後編_05(敵は巨人)
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うっとりとしていた、その時であった。
耳元に冷たい息が吹きかけられた。「うわあ……」
腰が砕けた。
(ペニー・ゴール。お前はここで或る女ガンスリンガーと出会う)
声まで聞こえた!
(彼女を助けろ。そして守れ)
なんかすごく適当だ!
(頼むぞ)
頼まれた!
「どうした?」
勇者が訊ねる。「幽霊でも出たか?」
ゴールは首を振った。出たら出たで、怖いじゃん。
「そうか」勇者は、まったく興味なさげに応えた。少しは気にかけて!
「さてと、だ」
その銀色の兵隊を、勇者は、全装機鋼兵、フルメタル・ソルジャーズと呼んだ。
彼らはポータルを使い、地上から、地下から、町を囲い、攻め入った。
ヒトを二回りほど大きくしたような、ずんぐりとした体躯で、全身これ甲冑というような姿形をしていた。
敵は巨人軍だ。勇者は云う。
ムボーな矢石だ。
あれを相手に、いくらが戻れるか。
黄泉の国チケットの大盤振る舞いだ。
どれだけ黄泉を売り込みたい?
黄泉売り巨人軍。
水槽みたいだろう?
中身は汁気たっぷりだ。
銃弾や砲撃を弾く曲面の装甲。それでいて、俊敏。なおかつ、多勢。
数で押すのが奴らの基本らしい。なにしろ、次から次へと湧いてくる。
あれは虫だな。勇者は云った。
隙間を狙え。
無茶な助言をいとも簡単に。
首の下。脇と腰。肘と膝。
ああそれから。
寸分違わず同じ場所に四発ぶち込め。
一発目で凹みができる。二発目で傷になる。三発目が装甲を破る。四発目が三発目を押し込んで、あの鉄の服の中で暴れる。
入った弾丸が装甲の中で飛び出ることができずに跳ね廻るンだ。9X(分かったか)?
「じゃあ、まかせたぞ」
勇者は一切の装備を取り払い、裸になると、その場で変身した。
皮膚の下でボコボコと骨が組み変わり、手足が細く伸び、腹と尻に肉が集まり、背が湾曲し、四本脚の蜘蛛のような姿になった。
瞳が禍々しいアメシスト色に輝く。
バッと跳躍するや、機鋼兵の一団の中へ飛び込んだ。
すでにあちこちで戦いは始まっている。
なかでも勇者だったモノがいる一画だけは、どの土俵とも違った。
その者、銀の兵士に取りつくや、細く長い指を隙間に突き刺し、中をかき廻し、装甲を剥ぐ。
鋼の服の中身は血と肉と骨で、できていた。
ヒトか、それともバケモノか。
まったくもって出鱈目(訳註:当て字)だ!
その者、ハラワタをかき分け、禍珠を見つけると、くわえ込んで、かみ砕いた。
ゴリゴリと、骨を食むような音を立てて砕き割り、ごくりと飲み込むや、次の標的に向かって飛ぶ。
姿を変えた勇者の参戦で、一部の情勢が好転したように見えるが、しかし、彼は何処までも自分本位であった。
殻を割り、身を裂き、赤い石を食むのであった。
銀の兵士が、回転機関銃を撃った。
勇者だったモノは、全身で弾を受けて飛び散った。
しかし、飛び散った肉片すらも機鋼兵たちを翻弄する。肉片の数だけ小さくなった〝その者〟が、さらに銀の兵士に取りついた。
──あれはこの世のものではない。
若きガンスリンガーは確信した。
天と地の間から外れた、なにかだ。
すぐそばで、拳銃の発射音を聞いた。
女のガンスリンガーだった。
迫る一体の銀の兵士を相手に向かって撃つも、弾がはじかれている。
孤立無援ながらも獅子奮迅、されども、八面六臂とはいかなかった。




