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Record of Divergence ~世界の分岐点~  作者: 進道 拓真
第二章 自然の通過点
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第二十三話 素材の持ち味


 オルタとリンカの顔合わせも無事に………とは言えないが、終了した。彼女は俺たちの作業を手伝ってくれるということだったので、今はリンカが採取したものの仕分けを手伝ってもらっている。


 だが────



「……なぜこんなことになっている………理解不能……」


 三人の目の間には山盛りに積まれたキノコ。これら全てがオルタによって()()と判断されたものだ。


「………リンカ」

「ち、違うんだよ? 私も最初はなるべく毒があるものは避けてたんだけど、途中から美味しそうだな~と思ったやつをどんどん入れていったら……」

「…………」


 始めの方はしっかりと判断していたというのは本当だろう。だがその後が問題でしかない。なぜ明らかにやばい見た目のキノコまで放り込んでしまうのか……。


「……本当にすみませんでした。だからその残念な子を見る目をやめてください」


 二人から注がれる視線に耐えられなかったのか、深々と頭を下げている。


 そんなリンカの様子に呆れながらも、本気で怒っていたわけではないのだ。謝る必要はないと告げて頭を上げさせる。


「謝らなくてもいいよ。確かにこれだけの量があったことには驚いたけど、それだけ夢中になってたってことだろ? なら、悪いことじゃないさ」

「カイ…!」


 このまま落ち込まれてしまっては、せっかくの旅も楽しい物にはならない。


 そんな結末は望んだものではないのだ。だからこそ、リンカを責めることはしない。


 励ましの意も込めてかけた言葉は無事に届いたようで、何とかこの場の雰囲気も戻ってきた。


「……ん。まぁリンカなら仕方ない………これくらいのことはやってきてもおかしくはない……」


 オルタも空気を汲んでくれたのか、あからさまに否定はしなかった。


 ……どこか、おかしなところに対する信頼が生まれているような気がしないでもないが。


 だが有毒の素材ばかりを拾ってきた件に関しては解決した。あと残るのは───


「けどこの量はどうするか……。下手に捨てるわけにもいかないだろ?」

「……このまま森に放置でもすれば生態系に影響する可能性が高い………一番は素材として処理するか、店に売却するのが早いと思う……」


 この余ったものの後始末をどうするか、ということだ。


「一度拾ったものだし、捨てるのは環境的にも心情的にも避けたい…。となると必然的に売却になるか……」


 大量に置かれてはいるが、ストレージに収めることは不可能ではない。かなり圧迫されてしまうが、街で換金するまで耐えれば何とかできるはずだ。


「それがいいと思う……これだけあればいい値段がつくはず……」


 オルタも売却の路線で賛成のようだ。方針が固まったのでストレージに収めようとするが、そこでリンカが待ったをかけてきた。


「あのー……ちょっといいかな?」

「なんだ、どうした?」


 このキノコの処理に関しては特に問題はない。なので、止められる理由が分からず思わず疑問が浮かんでしまった。


「ええとね。売ることに関しては賛成なんだけど、ただ少しだけは残しておいてほしいんだ」

「それは別にいいけど……何かに使うのか?」


 山盛りに積まれているこれらは、確かに何かしらの素材にはなるだろうがリンカがそういったものを扱っているところは見たことがない。


 用途が想像しづらいが、リンカの目的は少し別の場所にある。


「実は、これを使って料理がしたいの」

「料理?」


 示された使い方はカイの想像の範囲から外れていたものだった。まさか毒のあるものを調理するとは考えてもいなかった。


「これは毒があるはずだろ? 大丈夫なのか?」

「………不可能ではない」


 不安になって聞き返したが、オルタからフォローが入る。


「……有毒とはいっても、それは素材のごく一部に集約しているパターンが多い……可食部を見極めていけば調理もできる………はず」


 素材採取のエキスパートがそういうならばそうなのだろう。ならばあとの課題はリンカがその作業を行えるかだが……。


「私も図鑑を見て思ったんだ。毒はあるけど美味しいってやつが結構あるんだって。だから毒さえ取り除ければいいんじゃないかと思うんだけど……」


 声は若干弱弱しくなっているが、その目を見れば引くつもりがないことはわかる。こうなれば言い聞かせようとしても聞くことはない。


「しょうがないな……料理するのはいいけど、ちゃんと食べれるものを作ってくれよ?」

「うん! 任せてよ!」


 先ほどまでの様子はどこにいったのやら。一変して元気に満ちたリンカは、料理に使う材料を見定めるためにキノコの山に突っ込んでいった。


「…念のために私も見守る……安心して……」


 オルタが見てくれるのならば、これ以上に心強いことはない。多少の心配もあるが、あれだけ楽しそうなリンカの姿を見れば断る選択肢などはなから無かった。


 見守る姿勢に徹したカイとオルタは、順調に進んでいく調理にほんの少し頬をほころばせていた。









「これは切り落として……ここは食べられるんだっけ?」

「……違う…そこにも毒があるから、処分していい………」


 料理が始まってから数分。そこには包丁を握るリンカの横で、アドバイスを送るオルタの姿があった。


 ちなみに今リンカの使っている調理器具は、この前の釣りでの反省を活かして購入しておいたものだ。リンカは設備さえ整っていれば料理はできると言っていたので、これから先に必要になると思い用意しておいた。


 意外にも手際のよいリンカの横で、オルタが自身の知識を教え込む。技術があっても毒の見極めはさすがに難しかったので、非常に助かっている。


 これだけの状況が整えばさすがに大丈夫だろう。安心して見守れているカイだったが、ふと自分の役割が何もないことに気づきどうしたものかと悩む。


(俺は料理がそこまで得意じゃないしな……。下手に手出しをしない方がいいことは明白だが、何もすることがないっていうのもなんだかな…)


 気にしすぎかもしれないが、働いている二人の前でただ休んでいるだけというのも忍びない。


 何かできることを探そうと立ち上がり、少しこの場を後にする。


「水でも汲んでくるか……必要ないとは思うけど、ないよりましだ」


 少し行った先に川があったはずなので、ちょうどいい。川へと向かい水を汲み終えていく。戻るころには料理も完成しているときだった。





「あーっ! やっと戻ってきた! 今できたから食べてみてよ!」


 どうやら戻らないカイを待ってくれていたようだ。少し申し訳なく思いつつも、出された料理の匂いに意識が持っていかれそうだ。


「ごめん。ちょっと川まで行っててさ。しっかしすげぇ美味そうだな」


 作っていた料理はキノコをふんだんに使った鍋だった。シンプルなものだがこういった物の方が好みなカイとしてはありがたい。


 それに外で作るとなればそこまで複雑なものも用意できない。そのくらいは理解しているので、むしろこれだけの料理を作ってくれたリンカ達に感謝しかない。


「そうでしょ! やっぱり素材の持ち味を生かしたいから、そこまで調味料も加えなかったんだけど…味見の段階でかなり深みがあったからいけると思うよ」


 鍋の解説をしてくれるが、それを聞くたびに期待が高まる。


「早速食べよっか! いっただきまーす!」


 三人が同時に鍋を口に運ぶ。食材が口の中に運ばれた瞬間、圧倒的な旨みが広がっていった。


「おーいしー!」

「美味いな…これは予想以上だ…!」

「………美味」


 三者三様の反応だったが、考えることは同じだ。この鍋にはそこまで味付けを施していなかったが、それでも素材の底力だというのか十分な濃厚さがあふれていた。


「やっぱり有毒だとしても美味しいものはあるんだねぇ……ちょっと処理が面倒くさいけど」

「今回はオルタがいたからこそできたようなもんだしな。ほんと頭が上がらないよ」

「………私もここまで丁寧な作業は無理……リンカがいたからこそできた……」


 結局どちらか一人でも欠けていれば、この味は成立していなかったということだ。


 これを逃してしまえばもう二度と味わえない可能性が高いので、カイはしっかりと味わって楽しんでいる。


「これはリンカが固執したのにも納得だな。ここまでとは思ってなかった」

「そうでしょ? でもそもそもここまでの種類の具材をそろえることが難しいから、再現はできないと思うんだ。だから今のうちに満喫しておかないとね!」


 その言葉に同意を返し、再び鍋に向き合う。しばらく周囲には、鍋を煮る火の音と談笑するパーティの声が響いていた。



こういうほのぼのとした話も悪くない。


なんか話が進むごとにリンカの残念感が出てきましたね。そういうつもりもなかったんですけど、書いてるうちに自然とこうなってました。




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