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後編_05(敵は巨人)


   *


 うっとりとしていた、その時であった。

 耳元に冷たい息が吹きかけられた。「うわあ……」

 腰が砕けた。


(ペニー・ゴール。お前はここで或る女ガンスリンガーと出会う)


 声まで聞こえた!


(彼女を助けろ。そして守れ)


 なんかすごく適当だ!


(頼むぞ)


 頼まれた!


「どうした?」

 勇者が訊ねる。「幽霊でも出たか?」

 ゴールは首を振った。出たら出たで、怖いじゃん。


「そうか」勇者は、まったく興味なさげに応えた。少しは気にかけて!


「さてと、だ」

 その銀色の兵隊を、勇者は、全装機鋼兵(ぜんそうきこうへい)、フルメタル・ソルジャーズと呼んだ。


 彼らはポータルを使い、地上から、地下から、町を囲い、攻め入った。


 ヒトを二回りほど大きくしたような、ずんぐりとした体躯で、全身これ甲冑というような姿形をしていた。


 敵は巨人軍だ。勇者は云う。


 ムボーな矢石(しせき)だ。

 あれを相手に、いくらが戻れるか。

 黄泉の国チケットの大盤振る舞いだ。

 どれだけ黄泉を売り込みたい?


 黄泉売り巨人軍。

 水槽(タンク)みたいだろう?

 中身は汁気たっぷりだ。


 銃弾や砲撃を弾く曲面の装甲。それでいて、俊敏。なおかつ、多勢。


 数で押すのが奴らの基本らしい。なにしろ、次から次へと湧いてくる。

 あれは虫だな。勇者は云った。


 隙間を狙え。

 無茶な助言をいとも簡単に。


 首の下。脇と腰。肘と膝。

 ああそれから。

 寸分違わず同じ場所に四発ぶち込め。


 一発目で凹みができる。二発目で傷になる。三発目が装甲を破る。四発目が三発目を押し込んで、あの鉄の服の中で暴れる。


 入った弾丸が装甲の中で飛び出ることができずに跳ね廻るンだ。9X(分かったか)?


「じゃあ、まかせたぞ」


 勇者は一切の装備を取り払い、裸になると、その場で変身した。


 皮膚の下でボコボコと骨が組み変わり、手足が細く伸び、腹と尻に肉が集まり、背が湾曲し、四本脚の蜘蛛のような姿になった。


 瞳が禍々しいアメシスト色に輝く。


 バッと跳躍するや、機鋼兵の一団の中へ飛び込んだ。


 すでにあちこちで戦いは始まっている。

 なかでも勇者だったモノがいる一画だけは、どの土俵とも違った。


 その者、銀の兵士に取りつくや、細く長い指を隙間に突き刺し、中をかき廻し、装甲を剥ぐ。


 鋼の服の中身は血と肉と骨で、できていた。

 ヒトか、それともバケモノか。


 まったくもって出鱈目(デタラメ)(訳註:当て字)だ!


 その者、ハラワタをかき分け、禍珠(コア)を見つけると、くわえ込んで、かみ砕いた。


 ゴリゴリと、骨を食むような音を立てて砕き割り、ごくりと飲み込むや、次の標的に向かって飛ぶ。


 姿を変えた勇者の参戦で、一部の情勢が好転したように見えるが、しかし、彼は何処までも自分本位であった。


 殻を割り、身を裂き、赤い石を食むのであった。


 銀の兵士が、回転機関銃を撃った。

 勇者だったモノは、全身で弾を受けて飛び散った。


 しかし、飛び散った肉片すらも機鋼兵たちを翻弄する。肉片の数だけ小さくなった〝その者〟が、さらに銀の兵士に取りついた。


 ──あれはこの世のものではない。


 若きガンスリンガーは確信した。


 天と地の間から外れた、なにかだ。


 すぐそばで、拳銃の発射音を聞いた。

 女のガンスリンガーだった。

 迫る一体の銀の兵士を相手に向かって撃つも、弾がはじかれている。


 孤立無援ながらも獅子奮迅、されども、八面六臂とはいかなかった。

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