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Record of Divergence ~世界の分岐点~  作者: 進道 拓真
第二章 自然の通過点

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第三十一話 品質の秘訣


 思いもよらないところで自らの恥ずかしい秘密を暴露されたリンカだったが、ようやく気分も落ち着いてきた。


「恥ずかしかった……もう何もないよね!?」


 さすがにこれ以上何かあれば、耐えられる自信がない。先ほどまでの件ですでにお腹はいっぱいだが、万が一のために聞いておく。


「…さすがにこれ以上はもうない………あとはぬいぐるみを抱きしめながら幸せそうに眠るリンカの写真くらいしか……」

「なんでそんなのあるの!? 私ぬいぐるみなんて持ってなかったよね!?」


 これまた予想外の方向からのパンチが飛んできた。これ以上はないと思っていたところへの痛恨の一撃。


 リンカの精神へのダメージも甚大である。


 しかし冷静に思い返してみても、リンカはストレージにもぬいぐるみなんて入れた覚えはないし、購入した記憶もない。


 そもそも抱きしめる対象もないはずなのだが………


「……ぬいぐるみ自体は私のもの……ただリンカに少し貸してみたら抱きしめながら寝始めたから…そのままにしてみた………」

「あぁぁ………そんな……」


 犯人は目の前にいる者だった。まさに灯台下暗しである。


 意外にもオルタはかわいいものを好んでおり、ぬいぐるみをリンカに与えたのも単なる思いつきからだったのだが………


 予想以上に良いものを見ることができて大変満足である。



「うぅ~…でっ、でも! 写真に残す意味はないよね!? というかなんで撮ってるの!?」


 話題のインパクトが強すぎて流しそうになったが、その決定的瞬間を写真に収められていたことをリンカは聞き流していなかった。


「愚問……あんな姿をただ見るだけなんてもったいない……記録に残しておくのは当たり前………」

「当たり前じゃないよ!! そんなの残さなくていいから!!」


 正直に言えば、そんなものは即刻処分してしまいたいが、肝心の写真の現物のありかが分からない。


 オルタならば、むやみやたらに伝聞するような人柄ではないことは知っているが、それでも気分は重くならざるを得ない。


「というか…カイはこのこと知ってるの? 見られてたりしてないよね…?」


 もし頼りにしている相棒に、こんな姿を見られていれば末代までの恥であることは間違いない。


 見られていない可能性が低いことなど理解できるが、それでもわずかな期待を込めて聞いてみる。


「……カイは少し離れた場所で休んでいたから………詳しくは知らないと思う………」


 もたらされた返答に安堵が浮かんでくる。何とか最悪の事態は免れたと安心してしまったが………現実とは無情である。


「………ただ…私がぬいぐるみを抱えさせたら……気まずそうに視線を逸らしてた……」

「終わった……! 絶対見られてるやつだ…」


 目を逸らしたとは言っているが、それはしっかり把握していることと同義である。


 情けない姿に見かねて呆れ、目を逸らされたと思い絶望するが……




 実際この時のカイは、オルタがリンカにぬいぐるみを抱えさせるところを見てしまっていた。


 ただリンカの解釈と異なっている部分があるとするならば、カイは別に呆れたわけではなくとても幸せそうに眠る彼女の姿に気まずくなり、目を逸らしただけである。



 もちろんそんな事情を知らないリンカは、その背に背負う影が増したような気がする。


 ただこれ以上は本当に何もないので、謎の暴露大会は一旦の終了を迎えた。











「……じゃあ気を取り直して……実験に移る………」

「気を取り直すも何も、原因はオルタだと思うんだけど……まぁいいや」


 なんだかんだとひと悶着あったが、ようやく本題に入ることができる。


 ここまで来たのもひとえに、解毒薬製作から端を発した疑問を解消するためだったはずだが、忘れかけるところだった。


 まぁこのごたごたの原因は全面的にオルタにあるため、しっかりと反省してもらいたいが……今はいい。


 ともかく早々に実験を開始してしまいたい。


「……何種類か薬草を用意してみた……これに魔力を纏わせてみせてほしい……」

「うん…やってみるね?」


 そう言って魔力の放出を開始する。出された魔力は複数の薬草に向かっていき、その周囲を包むように纏わせられた。


「こんな感じかな? どう?」

「…ひとまずこれで試してみる……待ってて……」


 いくつか薬草を手に取り、ポーションを作ってみる。作業は順調に進み問題なく進み、完成させることができた。


「…ふむ、効果は問題なさそう……ただ……」

「ただ?」


 見た限り品質はどれも《下級》。よくて《中級》といったところだ。


 材料や条件、使った器具などもあの時と同じように揃えているが、結果だけが異なっている。


 何かまだ足りていない要素があるのかと思い、一つずつ洗い出してみても思い当たる物はない。



 やはり偶然の産物でしかなかったのか……。そう思えてくるが、ふとした思いつきで別の材料を取り出してみる。


「……ごめん、リンカ……今度はこれにやってみて……?」

「え? これってあれだよね? 別にいいけど…」


 オルタが持ち出してきたのは、二人にとってもなじみ深い『カラタケダケ』だ。


 これを実験に使うのは経緯を考えてもどうかと思ったが、もう打つ手もないのでやるだけやってみようという考えだ。


 再びリンカに魔力を纏わせてもらい、製作に移る。



 そうして完成したアイテムの状態を確認してみると、なんと《上級》の品質に仕上がっていた。


「……! ……できてる……なんでこんなことが………?」


 今行ったことは、直前と何も変わらない。それなのにここまで差が出るのは…………。



 そこで思い至ることがあった。これだという確信があるわけではないが、確かめる価値はある。


「……リンカ……今魔力を纏わせる時……どんなイメージをしていた……?」

「イメージ? あまり意識してなかったけど…なんとなく内側まで届くように…とかそんな感じかな?」


 それを聞いて疑念は確信へと変わった。



 品質が急激に向上した原因。それはやはり魔力によるものだった。


 ではなぜ、最初と今の試作で差が出たのか。


 それは、魔力の浸透率による違いだ。



 普通魔力を物体に纏わせるというと、周囲を包み込むようなイメージで行うことがほとんどだ。


 だが、リンカは今回、浸透させるようにしたと言っていた。ならば品質を向上させるには、物体の内側まで魔力を干渉させるという条件が必要だったということになるだろう。



 だが、これが分かっても容易にできるものではないことも分かってしまった。


 魔力を内側まで送りこむためには、その対象に関する詳細な情報が必須になってくる。


 生産系統の職業持ちならばそういった知識も豊富だろうが、肝心の魔力干渉は魔法職でなければ難しいだろう。


 つまりこれを当たり前のように行うためには、知識と魔力、その二つを兼ね備えておかなければならない。


 なんという無茶ぶりか。魔法職は素材収集に興味を示さないことの方が多いし、生産職の者達も魔力なんかよりも技術を磨こうと躍起になることがほとんどだ。


 今回はリンカという魔法職を持つ者が、素材収集というものに興味を持ってくれたからこそ実現した奇跡だったのだ。


(……でも、諦めるつもりもない……できないのならできるようにすればいい……!)


 確かに困難でしかない条件だ。だが、不可能ではないのだ。



 ならばその道を切り捨てる理由にはならない。むしろこの原理を解明することができてから、やる気は満ち溢れている。


(まずは最大魔力量の増加……そこから制御力も身につけないと……)


 これから自分に足りない点を補うために、より濃密な経験が必要となる。やるべきことは多い。


 だが、その苦難に対する不安はない。今はひたすらに、未来の自分がたどり着くであろう高みを想像して胸を高鳴らせていた。



見出された活路。その手法は魔力による素材の活性化。


容易ではなく、ものにするためには絶え間なき努力が必要ですが、そんなものは彼女には関係ないです。


道が開かれたのならば、突き進むだけという決意を固めました。




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