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Bright&Shadow

作者: 紫龍院 飛鳥

序章 光と影



俺の名前は『竹ノ内 影虎』16歳 自分で言うのも何だが普通のどこにでもいるような男子高校生だ。


高校二年になった頃、俺は家庭の事情で生まれ育った東京を離れて母親の故郷の広島で暮らすことになった。


母親の生まれ育ったところはのんびりとした田舎町で、そこで母方の祖父母と暮らしている。


…そして今日から晴れて新しい高校に通うこととなった。


家から最寄りの駅までは自転車で大体三十分ほどの距離、まぁそこそこ遠い


そんなわけで電車に乗り、これから学校へ向かう。


電車の中で俺は、新しい学校に通うに当たって一物の不安を抱えていた。


正直言うと俺は、人と話すのが好きじゃない…と言うよりもどっちかと言えば苦手だ


何故そうなったかと言えば具体的な理由はないが、強いて言えば人付き合いとか友達付き合いとか正直めんどくさいと思うようになり、無意識の内に人との関わりを避けるようになった。


正直後悔はしていない、実際一人でいる方が誰に気を使うでもないし、気持ち的に楽だからこれはこれで別にいい…


だからいつも俺は友達も一人も作らずずっと一人で過ごしていた。


だから新しい学校でも友達は別に作らなくていいかな、とそう思っていた。


すると、その時だった。


「おいテメェ!何さらしとんならぁ!」


俺のすぐ後ろの方で争う声が聞こえた


声の主は女子高生、派手な金髪にミニスカートといった所謂ギャル系の女子高生だ、その女子高生はスマホを握った男の手を掴んで男を睨みつけている。


恐らくあの男が女子高生のスカートの中を盗撮したのだろう…


駅に到着し、電車が止まってドアが開く


「おい降りろ!」


女子高生は男を電車から降ろす


「白状せぇや!ワレがスカートの中撮っとったんじゃろ!この変態野郎!」

「な、何のことだ?俺は盗撮なんて…」

「言い訳すんな!スマホ見せろ!」

「いい加減にしろこのクソガキ!撮ってねぇって言うとろーが!」


男は逆上し、女子高生に殴りかかろうとした。


「!?」


“ガシッ!”


俺は気がつくと、殴ろうとした男の手を掴んで女子高生を助けていた。


人付き合いが嫌いな癖して、目の前で起きている悪事は黙って見過ごすことができない…自分で言うのも何だけど難儀な性格だな、ホント…


「!?」

「な、何ならぁお前!」

「…やめときなよ、アンタホントに撮ったにしろ撮ってなかったにしろ、彼女のこと殴ってたらそれこそ傷害罪で捕まるよ?これだけの人間が見てんだ、もう言い逃れはできねぇぞ?」

「う、うるせぇ!ガキの分際で偉そうに説教垂れるんやなぁで!」


逆上した男は俺に向かって殴りかかってきた、しかし俺は男の拳を難なく受け止め、その腕を捻ってそのまま押さえ込んだ。


「イデデデ!は、離せ!」

「こんな手荒な真似ホントはしたくなかったけど、吹っ掛けてきたのはあくまでそっちだからな?悪く思うなよ?」

「イデデデ!ご、ごめんなさい!許してくれぇ!」


悲痛な叫びとともに罪を白状した男、丁度その時駅員さんが二人の警察官を連れてやってきた。


「どうしましたか!?」

「すみません、この男が彼女のスカート盗撮してました!」

「分かりました!ほら立て!」


男を警察に引き渡す


「犯人逮捕にご協力感謝します!」

「あ、いえ…」


警察に連れていかれる男、そこへもう一人の若い警察官が


「あの、ちょっと色々調書とかもとりたいのでお二人とも交番までご一緒によろしいですか?」

「は、はい…」


若い警官に連れられて交番で事件の詳しい詳細などを詳しく聞かれる。


「…なるほど、ご協力ありがとうございました!」

「いえ、どうも…」

「キミ達、その制服は『千石学園』の生徒ですよね?よかったらパトカーで学校まで送って行きましょうか?」


時間を見るともう遅刻ギリギリの時間になっていた、ここはお言葉に甘えて乗せていってもらうことにした。


パトカーに乗り込み、学校に向かう…


「…あのさ」


急に彼女が口を開く


「ん?」

「…助けてくれて、ありがと…まだお礼言えとらんかったけぇ…」

「そ、まぁ…別に」

「アンタさぁ、ウチの学校の制服着とるけどあんま見ん顔やね?転校生とか?」

「あぁ…」

「そう、ウチは『松嶋 ヒカリ』アンタは?」

「…影虎、竹ノ内 影虎」

「竹ノ内 影虎か…なんか武将みたぁな名前じゃけぇの!」

「………」


そうこうしている内に学校まで到着する、今正に校門が閉まる寸前だった。


「おーっと!ギリギリセーフじゃ!」

「ん?お前松嶋!性懲りもなく遅刻ばっか繰り返しよって!しかもなんでパトカーで来とんじゃお前!?」

「じゃけぇ聞いてよ先生~、ウチ今朝電車ん中で盗撮されたんよ~、もぉぶち怖かったけぇ…」

「あのー、彼女の言ってることは本当なんです…本官の方から事情を説明しますので…」

「そ、そうですか…ほら!お前は早く自分の教室行きなさい!」

「はぁい」

「ん?ところでキミは?」

「あ、今日から転校してきた竹ノ内と言います…実は彼女が盗撮されているところを偶然見かけてそれで彼女を助けて…」

「おぉおぉ、そうだったのか!じゃあまず校長先生に挨拶して来なさい、校長室は玄関から入って左だからな」

「はい…」


言われた通り校長室に向かう


「失礼します、今日から転校してきました竹ノ内です」

「やぁ待ってたよ!じゃあ早速キミのクラスの担任の先生を紹介するからちょっと待ってくれ!」


すると、校長先生と一緒にさばさばした感じの若い女の先生が入ってきた。


「彼女がキミのクラスの2年B組の担任の山本先生だ」

「キミが竹ノ内君か!よろしく!」

「どうも…」

「じゃあ早速この後ホームルームがあるから教室まで案内するからついてきて!」

「はい」


山本先生について教室へ向かう、着いたところで入り口で待っているように促され、言われた通り待つ。


「はーい皆おはよう!ホームルーム始めるぞー!皆席つけー!」


先生の一言で全員席に着席する


「えー、ではホームルームを始める前にだ!実は今日からウチのクラスに転校生が入ることになった!」


転校生と言うワードを聞いてあからさまにざわざわしだす生徒達


「ハイハイ静かに!じゃあ早速紹介するから!入ってきて!」


先生に呼ばれたので扉を開けて教室へ入る


「!?、あーっ!!」


入るや否や一人の女子生徒が俺の顔を見るなり大声を挙げる。


「えっ…!?」

「アンタ、今朝の!」


なんとその女子生徒は今朝俺が助けた『松嶋 ヒカリ』だった。


なんだこの展開!?一昔前のラブコメじゃないんだから!

こんなんで俺の高校生活、どうなんの?




第一章 青春の汗


…それからと言うものの、彼女…『松嶋 ヒカリ』は俺に四六時中付きまとってくるようになった

席が近いのもあってかひっきりなしに話しかけてくる。


「オッス!『たけっち』!おっはよ!」


しかもまだ出会って間もないのに『たけっち』なんてあだ名で呼んでくる…距離の詰め方が引くほどエグい…これが陽キャというものか…。


「なぁなぁ、なんか話そうや~!つまらんけぇ!」

「…話すって?何話すんだ?」

「たけっち東京から来たんじゃろ?東京ってやっぱあれなん?芸能人とかおるん?」

「さぁ…そもそもテレビ自体見ないから芸能人とか興味ないし」

「えぇー、そうなん?今時珍しいけぇのぅ…」

「もういいかな?次の授業の予習もしたいし…」

「ちぇー…」


これだけ冷たく引き離せばいずれは諦めてくれるだろう…


「にしても今日はあちぃのぅ…まだ5月じゃち言うにこれもう異常気象じゃろ?」


と、あろうことか彼女は椅子の上に足を乗っけだし無防備な格好になった。


もちろん俺の角度から彼女の下着が丸見えだ…


(…この女、まさか俺を挑発してるつもりか?イカン、見たら俺の負けだ!見たらダメだ絶対!)


「ん?たけっちどがいしたんなら?」

「!?、い、いや…」

「いやって、明らか様子おかしいじゃろ…あっ」

「な、何?」

「何ならぁたけっち、ひょっとしてウチのパンチラ見てコーフンしたとか?」

「は、はぁ!?そんなんじゃないし…」

「うっははは!バレバレじゃけぇ!もう、たけっちも真面目なフリしてやっぱえちえち大魔神やん?」

「え、えちえちって…だからそんなんじゃないって!!」

「もう照れんでもえぇけぇ、パンツ見たかったらいつでも見せちゃるけぇの」

「はぁっ!?」

「あ、赤くよりよった!つくづく面白いリアクションするんじゃけぇのぅたけっちは!うっははは!!」


…屈辱だ、これじゃ俺がムッツリスケベみたいじゃないか…


「おい、ヒカリー…あんま転校生いじめんのも大概にしときんしゃいやー」

「大丈夫やって、ちょっと遊んでやっちょるだけじゃけぇ!」

「そうやって段々いじめってエスカレートしてくんじゃ、ほれそろそろ先生くるけぇ」

「へーい…」


…それからというものの、俺は彼女にちょくちょく絡まれるようになり、わざとらしく胸元を開けてみたり、わざとパンツが見えるような格好をしてきたり、時には大勢の人がいる前で後ろから抱きついてきたり、その度に俺が恥ずかしがったり照れたりするのを見て大笑いしていた。


けれどもいじめられているという感じではなく、彼女は純粋に俺とじゃれているような感じだった。



…俺が転校してきてから早いものでもう一ヶ月が経ち、季節は6月となり衣替えの時期を迎えた。


「た~けっち!おっはよッス!」

「あぁ…」

「相変わらずテンション低いけぇのぅ…それより今日から衣替えやけぇ、どうなら?ん?」


俺に夏服を見せつけてくる彼女、彼女は夏服の上に大きめのカーディガンを着ており、逆に暑くないか?と思った。


「…それ、暑くないの?」

「ん?あぁカーディガン?しゃあないけぇ、これ着とかんとブラスケスケじゃけぇ…」

「ブッ!?」

「あ~、たけっち今ウチのブラ透けてるとこ想像したじゃろ?」

「し、してねぇって!」

「隠さんでえぇて!ホンマにたけっちはえちえち大魔神じゃの~」

「だから!その言い方やめてくんない?」

「ウヒヒ、ほら早うせんと遅刻するけん!おっ先~!」

「あ、ちょ!待てって…」



…そんなわけで朝のホームルーム


「えー、それじゃあ今日のホームルーム始めるぞー!じゃあここからの進行は日下、頼むぞ!」

「はい!」


先生に促されて前に出る学級委員の日下、運動神経抜群でクラスの皆からも慕われる熱血漢、俺の苦手なタイプだ。


「えー、ではここからは今月末に開催される全クラス対抗球技大会について話したいことがある!」


球技大会か…この手の学校行事ってなんか苦手だな、団体行動が苦手な俺からしたら苦行でしかない。


クラス一丸となって優勝目指して頑張ろうぜ!とか正直暑苦しいし、めんどくさいし…第一球技自体苦手だし


運動が苦手というわけではないが球技はあまり好きになれない…


だから球技大会なんて心底どうでもいいと思っていた。


「大会の種目は例年通り男子がバスケとサッカー、女子がバレーボールとハンドボールということになった!ではこれから出場希望用紙を配るから今日の放課後までに僕のところまで提出してくれ!」


と、クラス全員に用紙を配る委員長


「…球技大会ねぇ」


・・・・・


…放課後


「竹ノ内君!」

「…あ、委員長」


帰ろうとしたところを委員長に呼び止められる。


「球技大会の出場希望用紙ウチのクラスで出してないのキミだけなんだ…どっちに出るか決めてくれたかな?」

「…あー、それなんだけど俺はいいや…球技大会の日は学校休む…」

「それはダメだ!特別な事情でもない限りクラスの全員が一種目に必ず出る決まりなんだ!」

「チッ、めんどくせーな…じゃあ勝手に決めといてよ、どの道俺なんかいても役に立たないし…」

「それは違うぞ竹ノ内君!クラス全員で挑んでこそ意味があるんじゃないか!クラス全員一丸となって闘い熱く汗を流す!それこそ青春じゃないか!!下手くそだってかまわない!大会まで時間はある!一緒に練習しようじゃないか!」

「うわっ…暑苦しい」

「それに、この一ヶ月…キミは転校してきてから全くクラスに馴染んでいないように見える!この球技大会で皆と一緒に汗を流せばきっと絆が深まるんじゃないだろうか!?」

「いーよ別に…クラスに馴染もうなんてこれっぽっちも思ってないし」

「竹ノ内君!いいかい!高校生活の三年間は!人生で一度しかこないんだぞ!そんな貴重な時間をキミは、棒に振るつもりかぁ!!」

「あーもうわかったウザイ!じゃあもうバスケでいいよ!」

「そうかそうか!わかった!僕もバスケに出場するんだ!一緒に優勝目指そうじゃないか!」

「いや、それは遠慮しとく…俺は勝手にやるから他の奴らと頑張れ、じゃっ」

「あーちょっと待て!来週の体育の授業から球技大会に向けての練習が始まるからなー!」


激アツ委員長からなんとか逃れた俺は一先ず学校を出る


するとその時だった。


「た~けっち!」

「なっ!?」


いきなり彼女に後ろから抱きつかれる


「委員長となんかさっき話しちょったじゃろ?もしかして球技大会のことけ?」

「…あぁそうだよ、てゆーかまず離れてくんない?暑苦しい…」

「あーごめんごめん、で?たけっち何に出るんなら?」

「まぁ一応…バスケに出ることになったけど、あの激アツ委員長が絶対出ろってうるせーから仕方なく…」

「何なら?たけっち球技大会嫌いなんけ?」

「嫌いだね、てゆーか団体行動全般俺は嫌いだ…球技なんてもっての他」

「そう?球技大会楽しいやろ?みんなでワイワイ盛り上がってさぁ、ちょっとしたお祭りみたいじゃけぇ!」

「楽しいもんかよ…くだらねぇ」

「あー、もしかして…下手くそなところみんなに笑われるんが怖いんけ?」

「…っ!?」

「図星じゃの…」

「ち、ちげーって!」

「嘘やな、この一ヶ月たけっちに絡みまくって大体性格が読めてきたけぇ!たけっちは本心じゃないこと言う時は必ずっちゅうほど目が泳ぎまくっちょるけぇ」

「なっ!?」


彼女にそう言われて俺は慌てて目を反らす


「ほら当たった!」

「…………」

「よっしゃ!ほいじゃったらウチがたけっちの為に人肌脱いじゃるけぇのぅ!」

「はぁ!?」

「明日丁度土曜で学校休みじゃろ?明日はウチと猛特訓じゃけぇ!」

「はぁ!?いや余計なお世話だって…」

「そがぁ心配せんでもえぇけぇ!ウチに任せんしゃい!」

「…はぁ」

「そんじゃ明日朝10時に学校集合な!」

「…もうわかった、好きにしてくれ」

「よっしゃ!ほいじゃまた明日!」



・・・・・



…そして翌日、俺は言われるがままに学校までやってきた。


「遅ーい!何しとんならぁ!もう10分も遅れちょるけぇのぅ!」

「…うるさいな、来てやっただけまだマシだろう」

「まぁえぇけぇそがいなことは…」

「で?練習ってどこですんの?学校の体育館でも使う気?」

「ううん、この近くに市民体育館があるんじゃけぇそこで練習するけぇのぅ」

「へぇ…」

「うし!じゃあいくけぇのぅ!」

「ハイハイ…」


市民体育館に移動する、そこで使用許可の手続きを済ませて体育館へ入る。


練習前に準備運動を諸々済ませ練習スタート


「よーし、ほいじゃったら軽くたけっちの実力見るけぇ、ウチからボール奪ってみんしゃい!」

「あぁ…」

「いくで…スタート!」


俺は全力でボールを奪いにかかる、だがしかし彼女は俺の手をスルリと避けて俺を抜き去っていく。


「なっ!?」

「ほらほら!取ってみんしゃい♪うっははは!」


余裕の表情でドリブルする


「くっそ…」

「さぁどんどんバッチコイやぁ!」


…それから約三十分ほど、彼女のボールを奪おうと奮闘するも毛ほども掠りもしなかった。


「…ハァ、ハァ、ハァ」

「うっははは!まだまだじゃけぇのぅ!」

「チクショー…全然触れもしねぇ、なんでだよ」

「ウチこう見えてもスポーツ全般得意じゃけん、昔っから男子にも負けたことなぁで!」

「マ、マジか…ハァ、ハァ、ハァ」

「さ、まだまだやるけんね!ほら立った立った!」

「ま、まだやるのかよ…」


それから夕方まで、彼女との特訓は続いた…


その後数週間…大会までの間中、学校では激アツ委員長、土日は彼女との猛特訓の日々を送った。


そして、球技大会当日…


「よぉし皆!熱くなっていくぞぉ!目指すは男女ともに総合優勝!2年B組!ファイトォ!」

「オー!!」


そして、男子のバスケの試合…相手は2年D組…何故か俺はスターティングメンバーとして試合に出場することになった。


「…なんで俺がスタメンなんだよ…」

「大丈夫!何も心配いらないさ!あの特訓を思い出せ!」

「…どうなっても知らねぇぞ」


試合開始、警戒にパスを回していく2B


「竹ノ内君!」


あろうことか俺にパスが回ってきた


「えっ?わっ!」


ボールをキャッチする、するとボールを奪おうと相手チームが数人掛かりで迫ってくる。


「わっ!ちょ、うおっ!」


俺は無我夢中になって迫りくる相手チームの間をドリブルですり抜けてゴールを目指す。


(…あれ?抜けた?たまたまか?)


「いかせない!」

「またっ!?」


突然前を塞がれて急ブレーキをかけて止まる


(…くっ!不味い!塞がれた!)


するとその時だった。


「よくやった竹ノ内君!後は任せろ!」


と、激アツ委員長が俺の横からボールを受け取りゴールへ突っ走る。


「止めろー!」


委員長の勢いは止まらずゴールまで一直線


「そぉらっ!」


豪快にダンクシュートを決める


「うぉぉぉ!やったぁ!!」

「ナイス!日下!」


ゴールを決めた委員長を称えハイタッチするチームメイト達


「竹ノ内君!キミもよく頑張った!さっきのドリブルは見事だった!特訓の成果が出てるじゃないか!」

「あ、あぁ…」


そう言って俺は委員長とハイタッチする


…そして、試合は順当に進んでいき2年B組が勝利した。


「よくやった皆!この調子でどんどん勝つぞ!」


次の試合まで少し間が空くので外に出て少し休む


「た~けっち!オッス!」

「あぁ、おう…」

「見てたけんねさっきの試合!たけっち大活躍じゃったけぇなぁ!やっぱ特訓して良かったじゃろ?」

「ま、まぁ…な…」

「どう?少しは楽しくなってきたけ?」

「…………」

「なんで黙るんなら!そこはうんって言うとこ違うんかい!」

「あ、あぁ…」

「まぁえぇけぇ、もうちょっとしたら次ウチらのバレーの試合じゃけぇ、見に来てよ!」

「…気が向いたら」

「そか、じゃあの!絶対見に来てな!」


…まぁ、そんなこんなでバスケの試合までまだ時間もあったし、暇潰しがてら女子のバレーの試合を見に行くことにした。


2年B組の相手は3年A組だそうだ、初戦でいきなり上級生と試合するのか…。


「うっしゃー!気合い入れていくけぇのぅ!2Bファイトー!!」

「オー!!」


試合が始まった、両者一歩も譲らないせめぎ合いが繰り広げられている。


「せいっやぁ!!」


そして、2Bがスパイクを決めてマッチポイントとなる


「うっしゃー!後1点じゃけぇ!気合い入れるけぇのぅ!」


そして再びラリーが始まる、そして相手チームから強烈なスパイクが飛んでくる。


「させんわ!」


なんとかレシーブして拾う


「ヒカリ!いったれ!」

「任せんしゃい!どぉりゃあぁぁぁ!!」


“バチーンッ!!”


強烈なスパイクが炸裂する、相手チームはボールを拾えず地面に落としゲームセット、2Bの勝利だ。


「やったぁ!!」

「やるやんヒカリ!ナイススパイク!」

「イェーイ!」


勝利を喜び合う女子達


・・・・・


…その後、2年B組は獅子奮迅の活躍を見せ、惜しくも総合優勝は逃したものの男子のバスケと女子のバレーは堂々の一位だった。


「た~けっち!男子バスケ一位おめでとう!」

「あぁ…そっちもな」

「あー、いっぱい動いたけぇ腹減ったのぅ!なぁなぁ、この後一緒に飯でもいかんけ?」

「えっ…いや、いいよ…遠慮しとく」

「まぁそがいな固いこと言わんと!ウチのとっておきの店紹介しちゃるけぇ!ほらいくけぇのぅ!」

「ちょっ!?」


俺の手を取り連れ出す彼女


「着いたー!ここじゃけぇ!」


着いたのは『お好み焼き せっちゃん』と看板に書かれたお店、まぁ察するに広島風お好み焼きのお店なのだろう。


「ま、入って入って!」

「…………」


言われるがままに店に入る


「いらっしゃい!」

「オッス!おばちゃん!」

「あらヒカリちゃんやないの!あら?今日は彼氏と一緒?」

「違うて!ウチのクラスメイトのたけっち!先月ぐらいから東京から転校してきたんじゃけぇ」

「何ねそうかいね!いやぁそれにしても男前じゃけぇの~、アタシが後二十年若かったらねぇ…まぁ好きなとこ座りんさい」

「うーす、じゃあおばちゃん!いつもの二人前ね!」

「あいよ!『せっちゃんスペシャル』二人前!」


カウンターテーブルに座る、目の前の鉄板でおばちゃんがお好み焼きを焼き始める。


「ほら、たけっちもこっち座りんしゃいや」

「おぅ…」

「たけっち広島風のお好み焼きは食べたことあるんけ?」

「あぁまぁ一応…」

「ふぅん、でもここのは特別ぶち美味いけぇ!一回食べたら病みつきじゃけぇ」

「へぇ…」

「あ、嫌いなモンとかあるけ?遠慮なしに言うてや」

「大丈夫、甘いモノ以外は大抵食べれるから」

「ん?あー、そうけぇわかった」

「はぁい!せっちゃんスペシャル二人前お待ち!」

「おほぉ~!美味そう!いただきます!」


お好み焼きを豪快に頬張る彼女


「ん~!ぶち美味っ!おばちゃんのせっちゃんスペシャルほんに天下一じゃけぇのぅ!」

「フフフ、そこまで誉められるとおばちゃん嬉しいわぁ」

「どうなら?たけっち?美味いじゃろ?」

「…美味い、美味いなこれ」

「じゃろ~!もっと頼むけぇどんどん食べぇ!おばちゃんせっちゃんスペシャル追加!」

「あいよ!」


…結局その後、せっちゃんスペシャル四枚もたいらげた俺達


「ごちそうさまでした!」

「兄ちゃん、中々えぇ食べっぷりじゃったけぇなぁ!またいつでもおいでや!」

「ありがとうございました…」


店を出る、辺りはもうすっかり夕方になっていた。


「いやぁ満足満足!良かったじゃろ?」

「…あぁ、うん…ありがとな」

「ふぇっ!?」

「何驚いてんだよ?」

「いや、たけっちが素直にお礼言うやなんて珍しいなぁって思ったけぇ…」

「…俺を普段どんな風な目で見てんだ?」

「んー、ぼっちでぶっきらぼうでいつも無表情で何考えてるか分からんけどホントはえちえち大魔神で…」

「あーもういい!皆まで言うな!」

「うっははは、やっぱたけっちってオモシロ♪あ、そうじゃ!なぁたけっち!ウチと『NINE』のID交換せん?」

「えっ?」

「たけっちと話すの楽しいけぇ、NINEやったらいつでも話せるじゃろ?えぇじゃろ?」

「…まぁ、いいけど」

「おっ!やった!じゃあスマホ出して!」


お互いのスマホをフリフリする


「来た?」

「あぁ、来た」

「ウチも来た!フフフ、これでいつでも連絡取れるけぇね♪」

「………」

「早速今夜ウチのセクシーショットでも送ったろうかな~?」

「なっ!?」

「あ、たけっち今ちょっと期待したじゃろ?冗談に決まっとろうがこのえちえち大魔神!」

「し、してねぇって!」

「ホント~?でもちょっとは期待したじゃろ?」

「してねぇって!」

「ウッソじゃ~、そがいに顔真っ赤にしとるやつが何言うとるんなら!うっははは!」

「…………っ」


・・・・・


家に帰る、もうすっかり夜遅くなっていた。


「ただいま」

「あら、おかえりなさい…えらい遅かったけぇね」

「あぁ、友達に誘われて飯食ってたわ」

「あらそう!あのトラちゃんが友達とね…フフフ」

「何ばあちゃん?なんかおかしい?」

「いいえなんでも!お風呂沸いてるから入りんさい」

「うん…」

「フフフ…」

「どうしたばあさん?影虎帰ったのけ?」

「それがねアナタ、トラちゃん友達とご飯食べてきたんですって!」

「へぇ~あの影虎がか?珍しいこともあるもんじゃけぇのぅ!」

「そうね…新しい学校で楽しくやってるようで安心したわ…」


…風呂から上がると、彼女からNINEの通知が来ていた。


『やっほー!ヒカリちゃんじゃけぇの!今日は球技大会お疲れさん!たけっちも活躍できて楽しかったじゃろ?ウチもめっっっちゃ楽しかった!!じゃあまた明日学校でっ!おやすみ~(^з^)-チュッ♡』


と、最後には自撮りの写真がついていた。


「…フッ」




第二章 夏休み


「…では、始め!」


今日は一学期の学期末テストの日、夏休みに入る前には必ずこの試練を乗り越えないとならない。


俺は自分で言うのもアレだが、常日頃から授業もしっかりノートをとっており、家でもちゃんと勉強の予習復習をちゃんとやっている。

と、いうか俺はこれといった趣味もなく、友達もいなかったので勉強しかすることがないので休みも平日も常に勉強している。


そのおかげか中学でも前の高校でもテストの成績はそこそこ良かった、今回のテストも今日の日の為にみっちりと勉強してきた、だからかなり自信はある。


「はーい、時間だ!全員ペン置けー!」

「ふーっ…」


みっちり勉強しただけあってまずまず手応えはあった、後はテストが返ってくるのを待つだけ…


「あー終わったぁ!なぁなぁこの後カラオケいかん?」

「おーいいねぇ!いくいく!なぁ、たけっちもカラオケいかんけ?」

「…カラオケ?…遠慮しとく、俺行ったことないし」

「マジけ!?たけっちカラオケ童貞なん!?えー高二にもなって珍しっ!」

「ほっとけよ…」

「ほいじゃったら今日ウチらがたけっちのカラオケ童貞卒業させちゃるけぇ!」

「は、はぁ!?ちょ、ちょっと何言って…」

「ほいじゃ決まり!早速行くけぇのぅ!」


と、半ば無理矢理連れてかれてしまった。



…そしてカラオケ屋に着き、一曲目からハイテンションで騒ぎまくる彼女達。


「イェーイ!!フゥゥゥ!!」

「ほら、たけっちもなんか歌いんしゃいよ!」

「…いや俺はいいよ、最近の歌とか全然知らないし…」

「えー、じゃあたけっち知ってる曲でえぇけぇ!ウチたけっちの歌聞きたい~!」

「ウチも聞いてみたい!」

「…じゃあ、少しだけ」


と、二人の圧力に根負けして曲を入れる、入れたのはじいちゃんが好きでよく聞いてる昭和の歌謡曲


「…えっ?何ならこの曲?ゆりな知っとる?」

「えっ知らん…聞いたことなぁで?」


…と、なんとか一曲歌い上げる

二人ともきょとんとしてリアクションに困ったような顔をしていた。


「…ありがとうございました」

「…お、おぉ」


まばらな拍手を送る二人


「なんか、えらい曲のチョイス渋ない?これウチら生まれとらんやろ?」

「…だから俺はいいって言ったんだ」

「いやいやいや!そんな落ち込まんとってよ!上手かったで?上手かったけど、ちょっと渋いのぅ…っち思っただけじゃけぇ!のぅゆりな!」

「そ、そうそう!竹ノ内歌上手いのぅ!ウチら感動して聞き惚れてしもうたけぇ!」

「…………」

「もう機嫌直しんしゃいや!悪かったけぇゴメン!そや、なんか食べる?」


…そっからは二人も歌うのを遠慮したのか飯だけ食べてその日は解散した。



…翌日、テストの成績発表の日

この学校は学年ごとにテストの成績が良かった順に並べられ、掲示板に張り出される


上位に入った生徒はいいかもしれないが下位の方の生徒からすればとんだ恥さらしもいいとこである。


掲示板の前に群がる生徒達、俺も自分の順位を確認する、結果は『六位』だった…まぁでも、転校してきて最初のテストだったし、大体こんなところか…そう思って掲示板から立ち去ろうとした。


「たけっち!オスッ!」

「おぅ…」

「たけっちもう順位見たん?何位やった?」

「別に…言うほどの順位でもないし」

「えー、別にええじゃろお~勿体ぶらんと教えてや~!」

「分かった…一応、六位」

「えっすご!?何?たけっちぶち頭ええやん!」

「そうでもないよ…」

「えーでもうらやましい…ウチなんて毎回下から数えた方が早いけぇ…」

「そ、じゃ…」

「あー待って待って!たけっちも一緒に見てってぇや!」

「やだよ」

「おー願ーいー!!毎回下位じゃて分かっちょるけどやっぱ怖いんじゃけぇ!」

「…やれやれ、しょうがないな」


渋々彼女の順位を確認しにいく


「…どう?ウチの名前あった?」

「ないな…もう百位くらいまで来たぞ」

「マ?じゃったらまだ下?」


百位以下を見る、しかしそこにも彼女の名前はなかった…


そして等々一番端まで来てしまった。


「…あっ」

「あった…」


彼女の名前はあった…一番端の、『最下位』に


「…その、ご愁傷さま…じゃ」

「待ってぇぇぇ!!」

「な、何だよ!?」

「頼むたけっち!ウチに勉強を教えてください!!」

「はぁ!?なんで!?」

「赤点とったやつは来週追試受けんといかんのじゃけぇ…そこでも赤点とったら夏休みも毎日学校来て補習受けないかんのじゃあ…そがいなことになったらウチの夏休みあっちゅー間におしまいじゃけぇ!」

「…え、えぇ~?んなこと言われても…」


まぁ、最初は断ろうと思ったけど彼女には不本意ながらではあるが球技大会で世話になったし…ここ無下に断るのも申し訳ない気がしてきた。


「…分かった、しょうがないな」

「え、マジ!?サンキューたけっち!恩に着るけぇのぅ!」


その日の放課後から、彼女に勉強を教えることになった。



・・・・・



「こ、これは…!?」


返された彼女のテストの点数を見て俺は驚愕した。


『数学 1点』『理科 10点』『社会 11点』『国語 12点』『英語 13点』


なんとも酷すぎる点数だ…まさか現実にここまで酷い点数をとる人間がいたとは…


「…酷いな」

「なっ?酷いじゃろ?ここまで酷かったら逆に笑えるわ!うっははは!!」

「こりゃ徹底的にやらなきゃダメだな…」

「うぅ…や、優しくしてね?」

「ぐっ…変なニュアンスで言うのやめてくれる?」

「別にそがぁなつもりやないよぉ、ホンマにたけっちはえちえち大魔神じゃの」

「…俺教えるのやめてもいいんだけど?」

「ウソウソ!ゴメンて!もうこっからからかうのなしにするけぇ!真面目に勉強する!」

「ふー、まったく…じゃあまず一番絶望的な数学からいくか」

「へーい…」



それからは真面目にしっかりと勉強を教える、点数が点数だけに数学は壊滅的だったけど他の四教科はそこそこできるようになってきた。


「…まぁ大体こんなところか、後は問題なのは数学だな…あれだけ教えたのに一つもできてない…」

「うへぇ~、数学だけは昔から苦手なんよ…図形とか数式とか見てるだけで頭こんがらがりそうじゃあ…」

「…仕方ない、他の教科は大体できてきたみたいだし、明日からは数学を中心的にみっちりやるとするか」

「へーい…ん?でも今日金曜日じゃろ?明日土曜日じゃけぇ学校ないじゃろ?」

「ん?あぁ…そうか」

「じゃったらさぁ!たけっちん行ってもいい?」

「え?俺ん家?まぁいいけど、俺ん家学校から結構遠いぜ?」

「構わんけぇ、行ってもええじゃろ?」

「んー、あぁ…」

「おーし!じゃあ決まり!じゃあまたの!」



…翌日、俺は駅まで彼女を迎えに行く


「オッス~!」

「おぅ…」

「へぇー、思ったよりも随分田舎じゃけぇな…」

「ほら、いくぞ」

「あぁ、待ってや!」


家に案内する


「ここが俺ん家」

「おぉ、めっちゃ古風…」

「まぁ、ここじいちゃん家だしな…大分築年数いってると思う」

「ふーん、お邪魔しまーす」


家に上がる


「…誰もおらんの」

「あぁ、じいちゃんとばあちゃんなら今は畑にいってる」

「ふーん、たけっちのお父さんとお母さんは?」

「いないよ、お袋は国際弁護士やってて年中世界中飛び回ってる…」

「へぇ、お父さんは?」

「親父はいない…死んだんだ、一年前に」

「えっ?」

「俺の親父警察官だったんだよ、仕事中の事故でいきなり…それで母親の実家のこの家に高校卒業するまで住むことになった訳」

「そう…なんかゴメン」

「別に…そんなことより!さ、早く勉強勉強!」

「はぁい…」


…それから黙々と勉強を教えていく、彼女も真面目にしっかり勉強に取り組んでいる。


「だぁ~!もう無理限界!疲れた~!」

「…そうだな、そろそろじいちゃん達も昼食べに帰ってくる頃だろうし、残りは昼の後にするか」

「やったぁお昼じゃあ~!」


…と、そこへ丁度じいちゃん達も帰ってきた。


「ただいまー」

「おかえり」

「おや?影虎、そのお嬢さんは?」

「ああ、クラスメイトの松嶋 ヒカリさん」

「こんちわ!お邪魔してまーす!」

「おぉ…聞いたかばあさん!影虎が家にお友達を連れてくるとは…!?」

「えぇ、これは夢じゃないのね…」

「ちょ、二人とも大袈裟だって!」

「ああ、スマンスマン!」


それから四人でお昼にそう麺を食べた、その際彼女はウチの祖父母とものの数分で打ち解けてすっかり馴染んでいた。


「えーマジで!?おじいちゃん見た目によらずやるやん!」

「じゃろ~?いやぁワシもあの時は若かったのぅ…」

「いやいや、まだまだこれからじゃろ~?うっははは!」

「いやだわぁヒカリちゃんったら面白い子やね~、ウフフフ」


(…なんかスゲェ打ち解けてるし、仲良くなんの早っ…そういえば俺ん時も転校初日からこうやってグイグイ来られたっけ?)


「ん!この天ぷら美味しい!これおばあちゃんが作ったん?」

「いいえ、それトラちゃんが作ったのよ」

「えっ?ちょ、マ?たけっち料理できんの!?」

「ああ、まぁ…昔っから親は仕事で家空けることが多かったし、まぁ大半はばあちゃんから教わったけど…」

「へぇー、料理できる系男子とか結構えぇやん!ウチなんか超不器用じゃけぇ家でもママに火と包丁は危ないけぇ使ったらダメじゃち言われて未だにロクに料理できんけぇのぅ…こんなんじゃロクに嫁の貰い手もないのぅ」

「あら?なんならアタシが教えてあげるわよ?」

「マ!?えー!おばあちゃん優しいー!大好き!」

「あらあら、ウフフフ…」

「…………」



…それから勉強を再開し、気がつけばすっかり夕方になっていた。


「ふーっ…疲れた~」

「…うし、今日はこのぐらいにしとくか、帰ったらちゃんと今日やったとこ復習しとけよ?」

「はぁい…」


すると、そこへじいちゃん窓の外から


「ヒカリちゃんや、良かったらウチまで送ってくけぇの」

「ホント!?サンキューおじいちゃん!」

「わりぃなじいちゃん…気をつけてな」

「おぅ、じゃあヒカリちゃん車出すけぇ、乗って乗って!」

「はぁい!じゃあねたけっち!また!」

「…おう」


じいちゃんの軽トラに乗り込む、送ってく道中じいちゃんは


「ヒカリちゃんや、ありがとうの…影虎と友達になってくれて…」

「ん?どしたんならおじいちゃん急に?」

「いやの…あの子、影虎はの…子供ん頃から友達一人作らずただ勉強ばっかしちょるような子供じゃったっちゅう話でのぅ…東京住んでた頃もたまにウチに遊びにきた時だってほとんど喋らん愛想のない子じゃったんじゃ、あの子と一緒に暮らすようになってからも相変わらずでのぅ…でも、今日あんな嬉しそうな影虎を見たのは初めてじゃった…それもこれも、ヒカリちゃんのおかげじゃよ」

「そんな、買いかぶりすぎじゃけぇ!ウチなんてほんとに何もしとらんけぇ…」

「うわっははは!とにかくまぁ、これからも影虎と仲良ぉしたってつかあさいや…」

「…うん」

「…そして、せめてワシらが生きてる内にひ孫の顔を拝ませてほしいもんじゃのぅ…」

「えっ!?ちょ、ひ孫って!」

「うわっははは!ジョークじゃジョークじゃ!」

「…もうっ!おじいちゃんったら…」

「うわっははは!!」



・・・・・



…そして迎えたテスト追試の日


「それでは始めっ!」


勉強したことを思い出しながら着実に問題を解いていく。


そして全ての追試を終えて採点を待つ…


「…えー、では追試の結果を発表する!まずは松嶋!」

「はい!」

「…おめでとう、全教科合格だ!」

「ぃよっしゃぁぁぁ!!」


追試が終わった直後、彼女から電話がかかってきた。


「もしもし?」

『もしもしたけっち?聞いて!ウチ追試無事クリアしたよっ!!』

「そっか…よかったな」

『じゃな、これで心置きなく夏休みを迎えられるの!』

「あぁ…」

『じゃけぇさ、夏休みになったら一緒に遊ぼうな!』

「はっ?ちょ、待てよ!何故そうなる?」

『ええじゃろ?どうせたけっちは夏休み中なーんもせんで終わるじゃろ?折角の夏休みじゃけぇ、パァーっと遊ばんと損じゃろ?』

「うっ…」

『あー、早う夏休み来んかのぅ~♪ほいじゃあの!』


電話が切れる


「…ふーっ、やれやれ」



・・・・・



そして迎えた終業式


「いやぁ、明日から待ちに待った夏休みじゃのぅ!」

「そうだな、ところでさぁ…」

「ん?」

「夏休み、俺と遊びたいって行ってたけど…具体的に何する訳?」

「んーと、プール行ったりとかーお祭り行ったりとかー…あっ、たけっちの方で他にやりたいことあれば遠慮なしに言うてな」

「俺は特に…そっちに合わせるよ」

「ん、OK!へへ~、夏休み楽しみぃ~♪」

「………」


…夏休み初日、早速彼女から連絡が来た

彼女に誘われて市民プールへ行くことに。


俺は先に着替えて彼女が出てくるのを待つ。


「ごめーん!待ったけ?」


彼女の水着は赤いフリルのビキニ、しかも思ったよりもウエストが締まったスレンダーないい体をしていた


俺は思わず恥ずかしくなって顔を必死で背けた。


「ねぇどうなら?この水着~、思いきって買うたんじゃけぇど…」

「ん、ああ…いいんじゃない、か?」

「あ~、なんならぁたけっち照れちょるんけ?」

「…………っ!」

「おっ?よぉけ見たらたけっちもえぇ体しとるのぅ…」


と、いきなり俺の体をペタペタ触ってくる


「ちょ、やめ…」

「あぁゴメンゴメン!やっぱあれなん?結構鍛えちょるん?」

「まぁ、ガキの頃から武道やら護身術やら習ってたから…」

「へぇー、じゃけぇあん時もあの変態男やっつけられたんじゃのぅ…」

「まぁな…」

「まぁえぇわ、行こっ!」

「あ、あぁ…」


…それから二人でプールで泳いだり、遊んだりした。


「ちょっと腹減らん?あっちのフードコートでなんか食べようや」

「おう…」


フードコートで焼きそばを食べる、すると向こうの方で男女カップルがソフトクリームを食べているのが見えた。


彼女の方は豊満な胸をしており周りの男達はチラチラと彼女の方を見ていた。


「…何見てんなら?」

「ん?あ、いや別に…」

「ん~?…ははーん、さてはあれやろ?後ろにいる巨乳のねーちゃん見とったじゃろ?」

「いや、ちょっと視界に入っただけで…」

「嘘やん、たけっちただでさええちえち大魔神じゃけぇ、やっぱおっきいおっぱいの方が好きなん?」

「はっ!?」

「やっぱそうなんじゃのぅ、やっぱウチみたぁな薄っぺらいペチャパイじゃ物足りんか?」

「だっ、違うって!そ、そもそも俺は…む、胸の大きさぐらいで判断したりしないから!」

「ふぅ~ん…なら、ウチみたぁなペチャパイでもええんか?」

「そりゃ、まぁ…って、何言わせてんだよ!恥ずいだろ…」

「ヒヒヒ、ごめんて!」

「…ったく」



・・・・・



…夏休みもそろそろ終盤に差し掛かった頃、また彼女から突然連絡が来た。


『もしもし?たけっち?』

「あぁ…どうかした?」

『あのぉ…凄く言い辛いんじゃけぇどさぁ…』

「??」

『…やっぱり電話じゃあれじゃけぇ、今からウチん家これん?』

「はぁ…別に暇だから良いけど」

『ありがとう!恩に着るわ!じゃあ今から住所送るけぇ!』


…と、NINEで送られた住所を頼りに彼女の家までやってきた。


「…ここか」


玄関のインターホンを押す、すると物凄い勢いで彼女が飛び出してきた。


「あーん!たけっち来てくれたぁ~!助かった~!」

「ど、どうしたんだよ?そんなこの世の終わりみたいな顔して…」

「じ、実は…」


と、彼女の部屋へ通される

机の上には全くの手付かずの宿題の山が乱雑に置かれていた。


「…まさか、宿題これを手伝わせる為に俺を呼んだとか?」

「いやぁ…へへへ、バレちった…てへっ」

「帰る!」

「ちょ、待ってぇや!そんな殺生な!」

「自業自得だ…頼むから俺を巻き込むのはやめてくれ」

「たーのーむぅ!マジでこの通り!一生のお願い!」


俺の体に必死にすがりついて離れない、これは多分俺がうんと言うまで帰れない流れな気がした…。


「あーもう!分かった!ただし、俺はあくまでも少し教えるだけ!あくまで自分の力でやること!」

「うぅ…分かった」


渋々納得し、宿題に取りかかる


…そしてその日の夕方、何とか宿題を終わらせることができた。


「…お、終わったぁ!」

「…結局ほとんど俺任せかよ、うっすらそんな気がしてたけど…」

「なんだかんだ言うて優しいのぅ、たけっちは!」

「ほっとけよ…」

「よーし!これで心置きなく明日のお祭り楽しめるのぅ!」

「ん?お祭り?」

「そう、あーそうじゃあ…たけっち引っ越してきたばっかじゃけぇ知らんか…ほいじゃったら明日ウチと一緒に行こうや!今日のお礼も兼ねて!」

「…あー、まぁ…ここはお言葉に甘えるか」

「やったー!」


…翌日の夜、彼女の家の前で待っているように言われたので言われた通りに待つ、すると…


「お待たせ~!」


浴衣姿で現れた。


「どう?えぇじゃろ浴衣~?可愛い?」

「…まぁ、悪くないな」

「えぇ~!そこはちゃんと可愛いって言うところじゃろぉ!」

「いちいちめんどくさいな…」

「褒める時はちゃんと褒めんと、モテんよ!」

「別にいいし…」

「もう、まぁえぇや!行こか!」


…祭りの会場は沢山の屋台が並び、沢山の人々で賑わっていた。


「うっは!テンション上がってきた!ワクワクするじゃろ?」

「あ、あぁ…」

「さぁて、まず何をしたろうかいのぅ~?あっ!あれがいい!いくでたけっち!」


と、いきなり俺の手を握り走り出す彼女


「ちょっ!?慌てんなって!」


…それから彼女に色々連れ回されて射的やくじ引きなどを遊んで廻った。


そして小腹が空いたところで屋台でフランクフルトとチョコバナナを買って食べた。


「おいひー!やっぱり夏祭りと言えばチョコバナナじゃけぇな!なぁなぁ、たけっちのフランクフルトも一口ちょうだい!」

「はぁっ?やだよ」

「えぇじゃろぉ?ウチのも一口やるけぇ」

「遠慮しとく、俺甘いもの苦手だし…」

「あ、そうじゃった…えぇい隙あり!」


と、ふとした拍子に俺の食べ掛けのフランクフルトにかじりつく


「あっ!」

「フッフッフ、いただき~!美味っ!」

「くっ…やられた」

「あっ、ひょっとしてたけっち…間接キスとか考えとったじゃろ?」

「は、はぁっ!?考えてねぇから!」

「嘘ばっかし!このえちえち大魔神めっ!」

「ぐぅ…」


すると、遠くの方で花火が上がったのが見えた。


「おっ!花火上がっちょるやん!キレーじゃけぇのぅ…」

「あぁ…」

「たーまやー!」


二人して夢中になって花火を見上げる、思えばこうして誰かと祭りを楽しんだり誰かと花火をじっくり眺めるなんて初めてだったかもしれない…

俺はそう思いながら次々と上がる花火を只々眺めていた。


“カシャッ”


すると彼女がいきなり花火を見てる俺の横顔をスマホで撮った。


「ちょ、急に何撮ってんだよ?」

「ヒヒヒ、たけっちって…横顔意外と綺麗じゃけぇな、思わず撮ってしもた」

「ったく、だからって堂々と盗撮するなよ…」

「ゴメンて!でも思いの外上手く撮れたのぅ…待ち受けにしちゃお!」

「ちょ、それは流石にやめろ!恥ずいだろ!」

「ジョーダンじゃって!本気でやると思ったんけ?」

「………っ」

「うっははは!いやぁ、ホントたけっちからかうの面白ぇのぅ!めっちゃ可愛いリアクションするけぇ飽きんわ!うっははは!」



・・・・・



花火も打ち終わり、そろそろ帰ろうとした時だった。


「イタっ!」

「どうした?」

「うん、ちょっと足が…」


見ると彼女の足が草履の鼻緒で擦れて赤くなっていた。


「イタ~い、足イタ~い…歩け~ん!」

「…ったく、仕方ないな…ほらっ」


と、俺は彼女に背中に乗るように促す


「えぇの?」

「仕方ないだろ、そんな足で歩いて悪化してもあれだし…」

「ありがと!っんしょ!」


彼女をおぶって家まで送る


「…いやぁホント助かったけぇのぅ!ありがとたけっち!」

「…流石にあの状態で電車乗ったのは死ぬほど恥ずかしかった…冷静に考えたら途中コンビニとかで絆創膏でも買えば良かった…」

「まぁまぁ、えぇじゃろて…でもやっぱなんやかんやで家までおぶってくれたんじゃな、優しいのぅ…たけっちは」

「べ、別に…じゃ、じゃあ俺帰るから!」

「おう!また来週学校で!じゃあのっ!」




第三章 もどかしい気持ち



…そして迎えた二学期初日


「おっはよー!たけっちお久ー!」

「べ、別に久しぶりって感じでもないだろ…夏休み中だってほとんど毎日会ってたし…」

「もー、細かい事は気にせんでえぇじゃろー?」

「オース、ヒカリー」

「おーゆりなぁ!なんならぁ、めっちゃ焼けたやん!海行ったん?」

「そう、彼氏とねー」

「えーいいなー!あ、たけっちまた後でね~!」

「………」


…その日の昼休み


「なぁヒカリぃ」

「ん?」

「ぶっちゃけさぁ、アンタ竹ノ内と付き合うてるん?」

「はぁ!?違うから!そんなんじゃないけぇ!たけっちはただの友達!なんなんならぁいきなり!」

「甘いの…いいかヒカリ、男と女の間に友情なんて成立せんのじゃけぇ!」

「えぇ~、でも…別にウチとたけっちはそんなんじゃ…」

「でもぶっちゃけ、竹ノ内の事どう思っとるん?」

「別に普通やよ、たけっちは…普段ぶっきらぼうで愛想ないし何考えてるか分からんのじゃけぇど、意外と面倒見良かったりさりげなく優しくしてくれたり、後は…強くて男らしかったり…」

「…もう好きやん、大好きやん」

「ちょ、じゃけぇそんなん違うち言うとろうが!ウチはただ、たけっちといるとなんか楽しいだけで別に…好きとか…そんな…あぁもう!ゆりながおかしなこと言うけぇ!頭ごっちゃになるじゃろ!」

「悪かったって…でも、好きなら好きで別にえぇんやない?いっそのことコクっちゃえば?」

「こっ!?あ、アホなこと抜かすな!」

「アッハッハッハ!相変わらずヒカリはそっち方面は意外とピュアなんじゃけぇな!」

「やかましわ!ゆりなみたぁ男とっかえひっかえするよりマシじゃ!」

「…うーわその言い方地味に傷つくのぅ、ところでさぁ話変わるけぇどもうすぐ『文化祭』やんな、やっぱりあれ?竹ノ内と一緒に廻るん?」

「まぁ、そのつもりじゃけぇど…」

「ほいじゃったら丁度えぇやん、文化祭一緒に廻ってその後の後夜祭で思いきってコクったら?」

「ア、アホなことぬかしなや!とにかく告白なんせんけんね!」

「…やれやれ、じゃったらさぁせめて実行委員だけでも一緒にやれば?」

「へ?」

「ほら、二人で協力して文化祭仕切ってさぁ…そしたら自然と互いの距離も縮まるんやない?」

「…ゆりな、アンタホンマ天才じゃけぇな!」

「じゃろ?多分明日辺りロングホームルームで実行委員決めるじゃろ?それでヒカリ立候補したらえぇ」

「ありがとうゆりな!よぉし、やったるけぇのぅ!」

「ふぅ…やれやれ」



・・・・・



そして、次の日のロングホームルームの時間にて


「えー、それではこれより今年の文化祭について話し合いたいと思う!まずはクラスから男女二名ずつ文化祭実行委員を決めなければならない!誰か希望したい者がいたら遠慮せず手をあげてくれ!」


そうか、もう文化祭の時期か…正直文化祭もあまり好きじゃないな…放課後とか残って作業するのもダルいし、中には文化祭中に仲良くなって付き合うような輩もいて見ててかなり痛々しい、どうせすぐ別れる癖に…あーやだやだ


「…はい!実行委員、ウチが立候補します!」

「おーそうか!じゃあ女子は松嶋さんで決定だな、後は男子だな…誰かいないか!?」

「ねぇねぇ委員長ー、竹ノ内が是非立候補したいって!」

「!?」

「おぉ!やってくれるか竹ノ内君!」

「ちょ、ちょっと待て!俺はやるなんて一言も…」

「よくぞ決心してくれた!君ならやってくれると信じていたぞ!」


だから違うってのに…ホント人の話聞かないな、この熱血バカ…


「では期待してるぞ!竹ノ内君!松嶋さん!」

「はぁい!」

「………」


…その後、彼女を呼び出して問い詰める


「一体どういうつもりだよ?」

「え、何が?」

「何が?じゃなくて、俺を無理矢理実行委員になんか仕立て上げるなんてどういうつもりだよ!?」

「ええじゃろ別に…ただウチはたけっちと文化祭盛り上げたいっち思っただけじゃけぇ…悪気はなかったんよ、ごめんね!」

「ったく、余計なことを…」

「まぁ、たけっちがそこまで嫌じゃち言うんなら委員長に頼んで変えてもらうけど…」

「もういいよ、不本意とは言え一旦は引き受けちまったんだ…引き受けたからには最後まで責任持ってやるさ」

「ホント?やっぱりたけっちならそう言うって思っとったけぇの!」

「…ったく」


…こうして、俺は彼女と文化祭実行委員をやることになった。


ちなみにその後の話し合いでウチのクラスは『お化け屋敷』をやることになった。


ウチの学校は学年ごとに出し物が割り振られていて、一年生は『演劇』、二年生はゲームコーナーや展示などの『出店』、三年生は食べ物を提供する『模擬店』、と言った具合である。


そして明日の放課後から早速文化祭の準備に取りかかることとなった。


その為に今日は必要な物品の買い出しに来ている。


「…これと、これと、後は衣装か…どっかそれっぽい衣装買えるとこある?」

「あるっちゃあるんじゃけぇど、でも全員分となると予算オーバーするのぅ…」

「そっか…仕方ない、自分達で作った方が安上がりか…」

「あぁ、ほいじゃったらそれの方がえぇわ!ウチのクラス裁縫得意な女子も結構おるけん」

「マジか、じゃあちょっと使えるモンあるかちょっと見てみるか」

「ほうじゃの」


…と、ある程度買い物を済ませて学校へ戻る、買った物品を教室に置いてその後は彼女と『せっちゃん』に寄って教室のレイアウトや衣装のデザインを考える。


「こんなんでどうよ?」

「ほぉ~、たけっちぶち絵上手いのぅ…」

「そ、そうか?別に普通だよ…で、教室のレイアウトだけど、机とか積み上げて壁作って上から暗幕かけて…」


と、話を進めていると


「あら、それお化け屋敷の衣装?いやぁ懐かしいわぁ~、おばちゃんも学生の頃文化祭でお化け屋敷やったんよ!」

「えっ?おばちゃんマジなんそれ!?」

「そうやよ~、何なら?アンタらもお化け屋敷やるんけ?」

「えぇ、まぁ…」

「なぁなぁ、折角やけんおばちゃんの意見も聞かせてや!」

「あぁえぇよ、おばちゃんにどんと任せんさい!」


と、おばちゃんからもあれこれアドバイスをもらい着々とアイデアは纏まってきた。


「ありがとうございました、とても参考になりました」

「えぇんよえぇんよ!まぁとにかく頑張りんさい!」

「うん、おばちゃんありがとう!」



・・・・・



…それから、着々とお化けの衣装と会場の飾りにとりかかる。


「…ふーっ、結構できてきたな…」

「ほうじゃの、じゃけぇど…まだまだやけんな、後半分くらい残っとるけん…」

「あぁ、文化祭まで後一週間ちょい…このペースじゃちとキツイな…」

「しゃあないの…こうなったら、『奥の手』を使うしかなぁで」

「奥の手?」

「へっへっへっ…」


…その日の夜、誰もいない校舎を見回る教職員


「…異常なし」


教室を見回ってスタスタと去っていく


「…おし、行ったで!」

「なぁ、やっぱりやめといた方が良くね?見つかったら事だぞ…」


彼女の提案した『奥の手』とは夜の教室での徹夜作業、本来夜遅くまで校舎内に残るのは校則で禁止されている。


「大丈夫やって、見つからなんだらセーフじゃけぇ」

「見つかったらアウトだっての!」

「バレやせんて!今日の当直定年間近のお爺の斎藤先生やけん、チェック甘いけぇ」

「だからって…」

「ホレ、時間ないけんさっさとやろ!」

「ったく、仕方ないなぁ…」


と、二人で暗い中黙々と作業を始める。


すると、遠くの方から誰かの足音が聞こえてくる。


「おい!誰か来たぞ!」

「は、早う隠れな!」


と、二人急いで教室の隅の掃除ロッカーの中に隠れる。


「………」


咄嗟に隠れたのはいいものの…中はかなり狭く二人も入ってしまえばかなり窮屈でしかもかなり密着してしまう。


「…ハァ、ハァ、ハァ」

「ちょ、たけっち…息荒すぎじゃろ、バレてまう」

「し、仕方ねぇだろ…こんな状況じゃ」

「あっ…もしかして、こんな状況でヤらしいことでも考えてたん?」

「は、はぁ?お前こんな時まで余計なこと…」

「嘘ばっか、このえちえち大魔神…さっきからウチのお腹になんか固いもんがずっと当たっとるんじゃけぇど?」

「はぁ!?おま…何言って…っ!?」

「…たけっち?」

「…お前が余計なこと言うから…」

「えっ?…あっ」


“ムクムクっ”


「ちょ、たけっち!ウチ冗談で言うたのにマジで固くしてどがいするんなら!」

「バカ!デカイ声出すな!」

「やばっ!」


俺達のいる教室に入ってくる斎藤先生、教室の中をくまなく見回っている

俺はその様子をロッカーの隙間から窺っていた。


「…ふむ、やっぱり誰もおらんか…異常なし、と」


教室から去っていく、そして俺達は漸く狭いロッカーから解放された。


「…ハァ、助かった」

「まったく、ヒヤヒヤしたのぅ…二つの意味で」

「…それ以上は言うな、マジで頼むから…」

「冗談じゃて、さっ!やるで!」


…それから作業は明け方近くまで続き、なんとか半分以上作業を進ませて、その後俺達は一旦帰って着替えて少し寝てまた学校へ向かった。


「…あーねむ、ふぁ~…」

「たけっち!おはよっ!」

「…お前、徹夜明けなのになんで元気なんだ?」

「なんでじゃろな?ちょっと寝て起きたら朝めっちゃ元気じゃけぇ!すごない!?」

「…ある意味羨ましいわ」

「さっ!もうラストスパートじゃけぇ!今日の放課後も頑張ろー!」

「…やれやれ」



・・・・・



そして迎えた文化祭当日、校内はあっという間に来場客でいっぱいになった。


俺はお化け屋敷の宣伝をする為にお化けの仮装して看板を持ってブラブラと歩く


ちなみに今の俺の格好は『狼男』、とはいえ普段の制服に加えて犬耳カチューシャに犬鼻マスクをつけただけのシンプルな仮装、あまり派手な格好はしたくないので無理言ってこれで通した。


「お化け屋敷いかがですかー、2年B組でやってまぁす、いかがですかー」

「た~けっち!」

「おわっ!なんだよ」


彼女が突然後ろから現れた


「しっかりやっとる?もっと腹から声出さんとお客さん気づいてくれんけんのぅ」

「言われなくてもやってるし…てか、何その格好?」

「えっ?何って?『鬼娘』やん」


彼女の格好は鬼の角がついたカチューシャにミニ丈の浴衣を着たとてもお化けには見えない格好だった。


「可愛いじゃろ?鬼娘」

「可愛くしてどうすんだよ…お化け屋敷は人脅かすモンだろ」

「細かいこといちいち気にせんでえぇじゃろぉて!ほれ、張り切ってお客さん呼ぶけぇの!…いらっしゃ~い!お化け屋敷どうですかー!いらっしゃいいらっしゃーい!」

「…………」


しばらくすると『三つ目小僧』の仮装をした委員長がやってきて


「竹ノ内君!松嶋さん!お疲れ様!そろそろ代わろうか?君達も文化祭廻ってくるといい!」

「おっ!サンキュー委員長!ほいじゃたけっちいこー!」

「ちょっ!」


俺の手を取って走り出す彼女



・・・・・



「さぁて、まずどこ行こうかいのぅ?」

「…今の時間だったら、一年生が体育館で演劇やってるはず」

「ほぉ~、ほいじゃったら行ってみよう!」

「あ、あぁ…」


体育館に入ると、丁度舞台が始まっていた。


演目は恐らく『ロミオとジュリエット』だろうか…


「おぉ、ロミオ…あなたはどうしてロミオなの?私はキャピレット家の娘、そしてあなたは我が一族の宿敵であるモンタギュー家…どうかその名をお捨てになって、でなければ私達は永遠に結ばれないままですわ…」

「ジュリエット!僕は君の為ならば、喜んでモンタギューの名を捨てよう!僕は君を愛してる!世界中の誰よりも!ジュリエットー!」


…演劇を見た後、二年生の教室の出店に向かう。


「おっ?C組で縁日やっとる!ここ行こっ!」

「あぁ」


教室に入る、中にはボールすくいや輪ゴム鉄砲の射的、輪投げなど所謂祭りの縁日のようなコーナーあった。


「おぉ、なんか夏休みにたけっちと行った夏祭り思い出すのぅ…」

「あぁ、射的や輪投げで散々勝負した挙げ句一個もお前に勝てなかったっけなぁ…」

「なんなら今日ここでリベンジするけ?」

「上等!」

「へへ~ん、絶対負けんけぇのぅ!負けた方が後で模擬店でメシ奢ること!」

「あぁ、いいぜ」

「言うたの?コテンパンにしちゃるけんのぅ…」


…結果、俺は敢えなく惨敗しリベンジならず…彼女に模擬店でメシを奢ることになってしまった。


「んふっ、焼きそば美味しー♪」

「屈辱だ…なんでこうも負ける?」

「まぁまぁ、たかがお遊びやけん!しょげんなしょげんな!」

「…………」

「おっ?なんか向こうの野外ステージでなんかやっとんね?」


見ると中庭に設置された野外ステージで催し物をやっていた。


どうやら『腕相撲チャンピオン決定戦』らしい…


「さぁ始まりました!腕相撲最強王者決定戦!決勝戦であります!対戦するのは前年度王者 柔道部の武井と相撲部の伊藤!さぁどちらが勝つのか…それでは、レディー…ファイッ!」


激しく組み合う両者


「ふぬぬぬ…どおりゃぁ!!」

「決まったぁ!勝者!チャンピオン武井!」

「ふん!そんなものかぁ!もっと強いヤツはいないかぁ!」

「おっと!無敵のチャンピオンからの宣戦布告だぁ!さぁ!この無敵のチャンピオンに挑もうという勇気ある者はいるのだろうか!?」


すると、俺はスッと席を立ちステージへ向かった

さっき彼女に負けた鬱憤を晴らすにはいい機会だ。


「たけっち?」

「おーっと!ここで謎のオオカミマスクマンの登場だぁ!君、クラスと名前は?」

「2年B組、竹ノ内 影虎…」

「竹ノ内君!では、試合前に自信のほどをどうぞ!」

「俺は今色々あってむしゃくしゃしてんだ…悪いけど、勝たせてもらうぜ」

「ふん、生意気な…」

「それでは!チャンピオン武井 対 挑戦者竹ノ内!さぁ!勝つのは果たしてどちらだろうか!レディー…ファイッ!」

「ふん!」

「くぅっ!」


開始早々全力で倒しにかかる、しかし相手も無敵のチャンピオンだけあって中々倒させてくれない。


「どうしたどうした!?口ほどにもないなぁ!」


段々と倒されつつある危機的状況…


「たけっち!頑張れー!」

「竹ノ内ー!やれやれー!」

「竹ノ内!竹ノ内!竹ノ内!」

「クソ…ナメんな!オラァ!!」


“ズダーンッ!”


最後の力を振り絞り無敵のチャンピオンを見事に倒した。


「決まったぁ!勝者!挑戦者 竹ノ内ぃ!新たなる腕相撲チャンピオンの誕生だぁ!」

「うぉぉぉぉ!!」

「くっ、完敗だ…」

「ハァ、ハァ、ハァ…」

「たけっちスゲー!ぶちカッコえぇぞー!」


と、突然彼女がステージに上がって来ていきなり抱きついてきた。


「ちょ、お前…!」

「あ、いけね…興奮してつい…」

「なななんと!新チャンピオン竹ノ内!早速彼女からの勝利の祝いのハグ!しかもこんな人前で堂々と!なんて大胆なんだぁ!」

「フゥゥゥ!」

「なっ!?違っ…コイツは別に彼女じゃ…」

「おーしお前らー!ウチのダーリンは最強無敵じゃあー!よぅ覚えとけー!」


と、マイクで大声で叫ぶ彼女


「いや、だから!もう聞いてねぇし…」



・・・・・



「ったく、あんな恥ずかしい真似二度とやめてくれ…」

「えっ?いいやん、面白かったけぇ!みんなも盛り上がっとったじゃろ?」

「だからってあのなぁ…あれじゃホントに俺ら付き合ってるみたいじゃねぇか」

「えー、えぇじゃろー…それに、なんならホントに付き合ってもえぇけど…?」

「は、はぁ!?」

「じょ、冗談じゃけぇのぅ!もう、こんなんいつもの冗談やんか!真に受けんなや!こっちまで恥ずかしくなるじゃろ!もう、たけっちのえちえち大魔神!」

「え、えちえち大魔神て…今関係ねぇだろ」

「もう細かいこといちいち気にせんでえぇじゃろ!…あ、ゴメン!ウチ、ちょっとトイレ!」

「…………」


「…なんであがいなこと言うてしもうたんじゃろ…ウチのバカっ!」



・・・・・



そして文化祭を終え、夜になって後夜祭が始まった

ビンゴゲームやカラオケ大会などして盛り上がった。


「竹ノ内君!」

「あ、委員長…」

「いやぁ昼間はお化け屋敷中々好評だったよ!竹ノ内君が内装とか衣装とか全部考えてくれたんだろ?済まなかったな、僕も手伝えたら良かったけど部活や生徒会の仕事も忙しくて中々手伝えなくて…」

「いや、まぁ…っつっても俺はちょこちょこ案出しただけでほとんど大したことはしてないよ…」

「それでもちゃんと実行委員としての務めを立派に果たしてくれたじゃないか!大したものだ!お疲れ様!」

「ありがと…」

「そうだ!さっきのビンゴゲームで当たったお菓子があるんだ!あっちでみんなで食べよう!」

「あー悪い、俺甘いもの苦手なんだわ…」

「そうか…あーでもしょっぱいお菓子もあったから良かったら来ないか?」

「…まぁ、いいけど」


…そして、後夜祭の最後には校庭で打ち上げ花火が上がった

花火が上がると、生徒達は歓声や拍手を挙げたり、スマホで写真を撮る者もいた。


文化祭も無事に終了し、その帰り道…


「た~けっち!途中まで一緒に帰ろうや!」

「ん、あぁ…」


駅に着くまでの間彼女と二人して歩く


「いやぁ~文化祭楽しかったのぅ!」

「まぁな…」

「また来年も一緒に楽しめるとえぇのぅ!」

「…考えとく」

「もう!そこはOKするとこじゃろ!ノリ悪いのぅ」

「ほっとけよ…」


…駅のホームに入り、電車を待つ


「じゃ、俺こっち方面だから…」

「あ、たけっち待って!」

「ん?」

「その…やっぱなんでもないけん!気ぃつけて帰りや!」

「…お前もな」


と、電車が来て乗り込む


『ドアが閉まりまーす、ご注意下さーい!』


ドアが閉まり、電車が走り出す


「…行ってまった」


電車の社内で、彼女からNINEが送られてきた

今日の文化祭で廻ってる時に撮った写真だった。


「こいつ、いつの間にこんなモン…まぁいいか」




第四章 溢れ出す想い



季節はあっと言う間に冬になり、めっきり寒くなってきた。


「うぅ~、寒ぅ~…」

「た~けっち!おっはよ!」

「おう…この寒いのにお前は相変わらず元気だな」


見ると彼女はマフラーとコートは着ているものの、下は相変わらずミニスカートで足丸出しだった。


「へっへ~ん、いつだって元気いっぱいなのがウチの取り柄やけんね!」

「けどその格好はねぇだろ?寒くねぇの?」

「そら寒いに決まっとるじゃろ!じゃけぇたけっち温めて~!」

「お、おい!」


と、またいつもの調子でからかわれる始末である。


「話変わるけぇどさぁ、もうすぐクリスマスやんね!」

「あぁ、そうだな…その前に期末テストがあるけどな」

「うっ…そうじゃった」

「まぁせいぜい頑張れ…」

「うー、わかった…じゃったら約束してや!ウチが今回のテストで一個も赤点とらんかったら、クリスマス二人でデートしよ!」

「はぁっ!?なんでそうなる!?」

「だってそうした方が燃えるってモンじゃろ?それにたけっちどうせクリスマス暇じゃろ?」

「…ちっ、わかった好きにしろ、でもその代わり今回は俺は助けねぇぞ、自力で勉強するんだな」

「えーそんなご無体な!?むー、わかった…じゃあ自力で勉強してもしも赤点全部回避したらウチと絶対デートしてもらうけんのぅ!」

「あぁいいぜ、多分無理だろうけどな…」

「ムッキー!言うたの…絶対じゃけぇのぅ!もし約束破ったらたけっちのことえちえち大魔神じゃって学校中に言いふらすけんのぅ!」

「わかったって、てかそれだけは勘弁してくれ…」

「よぉし!やったるけぇのぅ!!おっしゃぁぁぁ!!」


…その日から彼女は一心不乱になって勉強に励むようになった。


あまりの熱心さに逆におかしなものでも食べたのか、だのと一部心配する声も挙がるほどに彼女は真面目にコツコツと勉強に励んだ。


…そして、迎えたテストの返却日


「…で?一応聞くけど、どうだったんだよ?」

「フッフッフッ、よくぞ聞いたのぅ…これを見よ!」


自信満々に返ってきたテストを見せてくる、するとたしかにギリギリではあるが見事に赤点は取っていなかった。


「…おいおい、マジか」

「フッフ~ン、どうじゃ見たか!ウチが本気出したらこんなモンじゃけぇのぅ!」

「…あぁ参った参った、俺の負けだよ」

「やった!ほんじゃ、約束はキッチリ守ってもらうけぇのぅ!」

「…分かってるよ、もう何なりと好きにしてくれ」

「イヒヒ、さぁてどこ行こうかの~?楽しみじゃけぇの!」



・・・・・



…そしてクリスマス、デート当日

俺は彼女から予め指定された駅で待つ。


「ごめん待たせて!」

「ったく、五分遅刻!」

「ごめんて!メイクが中々決まらんくて…それとギリギリまで何着てくか悩んどったけん」

「ふぅ、まぁいいや…で?とりあえずどこ行くんだ?今日行くとこ全部計画立てたって言ってたけど?」

「あぁ、うん!今日はウチに任せて!」

「言っとくけど、俺あんま金ねぇぞ?」

「あぁそこは大丈夫じゃけぇ!今日はウチから誘ったんじゃけぇ、デート代ウチが持つけん!」

「そうか…で?まずはどこ行くんだ?」

「あぁそうそう!はいこれ!」


と、彼女は俺に何かを手渡す


「これは…映画のチケットか?」

「そ!丁度見てみたいなぁ~っち思っとったけんの!」

「しかもこれ、バリバリのラブストーリーじゃんか…見る気しねぇな…」

「そうなん?ほいじゃったら別に違う映画でも…」

「いや、折角チケットまで用意したのに勿体ないだろ…まぁたまにはこういうのも悪くねぇかもな」

「ホンマに?じゃったら行こう!」


と、俺の手を取り走り出す彼女


「ちょ、慌てんなって!」


…と、二人して映画を観る

内容的には学園もののラブストーリーで幼なじみの男二人が同じく幼なじみの女子を巡る三角関係のありがちな内容でベタすぎるにもほどがあった。


映画を見終わる頃には彼女は嗚咽を漏らしながら泣いていた。


「いやぁ~泣いたぁ、めっちゃ良かったなぁ!」

「あ、あぁ…」

「ぶっちゃけこの作品何回もリメイクされちょるけぇどいつ見ても最高じゃけぇの」


この作品そんなに人気なのか?全く分からん…こういうのが好きって奴も大勢いるってことかな?


「あー、いっぱい泣いたらなんかお腹減ったのぅ…そろそろお昼にしよか?」

「あぁ、そうだな…」


俺は毛ほども泣いてないが時間も時間なのでたしかに腹は減った

と、いうことで映画館の近くのファミレスで昼飯を食べる。


「さぁて何食べようかいの?たけっちも遠慮せんと好きなモン頼んでえぇけんの!」

「あ、あぁ…」


昼飯を食べた後、腹ごなしにゲームセンターにやってきた。


「ゲーセンとかガチで久しぶりじゃけぇな~、たけっちは?」

「俺?…小学生以来とか?」

「マジで?まぁたけっちあんまこなさそうじゃけぇなー、とりままずは一緒にプリクラ撮ろうや!」

「プリクラ?まぁ、いいけど…」


…と、プリクラの機械を見つけて二人して中へ入る。


『それでは~いっくよ~!まずは二人の手を合わせてハートのポーズを作ろ~!』


「ほら!たけっち!」

「お、おう…」


“カシャッ”


『次は、ハグ!優しく抱きしめちゃって~!』


「は、はぁ!?そんなことまでやんの!?」

「ほらたけっち早く!シャッター下りてまう!」

「ったく…」


少し戸惑いつつも、後ろから彼女を抱きしめるフリをする


“カシャッ”


『最後は~、ほっぺに熱~いキッス!』


「ちょ、おい…」

「えぇからやるで!ちょい屈んで!」

「フリだよな?あくまでフリだよな?」


言われた通り少し屈む


“カシャッ”


と、彼女は突然シャッターが下りる寸前に俺の頬に本当に唇をくっつけてきた。


「なっ!?」

「イヒヒ♪」


『お疲れ様でした~!ただいま印刷中で~す!ちょっと待っててね~』


「…………っ」

「あっ、顔赤っ!もう照れんなって!」

「…う、うっせぇよ!ちょっと俺、トイレ!」

「あ、ちょっと!たけっち!…もう」


…急いでトイレに駆け込んで個室に入り、心臓の鼓動を必死で抑え込む。


(…何なんだよ今の、落ち着け…あくまで彼女は俺のことからかって遊んでるだけだ、こんなのいつものじゃれついてくるのと一緒だろ?とにかく落ち着け…)


と、気持ちを一旦落ち着かせてから彼女のところへ戻る。


すると、彼女は数人の男達に囲われていた、所謂ナンパされているのだろうか?


「おい!」

「あっ!たけっち!もう遅いて!」


俺が戻ると彼女は急いで駆け寄り、俺の後ろへ隠れる。


「チッ、なんだ彼氏持ちかよ…行こ行こ!」


と、あっさり退散していく男達


「助かった、ありがとうたけっち…」

「別に、俺は何もしてねぇよ…」

「ううん、へへ…これでたけっちに守ってもらうん二回目じゃけぇの…」

「あ、あぁ…それより大丈夫だったか?あいつらに何もされてねぇよな?」

「うん平気…何なら?心配してくれるんけ?」

「…………っ」

「イヒヒ、なんだかんだ言うてやっぱり優しいのぅたけっちは!」

「う、うっせぇよ…」


不意に彼女に褒められて俺は恥ずかしくなり顔を背ける。



・・・・・



と、あっと言う間に時間も過ぎていきすっかり夕方になった。


「あー楽しかった!今日はありがとうの!ウチのわがままに一日付き合うてもろて…」

「別に…俺もまあまあ楽しかったし」

「おっ?何なら?珍しく素直じゃの?」

「別にいいだろ…ほら帰るぞ!」

「あーい」


…と、帰り際駅のホームで


「あーそうじゃ!はいコレ!」


と、赤い包みに入ったプレゼントを手渡される


「クリスマスのプレゼント、そがぁ大したもんは入っとらんのじゃけぇど」


中身を開けると、黒い腕時計が入っていた。


「時計か…」

「実はそれな、ウチと色ちがいでお揃いなんじゃけぇ」


彼女の左腕にも俺のとは違い白い腕時計がついていた。


「ふぅん、まぁでも…悪くないな」

「ホンマ?良かった~案外喜んでくれて~!」

「悪いな、俺の方は何も用意してねぇけど…」

「あー全然えぇけぇ!寧ろ今日のデート自体が最高のプレゼントっていうか…」

「…えっ?」

「ううん!何でもないけぇの!じ、じゃあまた学校で!またの!」

「お、おう…」



・・・・・



そして終業式


「たけっち~!」

「おう…」

「なぁたけっちはさぁ…年末年始何する予定なら?」

「んー別に何もないけど…」

「そかそか、ほいじゃったらウチと初詣行かんけ?」

「んー、まぁいいけど…」


すると、俺のスマホに着信が一件


「ん?…っ!?か、母さん!?」

「えっ?母さんって…たけっちの?」

「あぁ、とりあえず出るわ」


と、電話に出る


「もしもし?」

『もしもし影虎?久しぶり~!元気してた?』

「あぁ、まぁぼちぼちやってるよ…で?いきなり何?電話なんか寄越したりして…」

『相変わらず素っ気ないわね~、まぁいいわ…とりあえず要件だけ言うと、今年の年末年始何とか休み取れたから日本に帰るからね!』

「えっ!?マジで帰ってくんの!?」

『そうよ!大晦日までには広島そっちに顔出す予定だから、おじいちゃんとおばあちゃんによろしく言っておいて!じゃっ!シーユー!』

「シーユーって、ちょ…」


電話が切れる


「ったく、相変わらず自由だな…」

「えっ?何?たけっちんのママ帰ってくんのけ?」

「あぁ…」

「へぇーよかったやん、じゃけぇどなんでそがいな顔してんなら?」

「あー母さんさ、前にも言ったけど仕事で世界中飛び回っててあんま顔合わす機会ねぇせいか未だに子離れできてねぇっつーか、親バカっつーか…」

「ふーん…まぁでもたけっちのママ帰ってくるんなら水注したら悪いけぇな、初詣はゆりなでも誘っていくわ…じゃあの!」

「あ、あぁ…」


…と、そんなこんなで迎えた大晦日

じいちゃん達と家の大掃除をしている頃に…。


“ピンポーン”


「あら?もしかしたら瑛子かもしれんね、トラちゃん出てくれる?」

「おう」


玄関を開けるとそこには案の定母親が立っていた。


「たっだいまぁ~!」

「母さん…」

「おーよしよし影虎ぁ!元気してたぁ?おーよしよしよし!」


と、対面するや否や頭をもみくちゃにされて激しく抱きしめてくる母


「ちょ、母さんやめろって!」

「何よぉ、久方ぶりの母と子の再会なんだからもっと喜びなさいよぉ」

「あらぁ瑛子おかえり!」

「あっ、ただいま母さん!はいこれ、ロンドンのお土産!」

「あらぁわざわざいいのに~」


…と、あらかた大掃除も区切りがつき一段落つく


「いやぁやっぱり日本の我が家に勝るものはないわね~、日本帰ってきた~って感じ!」

「あっそ…」

「で?こっちの学校生活はどうなのよ?友達は?彼女はできた?」

「な、なんだよいきなり!?」

「なんだとは何よぉ、普通の親子のコミュニケーションでしょうよ…で?どうなの?好きな娘ぐらいできた?ん?」

「はぁ!?バ、バカじゃねぇの!いるわけねぇし…」

「はは~ん、その反応…好きな娘がいるとみて間違いないわね、アンタって嘘言う時必ず目泳いでるから!お父さんそっくり!」

「べ、別に…好きとか!そんなんじゃ…ねぇし」

「ふーん…別にいいけどねぇ、でも若い内は恋した方がいいわよ!青春時代なんて一瞬で過ぎてっちゃうんだから!後で後悔しても取り戻せないからね?」

「………」

「ま、母さんはアンタに好きな娘ができたら全力で応援するわよ!恋愛相談でもなんでもバッチコイよ!」

「好きな娘、かぁ…」



…その日の夜、0時をちょっと過ぎた頃だった。


“ヴーヴー”


スマホに着信がきた


『もしもしたけっち?あけましておめでとー!』

「あ…お、おう…おめでとう」

『新年明けたのぅ!ヘヘ、新年明けたら急にたけっちの声聞きたなってかけてしもた…もしかして寝とった?』

「いや、まだ起きてた…母さんもじいちゃん達ももう年明ける前に寝たけどな…」

『そかそか…今年もえぇ年になるとえぇけぇのぅ…』

「あぁ…」

『ほしたらウチはもう寝るけん、おやすみー』

「おう…おやすみ」


電話を切る


「…ふぅー、ったく…母さんが余計なこと言うから…」



・・・・・



そして正月も終わり、母さんも仕事に戻る


「じゃあ父さん母さん!影虎のことお願いね!」

「おう!気をつけての!」

「体には気をつけんさいよ」

「うん!あ、影虎!」

「ん?」

「…母さんからのアドバイス、恋は積極的にいかないとダメよ♡ウフフ…」

「っ!?」

「それじゃあね!」

「…ったく」



・・・・・



三学期が始まり、最初のホームルーム…今回話し合う内容は『修学旅行』の班決めについて


「えーでは、早速班決めを行いたいと思う!一班につき男女二人ずつ、話し合って決めてくれ!」


班決めか…こういうのって大体友達同士とか好きなもの同士とかで組んで友達もいないようなはぐれ者はもれなく売れ残って行き場を失い、どこかの班に渋々入れてもらい肩身の狭い思いをするのが通例…俺も小学生や中学生時代は仲の良い友達なんかいなかったからいつも絶対班決めの時は余って結局人数のいない班に渋々入れられて、当日は俺一人だけ別行動…なんてなものだった。


だけど、今回は違った…


「たけっち~!たけっちは当然ウチと組むじゃろ?」

「!?」

「何なら?驚いたみたいな顔して…」

「いや…別に…」

「ヒカリぃ~、ウチと組も~」

「おぉゆりな~!カモンカモン!たけっちいるけぇどえぇ?」

「ん?やっぱりアンタ竹ノ内キープしとったけぇな…」

「うっさいわ!それより男子後一人じゃろ?誰にするなら?」

「それなら心配ないけん、一人余りそうな奴連れてきたから」

「ど、どうもでござる…」


小太りメガネで典型的なオタク気質の男子生徒、名前はたしか…『小田川』とか言ったかな?

そういやコイツもいつも基本一人でいたっけな…多分コイツも過去班決めで売れ残った経験の持ち主だろう…。


「コイツ入れるのか?」

「そ、ウチらの班に入れちゃるけん…どう?」

「ま、いいんじゃね?」

「うし、じゃあ委員長ー!ウチら班決まったー!」

「そうか!えっと…竹ノ内君に松嶋さんに、山根さんに小田川君だな!うん!了解した!」


と、なんやかんやで修学旅行の班が決まった


それからは宿の部屋割りや班の自由行動のスケジュールなどを立てたりした。


…そして修学旅行当日、全員駅に集合して新幹線に乗る


今回の修学旅行の行き先は『東京』

まぁ俺からすれば元々住んでたわけであまりワクワクもしないが俺以外の全員はみんなワクワクして浮き足立っていた。


「グフフ…夢の聖地秋葉原、楽しみでござるなぁ…」

「へぇ…それ『魔法少女レインボースターズ』じゃろ?」

「おや?山根氏、レインボースターズをご存知で?」

「ウチ歳離れた小さい妹おるけぇ、いつも一緒に見とるんじゃ」

「ほほぅ、それはそれは…ちなみに山根氏はどの娘が推しですかな?」

「ウチ?ウチはねぇ…」

「…なんか、あの二人妙に話が合ってんな…」

「うん、ゆりな小さい妹と弟おるけん、アニメめっちゃ詳しいんよ」

「へぇ…」

「それより、早う着かんかな~?東京♪夕べなんウチ、ワクワクしすぎてロクに寝られんかった!ハハハ!」

「ったく、遠足前の子供かよ…」

「うん、じゃけぇ…ちょっと、眠い…」


と、彼女は俺の肩に寄りかかって寝息を立てて眠ってしまった。


「…やれやれ、しょうがないな」


起こすのも忍びないのでしばらくそのまま肩を貸すことにした。



・・・・・



東京に到着、駅を出てそこからまたバスで移動する

バスの窓からは東京の景色がよく見えた。


「あー見て見てあれ!あれスカイツリーやない!?」

「ん、あぁ…」

「もう、反応薄いのぅ…」

「お前がはしゃぎすぎなんだよ…まだ始まったばっかなのにそれじゃ今日一日持たねぇぞ?」

「ヘーキヘーキ♪ウチ今テンションギガギガじゃけぇ!」

「ギガギガて…」


…それから、浅草の浅草寺にやってきた。


「うぉぉぉ!!ぶちデッケェのぅ!カッケェ~!」


と、彼女はスマホで写真を撮りまくる


「なぁたけっちも一緒に入りんしゃいよ!」

「えっ?俺?俺はいいよ…」

「えぇから入りんしゃい!ゆりなー、写真撮ってー!」

「おーう、いくよー!」


“カシャッ”


「うっはっはっは!たけっち顔めっちゃ変!」

「うっせぇよ…」

「折角じゃけぇ、ウチも撮ってぇ」

「オッケー!」

「ほら、折角じゃけぇ小田川も一緒に入り!」

「えっ!?いいんでござるか?」

「ほら早う」

「ぎょ、御意!」


“カシャッ”


「撮れた?」

「うん!バッチリ!」

「サンキュー、後で小田川にも写真送るけぇ連絡先教えて」

「は、はいっ!」


…続いて場所を移動し、スカイツリーにやって来た。


「うっはっはっは!!めっちゃ高ぁい!うっはっはっは!!」

「おい走るなって!危ねぇぞ!」

「めっちゃはしゃぎ倒とんなヒカリ…ん?どしたんなら小田川?」

「いやその…拙者、高いところが大の苦手でして…」

「なんならそがいなことか…ほれ大丈夫じゃけんいくけぇの」


小田川の手取る山根


「あっ…」

「たけっち見て見て!スゲー景色!人がゴミの様じゃけぇ!ちょ、たけっちも見てみんしゃい!」

「分かった分かった、ちゃんと見てるから…」

「うっはっはっは!楽しいのぅ!楽しいのぅ東京!」

「お前…さっきからずっと変なテンションだぞ…」

「だって楽しいんじゃけぇ!うっはっはっは!!」

「はぁ…」



・・・・・



そして夕方、ホテルに到着

各自部屋に向かう。


「…はぁ~楽しかった!マジサイコーじゃのう東京!」

「ホンマやな、アンタずっとテンションおかしかったけぇな…」

「じゃの、冷静になって今頃恥ずかしくなったわ…たけっちもずっと呆れた目で見ちょったけん」

「やな…」

「やっぱちょっと疲れてきたわ…ウチ先に風呂入ってもえぇ?」

「えぇよ」

「サンキュー」


…一方その頃、俺と小田川の部屋


「あの、竹ノ内氏…」

「ん?」

「つ、つかぬことを伺いますが…その、山根氏は彼氏っているのでしょうか?」

「??、なんで?まさか、お前…山根のこと」

「…お察しの通りでござる」

「おいおいマジか…やめた方がよくね?絶対ぜって

ぇ無理だろ…」

「ですよね…拙者のような小者ごときが山根氏のような美人になど相手にされるはずもなし…たがしかし、どうにもならないくらい好きになってしまったのござる!」

「なんでまたそんな突然?」

「拙者、恥ずかしながら女子にあそこまで優しくされたの初めてでだったのでござる…スカイツリーで思わず足がすくんでしまった拙者の手を優しくとってくれたあの瞬間…身体中に電気が走ったような感覚に襲われたんでござる!これこそ、まさしく恋っ!」

「アホらし…単純すぎないかお前…」

「竹ノ内氏、恋とは理屈ではないのでござるよ!ある日突然恋に落ちることだってあるのでござるよ!」

「…恋、ねぇ」

「と、いうことで明日の自由行動で山根氏に思い切って告白してみようと思うでござる!」

「はぁっ!?お前先走んなって!一回落ち着け!絶対無理だから!」

「最早もう止められぬ…明日の自由行動、貴殿は松嶋氏と共に行動するのであろう?正に好機!これを逃す手はない!」

「…ダメだこりゃ、どうなっても知らねぇぞ俺ぁ」



・・・・・



翌日、自由行動の時間


「気をつけろよお前達ー!必ず時間にはホテルに戻れよー!」

「さっ行こか!たけっち!」

「おう…」

「じゃあのーゆりなぁ!」

「おーう…じゃ、ウチらも行くけ?」

「ぎ、御意!」


…そして俺が彼女とやってきたのは言わずもがな『原宿』

今はクレープ屋でクレープを買って食べている。


「うまぁ~!流石原宿のクレープ!やっぱ本場は違うのぅ!」

「厳密には本場じゃねぇけどな…」

「細かいことは気にせんでえぇじゃろうて、てかたけっちのそれ何?」

「…チーズカレークレープ、おかず系クレープってやつ」

「ふーん、旨いんそれ?」

「まぁ、悪くはねぇな…」

「ふーん、隙ありっ!」

「あっ!」


隙をついて俺のクレープにかぶりつく


「ふんふん、おかずクレープも中々ありじゃの…」

「お前、また勝手に…」

「えぇじゃろうちょっとぐらい…それとも何?また間接キッスとか思ったりして?このえちえち大魔神!」

「う、うっせぇよ…」

「あ、赤くなった!うっはっはっは!!」

「…………」

「なぁなぁ、次タピオカミルクティー飲みたぁい!」

「タピオカ?あぁ、あのカエルのタマゴみたいな?」

「そゆこと言うなや!絶対美味しいから!」


…と、次はタピオカの店に行く


「んーっ!美味しー!」

「…………」

「あれ?たけっちダメじゃった?」

「あー、不味いってほどでもないけどよ…俺の口には合わないな…」

「そっか、まぁ人には色々好みもあるけん!仕方ねぇけん!あ、もう飲まないならウチにちょうだい!」

「よく飲めるなそんなに」

「全然余裕やけん!さっ次行こ次!」

「…へいへい」


…一方その頃、小田川と山根は秋葉原のメイドカフェに来ていた。


「美味しくなぁれ!萌え萌えビーム!ずっきゅん!」

「はぁ~、至福でござるぅぅぅ!また一つ拙者の夢が叶ったでござるぅ!」

「よかったやん…まぁでも可愛いやんねメイドさん」

「おぉ!やはり分かりますか!いやぁやはり山根氏とはよく意見が合いますなぁ…」

「そやねぇ…前の彼氏も小田川みたく相性よかったらよかったんじゃけぇのぅ…」

「ま、前の彼氏…?」

「ん、あぁ…ちょっと前まで付き合ってたんじゃけぇどな、去年のクリスマスに別れてしもた…今考えたらなんであんなしょうもない男と付き合ってたんじゃろウチ…」

「あぁ、それは…お気の毒に…」

「じゃろ?じゃけぇ今はまだフリーなんよ…」

「そ、そうでござるか…」


(よしっ!とりあえずフリー確定!)


と、心の中でガッツポーズする小田川


…店を出た後、アニメショップに立ち寄る二人


「へぇー、すごいのぅ…選り取り見取りやん!」

「そうでござろう!ここは全てのアニメファンにとってパラダイスでござるからな!」

「おっ?去年やった『レインボースターズ』の劇場版のDVDあるやん!これ面白かったのぅ」

「お?山根氏もご覧になったのでござるか?」

「あぁ、妹と一緒にな…おっ!『とっとこモル太郎』もあるやん!いやぁ懐かしいわぁ…あっ、こっちは『東京ミュータント』やん!」

「ほほぅ、結構お詳しいですな…」

「子供の頃結構見てたけんさぁ、今もじゃけぇど昔から結構アニメ好きじゃったなぁ…もしかしてウチ結構オタクの素質あるんやない?ハハハ」

「間違いありませんな!」



…ショップを見て廻った後、しばらく街を散策し、公園に座って休憩する。


「いやぁ~、結構見て廻ったのぅ…ごめんね結局ウチが一番テンション上がってはしゃいでしもて…」

「い、いえ!滅相もない!」

「はぁ、でも小田川と一緒におるとなんか飽きんわ…延々とアニメの話で盛り上がったしな!」

「ハハハ、そうでござるな…」

「ん?どしたんなら?急にソワソワして…腹でも痛いん?」

「い、いえ…そういうわけではないのですが…」

「??」

「あ、あのっ!!」

「えっ?」

「その…む、無理は承知の上なのですが、拙者…山根氏のこと好きになってしまいました!どうかもしよかったら拙者と…お、お、お付き合いを!その、えっと…」

「…プッ、アッハッハッハ!!」

「…へっ?」

「あーごめんごめん笑ってしもて、あまりに危機迫った顔じゃったからおかしくてつい…」

「す、すみません…」

「…はぁ、でもまぁえぇよ!付き合っても…」

「えっ!!?今、なんと…」

「付き合ってもえぇよ!どうせ今は彼氏おらんし…アンタとならバッチリ合いそう」

「お、お、おぉぉぉ!?」

「えっ?何雄叫び?そんなに嬉しい?」

「嬉しいも何も…拙者、これまでずっとデブだキモオタだとバカにされて、女子から告白オッケーされるなんて生まれて初めてでござる!これを喜ばずしてなんと言う!?」

「そっか、でも安心しんしゃい…ウチ、これでもぽっちゃり系もイケるタイプじゃけん」

「う、うぉぉぉ!!」



・・・・・


二日目が終了し、夜 ホテルの部屋にて


「はぁぁぁ!?ちょ、ゆりな本気なん!?小田川と付き合うことになったって!?」

「うん、ホンマよ」

「えぇ~、でも去年別れた元カレと全然タイプ逆やん!アンタ男ならなんでもえぇんか!?」

「アホ、んなわけあるかい…強いて言えば、んー…運命感じたから?それとウチ結構ぽっちゃり系も好きやし」

「あーそう…」

「じゃ、次はヒカリの番やな!」

「はっ?な、何のことなら?」

「竹ノ内、好きなんじゃろ?」

「なっ!?バっ!違うしっ!」

「嘘やな…そがい顔真っ赤にして」

「いや、違うけん!」

「あっ、また赤くなっとる!分かり易いにもほどがあるじゃろ!」

「もう~!知らん!寝るっ!!」

「フフフ、やれやれ…いつまで経ってもお子ちゃまやけんな」



第五章 一筋の光



2月7日…バレンタインデーの一週間前


「うーん…」

「どしたんならヒカリ?そがぁ険しい顔でスマホばっか見て…」

「あーゆりな…実はさぁ、もうすぐバレンタインデーやんね、じゃけぇたけっちにチョコ渡そうと思ったんじゃけぇど…たけっち甘いモン苦手じゃけん、どがいなモンがえぇかのぅって修学旅行終わってからずっと探しとんよ…」

「すごい気合いの入れようやな…もしかしてアンタ、そん時に竹ノ内にコクる気なん?」

「…んーまぁ、できたらっち思うちょるけど…」

「そうか…それやったらウチも協力したるわ!どうせウチもタケシにチョコ作るつもりやったけん」

「えっ?ホンマにえぇの?…ん?タケシ?」

「あー小田川の下の名前」

「そっか、そういや修学旅行の時に付き合ったんじゃったな…」

「そういうこと!絶対に竹ノ内落としたろうな!」

「うん!」


…それから二人は、バレンタインチョコの研究を始めた。


色々と試作してみては色々アレンジを加えたりして試行錯誤を凝らしてみたりした。


2月13日、バレンタイン前日


「で、できた…」

「うん、甘さも控え目でそれでいて苦すぎん…完璧なバランスじゃな」

「…うしっ!これで明日たけっちに渡すだけじゃけぇ!」

「頑張りんしゃいよー、さてとウチも仕上げ仕上げっと」


『I LOVE タケシ♡』


「うーわー、お前マジか…」

「えぇじゃろう別に…それよりアンタはなんか書かんの?『たけっちダイスキ♡』とかさ」

「ウチはそがいダサいことせん!自分の気持ちは、自分の口からはっきり言うけん!」

「おっ?言うたの、まっ頑張りんしゃい!!」



・・・・・



翌日、バレンタインデー当日


「あれ?たけっちまだ来とらんのか…珍しいのぅ」

「そういや通学中も見かけんかったのぅ…今日休みなんやない?」

「えー、折角今日渡そうと思っとったのに…」

「学校終わって放課後行けばえぇじゃろ?」

「あ、それな!」


…と、いうわけで放課後


「き、来てしもうた…どうしよ、ぶち緊張してきたけんのぅ…やっぱり帰ろうかの」


と、しばらく家の周りをウロウロしていると


「あら、ヒカリちゃん!」

「ひえっ!?あっ…お、おばあちゃん!」

「どしたんよこがいな玄関前で…もしかしてトラちゃんに会いに来たん?」

「あ、うん!その…」

「折角来てくれて申し訳ないんじゃけぇどねぇ…トラちゃん今ひどい熱で寝込んじゃってんのよ…」

「えっ…」

「まだちょっと熱が下がらなくて今お薬買ってきたとこなんよ…まぁ折角やけん上がっていきんさい」

「あ、いいよいいよ!なんか大変そうやし…あ、じゃあせめてこれだけ渡してくれん?その、お見舞いの品やけん」

「あらぁ悪いわねぇ、ありがとうね」

「じ、じゃあウチはこれで…お大事に!」


…一方その頃、俺は自室で寝ていた。


「ゲホッゲホッ!…あー、つれぇな…ハァ、ハァ」


すると、そこへ扉越しにばあちゃんの声がする


「トラちゃん、具合はどう?」

「あぁばあちゃん?まぁ…ぼちぼち」

「そう、お薬買ってきたけん置いておくわよ」

「うん…」

「あ、後ヒカリちゃんがお見舞いに来てくれたわよ!」

「えっ?あいつ来たの?」

「ううん、上がってけばって言うたんじゃけぇどね、お見舞いの品だけ置いて帰っちゃったわ…お大事に、ですって」

「そう…分かった、ありがとう」

「じゃあ、ここ置いとくけんね」

「ん…」


と、ドアの前においた薬とお見舞いをとりにいく

お見舞いの品といっていたがどっからどう見てもバレンタインデーのチョコだった。


「そっか…今日バレンタインだっけか」


そう呟いてチョコを一口食べる


「…フッ、意外と旨いな」


その後、俺は彼女に礼を言おうとNINEを送る。


“ピョコン”


「ん?あっ!た、たけっちからじゃ!どれどれ…」


『お見舞い悪かったな…後、チョコ旨かった』


「!!、っ~!!」


喜びのあまり言葉にならず悶える


数分後、彼女から返信が来る


『ありがとう!一生懸命作ったけんのぅ!味わって食べんしゃい!後、早く風邪治しや!』


と、文の最後にグーポーズをした変なウサギみたいなキャラクターのスタンプがついてきた。


「…フッ」



・・・・・



数日後、漸く風邪も治って学校に登校する。


「うーす」

「たけっち!もう大丈夫なんか?」

「あぁ、おかげで快調だ」

「よかったぁ、めちゃくちゃ心配したけんのぅ!」

「悪かったな」

「あ、あのさたけっち!」

「ん?」

「…や、やっぱしなんでもないけん!」

「??」


…昼休み、屋上にて


「で?竹ノ内にはコクれたん?」

「実は、まだ…チョコは渡せたけど」

「…もう、何してんならぁ…あんだけ意気込んでたあん時のアンタはどこ行ったんなら?」

「だ、だって…たけっち風邪引いたりして大変やったし、それに…いざするってなったらなんか…怖なってしもて、やっぱしウチはダメじゃな…とんだ臆病モンじゃ」

「大丈夫じゃって!勇気出しんしゃい!」

「で、でも…」


するとそこへ…


「あ、山根氏!ここにいたでござるか」

「おう、タケシ!」

「おや?松嶋氏もご一緒で?」

「あ、そうだ!ちょっと聞いてよ、実はさぁ…」


小田川に事の顛末を説明する。


「…ふむ、なるほどそれは一大事でござるな…」

「じゃろう?どがいしたらえぇんなら?」

「なぁ、一個聞いてもえぇ?」

「はい?」

「小田川はさぁ、ゆりなに告白する時…怖くなかったんけ?」

「それはもちろん…拙者の人生の中で一番緊張したと言っても過言ではありませぬ、今思い出してもちょっぴり恥ずかしいでござる…それでも、勇気を振り絞って告白してよかったと思ったでござる…実際あの時だって拙者、100%フラれるって思ってたでござる、けどそれでもいいからこの想いだけは伝えたい…そう思って当たって砕けろの精神で勇気振り絞って告白したんでござる…まぁ、まさかホントにオッケーしてくれるとは予想外だったでござるが」

「タケシ…」

「ありがとう小田川…小田川の話聞いたらウチも勇気出てきた!今日の放課後、今度こそたけっちに告白する!」

「うしっ!その意気じゃ!頑張りんしゃい!」

「うん!」



・・・・・



放課後


「たけっち!今日、一緒に帰らんけ?」

「ん?あぁ…」


帰り道、二人して無言のまま歩く


(…な、何とか二人きりで帰ることは成功したけぇど、こっからどがいして告白まで持ってこう?タイミングって結構重要じゃし…)


「な、なぁちょっとどっか寄ってから帰らん?ちょっと小腹も空いたけん…」

「んー…そうだな」


(よっしゃ食いついた!)


…と、二人で『せっちゃん』に寄る


「あらいらっしゃい!」

「ちわっすおばちゃん!」

「ども…」


奥の座敷に座る


「何食べようかいの?今日は焼きそばにしようかの?たけっちは?」

「俺も焼きそばでいいや」

「そか、おばちゃーん!焼きそば二つ!」

「あいよ!」


焼きそばを待つ間、再び二人の間に沈黙が訪れる。


「なぁ…」

「ふぇっ!?な、何?」

「なんか今日お前様子おかしくないか?妙に静かだし…なんかあったか?」

「へっ?な、何もないよ!やだなぁたけっち急に変なこと言うてからに!アハ、アハハハ…」

「いや、なんか明らかに挙動不審だし…絶対なんか隠してるだろ?」

「いや、その…なんて言うか」


と、彼女があからさまにドキマギしていると


「あーしまった、ウチとしたことがやってしもうたわぁ…こがいな時にソース切らしてしもうた~、二人ともごめんね~!ちょっとソース買うてくるけん!すぐ戻るけぇちょっと待ってて!」


と、店を出ていくおばちゃん


「…なんだ?」

「あ、あの!たけっち!」

「ん?」

「じ、実は今日…たけっちに大事な話なあって…」

「大事な話…?」

「その…ウチ…ウチ!たけっちのこと、ぶち好きなんじゃけぇ!」

「はっ?」


彼女の発言に思わず面食らったかのようにキョトンとする。


「ご、ごめん!急に驚いたよね?でも、ホンマじゃけぇ…嘘でも冗談でもない…ホンマにたけっちのことが好きなんじゃ」

「お前…」

「ホンマ最初はたけっちのこと、ぶっきらぼうで何考えちょるか分からん奴っち思っちょったけぇど、たけっちと接してく内に、段々とたけっちといると素直に楽しいって思って、たけっちの良いところとかも沢山知れて…いつからかウチの心ん中たけっちでいっぱい満たされて…でもウチは臆病モンじゃけぇ、告白する勇気なんなくて…ついたけっちのことからかっちゃって…じゃけぇど今日ゆりなと小田川に背中押されて漸く決心ついたけん!もう当たって砕けてもえぇと思って…ウチの気持ちだけは正直に伝えたかったんじゃ…」

「…あぁ、お前の気持ちは分かった、俺もお前と同じこと考えてた」

「…えっ?」

「俺はさ、こっちに来るまでずっと人との関わりを持たずに自分一人だけの世界で生きてきたんだ…人間関係とか煩わしくてこのまま一生一人でいいとさえ思ってた、でも…お前と会ってから俺の閉じ籠ってた世界に一筋の光が差したような感じがしたんだ…最初は人の心の中にずかずか入り込んで鬱陶しい女だなって思ってたけど、一緒にバカやったり、一緒に勉強したり、一緒にバスケの練習したり、一緒に遊んだり…そんな何気ない時間でさえ、とてもキラキラしたかけがえのない時間に思えて…いつしか俺の世界はお前という光で満たされていたんだ…」

「たけっち…」

「最近までちょっとモヤモヤしてたけど…今ならハッキリと言える、ヒカリ…俺はお前のことが好きだ」

「!?」


俺がそう告げると彼女は静かに涙を流した。


「う、うぅ…」

「ど、どうした?」

「だって…嬉しいけん、めちゃくちゃ嬉しすぎるけん…涙が勝手に溢れてきよる…」

「そうか…」

「嬉しいよぉ~!たけっちぶち大好きじゃあ~!うわ~ん!!」

「わ、分かった!分かったから!とりあえず一旦落ち着けって!なっ?」


と、そうこうしてる内におばちゃんが帰ってきた。


「ただいま~、ごめんねお待たせして…って、あららら?ヒカリちゃんえらい泣いとるやないの!」

「いや、これはちょっと訳があって…」

「あらぁ罪な男じゃけぇねアンタも!こがいな女の子泣かしてぇ」

「いや、だから…」



・・・・・



「何ならぁ!それで泣いとったんけ!ごめんねおばちゃん早とちりしてしもうたわ!」

「…お騒がせしました」

「まぁえぇわ!今日はおばちゃんの奢りじゃけぇの!好きなだけ食べていきんさい!」

「えぇのおばちゃん?」

「えぇんよえぇんよ!おばちゃんからのお祝いじゃけん!」

「ありがとうおばちゃん!」

「ありがとうございます!」

「さっ!じゃんじゃん焼くけんね!お腹いっぱい食べていきんさい!」

「じゃあ遠慮なく!いただきまーす!!」



終章


…春になり、俺達は三年生になった。


「た~けっち!おはよっ!」

「おう、おはよ」

「今日からウチらも三年じゃけぇのぅ」

「これから受験で本格的に忙しくなるな…」

「たけっちはあれじゃろ?卒業したら東京に帰るんじゃろ?」

「あぁ…そうなるな」

「ならウチも卒業したらたけっちについてく!」

「ていうかヒカリは進路どうすんの?」

「ウチの進路?そんなん決まっとるじゃろ!」

「ん?」

「たけっちと『永久就職けっこん』♡」

「はぁ!?お前真剣に考えろって…」

「真剣じゃけん!ウチは良い嫁になるぞ~、一生尽くしちゃるけん!」

「じ、自分で言うか!」

「とにかく!ウチはたけっちと結婚したい!愛してるけぇの!マイダーリン♡」

「ったく、恥ずかしげもなくよくもまぁ…あ、やべ!急がねぇと遅刻するぞ!」

「えっヤバッ!?」

「走るぞ!」

「うん!あ、ちょっと待って!んっ!」


と、ヒカリは手を差し出す


「ったく、しょうがないな…」


俺は彼女の手を取り走り出す。


「いくぞ!」

「うん!」


二人手を繋いで桜並木を全速力で走り出した。




~Fin~

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― 新着の感想 ―
言動は強引であるというのに全開な方言と竹を割ったような性格で不快に感じさせない、ヒカリのキャラが素敵でした。 影虎と一緒に自然とだんだん彼女の魅力に惹かれると同時に何かにつけて『えちえち大魔神』等とヒ…
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