10話 雨の匂いですの
春期の初月、無人島生活4日目。天気:くもり。
「……くー、くー……Zzz」
「グゥ……Zzz」
ザザ~ン……ザブ~ン……
「もふもふ……ふふふ……Zzz」
「う、ううん……離れろ……」
「チュウ」
「逃げちゃダメですの……Zzz」
「く、苦しい……ん、んん……? なんだ、アーシアか……」
「チュウチュウ」
「ちゅう……はっ! ……朝ですの?」
「おはようアーシア」
「ん~? あらミロス、ごきげんようですわ……」
「チュウ!」
「それに、リス子もごきげんようですの」
「そいつはリス子って言うのか」
「そうですの、わたくしのお友達ですわ……」
「そうか……それじゃあ、そろそろ離れてくれるか」
「……へっ?」
―― ――
「は、恥ずかしいですわ……」
どうやら寝ぼけてミロスに抱き着いてしまっていたようだ。なんだかやけに抱き心地の良い大きなテディベアを抱えて眠る夢を見ていた気がする。
「それで、このリスはなんなんだ? 非常食か?」
「違いますの! リス子は野ブドウのなっている木を教えてくれたとっても良い子なんですのよ」
「そうか」
「チュウ」
リス子はミロスのもふもふが気に入ったのか、彼の肩や背中を走り回って遊んでいる。
食べられる心配はしていないのかしら。
「それで、今日はどうしますの?」
「そうだな、まずは水源地の探索を優先……しようと思ったんだが、その心配はとりあえず後回しで大丈夫になりそうだ」
「ど、どういうことですの?」
「雨の匂いがする」
「雨の匂い?」
なにかを確認するように鼻をクンクンと動かすミロス。
わたくしには雨の匂いというのは感じ取れないけど、人狼族には分かるのかもしれない。
「もう少ししたら降ってくるかもしれない。そしたら雨水を溜めることができる」
「でも、雨水を溜める入れ物がありませんわ」
「そうだな、まずはその容器を作ろう。それと、拠点の強化だ」
「容器作りと、拠点の強化?」
「チュウ?」
今の拠点、というかわたくしたちの寝床は、岸壁に長い木を斜めに立てかけて、その上に大きな葉を何枚か重ねただけのものだ。
雨が降ってきたらそこら中から雨漏りをしてしまいそうな感じのクオリティ。
「実は昨日、良い物を見つけた。運ぶのを手伝ってくれ」
……。
…………。
「これは……」
ミロスの案内で浜辺を少し歩いた所に、折れた木材や壊れた木箱などが打ち上げられていた。
「沈没した船の、残骸ですの?」
「おそらくそうだろうな。オレが乗っていたものか、アーシアが乗せられていたものか、はたまたそれ以外なのかは分からないが」
「そうですわね……あっ、これ……」
「どうだ、使えそうだろう。とりあえず流されないように少し移動しておいたんだ」
波が届かない乾いた浜辺に少し汚れたクリーム色の布のようなものが落ちている。
千切れてはいるが、かなり大きい。
「これはおそらく船の帆に使っていた帆布だ。かなりの厚手で水を弾く加工もしてある。コイツと船の残骸を使って雨風をしのげる寝床を作ろう」
「了解ですの! わたくし、なんだかワクワクしてきましたわ!」
「ははっ! その威勢が最後まで持つと良いんだがな」
「大丈夫ですの! 秘密基地職人、アーシア・フォレガンドロスにお任せですわ!」
「チュウチュウ!」
この後、船の残骸や帆布を拠点まで運んだところでわたくしの体力が尽きた。
帆布ってとっても重いんですのね。
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