12 手紙
お父さま、お母さまへ
こっちで元気にやってます。
寮の暮らしも、もう慣れました。
自分でやるって、思ったより大変だけど……
そのぶん、おふたりがどれだけわたしを大事に育ててくれたか、よくわかります。
急な話でごめんね。
わたし、エリオットとの婚約、解消したいと思ってるの。
彼ね、この一年の間に、他に好きな人ができたみたい。
もうわたしのこと、好きじゃないの。
たくさん泣いたよ。すごく、悲しかった。
でも、そのとき、そばにいてくれた人がいてね……
わたし、その人のこと、好きになっちゃったの。
だから、エリオットとはこれでおあいこ。そう思うの。
きっちりと穏やかに終わらせたい。
……ただ、カラント伯爵ってこわい人だから、
双子に暴力ふるったらイヤだなって、それが少し心配。
でも、誤解しないでね?
わたしの気持ちは片思いで、浮気なんてしてない。
むしろ最初に記憶喪失だなんてウソをついたのはわたしだから、自業自得なのよね。
ごめんなさい、ずっと嘘ついてて。心配かけて。
でも、あのウソがあったから、エリオットの本当の姿が見えたの。
……最低だった。もう、見たくもない。
一日も早く、婚約を解消してもらえたら、うれしいです。
わがままで、ごめんなさい。
――ビビアンより
* * *
手紙を出して、返事を待ってる間に、ダイアナたちは退学になった。
そのあとはバレンシア子爵家の出番、たぶん父が動くと思う。
それからエリオットも退学になるって。
やっと静かになって、これで平和な学校生活が送れる……そう思ってたのに。
「なんで? なんでブラッドも退学なの?」
「……俺、エリックの代わりに追試を受けたんだ」
えっ、そんなの、黙ってればよかったのに! 正直すぎるよ……
「ブラッドがいなくなったら、進級も、卒業も、むりかも」
「大丈夫。ビビアンは優秀だから。テストの結果を見たら、自信がつくよ」
「そんなことないと思う……集中できなかったし」
「たった一年勉強して、ここに入学できたんだ。ちゃんとやればできる」
なんだか、泣きそう。
「……お別れだ。君を騙して、傷つけて、本当に悪かった」
「わたしも同じ。記憶喪失なんて……うっそぴょーん、って……ごめんなさい」
ブラッドは少しだけ笑った。
「そうじゃないかって、時々ね、疑ったよ」
なんて、軽く言うから、
わたし、ほんと馬鹿だなあ、って思った。
「そ、それで、退学になって……これから、どうするの?」
「まずは婚約のことを片づける。それから、ゆっくり考えるよ」
「そっか」
「さようなら」
そう言って、ブラッドは背を向けて歩き出した。
呼び止めたかった。
だけど、なんて言えばいいんだろう。
だから、動けなかった。
エリオットに失恋したときより、百倍つらかった。
涙も三倍は出た。
あとで頭がガンガンするくらい、わたし、いっぱい泣いた。
* * *
テストの結果は、100人中57番。
……びみょう。
やっぱり、ブラッドがいないと、ダメだなあ、私。
図書室、いつもの場所に座っても、ブラッドと過ごした時間を思い出すだけ。
少しして、父から手紙が届いた。
「婚約は正式に解消された」と書いてあった。
でも、そのあとに、信じられないことが続いた。
カラント伯爵が重傷。親子で、殴り合いになったらしい。
ブラッドが逮捕されて、牢屋に入ってるって。しかも、廃嫡になったって。
うそ、うそでしょう?
そういえば前に言ってた、「全部責任取って、過去を、帳消しにする」って。
あのときは意味が分からなかった。
これが、そういう事なの?
きっと婚約を解消したからだ、
どうしよう……
手紙を持つ手が、震えてた。
心が、ギュウってしめつけられた。
読んで頂いて有難うございました。