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Record of Divergence ~世界の分岐点~  作者: 進道 拓真
第二章 自然の通過点
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第二十五話 次なる一手


 なぜか治療の道具であるはずの薬によって死にかけたカイだったが、その後は無事に吐き気も収まり、効果が表れるのを待っているところだった。


 しかし────


「……状態異常の表記が消えない……やはりこれだけじゃ……」


 ポーションを飲ませてから5分ほどが経過しているが、一向に効果が発揮される様子がない。


 その効能を疑うことはないが、時間が経過していくごとに焦りは募っていく。


「……リンカ…そろそろ次の手を打たないとだめかもしれない………」

「次の手か…でもこれ以上やれることって……」


 解毒用のポーションは飲ませた。カイのHPがゼロになることがないように、時折通常のポーションも並行して使用している。


 だができることと言えばせいぜいがこれくらいだ。次の手と言われても浮かんでくるものはない。


 しかしオルタには何か策があるようだ。少しでも状況を改善するものであればと、藁にもすがる思いで耳を傾ける。


「私の職業……〈薬調師〉はポーションを作るものだと言ったよね……?」

「そうだね、それのおかげでカイを治す目途も立ったし…」


 実際、彼女に助けられた点は大きい。それがなければ今頃は、処置のために戸惑っていたところだ。


「……私の作るポーションは、その対象を絞るほど得られる効果も大きくなる……だからこそ、全ての状態異常を対象にしたさっきの薬は……効果時間が分からないというデメリットが存在している………」


 つまり、あまり万能すぎるものを作ろうとすると、そこにかかる制限も増してくるということだ。


「……けれどその問題も、対象を絞りさえすれば問題ない……今から『カラタケダケ』に適した特効薬を作ろうと思う……」

「そ、そっか! それなら即効性のポーションができるってことだね!」


 製作段階で対象を拡大すれば使用時に縛りが設けられる。逆に製作段階で事前にある程度の縛りを行っておけば、それに見合うリターンが得られる。原理としては理解できた。


 だがわからないのは、なぜそれをすぐに行わなかったのか。別に責めるわけではないが、すぐに行えない理由でもあったのか。


「……ただ………その特効薬を作るための材料が足りていない……」

「…なるほどね」


 その選択肢を選べなかった理由としては単純に、薬を作るための素材を持ち合わせていないようだ。だが現状でそれは困る。


 この後にすぐ状態異常回復のポーションの効果が出てくれれば全て解決だが、その確証もないのだ。


 ここで待ち続けてすぐに治癒する可能性に賭けるか、一か八かのポーション製作に臨むか。


 二つの選択肢の間で揺れるリンカだが、横になりながらも毒と戦いながら苦しんでいるカイを見て、覚悟を決める。


「……オルタ、足りない材料は何? 私が集めてくるよ」

「………手元にないのは、『カラタケダケ』の現物……それさえあれば完成させられる………」


 想定していたよりも素材探しの難易度は高くなさそうで安心した。それだけならば比較的すぐに回収してくることも可能だし、唯一の()()()も任せられる。


「……私たちで森に行けば早急に戻ることもできる……だから……」

「ううん、オルタにはここで待っててほしいんだ」


 オルタの提案をありがたいと思いながらも、それを断る。


「ここを二人とも離れちゃったら、カイを見て売る人がいなくなる。その間に毒が巡り切っちゃったら、それこそ意味がなくなっちゃうよ」


 もし別の場所に行った間にカイがデスペナルティになっていたら。それでは何のために動き続けてきたのかわからない。


 だが、カイの身をオルタに任せられればそれも解消する。一時とはいえ相棒の身を見守れないのには不安が残るが、彼女ならば信頼できる。


 現状における最善はそれだ。そう説明して説得を試みるが、やはりなかなか納得がいかないようだ。


「……けれど………あの森の知識なら私の方がある……せめて私の方が行くべきじゃない……?」


 素材採集のエキスパートである彼女のことだ。探索を任せればすぐにでも『カラタケダケ』の群生場所を発見し、戻ってくることもできるだろう。


 それでも、リンカはその選択肢を選ばない。これに関しては理屈なんかではなく、単なるわがままだ。


「そうだね、そこはオルタの言う通りだよ。私はまだ来て日が浅いし、そのせいで取り返しのつかない事態になるかもしれない」


「でも、今起きている事態は元はと言えば私が原因なんだ。私自身の力できっちりけじめをつけないと、私は自分を許せない」


「………リンカ……」


 きっとカイは、そんな風には思っていない。そう言おうとしたが、彼女の目を見れば何を言われようとも譲らないという意思が感じ取れてしまう。


「……分かった………なら私はここで準備を整えておく……信じて待ってるよ……」

「ありがとう。すぐに戻ってくるから、……行ってくるね!」


 森のある方向へ向けて走り抜けていく。迷いのない足取りは、強く地面を踏みつけてその速度を増していった。



「……ほんと、似た者同士……ここまで頑固なところまで似なくてもいいのに……」


 リンカは今さっきの問答で譲らない意思を示したし、カイに関しては体調不良のくせに、最初は自分たちを心配させまいとしていた。


 どちらも他者のために第一に動ける人間であり、それは時として大きな武器にもなる。そんな人間性を感じ取ったオルカは、今の自分にできることをするため調合の準備を整えていくのだった。



アイテム生成の時には、あまり有効対象を増やしすぎるとその分効果が減衰します。


一部の実力者なんかはそんなもの気にせずにできますが、それは例外です。


なので生産職は基本的に、特定の対象に絞ったポーションやアイテムを作るのが一般的なやり方です。




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