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4 浮気してるってこと?

 授業が終わって、教室が空っぽになっても、私はひとり、ぽつんと座っていた。


 机の上に頬杖をついたまま、ぼんやりとした時間だけが流れていく。


 考えが、ぐるぐる。

 ぜんぶが渦巻きみたいに、まとまらないまま回っている。


 ――エリオットとダイアナ。

 あれって……ほんとに、お芝居、なのかな?


 それに……ブラッドさまのことも。

 あんなに無関心だったのに、急にやさしい。

 やさしすぎて、逆に、ちょっと気持ち悪いくらいに。


 もしあれが双子の“演技”じゃなかったら。

 つまり……エリオットはほんとうに、浮気してるってこと?


 あの人は私の初恋で、

 お父さまに頼んで婚約を取りつけてもらった。


 伯爵家に、いっぱいお金を使って。

 わたし、おバカだから、他に方法が思いつかなかったの。

 だって、お父さまにお願いすれば、なんでも叶ったから。


 でも……

 でもね、エリオットは、3年間ちゃんとやさしかったの。

「ガーネットの瞳が綺麗だ……好きだよ」とか、「可愛いね」とか、

 会うたび、そう言ってくれてた。


 学園に入ってからだって、たまに手紙をくれたし、

 長期のお休みには別荘で一緒に過ごした。


 ちょっぴり怒りん坊だけど、宝石とか、高価なプレゼントしたら、直ぐに優しい彼に戻るもの。



 私が学園に入りたいって言ったら、


「バカだなぁ、無理しなくていいよ。

 今のままのビビアンが好きだよ」って。


 あれも、ウソだったの?


 ブラッドさまは、ずっと私を冷たい目で見てた。

 きっと、お金でエリオットとの婚約を取りつけたことを、

 軽蔑してたんだと思う。


 ――エリオットはもう、私のこと、好きじゃなくなった?


 ダイアナと恋人になりたくて、

 私は、お荷物になったの?


 ……いやだ、そんなの悲しすぎる。

 どうしよう。

 ほんとうのことなんか話したら、ぜんぶ終わってしまう。


 それが、怖い。



「ビビアン?」


 声がして、びくっとした。

 一瞬、エリオットかと思った。


 でも、違った。

 ブラッドさま。

 声までそっくり。


「どうしたの、ブラッドさま?」


「ブラッドって呼んでいいよ。今日の授業、どうだった? わからなかったら、聞いて」


「うん……あんまり分からなかった。ノートはとったけど」


「じゃあ、復習してから寮に戻ろう」


「助かっちゃう!」



 ブラッドと図書室に行って、

 一緒に今日の分の勉強をした。


 先生より、ずっと丁寧で、

 ひとつひとつ、やさしく教えてくれた。


「ちゃんと、わかってるよ。ビビアンは大丈夫だ」


「ありがとう……ほんとに、助かった」


 ――もし、ほんとうのことを言ったら、

 ブラッドは、また前みたいに冷たくなるのかな。


「じゃ、帰ろうか。

 放課後は、ここで一緒に勉強しよう。そしたら、進級できるよ、きっと」


「うん」


 校舎を出て、門のほうに歩いていったら、

 後ろから足音がして、声がした。


「ビビアン!」


 振り返るより先に、私はとっさに、

 ブラッドの腕に、ぎゅっとしがみついた。


「……ビビアン」


 エリオットは、ちょっと困った顔をしていた。

 いつもの、拗ねた感じ?

 その顔を、わたしはよく知ってる。


「どうした、エリオット?」


「いや……送って行こうかな、と思って」


「俺が送る。

 おまえは、ダイアナを送ってやれ。あそこに、いるぞ」


 遠くに、ピンクの髪。

 ダイアナが、何かを試すように立っていた。



 ――ああ、わたしも今、試されてる。


「どうしてエリオットさまが送ってくれるの? ヘンなの~」


 わざと軽く言って、ブラッドの服の端を*ぎゅっ*と掴む。

 エリオットはちょっと笑って、


「そうだな、じゃあ、またな!」


 あっけなく背を向けて去っていった背中を、

 私はしばらく、目で追ってた。


 ホントのこと言わなくても、なんだかもう、終わった気がした。


 学園に来て、ほんの2~3日でこれ。

 信じられない。


「あれで友達とか~、笑っちゃうね」


「……記憶、戻ったのか?」


「ううん、逆にどんどん忘れていってる感じ」


「なんだよ、それ」



 ――からかってごめん。

 僕がビビアンの、本当の婚約者なんだ。

 ホント、ごめんね。


 エリオット、そう言ってくれたらよかったのに。



 ――記憶喪失、うっそぴょーん、ごめんね。


 そう、わたしも言えたのに。



読んで頂いて有難うございました。

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