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Record of Divergence ~世界の分岐点~  作者: 進道 拓真
第二章 自然の通過点

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第五十五話 混戦のわななき


「ちょっ!? こんな格好とは聞いてなかったんだけど!?」

「我慢してくれ! こっちの方が確実なんだ!」


 混戦が入り乱れる戦場。そこではどこか場違いなセリフも飛び交っていた。


「何で私抱きかかえられてるの!? もっといい方法あったよね!?」


 現在進行形で走っているカイは、両手にリンカを抱えながら足を動かし続けている。


 つまるところ、お姫様抱っこの形である。


 そんなことを気にしている場合ではないことは分かっているし、誰に見られるわけでもないが、彼女の内の羞恥心が刺激されるのが感じ取れる。


「…もぉっ!!《氷盾(アイスシールド)》!」


 現在のカイは、両手でリンカを抱えているため大剣による防御体勢が取れない。なので敵への対処は彼女に一任し、自分は動くことに集中している。


 今も二人を挟むように盾が出現し、殴りかかろうとしていたオークの拳や棍棒を直前でせき止めている。


「っぶな!?」


 カイも移動にばかり意識を向けているわけではない。防御ができないとはいっても、繰り出される攻撃をかわすくらいのことはできるので、そちらは自分の領分だ。


 自分たちの真上を通り過ぎた得物をかがんで回避しながら、トップスピードを維持し続ける。


 かなりきついが、これで事態が好転させられるというのなら文句など無い。



 あと、なぜカイがリンカを抱きかかえているのかというと、効率の問題からこうなった。


 カイは大剣を扱う戦闘スタイルなので、AGIはそこまで高いわけではないが、リンカと比べてしまえばカイの方が数値は上になる。


 なので最初は肩に抱えていこうかとも思っていたのだが……後々文句を言われる予感がしたので、それは断念した。


 残った運び方としてはいくつかあったのだが、これが最も早く安全だったため、今の様子に落ち着いたというわけだ。


「続々と集まってくるな……。…? この音は……上か!」


 何かが風を切るような音が耳に入ってきたため、違和感と危険に対する嗅覚に従って立ち止まると、どこかから巨大な丸太が凄まじい轟音と共に落ちてきた。


 間一髪で躱せたからよかったものの、あのまま走り続けていたら押しつぶされていたと思うとぞっとする。


「後ろから投げてきやがったな……。どんな筋力してんだよ…」

「さすがにあれは防げないかな…。多分、盾の耐久力が持たないよ」


 足では追い付けないからと、それ以外を使った妨害工作を行うのは理解できる。


 しかし、そこらにある丸太を担いでさらに俺たちのいる地点まで投げ飛ばすなど、脳筋がすぎるだろう。


 だが、それによって思わぬ足止めを食らってしまったのは確かだ。先ほどまで全速力で駆け抜けていたが、そのスピードを封殺されてしまった。


 当然すぐにギアを上げていこうとはするが、一度下がってしまった速度を再び上げるのには少なからず時間がかかる。



 ───ほんのわずかな時間さえあれば、やつらには十分すぎた。


「こんのっ! もうちょい手加減しとけ!!」

「全くもう!《氷床》、《氷盾》!!」


 見渡す限り囲まれてしまった……というわけではない。


 幸いそこまでの窮地には陥っていないが、前方と後方を塞がれてしまった。


 回り込めばすぐに抜け出せるかもしれないが、そうすればすぐにでも攻撃を行ってくるのは目に見えている。


 リンカも《氷盾》で前方から放たれた万力が込められた蹴りを防ぎ、《氷床》で後続のオーク達が合流する時間を遅らせてくれてはいるが…それも時間稼ぎにしかならない。


「そんなっ…!」


 盾は一撃で破壊され、追撃が俺たちを襲い掛かってくる。


 《氷床》の方は上手く機能しているようだが、いずれはあちらも突破されてしまうだろう。



 いくつも対策を講じても、即座に数の暴力で上回られてしまう。


「仕方ないか…。《身体強化》っ!!」


 ここが正念場だと意識を切り替え、自身のカードを切る。


 できることなら逃走手段として温存しておきたかったが、こいつらを片付けられなければ話にもならない。


「少しは効くだろ……! いい加減痛みでも感じてろっ!」


 武器は使えない。なので移動の勢いを利用し、回し蹴りをやつらの足元に叩き込む。


 なるべくリンカに負担をかけないよう、激しい動きは最小限に控えながら油断している個体を狙っていく。


「ブモアアアアアア!?」

「バオオオオオオオオオッ!?」


 効果は覿面。やつらは背丈が巨大ゆえに、足元への注意が散漫になりがちだ。


 加えて、自身の真下にいる俺たちを攻撃しようとすれば、それは自分をも巻き込む自爆と何ら変わらない。


 蹴りの威力はそこまでのものではないが、今の俺は《体術》によって武器を介さない攻撃には上昇補正がかかっている。


 致命傷こそ与えられないが、意識をかき乱して冷静さを失わせるには十分だろう。



 それに…とどめを刺すのは、俺の役割じゃない。


「ここっ!《氷棘(アイスニードル)》!」


 いつの間にか大人しく抱えられながら、タイミングを計っていたリンカは、最高の瞬間にその真価を発揮させた。


「ブグボアッ!?」


 一体の顎へと直撃した刺状の氷は、その意識をブラックアウトさせていった。


「脳震盪か! やるな!」

「えへへ…。上手くいくかは一か八かだったけど、成功して良かったよ!」


 まだHPが残っているのか、体は光の塵へと変貌せずに残っているが、起き上がってくる気配はない。


 あの様子なら、戦力としてはいなくなったも同然だ。


 数少ない戦果ではあるが、これがわずかな希望であることは間違いない。


「リンカ。短剣を持ってるよな? 貸してもらってもいいか?」

「いいけど…どうするの?」

「ありがとな。…こうするのさっ!」


 鍛冶屋で手に入れた《水静の短剣》を手渡され、握った柄を逆手持ちの要領で構える。


 大剣の重量を片手で支えることは不可能なため、素手で対応していたが短剣ならば話は別だ。


 これならリンカを抱えながら振るえるし、殺傷力も格段に上がる。


「ふっ!」


 携えた短剣でやつらの足を切り付け、機動力を奪っていく。


 理想とすれば足の腱でも切れればよかったのだが、あいにく俺はそこまでモンスターの生態に詳しいわけではない。


 体のどこに弱点が潜んでいるかなんてわからないので、とにかく威力を重視して深く刺し込み、されどすぐに引き抜いて次の獲物をターゲットにしていく。


「この戦い方がベストっぽいな。何も体力をゼロにするまで付き合う必要はなさそうだ」

「とにかく追ってこなければ障害でも何でもないからね…。あ、《氷棘》!」


 徐々に会話をする余裕も生まれてきた。まだまだ優勢とは言えないが、それでも混戦の中での立ち回り方は分かってきた。


 リンカの《氷棘》は眼球を狙って打ち放ったようだが、着地点がずらされたようで鼻に着弾して終わってしまった。


 だが苦悶の表情を浮かべているし、戦線復帰を果たすには時間を要するだろう。


 完璧とまではいかないものの、上場の結果だ。



 ───そして、これで今近くにいたオークは軒並み行動不能に追い込めたはずだ。


 まだ遠方を確認すれば多くのオークが残っているが、距離を考えればそいつらが駆けつけてくるよりも、俺たちが逃げ切る方が早い。



 勝てる。全員無事に生還することができる。


 …その確信があったからこそ、やつらの悪辣さを見抜くことができなかった。


「…っ! カイッ!! あの子がいない!」



 思いもよらない展開。事態は急旋回を始めてしまった。



別にふざけてお姫様抱っこしてるわけではないんです。効率の問題から仕方なくそうなっただけですよ?えぇ、そうですとも。


やっぱり乱戦ともなると、真正面から立ち向かうよりも多少搦め手の方が効果が高くなりますよね。



そして、最後のリンカの叫び。一体何があったのか。




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