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Record of Divergence ~世界の分岐点~  作者: 進道 拓真
第二章 自然の通過点

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第二十八話 信頼への挑戦


 「レコダイ」における生産系統の職業は多岐に渡っている。


 武器・防具の製作を担う〈鍛冶師〉。一時的なステータスへのバフや敵対対象へのデバフを可能とするアイテムをつくりだす〈錬金術師〉など。


 彼らが生み出すアイテムには品質という概念が存在し、それぞれの職業ごとに設定された確率によってそれは決定される。



 では、オルタの有する〈薬調師〉はどうなのか。


 〈薬調師〉は主に回復アイテムとなるポーションを生産する職業であり、その者の力量によって、()()()は《低級》から《最上位》までの品質を生み出すことが可能だ。


 もちろん、《最上位》の品質を作るのは容易ではない。


 素材の状態や価値によっても大きく左右されるのが現実であり、そればかりは力量のみに収まらず生産者当人の素材との巡りあわせにもよって変わってくる。



 だが、理論上は価値の低い素材から高品質のものが出来上がることもあるのだ。


 虚数の彼方よりも低い確率であっても、それが実現された例は確かに存在している。



 ならば、それはどういった条件で出来上がるのか。


 それは────








「………《調合》……!」


 スキルが発動し、周囲は水色のオーラのようなものに包まれていく。


 思わずその光景に呆気に取られてしまいそうになるリンカだったが、オルタの方を見ればよほど集中しているのかこちらの目線も意に介していない。


(私が邪魔したらだめだよね……とにかく雑音を立てないように、周りを見ておこう)


 そうしている間にも、慣れた手つきで作業は進んでいく。素材から必要箇所を取り分け、時にはスキルも用いて分離させていく。


「………《差異剥離》…………《接結混合》……」


 数秒前までバラバラだった素材たちが一瞬で粉状になり、それらを混ぜ合わせていく。


(………分量を間違えるな……バランスを意識し続ける……!)


 この素材を攪拌させる時間は、どれだけやっても慣れることはない。少しでも手元が狂えばそれだけで品質が下がってしまう。


 本来であればそんなリスクを冒さずとも完成させることはできるが、今回は万全を期しておきたい。だからこそ、この手法を選んだのだから。


 常に一定のペースで、完全に混ざり合うように。それだけを考えながらスキルを行使する。



 それでも現在、また別種の想定外がオルタを襲い始めている。


(…もう魔力が尽きてしまう……! アイテムを使っている余裕なんてない……!)


 オルタのステータスはDEXが重視された上昇率であり、一般人と比べれば膨大だが本職の魔法職などと比較すれば魔力の総量は少ない。


 現在発動している《調合》を始めとした能力はMPを媒介にして動かしている。


 ゆえに、MPが尽きれば自動的に作業は中断されてしまう。ここにきてそれだけは避けなければならないことだ。


(……でもどうしたら……打つ手も……)


 手を止めれば間違いなく作業は失敗する。かといって魔力の回復に努めれば集中力が乱されてしまう。


 どちらに進もうとも事態は深刻でしかない。どうにかしなければならないが、どうにもならない………。そう思ったとき、活路を開く声が聞こえてきた。


「……オルタ! 何か手伝えることはない!?」


 純粋な魔法職である彼女が、この場での突破口を開くための鍵だった。










 途中までおとなしくカイの体力回復を行っていたリンカだったが、ふとオルタの方向を見れば彼女にしては珍しく焦っているかのような雰囲気を漂わせていた。


(何かあったの……? でも今は何もしないでいたほうが……)


 ここまで、極力彼女の気を散らさないように細心の注意を払ってきた。


 それでも今、切迫しているように見える者を放っておくことが果たして正しい判断になるのか。


 数秒の思考の中で導いた結論は………


(…声をかけよう。それをしないで終わってしまったら、きっと後悔する)


 たとえ作業を遮ることになっても、手助けをすることに決めた。



 そうと決まれば行動は早い。カイの状態に少しの猶予があることを確認し、できることはないかと問いを投げかけた。


「オルタ! 何か手伝えることはない!?」










 無意識のうちに意識の外側へと外していた、彼女の存在。だが今は、その声がとてつもなく大きな救いとして聞こえてきた。


「いきなりごめんね…! でも、何か焦っているようにも見えたから…」

「………謝らなくていい……かなり追い込まれてるのは事実……」


 打開策がないわけではない。先ほどまで考えていた案はそのためのものでもあった。


 それでもその案はリスクがあったため選択することはできなかったが……。



 けれどリンカが協力してくれるのならば、全てを丸く収めることもできるかもしれない。


 その可能性があるならば、やらない手はないだろう。


「…リンカ、手を貸してほしい……!」

「もちろん! そのためにここにいるんだから!」


 心強い返答だ。これ以上ないくらいに頼りになる。


そこから彼女へ、思いついた策を伝えていく。



 オルタの案はこうだ。


 現在の問題は自身のMPが尽きそうなこと。解決するためには回復する必要があるが、その余裕がない。


 回復できない魔力。だが今も消費はされ続けている。


 ならばどうすればよいか。




 答えは簡単だ。()()()()()()()()()()()()


 現在行使しているスキルは二つ。生成状態の情報を確認する《調合》と素材を攪拌するための《接結混合》だ。


 優先すべきは《接結混合》であり、これをリンカに魔力を供給してもらいそれをオルタが操作する。


 それでもこれが成功するかどうかはわからない。


 そもそも一つのスキルを二人で発動させることなど無いのだ。


 これが魔法であれば、他者の魔力を混合させて威力を増大させてから放つことも、実力者ならば可能らしいが……。



 生産系統のスキルに求められるのは何よりもその繊細さだ。


 それが失われる可能性の高い手法など、はなから試す価値もないということだろう。


 しかし今は、そんなことを言っている場合ではない。上手くいく可能性があるならば、それにもすがる。そう決めているのだ。


 第三者から見れば、無謀とも捉えられるような手法へと挑戦することが決まったのだった。



《調合》はMPを常時消費するスキルであり、その効果は素材同士の比率、腐敗状態の確認といった一見地味にも思えるものばかりですが、実際に扱う際には必須クラスの代物です。


なにせ、これを使わないとほぼ確実にアイテム生成は失敗すると言われているくらいですから。



途中で述べた《最上位》品質に関わることは、この後で語られると思うので、その時までお待ちください!




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