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前編_12(突破)


   *


 天狗面は図体だけでない。一家の要だ。


 食み出し者をまとめあげるに、肉体的な大きさだけでなく、精神的な柱となっているのは想像に難くない。


 奴を打ち倒せば、他の者は三々五々に散るであろう。


 よしんば思う通りでなくとも、突破口になる。


 天狗面はあの(ナリ)である。

 ──踵だ。


 そこの腱を断てば勝機となる。どんなナリであろうとも、二本の足で立てなくては分がない。


 鞘の中で刀身が震え鳴った。

 ──これも武者震いしておる。


 よかろう。イブキは肝を据えた。

 血を吸わせてやる。


 若造に、天狗面のどこでも良い──狙わせ撃たせ、気の逸れた一瞬で切りつける──できるだろうか?


 若造の技量を、どの程度に信頼できるだろうか?


 イブキは内心、自嘲する。

 考えるだけ無駄だ。若造が当てても外しても、ここから脱することができようか?


「タイマンだ」

 イブキは天狗面に向かって云った。

「なんだと?」


「ほれ、わたしと、お前で。わたしと二人で」

「なんだと?」


「数で押して沽券にかかわらんか」

「山賊相手に、妙なことを」


「たった今、お前は自分で無法を認めたぞ。数も図体もそちらに分があろう、少しの譲歩が恥になるか?」


「口車に乗るか」

 天狗面は憤然と云った。「お前は背中から切りつけるのも厭わない性分であろう」


 頭領の言葉に、そうだ、そうだと、山賊たちは賛同の声を上げ、「恥知らず!」「邪道め!」「下衆が!」罵倒が飛んだ。「頓痴気(とんちき)!」「愡茄子(ぼけなす)!」「饂飩食(うどんくらい)!」


 しかし、イブキは、「道理のならん相手に道理を通す道理はない」云い放った。


 何を云ってるんだ、こいつ、という目をされた。


 知るか、木瓜(ボケ)(註:誤字)。

 礼に始まり、礼に終わるような立ち会いでもなかろうが。


 イブキは細く長く息を吐いた。


「ふうむ」と、天狗面は愉快そうに続けた。「一対一か。小童の同然のナリにしては、どうしてどうして肝の太さは立派なものだ、面白い。だが、おれを倒したとして、この場から逃れられるかは別だ」


 頭領の言に三下共が、「そうだ、そうだ」と、いやらしい笑い声を上げた。


「それは致し方あるまい」イブキも笑った。「尻を端折って逃げ出すさ」


「よし」天狗面は腰を落とし、(しこ)を踏み、「気に入った、乗ってやろう」大地が揺らいだ。


「なんの。虚勢だよ」イブキも裸足になり、しっかと大地に指を立てた。


 巨人と、小さな剣士が対峙した。

 勝負は、如何に。


 ──後編に、続く。


 次回予告!!

 なんだかんだで剣士と拳銃使いは、天狗の面をつけた山賊の頭領を倒した。しかし、それで済むはずもなかった──多勢の手下を相手に、どうなる!?

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