後編_03(手に花)
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「姫さま!」騎士が駆け寄り、「お怪我は!」床にへたり込んでいる王女を揺さぶった。
「やめんか」離れろ、とイブキは引き剥がした。
血は彼女のものでない。
侍女が二人、床に横たわっている。
両手を合わせて、祈るように。
その手に花を持っていた。
これを彼女がやったのか。
「なぜ、ひとりだけでなかったのか。無駄に命を散らしおって」イブキは唾棄した。
「この者たちは、ふたりでひとつなのです」と、王女は静かに続ける。「これまでもずっと、これからもずっと」
「だからと云って──いや、やめておこう」
「いいのです。云いなさい」
それを騎士が、「それは行儀がなっていません、姫さま」と、たしなめた。
「いまは行儀の話をしている時でしょうか」
王女はイブキを見た。
「ならば失礼して。この者、ひとりは完全に無駄死にです。折角の手駒がひとつ減りました」
「貴様ァ!」
気色ばむ騎士とは対照的に、冷然と「黙れ、牡丹騎士め」イブキは云った。「この役立たずが」
「そもそも、あなたは誰ですか」と王女が問う。
「ただの浪人です」
「ただの浪人に、何が分かるのです?」
「去勢侍女は、姫の身代わりになれません。偽装するならボニーでなく、メアリだけにすべきでした」
その言葉に、突如、王女は狼狽した。
「わた、私が──」
「姫、自分は誰が何をしたか、興味はない。死体が二つある。折角の忠義、これをどうにかしようと思うのです」と、云って、イブキは王女の手から短刀を取り上げた。
それはいつか、彼女が慕う者に命じ、自ら指を落とさせた得物にほかならなかった。
「去勢侍女を裸にし、顔を潰し、胸と股も潰したあと、放り出します」
そして窓の外に目を向け、「あの忌々しい鳥共が続きをしてくれるでしょう」
「そこまでしなければなりませんか」王女は辛そうに云った。
「この者たちに口がきけたのなら、勿体ないなどとは申しますまい。存分に利用してやってくださいませ」イブキは死体の服を剥ぎながら、「それが努めというものです」
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双子の侍女は王女の代役である。
王女の影を務める者である。
同じ年頃で、同じ顔に化粧を施す。
違いはひとつ。一方は性が異なった。




