第十一話 ほんの少しの高み
スピアカイリスを下した後、何度かモンスターも見かけたが気づかれることはなく順調に入口付近まで戻ることができた。
そして今、二人は入口のすぐそばにいる。しかし、無暗に動くことができない。なぜなら──
「はぁ…まさか入口にモンスターが密集しているとは……」
──モンスターの群れがうろついているからだ。
見た限り、5体ほどが歩き回っておりなかなか離れる様子がない。隠れながら様子を観察しているが特に変化も訪れない。
「我慢比べもいいけどさ、もしあいつらの生息域が入口付近で固定されてたらどうする? 見た感じ移動するとも思えないよ?」
リンカの懸念ももっともだ。あいつらが入口付近で待機するように命令されていればいくら待っていても意味はない。だがその確証もない以上、下手に動くこともできない。
「私としては早めに駆け抜けたほうがいいと思う。待ち続けても何もなければ無駄に疲弊するのはこっちだし、不利になるだけだよ」
ここで待機するべきか。多少のリスクを冒してでも行動するべきか。
しばしの間逡巡し、出した結論は行動することだった。
「あいつらが少しでも目を逸らしたら動こう。かなり危険だとは思うが…」
「一応考えはあるよ。えっとね…」
リンカが提案したのはある魔法を用いた方法。単純ではあるがそれならば普通に行くよりも成功率は上がる。
「それでいこう。いつでも使えるようにだけしておいてくれ」
そう伝えると魔法の準備に入った。カイはモンスターの群れを見つめて少しでも行動のパターンをつかもうとする。
数十秒が経過したところでリンカの魔法の用意が整えられる。
「よし、もういけるよ。あとはタイミング次第だね」
「それじゃ、あと10秒後に行こう。あまり時間はかけられないから速攻だ」
作戦開始のカウントダウンが迫る。息をひそめながらその瞬間を待っている。
「…3……2……1…今だっ!」
カウントが終わり、同時に岩陰から走り出す。モンスターもそれに気づいたようで、補足した瞬間にこちらへと一斉に駆け寄ってこようとする。
だがそんな状況を予想していたカイとリンカは、作戦通りだと言わんばかりに笑みを浮かべる。
「タイミングの方は任せる。ぶっ放してやってくれ!」
「もう少しかな…。このくらいで…《氷床》」
リンカが発動した魔法が周囲の地面を凍らせる。突如として変化した地形にモンスター達は対応しきれず、踏ん張りの利かない地に足を滑らせている。
《氷床》はその名の通り、周囲の地面を凍結させる魔法だ。効果が地味なためこれまでは日の目を浴びていなかったが、逃走のための妨害手段としては悪くない。
「よしっ、作戦通り! 今のうちだ!」
「ごめんねー! また来た時にちゃんと戦うからー!」
なんとか追いかけてこようとするが、まともに立ち上がることもできない地面にモンスター達は苦戦し、そのまま二人は入口の階段を駆け上がっていった。
「脱出……できたぁー!!」
ようやく地上へと帰還し、歓喜の声を上げる。時間に換算すれば1時間程度のダンジョン探索だったが、明らかな強敵が徘徊するエリアをさまよっていたのだ。随分と長くいたように思う。
「疲れたけど、なんだかんだで楽しかったよな。こういう理不尽な強さに挑戦してる感じは」
疲労と同じくらいに感じられる充足感の余韻を心地よく思いながら、渓谷での戦いを思い出しステータスを見てみる。
「まだ上限には届かないか。そっちはどうだ?」
「えーとね…。あ、私上限になってるや」
「ほんとか? やったな!」
どうやらリンカは大きくレベルが上がっていたようで、進化が可能になったようだ。
考えてみれば納得だ。あのサソリとの戦いで途中までは援護に徹していたが、最後は自らの全力を出し切りとどめまで刺している。これで上がらないほうがおかしいだろう。
「脱出していきなりだけど、進化しちゃうかー。今度はどんな職業になるかな?」
「どんな形であれ、強くはなっていけるからそこまで気張ることもないよ。でも確かに気になるけどな」
リンカが職業進化のアナウンスを聞き届け、第三段階へと至っていく。
『第三段階への進化を実行。プレイヤー:リンカの職業を〈氷魔法士〉から〈氷魔術士〉へと進化します』
『新たにスキル《高速詠唱》を獲得しました』
そばで眺めていた俺だったが、この瞬間はいつまでたっても慣れそうにない。自分の新たな力を把握しているリンカの反応を待っている。
「…なるほど。また便利な能力が増えたね。カイ、大体わかったよー」
「そうか。具体的にどんな感じだったんだ?」
無事に終わったようで、嬉しそうにしているリンカから聞いていく。
「えっとね、まずは《高速詠唱》なんだけど、これは今までに魔法を発動させるまでにかかってた時間があるでしょ? あれがほとんどなくなるみたい」
「ってことは、タイムラグなしで魔法が使えるようになるってことか。そりゃまたいい能力が手に入ったな」
これまで魔法を使うためには、魔法の概要をイメージして順序立てた作業が必要だった。だがこのスキルのおかげでその作業のほとんどをカットできるようになったのだとか。
もちろん魔力には限りがあるし無制限に放ち続けられるわけではないが、それでも十分に戦力となってくれる能力だ。
おそらくこの能力はリンカの意思も反映した結果生まれたのだろう。かつてのサイラスでの戦いやこれまでの旅で、彼女がもっと早く行動できていれば…と考えていたことは知っている。
そんな願いがあったからこそ、《高速詠唱》というスピードを重視した戦い方が選ばれたのだ。
「あと魔法だと……範囲攻撃魔法が結構増えてるね。私が創造できる範囲も増えてそうだし、また強くなれたね!」
「よかったな。けど俺も置いてかれてばかりじゃいられないからな。すぐに追いついてやるさ」
カイ自身もレベルは上がっているため、進化はそう遠いものでもない。だからこそやる気はみなぎっていく。
「じゃあ今日はリンカの能力も確かめたいし、近場の草原で軽く戦ってみるか」
「うん! 今日は強敵ぞろいでお腹いっぱいだしね。あとはほどほどの強さでいいよー」
更なる高みへと手をかけた二人は草原へと向かう。その歩みは次第に力強いものへと変化していった。
リンカの進化回でした。
最初はカイの方をやってしまおうかとも思ったんですが、このダンジョンで活躍していたのはリンカなのでそちらを優先しました。カイはもう少し先かな。
そしてここで《高速詠唱》を獲得したことによって、これまでネックだった魔法の発動待機時間が一気に解決しました。
作者としても、タイムラグを考える必要がなくなったので非常に助かります。無事に出せて良かった。
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