幕間・前(骨の木々)
幕間
──それからのことを、イブキは、はっきりとした記憶を持たない。
若者と馬の背に揺られ、一角獣の導く先へ先へと進むだけで、日が沈み、そこで休み、夜が明けて、また進むこと幾日か。
食事は銀馬がせっついて摂らせた。何を腹に収めたのか分からなかった。硬くて冷たくて、美味いのかそうでないのか、分からないものであった。
水もまた同じく、銀馬が用意した。つまり、ふたりと一頭は、銀の馬にただ世話をされたのである。
ようやく気力を取り戻したのは、真白い砂の堆積した路に至った頃である。
目を細める必要があるほど、白磁の路が続いていた。
「──ここか」
イブキが銀馬に訊ねると、驚いたことに、一角獣は鼻を鳴らして肯定した。
「はッ」イブキは笑った。「成程。これは確かに面妖だ」
イブキの躰に力が戻った。
これからの予感に胸が躍った。
それからのイブキは、早かった。
銀馬の背から飛び降り、若造を馬から引きずり下ろし、頬を張って、「目を覚まさんかッ」叱咤した。
若者もまた、欠落した数日間を置いて、ここに冴えた。
「この先に伝説が待っている」
「いよいよか」
「うム」イブキは力強く頷いた。
そして、自分の腹をぽんと叩き、「鬼が出るか蛇が出るか」楽しそうに口にした。
「行くぞ」
踏み出した足の下で、ポキリ、と白い枝の折れる軽い音がした。
*
依然、白くて細い枯れ木の路が続いていた。
足下では、ぱき、ぽり、と小さな音がはじけ、風が吹けば擦れ合い、からから、と鳴る。
進むほどに、木々の色もさえも白樺のように色をなくしていく。
枯れた木々の名残でなく、骨の木々ではなかろうか。
──ここは冥土か。
或いは、そうかもしれぬ、とイブキは思った。心なし、空も色を欠いている──いや、間違いなく消えている。
霧に包まれたのでも、雲に入ったのでもない。煙に巻かれたとしか。
誰としてたどり着けず。何人も帰らせず。
迷い森か。イブキは理解した。
──故に、伝説か。
銀の一角獣が歩みを止めた。
辺りは音もなく、風もなく、ただただ白に埋もれていた。
雪であれば良かった。
イブキの足下で、ぼり、と細い枝が折れた。
「──骨、だな」
イブキは確信を口にした。「ヒトも獣も、バケモノさえも、ここで迷い、骸骨となったか」
「うへー!」
ゴールは飛び上がり、ごろっとした物に躓き、転び、白い粉を巻き上げた。
頭蓋であった。「うへー!」
「騒ぐな、莫迦め。ここは現し世でない。隠り世か、さもなくば常夜だ」
「うへー!」
騒ぐ若造の頭を、イブキは、ぽかりと殴った。
「ぴよ!」黄色い鳥が飛び出した。
「おれたちは戻れるのか?」
尻を叩きながら立ち上がる若造に、「知るか」イブキは銀の馬へ顎をしゃくり、「あれに聞け」
一角獣がぞんざいに地を蹴った。
骨の枯れ木が砕け散り──鈍色の石版が姿を現した。




