チビデブハゲ(37)の中年男性とダメ男好きな美少女JKの話
初投稿作なので、至らぬ点はあるかと思いますが、何度も見ることでより楽しめる作品だと思っています。よろしくお願い致します!
宇白美紀は、この表現が正しいかは分からないが、容姿に限って言えば天才的であった。
別に特段性格に善し悪しはないのだが、それでもやはり容姿のパレメータは飛び抜けていた。
高くすらりと筋の通った鼻。ゴムまりのような弾力の唇に、思わず引き込まれそうな口元。目は美少女の類に漏れず大きく、少しつり上がっており、黒目がこれでもかと言うほど白目を覆い、瞬きの度にばちっと聞こえそうなまつ毛を従えている。そして、これらのパーツがルネサンスもびっくりの黄金比率で配置されている。彼女の魅力はまだ尽きない。典型的な長く真っ直ぐな黒髪。身長はそれほど高くなく、まさに男の理想といった出で立ちだった。
そんな完璧美少女である美紀には当然のごとく彼氏がいる。
美女に彼氏がいる、という響きだけなら当然のように思われるが、美紀の場合は少しかってが違った。
その彼氏の年齢は、高校生2年生である美紀とかなり離れており、一見すると20ほど違うだろうと思われる。
それほどの年の差でありながら、美紀のお眼鏡に適う男性と言えば、一体どれほどよい人物であろう。美紀に釣り合うほどのイケメンなのか、はたまた日本を担うほどの富豪なのか。どちらにせよ、さぞ饒舌に尽くしがたい人物と考えるだろう。が、実際はそれらの全くの逆で、非常にシンプルな3単語で彼を表すことができる。
チビでデブでハゲである。
まさに今、美紀は彼と腕を組み、ショッピングを楽しんでいる。のだが、文字通り傍から見れば異様な光景である。
見た目で判断するなと言われそうなので先に断っておくが、彼の場合は本当に特殊で、性格面でも全くいい所がないのだ。
今回のデートを見てみても散々なことが多々伺える。
まずは社会人としてあるまじき15分遅刻でこのデートは始まる。女子高生の彼女は5分前に来て腕時計とにらめっこしてたと言うのにだ。
待っている彼女に近づく時も、つっかえた腹を押して走るものだから滑稽で、流れる汗も、なびくことのない濡れた髪も、そこらの伊達メガネよりも安っぽい黒眼鏡も、弾む度に揺れるお腹も、顎の肉のせいで言語化されていない『ごめん』も、全てが滑稽だった。
それ以外にもデート中に何度もつまづき、食事代は割り勘を主張し、そのくせ端数の26円をドヤ顔で出し、疲れたと言って謎の休憩をちょくちょくはさみ.......本当に傍には魅力が伝わらない。
しかし彼女は、そんな彼の愚行など気にもとめず、終始笑顔を絶やすことなくデートを完遂してみせた。
始めは彼女が水商売をしてるのではないかと疑った。1日何万円とかで時間を売っているのだろうと。しかし、遅刻した彼を待つ美紀の顔を、眼を見て悟った。これは本気だ。
どうしたものか。
恨めしいことに、美紀と彼は毎晩のように電話していた。彼女は彼のことを『あなた』と言い、どうやら彼からは『美紀ちゃん』と言われているらしい。
電話では、美紀は学校でのことを笑顔混じりに話し、彼は会社での愚痴や失敗談をため息混じりに話す。毎日のように自らの失敗を話せるという点からも、彼の駄目っぷりが垣間見えるというものだが。
美紀はよく彼の話を『あなたはほんとにバカねえ』と笑いながら聞く。少し美紀にはいわゆるSっ気があるようだ。心の底から楽しんでいるような声で笑うものだから、こちらもつられて笑みが零れてしまうほどだ。
と、ここまで美紀の素晴らしさと彼の素晴らしい駄目さを紹介してきた所だけど、1つ気になっていることがあることだろう。
何故美紀は彼を恋人に選んだのだろうか、ということだ。
その答えは、美紀が学校の友達と電話で話していた時に判明する。
その日は特筆すべきことも何も無い、平凡な一日だった。朝起きて学校に行き、通学路で友達と談笑し、放課後はテニスクラブに打ち込み、家に帰ればだらだらする。そんな時に友人の.......確か佳奈ちゃんといったはずだが.......から電話がかかってくるのも、また珍しくはなかった。
佳奈ちゃんは少し談笑した後、『気分悪くしないんでほしいんだけど』と予防線を張った上で、覚悟を決めたように言い放った。『美紀さ、なんであんな人と付き合ってるの?あんたなら男なら誰でも選び放題でしょうに』
その声には本心からの心配が含まれているように思えた。しかし、美紀はわかってますと言わんばかりに、ひとつため息をついた。
『その言い方ちょっとひどいんじゃない? あんな人呼ばわりするなんて』
『それはごめんなさい。言葉選びが悪かったわ』佳奈ちゃんはこれも本心から言っているようだ。
『でも、佳奈の言うことを全否定することは、私には出来ないかな』
この美紀の反応は意外だったようで、室内に少しの沈黙が生まれた。
『あまり美紀の言うことが分からない。だったら、なおさらなんであの人なの?』
佳奈ちゃんが絞り出すように言う。彼女も親友のためを思っているのだろう、何か必死なものが伺えた。
『彼はね』佳奈ちゃんの覚悟に応えるように、美紀は口を開いた。『ほんっとうにダメな人なの。彼女の私に全く気遣いなんてない、生粋のダメ男。いい所なんて、頑張っても数えきれるほどしかない....だから』
美紀は少し照れたように、しかしそれがまた当然であるかのように言う。
『私が何とかしてあげないと』
『え?』困惑、疑念、絶句、憤怒、呆然。どれにでも属するような声色を佳奈ちゃんは浮かべた。『それってどういう.....』
『私が彼を支えていかないといけないの。他の誰でもない、私だけの使命なの』
親友の言葉を遮ってまで、美紀は想いの丈を打ち明けた。その言葉は、自分を曲げる気はないという彼女の意思の固さを示すように、室内にこだました。
あまりの情動にそれ以降の話はよく覚えていないが、これで合点がいった。
そう、宇白美紀は超がつくほどの『ダメ男好き』だったのだ。恋愛感情よりも母性本能の方が影響してしまい、厄介なことに責任感まで付随している。自分を幸せにしてくれる人より、自分が幸せにすべき人と一緒になりたいと、彼女は考えているのだろう。
なるほど、やはりこの世に全てが完璧な人物などいないものだ。
あの電話からさらに月日が経った頃、2人の間に転機が訪れる。
美紀の誕生日を2日前に控えた日の夜、電話口の向こうにいるであろう彼の声は、いつにも増して弱々しく思えた。
『あの....誕生日なんだけど...ごめんなさい、取引先でまた失礼働いちゃって、その後始末で忙しくて......』
さすがの彼女もこれには少しこたえたようで、
『ううん、そういうこともあるよね。あなたは本当の本当にバカね。どーせプレゼントも買ってなかったんでしょ?』
『うん、もう.....ほんとにごめん.......』
彼は涙声でそういった。少しの静寂が場を包み、そののち、鼻をすすりながら彼が続けた。
『僕....変わるよ。今までも思ってたけど、今のままじゃダメだ。美紀ちゃん、僕、約束する。1ヶ月.......いや3ヶ月で君に見合う男になってみせる。だから、少しの間、待っていてくれませんか?』下から覗き込むような声色で男は言う。
『普通ね、そういう時は数字を小さくするものなのよ』美紀はまたひとつため息を空に置いた。『まったく、ちゃんと期待はするけど.......私の中の3ヶ月は決して2年とかのことじゃありませんからね。この意味があなたにわかるかな。おバカさん』
いつの間にか美紀も涙声になっていた。しかし、笑顔も絶えてはいないことがわかる、そんな優しい声だった。
かくして、ダメ男矯正育成計画が実行されたわけだが、第三者から見れば、チビでデブでハゲが、チビでちょっとハゲになったくらいの変化を遂げたくらいだった。まぁ上出来だとは思うよ、ダイエットも成功して、カツラは嫌だからって言って植毛施設に通う努力は認めざるを得ないしね。計画実行中の美紀と彼とのデートの一部始終を少し紹介するよ。
『待った?』
待ち合わせの10分前に到着した美紀が息を切らせながら言う。すると、変貌を遂げた彼が手を振る。
『大丈夫だよ、僕も今来たとこ、行こうか』
『そうなんだ。でもごめんね、待たせちゃって』
彼女は少しつんと口を尖らせたように見えた。何にいじけているのだろうか。
相も変わらず腕を組んで歩くカップルの会話は、後ろ姿でも分かるくらい、いつもと違い活気が少なかった。
『あなた、最近腕細くなったよね』
『そうかな?』
と言いつつもしっかりと照れている彼を、彼女はじっと見つめていた。
『えと、僕の顔に何かついてるかな.....あ、そこ段差危ないよ少しは前見ないと危ないから気をつけてね』
彼は細い目をもっと細めて優しげに笑う。彼女は忠告を聞いて前を向いたが、笑顔は浮かべていなかった。
『大丈夫だった? ハイヒールは歩きにくいよね、歩くペース落とそうか』
『あ...大丈夫だよ気遣わなくても。ありがとう』
美紀の腕の力が弱まった気がした。
『ううん、今日は僕がご飯代出すね。そういえば今まで学生には折半毎回厳しかったよね。ごめんよ美紀ちゃん』
『あなたって、意外と優しいんだね』
『え?いや、全然だよ。でもね、最近上司にも褒められるんだよ。僕がこんなになれたのは、全部美紀ちゃんのお陰だよ』
屈託なく笑う彼の顔はまるで少年のように思えた。世紀の美少女は、ただ俯いて話を聞いていた。
『もしもし、美紀? どうしたの突然』
本当に突然の電話だったので、少し焦った。デートが終わった日の夜に友達に電話をかけるなんて、準備ってものもあるだろう。佳奈ちゃんもそうだったらしい。
『ごめんね、でも佳奈に聞いて欲しいの。単刀直入にいうと、私、彼のことだんだん好きじゃなくなっている気がするの』
佳奈ちゃんは心底驚いた様子だったが、こちらとしても驚いた。いや、これはいわゆる嬉しい誤算というやつなのかもしれない、と考え直すことにした。
『どういうことなの? もう相手のダメさに愛想尽かしちゃったってこと?』
『ううん、むしろその逆。最近ね、彼、私のためにどんどん変わってくれてるんだよ。彼が変わる度に、私も日に日に彼の優しさやいい所に気がついていってる』
『それっていいことなんじゃないの? 今まで散々ダメダメ言ってきたんだから』
と佳奈ちゃんが訊く。きっとその顔はしかめっ面だろう。気持ちはわかる。だが、佳奈ちゃん、そういうことじゃないんだよ。
『いいこと...のはずだよね。でもダメなの。私は私がいないと何にも出来ない彼が好きだったの。悪口じゃなくてね。彼が私を頼る度に、私が彼に必要にされているんだって感覚をひしひしと感じられた。私が生まれてきた理由を与えてくれている。そんな気がしたんだ。だから私は彼といると安心できたし、そんな彼が大好きだった。でも、最近の彼は1人で何でもこなしちゃう。私から、どんどんと離れていく。自分でも嫌になるよ。私が彼のよさを知る度に、気持ちが離れていっちゃうなんて。嫌いになったわけじゃないのに、私、どうすればいいのかな』
彼女の声には既に涙が染み込んでいた。こんな反比例的な涙は、きっと彼女も流したことがないだろう。
やはり駄目だ。美紀の彼氏、いやもうすぐ元彼氏になるだろうが、あいつは本質的には屑のままなんだ。
俺なら美紀を泣かせたりしない。今までを振り返ればわかる通り、あの屑と俺とでは美紀にかける愛の大きさが違うんだ。
俺は毎朝通学路を共に歩き、毎晩彼女の家まで出向き、彼女をただの顔目当てでやってくる馬鹿どもから護り、盗聴器からあの屑との苦痛な電話を毎晩聞き、あの馬鹿が彼女が傷つくようなことを言わないかをチェックした。さらに外出する際には、気づかれると驚かせてしまうので、後ろから彼女の安全を確保してきた。
彼女はまだ俺のことは知らないだろうが、きっと薄々勘づいているはずだ。その上で俺に感謝するだろう。当然だ。今までの平穏は全て、俺のお陰なんだから。
今まで泥水を啜るような思いで耐えてきたが、ようやくこの思いを彼女に、美紀に伝えられる時が来たんだ。
いつか、あの笑顔が俺に向けられると信じてやってきた。
遂に、その時が来たんだ。
俺が美紀を幸せにするんだ。
大丈夫だよ、美紀。いつもずっとそばにいたから。いつもずっと見てたから...
まずは読んで頂きありがとうございます。どんな意見であれ、ご感想なんかがもしあれば、送っていただけるととても喜びます。
オチは想像していた話と少し違っていたのではないかと思います。笑
下では少し分かりにくいところや、個人的にこだわった所などを書いていきたいと思います。興味のない方は読み飛ばしてくれても全然大丈夫です!
この作品の核心は、「地の文が全てストーカー目線」で語られているというところです。そのため、序盤から何者かの存在を匂わせることに注力しました。地の文に伝聞的な言い回しを多くしていたり、男に対してやたら批判的だったり、「文字通り」傍から見れば、のフレーズや、美紀は呼び捨てで佳奈はちゃん付けだったり、盗聴している感を出すためにセリフは「」ではなく『』にしていたり。
また宇白美紀という名前も、後ろから見聞きされているという意味を込めました。
この作品には、阿部真央さんの『ストーカーの唄』という楽曲がぴったりだと思います、笑 是非聞いてみてください。
この2人がどうやって出会ったのかなど、現実的でないところはあるかもしれませんが、この作品を楽しんで頂けたなら幸いです。ここまで読んで下さった方がいらっしゃるなら、重ねて感謝申し上げます。
ありがとうございました。




