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Record of Divergence ~世界の分岐点~  作者: 進道 拓真
第二章 自然の通過点

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第六話 少女の依頼


 昨日はあわや遺跡に閉じ込められかけ、散々な目にあった。なんとか脱出はできたがもう同じ体験がしたいとは思えない。


 いろいろな意味で疲労がたまった二人は、そのままログアウトした。




 翌日に再びログインしたカイは、一人で街を歩き回っていた。


 突然だが、ここエンリーフはいくつかの区画に分かれた街で構成されており、それぞれの街は国王によって任命された貴族によって治められている。


 今カイがいるのは「ファイネル」という場所にあたる。


「リンカは用事があるってことで今日はできないって言ってたしな…。なんか一人で動くのも久しぶりな気がするな」


 たまにはこういうのもいいだろうと思い、のんびりレベル上げにでも行こうかと郊外へ向かおうとしたその時、声がかけられた。


「あの! お兄さんは『プレイヤー』の方ですか?」

「ん?」


 どこか舌足らずな言葉が聞こえた先にいたのは、まだ小さな女の子だった。


「確かに俺は『プレイヤー』だけど…どうしたんだ?」

「実は……この指輪を取ってきてほしいんです」


 女の子が見せてきたのは全体的に緑がかった装飾の施された指輪を描いた絵。実物でなくとも美しいのがわかるので欲しいという感情は理解できるが…


「取ってきてほしいっていうのはどういうことだ? 落としてしまったのなら君でも探せるだろうし、無くしてしまったのなら新しいものを買うということもできると思うけど…」

「いいえ、あれじゃないとだめなんです。あれはお母さんが誕生日に買ってくれたもので、思い出が詰まっているんです」


 大切なものなのだろう。その瞳には諦めきれない感情が浮かんでおり、どうしようもできないやるせなさが映っている。


「それと落としてしまったのは街の外なんです。お母さんから危ないから街の外には行ったらいけないって言われちゃって…」


 それを聞いて『プレイヤー』であるカイに声をかけてきたのにも納得した。『レイヤ』である彼女たちは生き返ることができない。そう軽々しく命を懸けてほしいなんて言えない。


 だが『プレイヤー』は別だ。言い方は悪いが何度でも死ぬことができる俺たちはその危険性をほとんど無視できる。


「無茶なお願いだっていうのは分かっています。けどどうしても取り戻したいんです。お礼も少ないですけど持ってきています。お願いします!」


 その子の手にはお小遣いでもかき集めてきたのか、わずかなお金が乗っていた。だがカイはそれを受け取らずに女の子に目線を合わせる。


「いいよ、そんなの。俺が絶対に見つけてくる。だからお母さんと待っててくれ」

「……はい! ありがとうございます!!」


 こうして、指輪探しの依頼はスタートした。








 エンリーフの西側に存在する草原。まずはここを探してみようということで来ていた。


女の子に落とした場所に心当たりを聞いてみたが、街の西側ということしか覚えていないということでしらみつぶしに捜索していくことになった。


「西側といっても広いしな。どれだけ時間がかかるか…、でも諦めるわけにはいかないよな」


 あの少女の悲痛な表情。あんなものを見せられてしまえば何としてでも喜ばせてやりたいと思ってしまう。


 そのためにも指輪を見つけて帰ろうと決意を固め、再び探していく。


 だがやはり、そう簡単には見つけられずいきなり難航してしまった。


「少しでも手がかりがあれば違うんだけど…もしかしてもう誰かに拾われてたりしないよな」


 一向に見つけることができず過ぎてゆく時間は、少しずつカイの思考をマイナスなものへと引っ張ってゆく。


「もしそうならいくら探しても……いや、そんなこと考えんな! 絶対に見つけるって決意したばかりだろうが!」


 自分の顔を叩き、気合を入れなおす。


 周囲の草原をかき分けながら探すも見つからない。この場にいる他の『プレイヤー』や『レイヤ』達にも奇異の視線を向けられる。しかし、そこに先ほどまでの悲壮感はない。


「ここに無いとなると、あとはあの子が行きそうな場所は…ここから行った先に小さい花畑があったよな。そこも探してみるか」


 それまで捜索していた草原を後にし、次の場へと向かう。







 そこは以前に訪れた「フライルの花畑」を思わせる。さすがにあそこまで整った光景ではなかったが、それでも思わず立ち止まって眺めてしまうほどだ。


「有名にこそなってないけど、知られたら人気が出そうだよな…。っと、早く探さねぇと」


 今は楽しんでいる場合ではないと気分を入れ替える。


「こんだけきれいな場所ならあの子も遊びに来ていてもおかしくないし、見つけられそうだ」


 この花畑に希望を見出したカイは集中して指輪を見つけ出そうと時間を費やした。


 しかし、ここでも指輪を見つけることはできなかった。








「…おかしいな。もうあの子が行きそうなところは回り切ったしこれ以上は心当たりも全くない」


 これだけ探していれば何らかのヒントくらいはあってもいいくらいだ。それなのに指輪の痕跡すら見つけられない。


「そろそろ帰らないとだめか…。日が落ちてくれば見つけるのはさらに難しくなる。今日はリタイアして、明日リンカにも協力してもらうか………ん?」


 一向に発見できず街へと引き返そうとしたいた時、視線の先に見慣れないものが見えた気がした。


「あんなところに何かあったかな…。まぁ今日はもう帰るつもりだったし寄り道がてら行ってみるか」


 周囲は薄暗くはっきりとは視認できないが、周りが柵で囲まれており植物が生い茂っている。


「これって……」


 ようやくたどり着いたそこは、それまでの爽やかな雰囲気とは打って変わった墓地だった。



『レイヤ』の少女からの依頼。思い出の指輪探しのために奔走するカイです。




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