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Record of Divergence ~世界の分岐点~  作者: 進道 拓真
第二章 自然の通過点

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第五十三話 最悪の挽回


「嘘、だろ……」


 信じたくない事実。この状況下で、あそこに人が捕まっているだなんて誰が思えるか。


「間違いなくいたんだよ。…あそこに建物が見えるでしょ?」


 指さされた先にあるのは、柱がむき出しになった建造物。ここからでは観測しにくいが、あそこに捕らえられた子がいるというのか。


「いたのは女の子で、眠ってるのかはわからないけど意識はないみたいだった。でも、あの村で見た覚えはなかったから別の場所から迷い込んじゃったんだと思う」


 パラカから村で行方不明者がいるなんて話は聞いたことが無い。それに、オーク出現の報せを届けてから森に入ってしまった子供はいなかったはずだ。


 …ということは、俺たちが来る前に捕まってしまったというのか。


 聞いた限り、外傷は与えられていないようで柱の近くで放置されているらしい。


 まだ傷をつけられていないことには安心……いや、そんなことには微塵も安心なんてできない。


 そもそもモンスターが人を狙った時点で、ろくでもないことを企んでいることに違いない。


 オーク達の狙いは不透明ではあるものの、このままではあの女の子の末路は容易に想像できてしまうし、そんなことにさせたくはない。


「助けよう。…でもこれは、死地に飛び込むみたいなもんだ。リンカはついてこなくても………むぐっ!?」


 今からすることは俺の自分勝手な行動でしかなく、そこに彼女まで付き合わせることはない。


 むしろリスクを背負わせないためにも、待っていてほしい。そう思って放った言葉であったが、他ならぬ彼女の手によって物理的に止められてしまった。


「そんなの今更でしょ? それに、私だって助けたいの! ここまで来て仲間外れなんて許さないからね!」

「…そうか。なら、一緒に行こう! 絶対助けるぞ!」

「うん! あいつらの好きにはさせないんだから!」


 共に突撃することが決まり、いざという時には運命を共にすることにもなった。


 思うところが無いわけではないが、これも彼女の選択だ。


 そこに口出しをするのは彼女の覚悟を疑うことでもあり、二人の信頼を揺るがすことと同義だ。


 もう反論することもない。


 まぁそんな複雑な心境よりも、彼女と背中を合わせて戦えることへの心強さの方が何倍も高い。


 危険な目に合わせたくないなんて思っておきながら現金なものだが、感情は正直なものだ。


 これ以上なく頼りにできる相棒となら、あの大群にも立ち向かえる気さえしてくる。


 しかし、立ち向かうとはいっても完全な無策で飛び込むわけにもいかない。


 ひとまずは、簡単な作戦会議といこう。










「これが限度だろうな……取れる手も限られるし、これが最善のはずだ」

「できればもう少し煮詰めたかったけどね…。時間を無駄にもできない」


 仕上がった作戦は、初手による奇襲をかけて混乱を招き、その隙に少女を救出するという何とも単純な内容になった。


 リンカの言う通り、考えればより良いアイディアも浮かんでくるとは思うが、今回の最優先目標は討伐ではなく救出だ。


 まだ手は出されていないようだが、いつあの子が危機にさらされるか分かったものではない。


 時間も考慮すれば、この案が正しい……はずだ。


「俺が開始の合図を出すから、それに合わせて魔法をぶっ放してくれ。派手なやつで頼むぞ」

「特大の威力でいくからね! そこは任せておいて!」


 重要になるのは、初手の攻撃の威力。そこから発生する攪乱だ。


 次点で求められるのはスピード。やつらに対応される前に少女の元まで駆けつけ、追い付かれることなく逃げ切る。


 明らかに実行の難易度が高いミッションだが、やるしかない。



 救うと決めた以上、諦めるなんて道ははなから捨てているのだから。


(密集したタイミングで一気に仕留めちまいたいが、そう上手くはいかないか…)


 見た限りオークはそれぞれ分散して動いており、初撃でまとめて葬るということは難しい。


 できないというのならそれでいい。切り替えて次善策を講じていく。


 一つの策にこだわりすぎては、救えるものも救えない。最善の選択肢ばかりが常に正しいわけではない。


「あそこの周辺を狙ってほしい。少し範囲が広めだが、問題ないだろ?」

「むむむ……いけるね。結構絞り込めると思うし、一気にやっちゃうよ!」


 カイが指したポイントを、《寒固鳥》の視界共有で上空から見下ろして有効範囲を絞る。


 全滅させることは不可能。ならば、少しでも多くの個体を巻き込むことを優先して、射程範囲を引き上げることに注力する。


「よし……じゃあ、合図を始めるぞ。…3………2………」


 戦闘開始のカウントを数え始める。



 大事なのは初撃に乗じた初動だ。だからこそ、始まりの瞬間を逃してはならないと、神経をこれ以上ないほどに集中させていく。


「………1………ゼロッ!!」

「《千寒刃》!!」


 カウントが降りた瞬間、リンカは数ある魔法の中でも殺傷力の高い《千寒刃》を発動させた。


「「「「ブ、ブモオオアアアアアァァァ!?」」」」


 敵の影も見えない中で、いきなり氷の刃を浴びせられたオーク達は混乱しまくっているようだ。


 確認できる限り仕留められたのは3体。あとは5、6体がダメージを負ったようだが、致命傷には至らなかったか。


 その成果はさして重要ではない。この状況こそが、何よりの狙いなのだから。


「今だ! 突っ込むぞ!」

「うん! 援護は心配しないで!」


 この混乱に乗じて、二人は戦場に身を投じていく。



 勝利条件は少女の救出。それが成し遂げられなければ、俺たちの負けだ。



不意打ちからの突撃。混乱に乗じて突破を試みます。


捕らえられた女の子を救えるか、救えないのか。それはこれからの彼らの行動次第です。



それとリンカが《千寒刃》を使ってオークを仕留めていましたが、今回は広範囲に降り注がせることに重点を置いていたため威力は控えめになっています。


そんな縛りの中で数体を仕留められているので、初撃としてはかなりの有効打になっているでしょう。




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