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15 エリオットと再会

 わたしは十八になった。


 婚約者がいないことは、もう誰もが知っているみたいで、最近は、いろんな釣書が届く。


 でも、どれも断ってる。けれど中には、ちょっと断りづらい人もいて。


 たとえば、ドリアード侯爵家のミハイルさま。

 わたしより二つ年下。明るくて口がうまくて、雰囲気、エリオットに似ている。


「ビビアン嬢、今日も本当にお綺麗ですね」


 なんて、まっすぐな顔で言ってくるけど、わたしは困って笑うだけ。


 いま、わたしはブラッドに恋をしてる。だから、ミハイルさまに悪いけど、期待に応えることはできない。




 春、新年の舞踏会が王宮であって、クインシルのおじ様に誘われた。

 初めての王宮。


 ミハイルさまにもエスコートを申し込まれていたから、助かった。


 陛下の挨拶が終わって、乾杯すると花火が上がった。


 煌びやかなな世界にフワフワと浮かんでいるような、夢のような時間──



 おじ様にブラッドの事を訪ねると「あれはいい青年だ」と言ってくれた。


 嬉しい、自分のことのように。


「ミハイルくんは、どうだね?」


 そう聞かれたから、「弟みたいです」と言ったら、おじ様は、ふふっと笑って、シャンパンのグラスを傾けた。


 人気者のおじ様のまわりには、すぐに人が集まってきて、わたしはそっとその場を離れた。


 ひとりで飲み物を手にしていたら、


「ビビアン?」

 って、聞き覚えのある声。


「まあ、エリオットさま」


 できるかぎり平気なふりをした。隣にはピンクブロンドの女の子。

 エリオット、ピンクの髪が好きなのね。


「誰?」って聞かれて、エリオットは「元婚約者だよ」って。


 その子は、ふーんって顔をして、わたしを見た。なんだか見下すような目。


「こちらは、隣国のロザリー・ペアーズ伯爵令嬢。僕の婚約者さ。ああ、僕はカラント伯爵家を継いだんだ。子爵家なんかに婿入りしなくて、よかったよ」


 ええ、こっちも別れてよかったと思ってる。


「お金の力で無理やり婚約者を作って、その兄と浮気なんて。ほんと、お気の毒な話」


「ロザリー、君は優しいから」


 よくも、そんなふうに言えるわね、と思った。

 エリオットに、ちょっぴり仕返し。


「あら、そのネックレス……あのとき、わたしが贈ったルビーに似てる。捨てたと思ってた」


 ロザリーの目が、すこしだけ動いた。


「貴方の、そのバングルも……ラペルピンも……うちのお店のものね」


 ふふ、エリオットの気まずそうな顔ったら。


「もう行こう、ロザリー。変な言いがかりをつけられたら困る」


 ふたりは足早に去っていく。


 背中のライン──

 エリオット、ちょっと太った?


 ……あーあ、全然ブラッドと違うな~と思った。



 *


 ワルツが流れて、おじ様がにこっと笑う。


「踊っていただけますか?」

「喜んで」


 ステップを踏みながら、おじ様はぽつりと。


「妻がミハイル君を推薦したんだが……弟みたいか。やはり見込みはなさそうだな」


「ごめんなさい。素敵な人ですけど、お断りしようと思います」


「そうか、わかったよ」


 *──ブラッドが好きなんです*

 それは飲み込んだ。言葉にすると、彼に迷惑がかかると思って。


 ダンスが終わるころ、背後から声がした。


「次は、私と踊っていただけますか?」



 振り返ると、そこにブラッドがいた。

 すてきな礼装姿、ピンとした背筋で立っていた。


 なんでここに?


 隣には美しいクインシル侯爵夫人。

 おじ様はくすっと笑って、「来たか、交代しよう」と言って、夫人の肩を抱いた。



 ブラッドに差し出された手に、そっと手を置くと、彼はわたしの背に手を添えた。

 スカートのすそが、ふわりと波を描き、鼓動が、音楽よりも早く響いていた。


「平民の私が、なぜここに? そう思った?」

「うん」


「侯爵の親族、フィグ子爵家の養子になったんだ。今はその家の三男だよ」


「そうなの? もっと早く教えてくれたらよかったのに」


「正式に決定するまで、話さないよう言われてた。俺には経歴に×がついてるから」


「……それは、ブラッドだけの、せいじゃないのに」


 ブラッドは黙り込み、次に決心したように、青い瞳でわたしを見た。


「それに、君には、ドリアード侯爵家との縁談があっただろう?」

「断ったわよ?」


「うん。君がはっきり断ったら、チャンスをくれるって──子爵が」

「お父さまが? ……チャンスって」


 呼吸が止まった。

 胸がつかえて、体温がどこまでも上がっていく。


「ビビアン、貴方が好きです」


 耳元で囁かれた。

 この言葉、ずっと聞きたかった言葉。



「私と結婚してくれませんか?」


 夢みたい……



「借金を、払い終わったら…だけど」


 もう、ムードぶち壊し……



読んで頂いて有難うございました。

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