前編_12(突破)
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天狗面は図体だけでない。一家の要だ。
食み出し者をまとめあげるに、肉体的な大きさだけでなく、精神的な柱となっているのは想像に難くない。
奴を打ち倒せば、他の者は三々五々に散るであろう。
よしんば思う通りでなくとも、突破口になる。
天狗面はあの態である。
──踵だ。
そこの腱を断てば勝機となる。どんなナリであろうとも、二本の足で立てなくては分がない。
鞘の中で刀身が震え鳴った。
──これも武者震いしておる。
よかろう。イブキは肝を据えた。
血を吸わせてやる。
若造に、天狗面のどこでも良い──狙わせ撃たせ、気の逸れた一瞬で切りつける──できるだろうか?
若造の技量を、どの程度に信頼できるだろうか?
イブキは内心、自嘲する。
考えるだけ無駄だ。若造が当てても外しても、ここから脱することができようか?
「タイマンだ」
イブキは天狗面に向かって云った。
「なんだと?」
「ほれ、わたしと、お前で。わたしと二人で」
「なんだと?」
「数で押して沽券にかかわらんか」
「山賊相手に、妙なことを」
「たった今、お前は自分で無法を認めたぞ。数も図体もそちらに分があろう、少しの譲歩が恥になるか?」
「口車に乗るか」
天狗面は憤然と云った。「お前は背中から切りつけるのも厭わない性分であろう」
頭領の言葉に、そうだ、そうだと、山賊たちは賛同の声を上げ、「恥知らず!」「邪道め!」「下衆が!」罵倒が飛んだ。「頓痴気!」「愡茄子!」「饂飩食!」
しかし、イブキは、「道理のならん相手に道理を通す道理はない」云い放った。
何を云ってるんだ、こいつ、という目をされた。
知るか、木瓜(註:誤字)。
礼に始まり、礼に終わるような立ち会いでもなかろうが。
イブキは細く長く息を吐いた。
「ふうむ」と、天狗面は愉快そうに続けた。「一対一か。小童の同然のナリにしては、どうしてどうして肝の太さは立派なものだ、面白い。だが、おれを倒したとして、この場から逃れられるかは別だ」
頭領の言に三下共が、「そうだ、そうだ」と、いやらしい笑い声を上げた。
「それは致し方あるまい」イブキも笑った。「尻を端折って逃げ出すさ」
「よし」天狗面は腰を落とし、醜を踏み、「気に入った、乗ってやろう」大地が揺らいだ。
「なんの。虚勢だよ」イブキも裸足になり、しっかと大地に指を立てた。
巨人と、小さな剣士が対峙した。
勝負は、如何に。
──後編に、続く。
次回予告!!
なんだかんだで剣士と拳銃使いは、天狗の面をつけた山賊の頭領を倒した。しかし、それで済むはずもなかった──多勢の手下を相手に、どうなる!?




