第十六話 カイvs盗賊
突如襲い掛かってきた『プレイヤー』の盗賊集団、〈牙城の破玩〉。開戦の火蓋を切ったのはリーダー格だと思われる男の素手による一撃だった。
「おらぁっ!《破掌》!」
男の掌底をギリギリのところで回避した……と思われたが、なぜか回避した後から衝撃を受けて吹っ飛ばされた。
「うおっ!? なんだ今のは! 間違いなくかわしただろ!」
攻撃は当たっていなかった。にもかかわらずダメージが伝わってきたのはどういうことなのか。
「今のは《破掌》ってスキルでな。攻撃を終えた瞬間の地点を起点として衝撃波を生み出すんだよ。そこまで威力はないが、なかなか素敵なもんだろ?」
「そういうことかよ……ほんとに厄介だな!」
負けじと応戦していくが、ここにいるのは男一人ではない。取り巻きの者達もカイを狙って戦闘に参加しようとした。
「よし……《天氷牢》!」
だがリンカの魔法がそれを許さない。対集団戦に特化した魔法《天氷牢》によって出現した氷の檻がリーダーの男以外をまとめて閉じ込める。
「なんだこりゃ!? おいっ、ここから出せ!」
「出すわけないでしょ!! あなたたちの相手は私だよ!」
「落ち着け! 強度はそこまでじゃない! 攻撃し続ければいずれは破れる!」
氷の牢獄は効範囲こそ広いが、その強度は高いものではない。少し時間が経てばすぐに破られてしまう。
「カイ! こっちは私がやる。だからそいつを任せてもいい!?」
「いや待て! 前衛がいなかったらリンカは……」
魔法職のリンカが前衛もなしに複数人を相手取る。どれだけ無謀なことかは言うまでもない。
「大丈夫。勝つ方法も考えてあるし、負けるつもりはないよ!」
一瞬の逡巡。リンカを一人にしてしまうことは不安でしかない。だがこの場での最善の選択は敵戦力を分散させることだ。
この目の前にいる男の実力を考えればそれ以外の者達に構っている余裕はない。
それを考慮すればリンカの提案に乗るのが最も良い。
それに他の誰でもない彼女のことなのだ。ここで信頼せずしてどうするというのか。
「……分かった。けど死ぬなよ? 後で再会しよう」
「カイもね。じゃあ行ってくる!」
氷の檻を操作しながら、なるべく遠くへと向かえるように移動していく。
この後に立っているのが誰なのかは、まだわからない。
「お仲間とは解散か? それとも見捨てられでもしたか?」
「そんなわけねぇだろ。あいつはお前との戦いに集中できるようにしてくれただけさ」
明らかに挑発を狙っている発言を軽く流し、冷静さを保つように意識する。
「うちの部下まで連れて行ったことには驚いたが……まぁいいだろう。見るからに魔法職専門のあの女が前衛職複数人を相手にして勝つことなんてできねぇよ」
「そうかもな。けどあいつの強さは俺がよく知ってる。簡単に負けることなんてないし、それにあんな雑魚に後れを取ることなんてない」
彼女を一人で行かせてしまったことにはまだ迷いが残っている。だがこの状況は俺がこの男を倒すために全力で戦えるようにと作ってくれたものだ。
ならばその思いを無駄にするわけにはいかない。こいつを超えていくことが何よりの報いだと信じて抗うのだ。
「俺としてはあの女が死ぬのを待って部下が来るのを待ちたいが……」
「待つと思うか? さっさとお前を倒して駆けつけなきゃいけないんでね。悪いが押し通させてもらうぞ!」
それぞれの目的を果たすため、衝撃がぶつかり合う。唯一わかることはどちらかが倒れた時、一方が有利になることだけだった。
「《破掌》!」
「それは……もう知ってる!」
《破掌》の厄介さは攻撃後の衝撃波だ。それに注意して距離を取れば大して怖いものでもない。
後方に下がり有効範囲から逃れる。攻撃直後のわずかな硬直を狙って大剣を振るう。
「見切ってきたか。そりゃそうだ、何度も同じ手が通じるなんて思ってない」
自身の手札が通じなくなったというのにどこか余裕すら感じさせる笑みを浮かべている。
「随分楽しそうじゃないか。こちとらあまり時間をかけずにいきたいっていうのに。何か秘策でも隠してんのか?」
「別に秘策なんてねぇよ。ただ俺は時間稼ぎに回っていればいい。部下が駆けつけてくるまでの時間があれば十分だ」
「いちいちリンカが死ぬことを前提にするのはやめてもらおう……かっ!」
勢いを乗せて大剣を振り回し、ダメージを蓄積させていく。さすがに無視できないと思ったのか、反撃に転じてきた。
「鬱陶しいな……。仕方ねぇ、《尖煉拳》!」
目にも止まらぬ速度で浴びせられる打撃の連打。さすがに回避は無理だと判断し、防御に回るがどこか違和感を感じる。
「この拳の攻撃……炎属性か!」
「正解だ! 威力も割り増しになってるからな! いつまで耐えるつもりだ!?」
炎属性を纏った物理攻撃。大剣で防いではいるが、その防御を超えて炎熱によるダメージが伝わってきている。
そして攻撃が打ち込まれるたびにその重みも増していく。何とかしのいではいるが、どこかで攻勢に出なければ負ける。
(属性が加わった攻撃……予想以上の威力だ。ここから巻き返そうにも攻撃が途切れる様子がない!)
この間にも攻撃は続いており、徐々にHPは削られていく。
「ほらほらどうした!? もう打つ手はなしか!」
煽るように言われるが、それに反応している余裕も生まれない。
「あるに決まってんだろ! こちとらいつお前を倒そうかと機をうかがってんだよ!」
「だったらやってみな。できるもんならなぁ!《破掌》!」
もはや勝利を確信したのか、もう一度《破掌》を用いてとどめを刺そうとしてくる。だがこの場面でその判断は致命的だった。
「それは知ってるって……言っただろうが!!」
掌底の動きを先読みし、最適な位置へと離れ衝撃波をやり過ごす。
「なっ!」
「慢心したな……けどこれで俺の勝ちだ!《鋭刃》!」
男をとらえた斬撃は正確に軌道を定め───両腕を斬り飛ばした。
「ぐあぁ!! てめぇ、やりやがったな……!」
「お前の最大の武器は拳を用いた格闘術だろう? なら腕さえ抑えてしまえば怖くはない。斬った腕も……多分大丈夫だろ。第五段階あたりの回復系統職業持ちなら四肢欠損くらい再生できる」
男の無力化に成功し、何とか窮地を切り抜けたことを確認してから息を吐く。
「なんで俺が負けたんだ……。途中までは俺が優勢だったはずだ」
「決まってるだろ。確かにあの連打は脅威だったしなすすべはなかった。けどお前が慢心してそのまま決着をつけようとせずに、スキルを切り替えたからこそつけ入る隙は生まれた」
この勝敗の差はそれだけでしかない。あそこで押し切られていればカイは敗北していた可能性が高い。
だがそれは終わった話でしかない。仮定の話をしていても仕方ない。
「とりあえずリンカたちのところ行くか。あとで詰所に連れて行ってやるからおとなしくしとけ」
「はぁ…ついてねぇな。こんな奴なら勝負なんて仕掛けなけりゃよかった……」
どこまでも不満を漏らす男の足を縛り、身動きを取れなくしてから肩に担ぐ。
「信じてるけどな……やっぱ不安は不安だ」
この場の争いを制したカイは、ここではない戦場で争っている相棒の元へと向かっていった。
なんか久しぶりな気がする戦闘回。
《破掌》の元となったアイデアは、ポ〇モンのねこだましです。自分は未だかつてあれほど鬱陶しい技を知りません。
あと一応戦った盗賊は第三段階の職業です。あれでも格上。
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