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後編_03(手に花)


   *


「姫さま!」騎士が駆け寄り、「お怪我は!」床にへたり込んでいる王女を揺さぶった。


「やめんか」離れろ、とイブキは引き剥がした。


 血は彼女のものでない。

 侍女が二人、床に横たわっている。

 両手を合わせて、祈るように。


 その手に花を持っていた。


 これを彼女がやったのか。


「なぜ、ひとりだけでなかったのか。無駄に命を散らしおって」イブキは唾棄した。


「この者たちは、ふたりでひとつなのです」と、王女は静かに続ける。「これまでもずっと、これからもずっと」

「だからと云って──いや、やめておこう」


「いいのです。云いなさい」

 それを騎士が、「それは行儀がなっていません、姫さま」と、たしなめた。


「いまは行儀の話をしている時でしょうか」

 王女はイブキを見た。


「ならば失礼して。この者、ひとりは完全に無駄死にです。折角の手駒がひとつ減りました」


「貴様ァ!」

 気色ばむ騎士とは対照的に、冷然と「黙れ、牡丹騎士(イノシシ)め」イブキは云った。「この役立たずが」


「そもそも、あなたは誰ですか」と王女が問う。


「ただの浪人です」


「ただの浪人に、何が分かるのです?」


去勢侍女(カストラート)は、姫の身代わりになれません。偽装するならボニーでなく、メアリだけにすべきでした」


 その言葉に、突如、王女は狼狽した。

「わた、私が──」


「姫、自分は誰が何をしたか、興味はない。死体が二つある。折角の忠義、これをどうにかしようと思うのです」と、云って、イブキは王女の手から短刀を取り上げた。


 それはいつか、彼女が慕う者に命じ、自ら指を落とさせた得物にほかならなかった。


「去勢侍女を裸にし、顔を潰し、胸と股も潰したあと、放り出します」


 そして窓の外に目を向け、「あの忌々しい鳥共が続きをしてくれるでしょう」


「そこまでしなければなりませんか」王女は辛そうに云った。


「この者たちに口がきけたのなら、勿体ないなどとは申しますまい。存分に利用してやってくださいませ」イブキは死体の服を剥ぎながら、「それが努めというものです」


   *


 双子の侍女は王女の代役である。

 王女の影を務める者である。


 同じ年頃で、同じ顔に化粧を施す。

 違いはひとつ。一方は性が異なった。

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