後編_10(最後のレッスン)
*
「ガハッ」
ローズは嘔吐いた。起き上がりながら、「生きてる……?」
となると、何かとっても恥ずかしいことを口走ったような気がするのだが。
その手は立派な体躯をした男に、力強く握られていた。「ンなっ!?」
「ああ」その男は、感極まった容子で、眩しいほどに美しい歯を見せて頷いた。「お前は生きている。そして乗り越える」
未だ頭の冴えきらないローズに語りかけた。「この戦いを生き抜く」
彼女の目は、時を待たずに拳銃使いのそれになった。そばに落ちていた銃を拾うや、
バン!
「ぐえー」
近づいたひとりの機鋼兵がばたりと倒れた。「来る! いったいどれだけの数!」
先ほどまで死んで──死にかけていた者とは思えぬ身のこなしで、次々と鉄の兵を打ち倒した。
「チィッ」弾切れだ!
「これを使え」男は自分の拳銃から弾の半分を振り出し、彼女に渡した。
「不確定実包だ。弾切れにならない」
訝しげに思うのものの、ローズは弾倉に込めた。口径がまるで計ったようにぴったりであった。
バン・バン!
立て続けに引き金を絞り、次々と銀の兵士を倒した。「ほんとだ!」
「ローズ、切り抜けるぞ。ここはお前の死に場なんかじゃない!」
「しかし、契約が──」
「無効だ。城は落ちる。報酬もろとも焼け落ちる」
「だけど──」
「そんなに死にたいのか! どんな理由があったとしても、俺はお前を生かす義務がある」
「なぜ、わたしをそんなに?」
「最後のレッスンだ、カウ・ガール」
男は引き金を絞りながら呼んだ。「身を捨ててこそ浮かぶ瀬などあるか、死んで立つ瀬があるものか!」
*
「おい、なんだこれは」
「姫さまの服だ」
イノシシ武者は胸を張って云った。「なにか?」
「わたしは侍女の服と云ったが?」
「一着の追加だ」
騎士とイブキは睨み合った。
しかし、「いいだろう」イブキは、渋々と認めた。今は、そんな、時でない。
(時が来たら折檻だ)
(ヒイヒイ泣くまでケツを引っ叩いてやる)
侍女の服を着て王女は支度を済ませ、少ない荷物を騎士に持たせ(短刀と御璽を、王女はしっかと握っていた)、床下に潜り、秘密の通用口である抜け道を使って城の外に向かう。
騎士、王女の順で進んだ。しんがりを(遺体を担いだ)イブキが務めた。
抜け道は、暗く狭く、じめっとしており、カビくさく、どこから漏れたか煙ったにおいもあって、長居はできなかった。
──急げ、急げ。
先は城邑の外になる。
暗がりで、イブキはふたりを見失った。
──壁を伝っていけば大丈夫である。
自分に云い聞かせるも、うまくいかない。
胸にしつこく巣くうこの不安は、なんだ。




