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Record of Divergence ~世界の分岐点~  作者: 進道 拓真
第二章 自然の通過点

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第二十九話 二対の行使


 あらかたの説明をし終え、その内容を反芻していたリンカはこの要が魔力の制御能力であることに思い至っていた。


「つまり、私の魔力を使ってオルタがスキルを使うってことだよね? ……そんなことできるのかな?」


 示されたものを疑うわけではないが、どうしても疑念が残ってしまう。


 そもそも魔力というのは、そう気軽に他者に譲渡できるものではない。


 魔力と一口に言っても、個々人によってわずかな差が存在する。そのため、無理やり譲渡しようとした場合は体の内側で異なる魔力同士が反発し合い酷い倦怠感を催すこともあるのだ。


 ゆえに他者へと譲渡をする際には、それぞれの魔力の波長のようなものを可能な限り近づけてから流し込む必要がある。


 その技術も非常に高度なものであり、おいそれとできるものでもない。


「……うん……だから今回は別の方法でいく……」

「別の方法?」


「……リンカには、私に直接渡すんじゃなくて……空気中に魔力を放出してほしい………それを私が使ってスキルを継続させる……」


 空気中に分散する魔力を使う。それならば成功率を上げることは可能だ。


 当然、自分のものではない魔力を用いるという点は変わらないため難易度は高いが、少なくとも反発による倦怠感が襲ってくることはない。


 このどちらかを選ぶなどすでに決まり切っているようなものだ。


「わかった、やろう! タイミングはどうする?」

「……タイミングはいつでも大丈夫……ただ早めにした方がいいから……放出したら教えて……」


 その言葉を皮切りに、自らに残存しているMPを練り上げていく。



 だが、ここで放出量に関して聞いていなかったことに思い至るが、あまり気にすることもなく全開でいくことにした。


(なるべく質を変化させて………オルタが扱いように……よしっ! 今っ!)


 体内に留めていた魔力を周囲の空間に一気に解放する。その余波で周りの草むらまで揺れるような始末だ。


「………っ! …リンカ、これちょっと多い……!」


 何やらオルタが困惑しているような気もするが、気にすることもなくただひたすらに放出のみに意識を割いていく。


「もっともっと…! まだまだ足りない……!」


 少し暴走気味のようにも思えるが、周囲の魔力濃度はその濃さを増していく。











 オルタの打開策が実行されてすぐ、彼女は自身の不手際を思い知った。


 そう、リンカに魔力の放出量に関して話していなかったのだ。


 だがそれは大した問題ではない。最初はその量に面食らっていたが、十分スキルの運用が可能なだけの魔力濃度に満ちている。


 ここからは自分の仕事だと気を引き締めなおし、空気中に分散している魔力に干渉していく。


(……? …想定より操りやすい………あの短時間で質の調整をしてくれたのかな……)


 実際に触れてみれば、想定外の干渉のしやすさに驚く。おそらくリンカが波長の調整をしてくれたのだろう。完璧なものとは程遠いが、それでも格段に使いやすくなっている。


「………《接結混合》…!」


 すでに作業のほとんどは終わっている。最後はわずかな調整を済ませて液体と混ぜ合わせるだけだ。


 気を緩めることなく、全体の比率を確認していく。素材の配合率、不要個所が誤って入っていないか、均一な状態であるか。


それらを見終えると、事前に用意していた清潔な液体を取り出し、粉末状の薬の元を注入していく。



 ここまでくればあとは簡単だ。入れられた粉末が溶けきるまで混ぜ合わせ、完全に一体化したのが確認できれば完成となる。


「……よし……これでいいはず……」

「ほんと!? やっとできたんだね…!」


 長い道のりではあったが、何とか完成までこぎつけられた。これでようやくカイを治すことができる。


「……一応状態だけ見ておく………特に問題はない…かな…? ……ん?」

「どうしたの? まさか、問題でもあった!?」


 どこか気になることでもあったのか、解毒薬が詰まっている小瓶を見つめ続けている。その様子に不安に駆られるリンカだったが、帰ってきた返答は真逆のものだった。


「……違う……状態が良すぎる……素材の価値は低いものばかりだったのに……これは《上級》の品質になっている……」


 上級といえば価値としては上から二番目。よほどの効果を秘めているはずだ。


 元となったものはそこまで高価なものを使った覚えがないので、何が要因でここまで高められたのか分からないが、まぁ良いものであることに越したことはない。


「……まぁ今はそんなことはいい……早く使ってあげて………」

「本当にありがとうね! 早速使ってみる!」


 小瓶を受け取り、カイのそばへと駆け寄る。いまだに苦しんでいるが、その苦しみもこれで終わらせられるはずだ。


「カイ、解毒薬ができたから飲んで…これで治るはずだから…」


 少し起き上がらせて口に流し込んでいく。その顔色は色を失っていたが、徐々に生気が戻っていく。


「あぁ……? 吐き気が消えた……これって…「カイっ!!」ってうお!?」


 自分の体調が回復した実感がまだ感じられないのか、手足を軽く動かしていたカイだったが唐突に飛びついてきたリンカに腹を打たれた。


「いっってぇ……! 何すんだよ……ん?」

「よかったよ~…無事に治って…」


 まだ自身の胸に顔をうずめているため、よくわからないがその声は若干震えており泣きそうになっている。


 無理もない。自分の相棒がいきなり倒れたかと思えば、そこから気の抜けない出来事の連続なのだ。


 ようやく事態が丸く収まり、緊張の糸が解けたのだろう。顔を上げてくればその瞳は涙目であり、よほど心配してくれていたことが分かる。


「悪かったな。あんな間抜けにも毒にやられちまって」

「……ううん、悪いのは私だもん。謝るのならこっちだよ…」


 カイとしては気にもしていないが、この騒動の原因は自分だと彼女は考えているようだ。


 何とか声をかけてやりたいが、上手い返しも思いつかない。どうしたものかと考えていると今回のもう一人の功労者が声をかけてきた。


「………無事に治ったようでよかった……一安心……」

「オルタか。お前にも面倒かけちまったよな、悪い」


 彼女にも多大な世話になった。いつか受けた恩は返さなければいけないだろう。


「……それに……私も得たものがあったし…」

「へぇ、なんかいいことでもあったのか?」


 どうやら彼女はこの騒動の中でつかんだことがあったようで、少しばかり上機嫌のように思える。


 その内容が気になったため聞いてみたが、「……今は秘密」だそうだ。


 まぁ無理に聞き出そうなんて思っていない。それがマナー違反だってことくらいは理解しているし、話してもいいと思ってもらえるまでは我慢しよう。


 そんなこんなで、俺を巻き込んだ毒による騒動は一旦の幕を下ろした。



ここでひとまずの終息。


まだ少し疑問も残っておりますが、それは追々明らかになっていきます。




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