第七話 落とし物探し
帰ろうとしたら遠くに見えた光景。そこにあったのはどこか鬱蒼とした雰囲気を漂わせる墓地。
「こんなところ来た時には絶対になかった。そもそも近くを通りがかっていれば確実に気づいていたはずだ。…となると、時間帯によって出現するエリアか?」
こんな目立つものがあれば間違いなく目につく。そうでなければこの時間までここには存在していなかったのでないか。
そこまで思考を巡らせたところでもう一度墓地へと視線を向ける。
「正直無視したいんだけど…なんだか目を引かれるんだよな。…ちょっと入ってみるか」
どこか感じるものがある墓地へと入っていく。正面には門のようなものもあったため特に問題なく入ることができた。
「なんかジメっとしてるな。墓地のイメージには合ってるけど、そこまで再現しなくてもよくないか?」
カイはそこまで幽霊やお化けの類にそこまで恐怖を感じないタイプだ。それでもこうして墓地を一人でさまよっていれば思うことはある。
「リンカがいなくてよかったかもな…。あいつなら怯えて入ってこられなかっただろうし…」
普段は明るく活発だが、実は怖いものが苦手な相棒のことを思う。実際ここにいれば顔を青ざめさせながらカイと来るか、外で待機していたに違いない。
「けどあの子もこんなところに来るわけないよな。少し見たら帰るか」
そうして薄気味の悪さを感じさせる墓場を軽く見て回り、帰ろうとした時何か光るものが見えた。
「ん? これは……」
それを拾ってみると、なんとあの子の言っていた指輪だった。ここで見つけられるとは思っていなかったため、思わぬ発見に声を上げてしまう。
「まさかここにあったとは……、どうりで見つからないわけだ。けど何で墓場に落ちてるのか…」
そこまで考えたところでどこかからうめき声のような音が聞こえてきた。最初は気のせいかとも思ったがその音は徐々に大きくなっていく。
「この声……周囲から聞こえてくるが何もいないぞ? …いや、下か!!」
その可能性に気が付いた瞬間、墓場の下から全身が骨で構成されたスケルトンのようなモンスターが出現してきた。
「くそっ、指輪を取ったから怒って出てきたってか? 悪いがおとなしく返すつもりはないぞ!」
突然湧いてきたスケルトン達を追い払うため、武器を構える。
「吹っ飛べ!《円回閃》!」
周囲に群がっていたスケルトンはスキルによって吹き飛ばすことができた。だが、吹き飛ばしても次々に現れて襲ってくるためキリがない。
「範囲攻撃は俺の担当じゃないしな……このままいけば物量で押し切られちまうっ…」
一体一体の強さは大したものではない。大剣の一撃で軽く迎撃できる程度だ。
しかしその数がすさまじい。まともに打ち合っていてはほぼ確実に勝てないだろう。
(それにしてもこの量はおかしくないか? いくら弱いとはいってもこんな数がいれば十分すぎる脅威だ。加えてこいつら、俺の元まで迷うことなく一直線に襲ってきてるぞ)
そこがカイの感じた最大の疑問だ。スケルトンを破壊しながら確認してみれば、まだカイを認識していなかった個体まですぐさま襲ってきている。
(なんだ、何がある? ここまで執着して狙われる原因は………っ! そうか、《怨霊の妄執》か!!)
思い当たったのは現在もカイを縛り続けている状態異常《怨霊の妄執》だった。
この効果はアンデッドから同質の存在と見なされ近寄られやすくなるというものだ。その影響を考えれば現状にも納得がいく。
(俺の呪いがアンデッドを引き寄せている…。だとしたらすぐに退かないとまずいな。もしかしたら湧いてくるスケルトンにも限りがないなんてことにもなりかねない!)
今自分の置かれている状況を理解し、突破口を見つけるため動き始める。
(この場の全員を倒すことはまず不可能。正面からぶつかれば俺の方がやられるだけだ)
何とかこの窮地を切り抜けるため、策をめぐらせ一つの案に至る。
「ふぅーっ……やるしかないか!」
覚悟を決めて賭けに出る。カイが行ったのは一点突破による撤退だ。ほかの攻撃は全て無視し、自身の力は機動力へと集中させる。
「《身体強化》《円回閃》! …ぐっ」
スキルもフル活用し突き進んでいく。どこか「小鬼の洞穴」での経験を思い出させるが、リンカがいない分あの時よりも条件はシビアだ。
それでも、諦めるわけにはいかない。
いくら『プレイヤー』が死んでも生き返ることのできる存在だからといって、それが積極的に死んでもいい理由にはならない。
それに何より、カイに依頼をしてきた少女は彼が死ぬことなんて望んでいなかった。命を懸けて取ってきたと言っても喜んでもらえるわけがない。
あの子を笑顔にしてあげるためには、カイが生き残り無事に生還する。それが絶対条件なのだ。
「だからっ……、こんなところで死んでらんないんだよ!!」
振るう大剣により一層の力を込めていく。出口の門はすぐそこ。しかし特攻を繰り返したせいでカイのHPも残りわずかだ。
「どいとけっ!!」
目前のスケルトンを斬り飛ばし、門を潜り抜けたカイは……墓地から脱出することに成功した。
「はぁ…はぁ……」
墓地の門の目の前で大の字で寝転っているカイ。スケルトン達は門の外には出られないようで、カイが脱出したと同時に再び土へと還っていった。
「何とかなったけど、超疲れたな……。すぐに届けてあげたいけど少しくらい休むことは許してくれな…」
今までの戦いの中でも上位に入るほどにギリギリの勝負だった。体力を見れば一割以下しか残っておらず、すぐにポーションを飲まなければ危ないだろう。
だがポーションを飲む余裕すら残っていないカイはそのまま呼吸を整え、何気なく空を見上げる。
カイの視界に入ってきた夜空は、彼の健闘を称えるかのように煌めいていた。
これまで大してデメリットが目立っていなかった《怨霊の妄執》でしたが、やっとその効果を発揮させることができて作者は満足です。
今回の舞台になった墓地は深夜限定で出現するエリアでした。ただその時間も固定ではなくランダムなので、その存在はあまり知られていません。
あとこの話書いてて「この主人公毎回特攻してんな…」って思いました。別に特攻が好きなわけではないんですが不思議ですよね。
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