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Record of Divergence ~世界の分岐点~  作者: 進道 拓真
第二章 自然の通過点

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第五十七話 絶望の表裏


「ふぅー…ねぇ、カイ? なんで崩落までさせたの? そこまでしなくてもよかったと思うんだけど…」


 リンカの言う通り、ここまでする必要はなかった。


 この洞穴の唯一ともいえる出入口を封じ込めてのはひとえに、別のオークが侵入してくるのを防ぐためだった。


 これからあの子の身柄を確保しに行くのに、邪魔されてはたまらない。


 あの数を使って来られれば、この程度の妨害は突破されるのも時間の問題だろうが、ないよりも格段にましだ。



 …だが、それと同時に俺たちも逃げ場を失ってしまったのは事実だ。


 ここから先、もし洞窟内で何か異常事態があった時、崩落した岩や頑強な壁は俺たちにとって邪魔でしかなくなることだって考えられる。


 いくら判断に焦っていたとはいえ、選択肢を間違えたことは否定できない。




 ────そして、もし誤算があったとすればそこではなかった。


 この状況における最大の誤り。それは……


「…っ! なんだこの揺れ!?」

「まさか……外から!」



 …オークの力量と、その数の脅威度を見誤ったことに違いない。


 立っているのも難しいと思えるほどに激しい揺れ。


 その振動の発生源は内ではなく外……。より正確に表現するならば、岩壁のすぐそばからだった。


「でたらめな……。ぶち破ろうとしてんのか!」


 外の様子は岩壁に阻まれて見ることができないが、これだけの衝撃を発生させられるのはやつら以外に考えられない。


 おそらく壁に向かって棍棒や拳を叩きつけているのだろうが……もう少し賢いやり方もあっただろう!


 どこまでも知性などなくめちゃくちゃだが、このままでは想定よりもはるかに早く洞穴にオークが流れ込んでくるだろう。


「考えてる時間もないか。すぐに奥に……! …リンカ?」


 この狭い洞窟の一本道で戦闘をすれば、数に対処しきれずに物量差で押し込まれておしまいだ。


 今ならまだ、崩落させた岩がやつらの歩みを足止めし、時間を稼いでくれている。


 その間に少しでも奥へと進み、そこにいるはずの少女の身の安全を確保しなければ。


 最後は残ったオークとの総力戦となり、戦うことは避けられないだろうが……それは後回しだ。


 とにかく奥へと逃げ込む。今できることはそれだけだ。



 だが、何かを考え込むような相棒の姿に思わず足を止めてしまった。


「どうした!? 早く行かないと、ここにもオークがなだれ込んでくるぞ!」

「…わかってる。だからカイ、先に行ってて?」


「……は?」


 告げられた言葉は全くの予想外のもの。


 それもそうだ。ここで二人が分散したからといって状況が変わるわけでもない。


 だが、彼女も考えなしで言っているわけではないのだ。


「ここにあいつらが流れ込んでくるのにも時間がない。どっちにしろ戦うことにも変わりはない。なら……私がここで時間を稼いで、少しでも数を減らす」

「あの数だぞ!? 確実にデスペナルティにされて終わりだ!」


 リンカが多対一の戦闘技術を磨いていることは知っている。いずれ必要になるだろうからと、備えを凝らしておいたことも。


 しかし、今回はそのスケールが違いすぎる。相手は膨大過ぎる数で一切の容赦なく攻め込んでくるモンスターだ。


 当然、手加減など考えてくれる敵ではない。


 すぐに力尽きて終わるのが関の山……。



 その点に考えの至らないほど、リンカは愚かじゃない。


「そうだね。…でも、もうどちらにせよ戦闘は避けられないし……わかってるでしょ? 奥の異質な気配が…」

「…それは、そうだが」


 この洞穴に入った瞬間に感じ取った存在の気配。それは《探査》を有していない俺でも感じ取れるほどに、強烈な存在感を醸し出している。


 この気配の主も、リンカの決断の理由の一つだ。


 正体こそわからないが、化け物のようなモンスターがいる可能性の高いところへ、さらにオークの群れも連れて行ってしまえば勝ち目など容易く潰える。




 カイを一人で送り出してしまうことに、不安が無いと言えば嘘になる。


 だが、自分が向かったところで戦力にならないことは最初からはっきりとしているのだ。


 彼女の戦闘スタイルは魔法を用いた広範囲攻撃。一対一での戦闘はできないというほどでもないが、苦手とする傾向にある。


 その点カイならば、個人同士での戦闘においては軍配が上げられる。直接ぶつかることは危険にしか思えないが、逃げ延びる程度のことならば可能性はある。


 なればこそ、自分ができることは足止めに他ならない。


 救出の邪魔をさせず、なおかつカイが戦いやすい一対一の状況を作り上げる。


 そして可能ならば殲滅する。もうこれしか道は残されていないのだから。


「私の方が多人数を相手するときの対処は手慣れてるし、勝ち目はこれが一番高い。だから、あの子のことはお願い!」



 背中を向けて懇願をされれば、もう断る選択肢などない。


 彼女は自分の最大限の役割を全うしようとしている。ならば俺も、自分の役割を尽くすべきだ。


「…あぁ、またな!」


 言外に死ぬことは許さないと告げて、さらに奥へと向かって足を進める。


 俺たちがまた会うことがあるとすれば、それがどんな形であれ、全てが終わった時だ。




「…最近こういうこと多いよね?」


 一人になってからすぐに、どこか既視感も感じられる状況にリンカはぼやいていた。


 共にカイと戦い背中を預けてきたが、重要局面になると彼と離れることが多い気がしてならない。


 自分で望んだ状況ゆえに文句はないが、それでも感じるものはある。


「すぐにそんなこと言ってられる場合じゃなくなるしね…」


 目の前の崩れた岩の山。その向こうでは今も叩きつけてくるような轟音が響いており、すぐに壁も崩されてしまうだろう。


「でも、先に行かせるわけにはいかないし……せいぜい邪魔させてもらうよ?」


 絶望的としか思えなくても、不適な笑みは崩さない。


 心まで折られてしまえば、それこそ本当の敗北になってしまう。


 どれだけ死を経験することになろうとも、それだけは認められないからこその態度だった。



 そして、その時が訪れる。


「……っ! 来たね!」


 わずかにこぼれた外の光。そこを起点として岩石の隙間は拡大していき───防壁は突破された。


 ここから、リンカの死闘は開始される。



足止めに徹すると決めたリンカ。


その覚悟の強さにカイも腹をくくり、再会の約束を残していきました。


お互いにとっても最大の山場が始まっていきます。




面白いと思っていただけたらブックマークや評価もよろしくお願いします。



それとご報告、というよりお知らせです。


ほんと唐突にですが、自分の中で短編で別作品を書きたいという欲が出てきてしまったので、少しの間だけそっちの作業に集中したいと思います。


なのでこっちの更新が少しの間だけ滞ってしまうと思いますが、なるべく早めに再開させようと思っているのでどうか楽しみにお待ちください。

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