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Record of Divergence ~世界の分岐点~  作者: 進道 拓真
第二章 自然の通過点

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第三十五話 相性差の突破口


 店を出ようとしたところをビリアに捕まった俺たちは、諦めて会話に付き合うことにした。


 だが、如何せん話のペースが長すぎる。


 当初は相槌を打って彼女の話に耳を傾けていたのだが、徐々に俺たちに関する話題になっていきこちらも話題を提供せざるをえなくなった。


 それだけならばいいが、何しろその好奇心が旺盛すぎる。


 誇張抜きに、一の話題を提供すれば五の質問が飛び掛かってくるのだ。



 さすがに精神的にも疲労が蓄積してきたため、一度席を離れて店を物色させてもらうことにした。


 ただリンカは、初対面との相手には緊張する節があるが、慣れてきた相手であれば気楽にコミュニケーションを取れる。なのでビリアとの会話を続けている。



「あの会話に対する体力は見習いたいところだけど……多分一生身につかないな」


 どこの国でも、世界が変わろうとも、女性が話好きであることは変わらないようだ。


 性別はあまり関係ないかもしれないが、カイからすればその無尽蔵の話題に感嘆するばかりである。




 店内を巡りながら見ていけば、その完成度の高さがうかがえる。


「ほんと…これだけのものがあるのに、何で客がいないんだろうな」


 どれをとっても出来栄えは見事の一言であり、店内の様子も綺麗に整頓されている。ここを見れば、どう考えても繁盛していてもおかしくない。


「やっぱり宣伝不足なのかね。あれだけじゃ店だってわかりにくいだろうし……」


 原因としては、ここが鍛冶屋だと証明するものがあの張り紙くらいしかないことで間違いない。


 ただそこに口出しをしても良いものかどうかが微妙なところだ。



 この状況も、彼らが望んで行っていることかもしれないし、何らかの理由があるかもしれない。


 少なくとも、事情を知らない第三者がやすやすと口を出すべきではない。



 そう結論付けると、再び物色を続けていく。


 片手剣、大剣、双剣などなど。刀剣類だけにも留まらず、防具も取り扱っているため見ているだけでも十分に見ごたえがある。


 自分に合いそうなものを探し、短剣を見ていると少し気にかかるものが目に入ってきた。



「これ…普通の短剣っぽいけど、なんで水色の線が入ってるんだ?」


 手に取ったのは、刃の部分が銀色に輝く短剣であり、その所々に水色のラインが浮かび上がっている。


 これまで様々な武器を見てきたが、このようなものは見かけた覚えがないため引っ掛かったのだ。


「何か特殊な効果でもあるのか? でも、見ただけじゃわかんないな」


 こういう時は素人目に任せずに、専門の者に聞くのが一番だ。それを心得ているカイはカウンターに腰掛けているビリアに聞きに行く。


「なあビリア。この短剣について聞きたいんだが、いいか?」

「お? なんか買う気になってくれたのかな? ……って、こりゃまた珍しいものを持ってきたね」


 商売のチャンスと思ったのか、ニヨニヨとした笑みを返してきたが、その短剣を見て表情も素に戻る。


「やっぱ珍しいものだったのか。ちょっと気になってさ」

「珍しいとはいっても、激レアってほどではないけどね。それは《水静の短剣》だよ。材料に水属性が秘められた水鉱晶が使われていてね、水属性を使った攻撃が可能なのさ」


「武器そのものに属性が付与されてるのか……そりゃ便利だな」


 これまで属性が付与された武器というと、武器の所有者が直接属性を纏わせているものがほとんどだった。


 だが武器そのものに属性が与えられているのにも、また違った利点がある。


 例えば、自身の有する属性とは全く異なる属性を用いた攻撃が可能となるし、それを使えば意識外からの奇襲だってできる。


 面白そうだと思って手に取ってみたが、想像以上に便利そうな代物だ。


「リンカ、この短剣使ってみないか?」

「え、私? カイが使った方が良いんじゃないの?」


 まさか自分の武器を選んでいたとは思っていなかったのか、気の抜けた声で返事を返す。


 けれどもリンカの指摘ももっともだ。彼女は純粋な魔法職であり、通常は接近戦など行わない。


 盗賊との戦闘では接近戦じみたこともしたが、通常は自身の懐に入られれば終わりなのだ。


 だがカイは、リンカからその話を聞いてから彼女の弱点を補えるものはないかと考え続けていた。


 彼女の弱点は、わかりやすいもので言ってしまえば炎属性だ。氷属性による魔法は強力だが、それが溶かされてしまえば途端に無力と化してしまう。


 属性間の相性差はどうしようもない。両者の実力に圧倒的な差でもなければ、それを覆すのは非常に難しい。



 しかし逆に言えば、解決策としては単純だ。有利な属性を持ってしまえばいい。


 炎属性に有利な属性。パッと思い浮かんでくるのは水属性あたりか。



 水属性を取得するための方法は様々だが、最も簡単なのは街に存在する魔法具屋で水属性の魔法が書かれている魔法書を購入することだ。


 魔法書は非常に高価なものであり、普通であれば手が出ないが………今の資金を考えれば、ギリギリ手が出せないこともない。


 そしてその魔法書を読めば、晴れて水属性も会得できる……が、これを実行するためには一つ大きな問題があった。



 それは肝心の張本人であるリンカが、氷属性以外の魔法の取得を嫌がったことだ。


 まさかここにきて、彼女の拒否が出るとは予想していなかったカイも狼狽したが、事情を聞けば納得した。


 リンカ曰く、氷属性以外の魔法を取ればそこにも修練をかける必要が生じ、一つの属性に特化させた時と比べれば比較にもならないほどその効果は弱体化する。


 器用貧乏となり戦力を落としてしまうくらいなら、このままでいい。



 それに何より………氷属性が一番好きだから他のはいらない、とのことだった。



 最後の弁明に思わずほっこりしてしまったが、問題がそのままであることは変わりない。


 ではどうしたものか……と悩んでいた時に出会ったのが、この《水静の短剣》だ。


 これであれば、リンカ本人が別の属性を会得する必要もない。


 そして炎属性に対する対策も可能となる。まさにパーフェクトである。


 そう説明し終えると、リンカも事情が理解できたのかうんうんと頷いている。


「なるほどねぇ。確かに対策は必要だと思ってたし、ちょうどいいかもね」

「だろ? 短剣ならそこまでかさばらないし、護身用としてもぴったりだと思うんだ」


 氷以外の属性を持つことは好まないが、これなら自分が会得をするわけではない。


 それならば構わないという考えに至ったのか、彼女も購入に賛同してくれた。


「せっかくだし買おうかな。ただ近接武器の扱いは慣れてないから、そこは訓練が必要だね」

「それは俺も付き合うよ。多少は教えられることもあるだろうし」


 意見はまとまった。ビリアに購入の意を伝え、値段を聞く。



 価格としては56万ゼル。他よりも多少割高だったが、性能を思えば文句はない。


「じゃあこれで。ほれ、リンカ。しっかり持っておけよ?」

「うん! また今度使い心地を試さないとね!」


 購入した短剣を手渡す。新たな武器を手にして新鮮な感情になったのか、やる気をみなぎらせている。


「せっかくだから試していくかい? 庭に専用の的があるから使っていってもいいよ」


 ビリアがありがたい申し出をしてくれる。その言葉に甘えることにして、的があるという場所へと向かっていった。



属性武器にはロマンがある。異論は認めます。


炎属性対策としてパッと思い浮かぶものが水属性だと言いましたが、別にそれ以外の属性でも対処自体はできます。


例えば土属性で岩壁をつくって炎自体を防ぐこともできますし、風属性の上級者であれば風圧によって炎の指向性を狂わせることも可能です。


単に氷属性との相性が悪すぎるというだけで、使い方によってどの属性でも対策は打てるようになってます。




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