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Record of Divergence ~世界の分岐点~  作者: 進道 拓真
第二章 自然の通過点
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第十二話 魚とモンスター釣り


 「堕哭の渓谷」に落下し、脱出した翌日。カイとリンカは湖に遊びに来ていた。


 この湖は『プレイヤー』や『レイヤ』の間でも釣りスポットとして有名であり、周囲を見渡せば今でも釣りに興じている者たちが見られる。


 昨日は散々な目にあっていたし気分転換でもしようということでここに釣りに来たのだ。


「こういうのは時間を忘れられるよなー……。リアルだと釣りなんてやったこともなかったけどいいもんだな」


 どこか遠い目をしながら釣り竿を握るカイ。その隣ではリンカが楽しそうに竿を引いている。


「おっ? またきたみたい! これは大物だよー!」


 竿を力強く引き、時折力を抜きながら魚を弱らせて釣り上げる。


「ぐぬぬ……! …釣れたぁー!!」


 針の先にかかっていたのは金色のウロコを持った魚だ。高級感すら感じられるそれは見るからに立派なものだと感じられる。


「カイも釣れてる? さっきからあまり糸引いてないみたいだけどー?」

「ぐっ……これから釣れるんだよ!」


 にやにやと煽るように言ってくるリンカに苦し紛れの強がりを返す。最初に釣った獲物の量と質で競い合おうと勝負を持ち掛けられて、つい受けてしまったが実際に勝負が始まってから後悔した。


 「レコダイ」における釣りのシステムは、魚が釣れるまでの時間はDEX、釣れる魚の種類がLUCによって変動する。比較的単純な構造であり、だからこそ差が出やすかった。


 カイのDEXは決して高くはない。LUCに関しては言わずもがなだ。それに対してリンカは魔法職ということもありDEXは高く、素のLUCも高い数値を持っている。


 この戦いって勝ち目がないのでは?と気づいたのは初めてから十分ほどが経過してからだった。




(まぁ負けても特に何かを要求されるわけでもないからいいんだけど……やっぱり悔しいよな…)


 現状では量も質も明らかに負けている。ここから逆転するにはその差をひっくり返すような大物を釣ることに賭けるしかない。


(俺の運でいけるかは微妙だけど、焦らずに待ってればいいさ。いずれは何かがひっかるだろうし……)


 再び魚が釣れる時を待っていると、竿が引かれる感覚が伝わってきた。


「何かきたな…できれば大物であってくれよ?」


 次第に強く引いてくる竿に力を込めてタイミングを計っていると、突然想定外の力で引っ張られ始めた。


「うおっ!! ぐっ…! 何だこりゃ……ありえないパワーだぞ!」


 先ほどまでとは比べ物にもならない勢い。念願の大物がかかったのかもしれないが、その前に竿の耐久力が力尽きそうだ。


「おおー! カイにも大物がきたかな? がんばれー!」


 リンカが応援してくれているが、正直気に掛ける余裕がないほど力を入れている。このまま竿ごと引きずり込まれるかと思ったが、その前に釣り上げることに成功した。


「こんの…! 早く釣り上げられろ!!」


 水面から出てきたのは、輝くような銀色のウロコを持ち口元に鋭利な牙がある……モンスターだった。


「いや、魚じゃないのかよ!?」


 まさかの展開に思わず声を上げるが、そんなことはお構いなしと言わんばかりに魚はカイを狙って牙を向けてきた。


「あぶなっ! …とりあえずやるしかないか。こいっ! ………ん?」


 勢いよく飛び掛かってきたが、その身が地面に降りると特に何をするわけでもなくただビチビチと飛び跳ねている。


「……何やってんだこいつ」


 登場した瞬間はあれだけの迫力があったというのに、今は間抜けな獲物にしか見えない。


「おー、あんた。シーサーフィッシャーを釣ったのか! 初めてなのにやるなぁ!」


 そんなカイに近くで釣りをしていた『プレイヤー』が話しかけてくる。


「こいつシーサーフィッシャーっていうのか…。これって珍しいのか?」

「激レアってほどでもないが、割と珍しいタイプだな。ただ竿を引く力が異様に強いから、なかなか釣りずらいってことで有名なんだよ」


 どうやらお目当ての大物を釣ることはできたらしい。ただどうしても聞きたいことが一つあった。


「こいつただ飛び跳ねてるだけなんだけど……これは何なんだ?」

「シーサーフィッシャーってのは水生特化の生物でな……釣り上げた瞬間はその勢いを利用して噛みついてくるんだが、その後に地面に下ろされると、何もできなくなってただ飛び跳ね続けるんだよ」


 何その微妙な生き物…と思わずにはいられない。確かに水の中で生きる上でそこに特化した性質は必要だったのだろうが、この湖で泳ぐような者はまずいない。


 だからこそ釣り人からはいい獲物程度の認識でしかないのだろう。


「けどこいつの身はかなり美味いんだ。だから自分で食ってもいいし、売ったとしてもグルメ好きなやつらからは結構な値段で買ってもらえるぞ」

「そうなのか……じゃあ自分たちで食べる分だけ取ってそれ以外は売ろうかな。わざわざ教えてくれてありがとな」


 親切に教えてくれた『プレイヤー』に礼を言い、リンカの元に戻る。


「すごいものが釣れたね! これは逆転されちゃったかなー?」


 カイとしてはこいつで逆転するというのも複雑な心境なのだが……まあ今はそのことは置いておこう。


「教えてもらった限りだとこいつも食べると美味いらしいし、あとで二人で食べようぜ。鮮度が落ちそうだから凍らせてもらってもいいか?」

「別にいいよ。どんな味がするのか楽しみだね!」


 氷魔法によって凍らせられていくシーサーフィッシャーを見ながら思った。最後まで何とも言えない姿だな、と。









 エンリーフの北西に位置する街、「レイシェンス」。ここにある料理店の一つにカイ達はいた。


「材料の持ち込みが大丈夫か不安だったけど、引き受けてもらえてよかったな」

「ここの店主さんに感謝しないとね。腕も確かだって聞いてるし期待しちゃうよ!」


 始めは自分たちで作ろうかとも思ったが、カイはそこまで料理ができるわけではないしリンカは料理はできるが設備が整っていないから無理とのことだった。


 なので専門の飲食店に頼んでみようといくつかの店をまわったが、持ち込んだ材料の調理は難しいということで断られてしまった。困ったところにこの店を見つけ、快く引き受けてもらえた。


「けどまさか、『プレイヤー』で店を構えている人がいるとはなぁ……」

「最初はびっくりしたよねぇ」


 そう、なんとここは『プレイヤー』が経営している店だったのだ。あくまで趣味の延長線上でやっていたことも大きかったのだろう。


 料理が完成するのを待っていると、厨房の方から香ばしい匂いが漂ってきた。思わず空腹の体が反応してしまうそれは、否応にも期待感が高まっていく。


「お待たせしました。シンプルな刺身から煮付けまで、様々なバリエーションをそろえてみましたよ」

「おおお! 美味しそーう!!」


 テーブルに並べられた料理に、思わず頬が緩んでしまう。


 コック棒を被った店主に感謝しつつ、料理に口にする。


「…! これは美味いな……身は柔らかいのに味がしっかりと染み込んでる…」

「お刺身も美味しいよ…。これだけ新鮮なのは今まで食べたことないかも……」


 舌の上に広がる美味を楽しみながら、会話にも花を咲かせる。


 楽しい時はあっという間に過ぎてゆき、カイ達はたまの休日を堪能していった。










 ちなみに、シーサーフィッシャーの素材を売却するため買取を行っている場所へ向かったところ45万ゼルで買い取られた。


 あのモンスターになかなかの値段がついたことでカイの胸中はさらに複雑になったとか。



どこまでいっても情けない獲物のシーサーフィッシャー。その割には有用な部位が多い。


カイ達は料理をして食べていましたが、実は生産用の素材として扱うこともできました。


まぁその場合、生臭いポーションとかができるだけですけどね。料理にして正解。




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