第五話 グッドバイに大歓喜/ひとのせいにするな・1
影響力。それは人間の証明。
「おれ、子どもの頃から『相方』が好きで。多分、着床の瞬間から相方フリークなんすけど。それでもう昔から将来は刑事になるんだって決めてるんです。お巡りさんになりたいって、マジで真剣に思ってて」
「ふむ。いいね、地に足がついてる感じで」
「あざっす。でも、その進路自体は周りの人たちみんな賛成してくれてるんですけど……ただ高校卒業したらそのまま警察学校に行くか、それとも一旦大学に行くかってことでちょっと揉めてて」
「ほうほう」
「友達たちは意見が真っ二つだし。親、親戚、学校の先生は大学大学だし。おれも別に勉強は好きだから大学行くのもありなんですけど、でも、将来やりたいこととかなりたいものがもう既にはっきり決まってるんだったら、そのままノンストップで進もうかな、っていう気持ちもあって……」
「なるほど。それで、おれのところに来たわけだ」
「自分のことだから、人のせいにはできないししたくないわけです」
「オーソドックスな在り方だね」
「だからとりあえず第三者の意見を聞きたくて、佐々木が、知り合いに使えそうなおじさんがいるからって聞いたので、来ましたぁ」
「紗夏ちゃんや。すごい言い草だね」
「わたしにしては高評価だと思ってもらえたら」
「いいでしょう。使える言葉を紡げたらと思うよ」
「それで、えーと、津笠さん。単刀直入に——どう思いますか?」
「——そうだね。まあお巡りさんがダメだったときに、大卒の資格があるっていうのは社会生活の上では役に立つだろうが」
「リアルだ」
「ただおれなら」
「津笠さんなら」
「交番勤務をして自分のことを『本官』というのはなかなかときめくところ」
「——あっ」
「まあ、卜部くんよ」
「トっつぁんって呼んでください」
「トっつぁん。君にとって刑事になる、警察官になるということをどこまで本気で自分の仕事にしたいと思っているのか、それが全てなんじゃないのかい。それなら、どういう道を選んでも、もし万が一ダメだったときに後悔しないで済むだろうしね。結局、大学に行ってから警察に入ってつまんないなこの仕事ってなる可能性もあるんだし」
「……そうですね……。……でも、今の一言でもし失敗して、それを津笠さんのせいにしたくない……」
「じゃ。まあまだ君も一年生だ。“働く”ってことを考えるよりも前に大学に行って、例えば法律の勉強がしたいとかそういう発想になるかもしれないわけだからね。一応これが君よりは人生の先輩の意見というか、もしもおれなら、という話でした」
「……でも一人称が、本官、かぁ……ときめくときめく」
そこで幸一は、警察官の制服を着て交番で自分を本官と呼ぶ、というイメージを頭に思い浮かべ、クスッと笑った。やがて何度か頷き、「ありがとうございます」と隆起に礼儀正しく頭を下げた。
「いえ、とんでもない」
「いやぁ、佐々木。いいね。親とか先生とかじゃない大人の人って」
「役に立てて良かったよ」
「おれ、おれ」
「じゃ、津笠さん。意見の一つとして大変参考になりました——それじゃ笑華、帰るか」
と、そう声をかけられ彼女である梅宮笑華は顔を上げる。
「あ、もういいの?」
「紫乃さんのお茶も飲めたしね。今日は淹れるのが早かった」
そう言った隆起に、美味しかったです、とお茶の感想を述べ、やがて幸一は立ち上がった。つられて笑華も立ち上がる。
「じゃ、重ね重ねありがとうございました」
「いやいや。こんな真面目な好青年と巡り会えておじさんは嬉しいよ。ハルの子犬ちゃんのようなところも好感は持てるがね。今日は来ないんだったね?」
「今日はあいにく部活動優先」
「青春だなぁ。じゃあトっつぁん、そして笑華ちゃん。また何かあったらぜひ来なさいな。うちは何でも屋でありかつ暇だから若人のお客は大歓迎」
飄々と微笑みながらそう語る隆起に、最初から好印象だった幸一も笑華も安全な大人であると今でははっきり思っている。二人はちょっぴり顔を見合わせ笑い合って、「はい!」と元気に答え、やがて手を繋いで帰っていった。
リビングには紗夏と隆起だけが残され、やがて隆起は口を開いた。
「で、紗夏ちゃんよ」
あの二人が帰った後、行われる会話であろうことは最初から予測済みだった紗夏はそのまま言葉を続ける。
「卜部くんが気になって」
「おれの後継者として見事だ」
「いつそんな話が」
「トっつぁんに電撃を見た、と」
まあ隆起であればもちろん自分と似たような感覚を幸一に覚えたのであろうと紗夏は思う。同じ中学校で、別の高校に通っている笑華と幸一のカップルと先日久しぶりに会って軽く食事を摂ったとき、幸一から“高位の影響力”の電撃を紗夏は見たのである。であるのであればこのまま放っておくわけにもいかないのではと思い、たまたま幸一が進路について悩んでおり多くのアドバイスを求めているとのことだったので紗夏が隆起を紹介した、という流れの本日であった。
だが。
「でもツーさん。何で何もしなかったんですか? 高位の影響力の抹消なんて、さっきいくらでもチャンスありましたけど」
という紗夏からすれば当然の疑問を口にしたら、すると隆起は意味ありげにこう返した。
「しばらく様子を見たい」
「はあ?」
「ま、紗夏ちゃんや。君もだいぶおれの影響を受けてきたってところかな」
「心外です」
ふっと隆起は笑う。
「君はおれにキツいねぇ」




