンドじゃない。いつの間に運ばれてたんだろ。
起きあがろうとしてみるけど、身体が上手く動かない。
拘束されてるわけじゃなくて、動けって命令できない感じ。
顔は……少し動く。
あれ、母さんと父さん?
「昌樹、目が覚めたの!?」
目が覚めたって……、そりゃそのうち目を覚ますでしょ。
それよりも、そんなに目元を腫れ上がらせてどうしたの?
「うっ……本当にごめんなさい。私がもっと強く止めていれば……」
「昌樹、ごめん。本当にごめん」
母さんと父さんが泣きながら謝っている。
なんで泣いているか、なんで謝っているのかも分からない。
どう声をかけようか迷っていると、部屋のドアを開けて白衣を着た男性が入ってきた。
お医者さん?
「救急担当の井上です。進藤昌樹さん、落ち着いて聞いてください。
あなたは部活中に倒れ、救急で病院に運ばれてきました。
検査をしたところ、急性リンパ性白血病であることが分かりました。
この病気は初期症状は風邪に近いのですが、非常に進行が速く、数日から数週間で手遅れになってしまうことがあります」
白血病?ただの風邪じゃなかったんだ……。
病名は聞いたことあるし、重い病気だった気がするけど、何だったっけ。
「いつ頃、治りますか?」
口があんまり動かせなくて喋りづらい。
酸素マスク?みたいなのも付いてる。
「あなたの体は今非常に頑張っています。
今進藤さんが目を覚ましたこと。これだけでも奇跡なんです」
何を言っているの?
目を覚ましたことが奇跡?なんで?
治るでしょ?
「退院は、いつですか?」
「進藤さんは、もう退院することはできないでしょう」
意味がわからない。
治らないってこと?
「もう長くはありません。ご家族や親しい方たちと残りの大切な時間をお過ごしください」
そう言ってお医者さんは部屋から出ていった。
長くはないって、もうすぐ死ぬってこと?
「昌樹、ごめんね。私がもっと早くに普通の風邪じゃないって気づいていれば」
「母さん……」
「俺もごめん。
サッカーをやりたいっていうお前の気持ちを止めることができなかったんだ。
サッカーよりもお前の体が一番大事なのに」
「父さん……」
母さんと父さんはもう受け入れているってこと?
俺は本当に死ぬの?
さっきまで普通にサッカーできてたんだ。
今だって……。
ダメだ。身体が全然動かない。
寝起きだからとか、そういうのじゃなくて、本当に、身体が動く気が全くしない。
俺は、もうすぐ死ぬのか?
レギュラーになって、この前の試合でも活躍した。
彼女だって、できたばっかりなんだ。
まだまだこれからだって言うのに。
……そうだ。絵美は?
絵美に会いたい。
「絵美はどこ?」
「さっきまで一緒にいたんだが、もう夜遅いから親御さんに連絡して帰ってもらったよ。
ついさっきだったからまだ近くにいるかもしれない。
連絡してみるよ」
そう言って父さんは病室から出ていってしまった。
ありがとう、父さん。
「昌樹、何かしてほしいことない?何か欲しいものは?」
欲しいもの……。
健康な身体。
なんて言っても困らせちゃうな。
「……サッカーボール」
「あんたって子は……。
ちょっと待っててね。
あとで父さんに取ってきてもらうから。
あんたは小さい頃からサッカーが好きだったよね。
ご飯を食べたらすぐにサッカー場に出かけていって、暗くなるまで帰ってこなかったね」
そんなこともあったなあ。
確かボールが見えなくなったから帰って、それで母さんに遅すぎって怒られてたなあ。
父さんは笑ってだけど、それでも心配してくれていたのを知っている。
通勤経路でも無いのに父さんが近くを通っていたから。
ドアが静かに開き、部屋に父さんが入ってきた。
「絵美ちゃんはすぐ来るみたいだよ」
絵美にも会える。良かった。
早く絵美に会いたい。
「絵美ちゃん、いい子ね。救急車に一緒に乗ってくれて、私達にもすぐに連絡してくれたのよ」
流石サッカー部のマネージャー。
頼りになるなあ。
部活中のリーダーシップも凄くて、三年生がまだ部活にいた頃でも、年上だからってお構いなしに指示を出してた。
それに何より可愛い。
俺の自慢の彼女だ。
絵美との思い出を振り返っていると、勢いよくドアが開き、絵美が部屋に入ってきた。
「昌樹!目を覚ましたの!?」
「絵美……!」
絵美だ。来てくれた。
いつ見ても可愛いなあ。
息を切らしてる。走ってきてくれたのかな?
「良かった。もう話せないかもって思っていたから。良かった……」
話せないわけないよ。
こんなのすぐ治る。
だから絵美、治ったらデートに行こう。
カフェでフラペチーノを飲むのも良いな。
この前食べたいって言っていたパフェも食べに行こう。
だから絵美、そんなに泣かないで。
「絵美……。笑って」
「ごめん、ごめんね。もっと笑うね」
ああ、やっぱり絵美には笑顔が似合うなあ。
なんだか眠くなってきた。
一度寝て、起きたらまたサッカーをしよう。
大丈夫、起きたら良くなってるさ。
◇◆◇◆◇
目の前が真っ白だ。
寝ていたはずのベッドが無くなっている。
全身が痛かったのに、今はどこも痛くない。
身体も動く。
これならまたサッカーできるし、絵美とデートに行ける!
「進藤昌樹さん」
振り返るときれいなお姉さんが立っていた。
「お疲れ様でした。病に侵されながらもよく頑張りましたね」
「女神さま……?」
白いドレスを着ていて、お姉さんの背中には白い大きな翼が生えており、なんだかそれっぽい杖を持っていて、何より優しく包みこんでくれるような雰囲気がある。
よくある女神さまのイメージそのままだった。
「ふふっ。ええ、その認識でいいですよ」
「頑張りましたねっていうのは、どういうことですか?」
そんな言い方じゃあ、まるで俺が死んだみたいじゃないか。
女神さまの顔が曇り、言いづらそうに告げる。
「進藤昌樹さん、あなたは亡くなりました」
そんな……。
本当に俺は死んだの?
じゃあこの身体は……?
「ここは最後の審判、とでも言うべき場所です。
あなたが天国に行くか、それとも別の場所へ行くかを決めます」
「別の場所?」
女神さまがニコリと笑う。
まるで聞いてほしかったと言わんばかりだ。
「今の記憶を持ったまま、他の世界でもう一度生きてみませんか?」
「他の世界って、絵美や母さん、父さんはいないってことですか?」
「はい、昌樹さんが知っている人は一人もいない世界です」
「……もう一度会えたり、しませんか?」
「ここには一人しかお招きすることはできません。
また、昌樹さんがもう一度同じ世界で生きることはできません」
「……少し、考えさせてください」
これは……夢じゃない。
確かに自分の体を動かしているという感覚がある。
それに夢だったとしたら、こんな真っ白な空間じゃなくてサッカー場でサッカーをしている夢を見るはずだ。
俺は、本当に死んじゃったのか。
絵美や父さん、母さんとも、もう会えない。
サッカーも、もうできない。
俺にできることは天国に行くか、他の世界に行くかのどちらか。
……本当にそうか?
女神さまなら何か……、そう、メッセージアプリで会話したりとか!
「女神さま、俺の両親や恋人の絵美とメッセージのやりとりをできませんか?」
「……やりとりはできませんが、伝言をお伝えすることはできます」
伝言……つまり相手から返信を貰ったりそれにさらに返信を送ったりはできないってことか。
それでも何も伝えられずに終わるよりかはマシだ。
「じゃあ、まずは絵美から」
絵美……。
最後に見たのは絵美の笑顔だった。
絵美の隣でもっと笑顔を見ていたかった。
「全然デートできなくてごめん。
いつもサッカーの練習に付き合ってくれてありがとう。
レギュラーになれなかったとき、絵美が励ましてくれたから挫けず頑張れた。
隣で支えてくれる、そんな絵美のことが世界で一番大好きだったよ。
俺のことは忘れて、絵美は幸せになってね」
……嘘だ。
俺のことを忘れないでほしい。
でも、それよりも絵美には幸せになってほしい。
もう絵美を幸せにすることはできない、俺の最後の願いだ。
「伝言の内容を変えますか?」
俺の考えていることなんて女神さまにはお見通しか。
一番大切なことは……絵美が幸せになることだ。
もし俺のことを忘れないでほしいなんて言ったら、絵美が幸せになれないかもしれない。
そんなのは嫌だ。
だから、
「いえ、今のままで大丈夫です」
「かしこまりました」
絵美がこの先どんな人生を送るかは分からない。
でも、どうかこれからの絵美の人生には沢山の幸福がありますように。
「次に、父さんと母さん」
◇◆◇◆◇
両親、祖父母、顧問の先生、チームメイト、クライメイト、学校の先生、中学の同級生……。
もうこれで全員かな。
「……もうよろしいでしょうか?」
女神さまの方を見てみると、げんなりした顔をして疲れた様子だ。
「えっと、多すぎたでしょうか?」
「ええ、多くても5名程度だと思っておりましたので」
俺が伝言を頼んだ人数は100人を超えている。
5人の想定だったなら申し訳ないことをしてしまった。
「すみません、女神さま」
「いえいえ、急にお亡くなりになってしまいましたからね。
私の想定が間違っていました。
全ての伝言をしっかり届けますのでご安心ください」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
伝言を残すことができた。
これでもう、元の世界に思い残すことは……ないわけじゃないけど。
でも、みんなへの伝言を考えているうちに気持ちの整理がついた。
体調が悪くなって、それでも病院に行かなかったのは俺の責任。
俺が自分で選択して、それで死んだんだ。
後悔はあるけど、あのときの俺の気持ちを考えたら、その選択が間違いだったなんて言えない。
きっと何度同じ場面に出くわしても同じ選択をし続けたと思う。
「それでは、他の世界に行くかどうか、そろそろお答えをいただけますか?」
そうだった。元々女神さまに他の世界に行くかどうか聞かれていたんだった。
他の世界。
そこに何があるのかまだ分からないけれど、せっかく父さんと母さんに貰ったこの命、このまま失うわけにはいかない。
その世界でも生き抜くことが、今俺にできる唯一の親孝行だ。
「他の世界に行かせてください!」
「かしこまりました。
では昌樹さんをその世界にお送りするにあたって、お願い事を一つ叶えようと思うのですが、何かございますか?」
願い事って、なんでもいいのかな。
サッカー……はできたらやりたいけど、スポーツがあるかどうかも分からないし。
何かあるかな?
「……病気にならないようにしてもらうことって、できますか?」
「ええ、できますよ。ではそのようにいたしますね」
できるの!?
無理かなって思ってたけど、流石女神さま!
もう白血病になって死ぬことはない。
本当に良かった。
ありがとう女神さま。
「では、これから注意点を2点説明しますね。
まず言葉ですが、できるだけそのまま使えるようにします。
しかし、文化や文明の発展レベルが異なりますので、一部通じない言葉があります。
言葉が通じるからといって、文化を覚えることを怠らないでください」
スマホとかは通じないかもしれないってことかな。
文化……ってなんだろう。
室内でも靴を履くとか、食事のマナーとか?
「次に、これから行く世界には人間以外に高度な知能を持った生物がいます。
世界は人間のもの、というわけではありませんのでお気をつけください」
人間以外の高度な知能を持った生物?
猿とかじゃないんだろうけど。
「説明は以上です。何か質問はございますか?」
新しい世界について分からないことだらけだけど、何を聞けばいいのかも分からない。
でも言葉が通じるならなんとかなるでしょ!
「大丈夫です!」
「かしこまりました。
では新しい世界にお送りします。
お元気で」
「色々とありがとうございました!
女神さまこそお元気で!」
女神さまが少し笑ってくれた。
やっぱりお別れするときは笑顔が一番だ。
「はい。それでは行ってらっしゃいませ」
女神さまのその声を聞いたのを最後に、視界が暗転した。




