後編_13(縁切り)
*
白い路は遠くなり、麓を目指して一頭の馬と一組の男女が山を下りる。
「機嫌、直せよ」
若者が云う。
彼も、あの先で何かを見たであろうか。
自分のそれとは違ったのだろうか。
どこか、何かを忘れているようにも見える。
そもそも、こんな顔だったか?
見覚えがあるようで、ないような。
どうにも足下が定まらぬ。
「なあってば」
実は、そんなに腹を立てているのではない。
有り体に云えば、対面の問題であった。
虚仮にされたとなれば、笑って流してはならぬ。
つくづく卑しい稼業である。
ふたりは、銀の一角獣から、約束の報酬を得た。
若者は、二つ目の拳銃を。
イブキのそれは、匕首と妖刀を足して二本にされた。
また振り出しに戻った。
この二本を使いこなせるよう、場数と日銭を稼ぐ必要がある。
山を下りたら、依頼人と交渉だ。
カネを受け取り、次の現場を尋ね、仕事があるなら向かうまで。
「なあ、」若者が訊ねる。「あんたに何があったんだ?」
「さあな」
やはり、彼も炎の中に、何かを見たのであろう。
路がふたつに分かれた。
「わたしはこちらを行く」
イブキは左を指した。
「おれはこっちだ」
若者は右を指した。「ここでお別れか」
云って、若者は何か考え込んだ。
「どうした、腹でも痛いか」
「いや──」若者は少し迷い、しかし口を切った。「あんた、何か隠していないか?」
「なんのことだ?」
「分からないから聞いているんだ」
イブキは思わず吹き出した。「なるほど、確かにそうだな」
「どうなんだ?」
「どう、とは何か?」
「大丈夫なのか?」
「心配してくれるのか」
「いや──うん。そうだ」
「そうか。すまんな。気を遣わせて」
「そんなつもりは、」
慌てる若者を、イブキは手を振って制した。「いいのだ。気にしておらん」
「そうか?」
「ああ、そうだ」イブキは頷いた。「山のことは山に置いて行け。それが山の掟だ」
「分かった」
「うム」
「それじゃ──また、どこかで」
手を上げかけた若者に、イブキは、「若造、この稼業を続ける気はあるか」
「たぶん。いや、続けるしかない」
「そうか」
「うん」
「またどこかで、か」イブキは呟く。
そして若者を見て、「縁があったらな」と云い残し、歩き去った。
*
縁とは奇妙なものである。
これは悪縁の類いである。
自分にとっても、相手にとっても、二度と会わぬが良いであろう。
縁切りだ。
二度と、生きて会うことはない。
彼女は、忘れたかったのである。




