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第五話 グッドバイに大歓喜/ひとのせいにするな・2

『じゃあ、また明日、お店で会おう』

『うん。ありがとう紗夏。それじゃおやすみなさい』

 笑華とのLINEを終え、紗夏は、笑華がツーさんに聞いてもらいたいという話とは何だろう、と、やや訝しがるのだった。


 というわけで翌日。よろずやつかさ。

「今日はトっつぁんはなし?」と訊ねた隆起はもう一つ付け加えた。「ハルも」

「晴翔は後で来ます。卜部くんは今日は不在」

「なるほど。女子高生がこんなおっさんに用があるとはときめくときめく」

「犯罪者みたい」

「まあまあ紗夏ちゃん。君もなかなかときめくときめく」

「あの〜」隆起と紗夏の掛け合いに笑華が割り込んだ。「相談があって。乗ってもらえたらなって。トっつぁんの相談にきちんと答えてくれたから、それならわたしの話も聞いてくれるかなって」

「おれの許容範囲ならね」

「はい」

「で——梅宮笑華ちゃん。君の相談、というのは?」

 と切り出した隆起に、笑華は、何から話せばいいんだろう、という顔をした。

「わたしもいた方がいい?」

 と訊ねる紗夏に笑華は、

「どっちでも」

 と答えたので、それなら自分も笑華の話を聞いてあげられたら、とそこにい続ける。

「えーと……」

「あ。これはおそらく、君自身の中では言語化されているがそれを外部に出すのは憚れるってところだろう?」

 自分の様子を見てあっさりそう言い退けた隆起に笑華は焦った。

「そんなこと。自分でもどうしたらいいのかわからなくて。でも人のせいにはできないししたくないし。でも困ってるのも確かだし」

「さてそれは何でしょう?」

「そんなクイズみたいな……」

 そんな慌てる様子の笑華を見て、でもツーさんの指摘もあながち間違ってはいないんじゃないかな、と、紗夏は何となく思う。笑華の中でははっきり言語化されている相談であり、しかしそれを第三者に話すことでどう思われるかが怖い、不安……といった様子は、紗夏であってもありありと感じられるところだった。

「ま、そうだね。結局、女の敵は女なんだよね。男じゃなくて」

 と、突然おかしな話をし始めた隆起に、女子二人は「は?」と目と口を開いた。

 そんな様子を無視して隆起は続ける。

「女の敵は、例えば生理がキツくない女。例えば出産がキツくなかった女」

「あの〜」

「同性愛者の敵も同性愛者だし、障害者の敵も障害者。そのこころは、自分は恵まれている、という自覚がないこと」

「え〜と〜」

「自分が特別恵まれている、と思わないから、自分が基準のように思うわけだね。だから自分と同じような近い感覚を世界や社会に抱いていない人を“弱い”“怠けている”と思ってしまう」

「だからその〜」

「でもこの世に得をしている人間っていうのはいないんだよね」

 そこで笑華は、ふと止まる。その様子を見て紗夏は、何だ? と思った。

 隆起は続けた。

「だから、損をしている人は損をしている人で、これはいいよね。で、得をしている人っていうのは自分が得をしているという自覚がない。だから結果的にこの世界で得をしている人は一人もいない。みんな他人と比べて自分は損ばかりしていると思うということになる」

「でも損をしているからって人のせいにしちゃいけないですよね。みんなが損をしているなら尚更」

 そう質問する笑華に、いよいよ紗夏は様子がおかしい、と思い、しかし笑華がいつの間にか真剣に隆起と対話するつもりになっているので余計な口出しもできずただ次の隆起の言葉を待つ。

「どうだろう。普通の日々を普通に生きている普通の人間だったら、自分の過失ではないこととか責任ではないことが世の中には普通に起こるって普通に思うと思うけど」

「でも、それだけじゃ前に進めないし」

「自責の念に駆られてる方が前に進めるってこともあるだろうけど、大概は引きこもるだろね」

「……」

 静かになった笑華に、どうすればいいのかわからないでいる紗夏は、自分は中学時代からの友達に何かを言ってあげた方がいいのではないかと頭の中で言葉を紡ごうとするがどうしても言語化にならない。隆起の突然の切り口が笑華の相談と気がついたとき直結した、ということがわかるだけでは、今の紗夏が笑華にかけられる言葉がなかなか出てこないのは当然だった。

 ということは……隆起は、何かをわかっている?

 ふとそう気づいた頃、笑華はふらりと立ち上がった。

「わたし、帰ります」

「あ、帰るの?」

「笑華、相談っていうのは」

「もういいの。それじゃ紗夏、今日はここで」

「え、でも——」

「ごめんなさい。それじゃまた会おう。また連絡するからね」

 と言って足早に笑華は店を出て行った。

 リビングには紗夏と隆起だけが残され、やがて紗夏は隆起に訊ねる。

「あの。ツーさん」

「何だい」

「……笑華の、何かの事情——ひょっとして知ってるとか」

 そんな紗夏に、隆起は、ふふ、と笑う。

「まあ解決はするからご安心を」

「ぜひともそうしていただきたいです」

「しかしハルも君も、“高位の影響力”というのに縁のある二人だね」

 つまり……“高位の影響力”の影響を、笑華も受けている——おそらくその発生源は、幸一、と、紗夏は推理する。

 だからと言って今この場ではどうすることもできない。

「はあ。笑華、大丈夫かな……」

 そう友達を心配する紗夏をよそに、隆起は、

「大丈夫になるさ」

 と、呟いて、その頃になってようやく紫乃がお茶を持ってきた。


 やがて紗夏も帰って行った。晴翔から今日は店には行けなくなってしまったという連絡が入ったため、それなら自分一人がいつまでもここにいる理由はないと判断したからだ。やがてリビングにはソファで寝転びゲームボーイをする隆起一人となる。

 そして、しばらく経ったのち司が部屋から出てきた。

「ツーちゃん。あの子、万引きしたよ」

 と、隆起は上半身を起き上がらせて司にウインクした。

「おっけ。サンキューこーの。オーナーさんにも感謝だ」

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