後編_06(嗚呼、死にたくない)
(彼女か?)
ゴールは思った。
(そうだ)
返事があった。まだいるの!?
ゴールは銃を構え──助言に従い、立て続けに四発撃った。
どうっと、銀の兵士は、勢い余って、頭から地面にめり込んだ。
銃弾の穿った穴から、じくじくと赤黒い染みが広がった。
「ありがと」女が礼を云った。それからゴールの顔を一瞥し、敵兵に向かって引き金を絞りながら、「見た顔のような気がするんだけどな」
「はじめましてだ」ゴールも次々と敵を撃った。
「あたしはローズ。シルバリー・ローズ。あんた、名は?」
「ペニー・レーン」
咄嗟に言葉が口をついて出た。「レーンだ」
ゴールは知られてはいけない直感を得たのである。
「そう、よろしく、レーン−くん」
「こちらこそだ、ミズ・ローズ」
キシャアア──!
散り散りになった個体を再びまとめ、勇者だったモノが、機鋼兵の間を渡り、喰らい、また次の得物を目掛け飛んだ。
──バケモンだ。
ゴールとローズは同じ思いを抱いた。
「ああッ」
ローズが悲鳴を散らし、躰を曲げた。
腹と足に弾を喰らい、血肉が散った。
とっさにゴールは腕を伸ばし。ローズの躰を抱き留めた。
タン、タン、タン!
立て続けに撃ち返した。
どうっ、と、次々と機鋼兵が倒れた。
ゴールはローズの手を取り、腹の傷の上に置き、「しっかと押さえろ」
そしてローズの銃を手にすると、
「オオッ!」
二丁拳銃で機鋼兵をなぎ倒した!
撃ち込むのは魔法の銃弾!
弾切れはない!
だが銃身は普通!
「オオオッ!」
撃ち続ける、撃ち続ける! 撃ち続ける!!
バン!
ゴールの銃が弾けた!
ローズの銃も限界だ!
なのに、あらかたの機鋼兵を打ち倒した!
つよいぞ、ぼくらのペンス・ゴール!
束の間を縫って、ゴールはローズのそばに片膝をついてしゃがむ。彼女はとても苦しそうであった。
「しっかりしろ」
「無理だ……」
──躰は気力でできている。骨身は気力で保たれる。
女剣士の言葉が脳裏をよぎる。
頭の下に手を入れ、僅かに首を起こし、「しっかりするんだ、傷は浅いぞ」水を与えて励ました。
「……冗談を云うな」
水で濡れたローズの口元は一瞬、苦悶が消え、ふ、と笑みが作られたが、やはりそれもすぐに霧散した。
「……」
ローズの命運は尽きかけていた。
(嗚呼、死にたくない死にたくない、無理無理、痛い痛い、助けて助けて、無理無理、痛い痛い痛い、若くていい男に抱かれているのに、痛い痛い無理無理、助けて助けて、せっかく若くていい男の腕の中にいるのに嗚呼、無理無理、痛い痛い、肌を合せたり触られたいのに痛い痛い、もう楽にして楽に、嗚呼、わたしは死ぬ死ぬ……死ぬ……死)
彼女の気力は尽きようとしている。
ゴールにはそれが文字通り手を取るように分かった。
もし、魂という物があるのなら。
どうして腕の中の彼女の躰は、ぐったり重たくなっている?
「目を覚ませ、冗談はよせ!」
揺さぶった。首が力なく揺れた。
閉じられぬ瞼。
瞳は何も映さない。
「嘘だろう……」
ゴールは遺体を抱きしめ慟哭した。
機鋼兵が大地を鳴らして迫り来る。
(戦う理由を失った)
ゴールの気力は萎んでいく。
(死地)
骨身が保てなくなる──。
ぶわッ!
一陣の突風が吹き抜けた!
どうっ!
兵隊たちが吹き飛ばされ、躰をバラバラにして散った!
「間に合った?」
軽やかな女の声。「救護班よ」
場違いなほど鮮やかな髪の色をした女は、三日月柄の腕章をしていた。「看護兵、フリージア」
「間に合わなかったぞ」
ゴールはローズの遺骸を横たえ、俯いたまま女を見ようともしなかった。
「遅かったぞ」
「あれ? ゴールデン・ゴール?」
だから、誰だ、それは。
「違う」今はそんな話はどうでもいい。
(気を取られるな)
その時、ゴールは一角獣から預かった銀の珠を思い出した。
これがあれば──もしかすると、ひょっとすると!
(気付くのが遅いぞ)
看護兵の目が、ハッと見開かれた。「やめなさい」
「こうなった今、お前に何ができる」
「それは飲んだ時の姿で生き返る、と教えられなかったの?」
「しかし、息を吹き返す」
「やめなさい。ずっとお腹から血を滴らせて生かすようなものよ」
「ならどうすれば!」
苦悶の若者に女は、腕章を引っ張って見せ、「わたしは救護班よ」再び云った。
「取り引きをする気はある?」
夢魔の女は挑むようにゴールを見た。




