後編_02(鉄の服)
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もう疑念の余地はなかった。
イブキは城内を急いだ。
角を曲がり、階段を登り、また下りそして、不格好な甲冑姿の騎士にぶつかりかけ、飛び退った。
始めて見る物である。それは手足のついた、寸胴の薬罐といった形様であった。
戦いに参加した跡が見て取れた。
表面は煤けており、そこかしこが歪んでいた。刀や銃弾を受けたであろう傷や凹みがあった。が、それでもまだ充分に働けるか。
長く大きな剣は刃こぼれし、刀身が曲がっていた。引くことも刺すこともできぬ。使い物にならぬ。せいぜい相手を打つだけだ(それでも骨を砕けるだろう、とイブキは見当をつけた)。
寸胴の甲冑には、近衛の紋章が刻まれていた。そして、隊旗を持っていた。
醜悪な甲冑にイブキは激高した。
しかし、甲冑を着込んだ女は違った。
面を上げた年嵩の騎士の目が、驚きで見開かれていたのである。
「カブキ、なぜ──」
「お前もか」
冷ややかに向けた目に、「何者か!?」近衛騎士の目が一瞬で変わった。
「やめろ。わたしは敵でない」おそらく、とイブキは胸の内でつぶやく。
しばし睨み合い、ふと騎士は「貴様の名はもしや──、」
「云うな!」イブキは一喝した。
騎士は、雷に撃たれたように、身を強ばらせた。
もし疑念を口にすれば、それが現実になってしまうことが恐ろしかったのである。
「兎に角、そのナリはなんだ」イブキは叱った。
「共和国から技術供与された戦闘装甲服だ。使い手の力を五倍も強化する」
背からもくもくと白い蒸気を噴いて、熱くないのか、このバカは。
「蒸気甲兵、スチーマシカと呼ぶ」
バカだ。
イブキは寸胴を殴りつけた。ゴオン、と音が内に響いた。
「そんな鉄の服など! 恥を知れ」
「しかし、」
「さっさと脱げ、脱がんか、バカ者! 自分で檻に入るヤツがあるか!!」
ダンッと、イブキは壁の一画を叩いた。隠し扉が開いた。「その図体で、これをくぐれるかっ」
「なぜそれを、」云いかけ、薬罐の騎士は言葉を飲み込み、予告もなく乗り込んできた流浪人を信じた。
騎士は装備を解いて軽装になると(ああ、暑かったと、汗みずくで騎士は云った。バカだとイブキは改めて確信した。こいつは昔からバカのままだ)、イブキと共に王女の私室へ向かった。
その部屋は血のにおいに満ちていた。
手に短刀を握った王女が、血溜まりの中にいた。




