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Record of Divergence ~世界の分岐点~  作者: 進道 拓真
第二章 自然の通過点
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第五十四話 救命と前提


 リンカが派手な魔法をぶちかまし、オークはその対処と次なる魔法への警戒で手一杯となっている。


 叩き込んだ場所も良かったかもしれない。狙ったポイントは少女のいる建物とは真逆に位置しており、やつらの意識をそこに向かわせることにも成功している。


 思った以上の効果。これならばすぐに駆け付けることもできる………。



 そう思った矢先、冷静さを取り戻した個体が俺たちを補足し、こちらに向かってくるのが見えた。


(もう現状を飲み込みやがったか…! でもあの距離なら、俺たちが着く方が早い!)


 オークは筋力こそ脅威だが、自らの重さによって速度は鈍足だ。


 よって、あいつは無視しても構わない。


 そうして意識を眼前に戻した時、二体のオークが居座っていた。


「なっ!? いつの間に来やがった!」


 直前までその場には誰もいた覚えなどない。まさか、建物の死角で見えなかった箇所に潜んでいたというのか。


 一体ならばまだしも、二体ともなれば振り切っていくことは難しい。


 …速攻で終わらせるしかない。時間はかけずに倒す!


「リンカ!!」

「《氷縛(アイスニードル)》!」


 阿吽の呼吸によって互いの意図を汲み取り、彼女は俺の求める最適解を出してくれた。


「どけっ! はぁっ!!」


 水平に構えた大剣が捉えるのは、敵の喉元。どれだけ強靭な肉体を誇っていようとも、急所を突かれれば大ダメージは逃れられない。


 一撃で沈めることこそできなかったが、この攻撃にはひるんだようで足を下げて後退しようとしている。



 ───だが、ここにいるのは一体のみではない。


 いくら倒せたとしても、敵は無限に思えるほど湧いてくる地獄なのだ。


 その証拠に、もう一体のオークが俺めがけてその手に持っていた棍棒で殴りつけてきた。


「ぐっ!!」


 ガードが間に合い、もろに食らうことは避けられたが、衝撃でかなりの距離を吹き飛ばされた。


 いくら覚悟を決めたとしても、実行する際にミスは出るものだし予定外の出来事なんていうのは当たり前に起こることだ。


 だが、走り抜けるはずだった進路を邪魔されて、その上吹っ飛ばされことで目的地まで遠のいてしまった。


 簡単にいくとは思っていない。…それでも、この厄介さは想定以上だ。


「お前に構ってる暇は、ない!!」


 足を切り付けて機動力を奪おうとするが、深くまで切り付けることはできなかった。ほんのわずかな手傷を負わせる程度で終わってしまう。



 いつやってくるかわからないタイムリミット。あの少女がいつ危機にさらされてもおかしくない。


 その事実は、俺に必要以上の焦りを与えてくる。


 冷静さを保とうとするが、太刀筋は鈍り、振りかぶった後に隙が生まれてしまった。


「ブアアアアアア!!」


 わずかに生じた間隔を、正確に打ち込もうとしてくるが………俺だって、ここには一人で来たわけじゃないんだ。


「《氷棘》!」


 背後から放たれた援護射撃。それはオークの顔面を直撃し、棍棒の軌道をずらすことに成功した。


「ナイスだ! 助かった!」


 リンカの魔法により敵が体勢を崩した瞬間を見計らって、彼女との開いてしまった距離を詰める。


「私も全部を助けられるわけじゃないんだから、気を付けてよ?」


 耳が痛い話だが、先の攻防は結果を急ぎすぎた。


 それで俺が死んでしまえば、今度こそ助けられる確率は低くなってしまうのだから、無意味な特攻は控えるべきだった。


「あぁ。…けどやつら、数が多すぎるな。もう大部分は集まってきてる」


 この騒ぎを聞きつけたやつらも、黙ってやられてばかりではいられないと言わんばかりに走ってくるのが見えている。


 ぶっちゃけ、あれを全て相手取るのは無理だ。それこそ、今は力量が足りなさすぎる。


 この戦いの勝利条件は少女を救うこと。そして、その前提条件は決して正面から立ち向かわないことだった。


 交戦してしまった二体のオークは進路をふさがれたことと、焦りによる判断力の低下で剣を交えてしまったが……まともにやり合っても勝てないんだ。


 リンカの広範囲攻撃では出力が足りず仕留めきれない。俺は言わずもがな、個人戦闘に長けた能力であり連戦ともなればいずれは押し負ける。


 ゆえに、一度として戦うことなく逃げ切ることを念頭に据えていたのだが……もう、それも叶わないだろう。


 これだけ敵に集まってこられてしまえば、戦闘の回避など不可能。



 さて、どうしたものか……


 実行できる案としては、三つほどある。


 一つは、一直線に少女の元まで駆け抜けていく。


 当然邪魔されるだろうし、立ちはだかる壁は厚いなんてものではないが……俺たちの戦術を考慮すれば、できなくもない。


 二つ目は、全ての敵と戦ってから救出を目指す。


 要は殲滅させてから目的を果たしに行く、ということだが、これはあまりにも現実味が無さすぎる。


 俺たちが最後まで立っていられる可能性もゼロではないだろうが、限りなく低い可能性に賭けるのは博打としても最終手段だ。


 そして三つ目……即座に撤退する。


 俺たち()()ならば、すぐにでも逃げられる。やつらも追っては来るだろうが、振り切ることはそう難しいことでもない。


 …自分で考えておいてなんだが、これは論外だ。


 何のために身を乗り出した? あの子を助けるためだろう?


 それなのに…仲間まで危険な目に遭わせているというのに、俺が真っ先に折れるなんてことはあってはいけないんだ!



 実行するとすれば、最初の案か二つ目のものだ。


 できれば二つ目の策は、どうしようもなくなった時まで取っておきたい。


 せっかく戦力を温存したまま事態を解決できるかもしれない手段が残されているんだ。地道な総力戦に持ち込むのは、それが失敗に終わってからでも遅くはない。


(距離は……60メートルと少しってところだ。数秒もあればいける)


 現実であれば遠すぎる距離も、強靭なステータスを持つここでなら障害にもならない。


「リンカ。あの子のいるところまで、一点突破でいこうと思う。…ついてきてくれるか?」

「当然! どこまでも一緒に行くよ!」


 一切の迷うそぶりさえ無い。考えが潔いところは彼女の美点でもあるが、ここまではっきりとしているのには思わず笑ってしまう。


「何で笑うの……面白いことなんてなかったでしょ?」

「いや…お前のそういうところが良いなって思ってさ。特に意味はないんだ」


 こんな危機的ともいえる中で、凝り固まっていた緊張がほぐれていくようだった。


 自分でもおかしいとは思うが、それ以上に満たされるものがあったんだ。


「ならいいけど…早く行くよ! 助けるんでしょ?」

「準備はオーケーだ。いつでもいける!」


 さらに追い込まれた劣勢。これを覆すための一手が打たれるのだった。



最優先事項は交戦ではなく救命。それを履き違えることのないよう意識をめぐらせていく。


いきなりの劣勢から始まったこの舞台。ここから反撃の一手を打ち込んでいきます。




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