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<フィクトル視点>お嬢様はハーブティーに興味がおありのようです。

ポイント評価ありがとうございます!

読んでもらった上に評価をいただけると思ってなかったのでとても嬉しいです!!

主人公じゃない視点で書いたストーリーを書いてみましたので、お楽しみくださいませ。


わしはフィクトル。

モリスヴィット家の庭師。



家族はいまはいない。

息子に嫁、孫娘にも恵まれて平凡に暮らしておった。

あとはのんびり天国にいる妻からの迎えを待つだけだ、と構えていたことがなつかしい。



わしは花を育てるのが好きで、いろいろな花を育てていた。

特に薔薇を育てることに生きがいを感じていた。

丹精込めた育てた花を売ったり、売れるほどのものではないものを近所に配ったりしておった。


しかし、疫病が蔓延したことをきっかけに生活は一変した。


最初の異変は孫娘の咳だったように思う。

風邪をひいたのだろうと安易に考えたことが悪かったのかもしれない。


孫娘の咳はひどくなるばかりで、やがて家族や近所にも同じ症状があらわれはじめた。

小さな孫は死んだ。やがて追いかけるように看病をしていた嫁も死んだ。


誰が言い出したかはわからない。

だが、いつのまにかこの疫病の原因は我が家だといわれるようになった。

最初は孫が死んだことに同情的だったが、ほかにも死者が出るようになるとまるで病原菌のように扱われるようになった。

たしかに発病は我が家周辺からだ。


だが、原因は我が家ではない。

牧場に出入りするネズミかもしれないし、川が氾濫以降腐敗臭がする井戸水かもしれない。


状況を改善するために原因を究明することは大事なことだ。

しかし、原因を押し付けて責任を転嫁しては解決するものもしない。


わしはそう説明し、原因究明をしてこの疫病を改善しようと呼びかけたが誰も聞く耳をもつことはなかった。

わしの家に町中の人がおしいり、「町から出て行け!」と騒ぎ立てるだけだ。


「フィクトルの育てる花は町一番」と褒めてくれた人々はその花を踏み潰していた。


子と妻を亡くした息子は町人からの言葉に激高したことを理由に気が狂ったといわれ、サナトリウムに入れられた。


近いうちにわしも何らかの理由をつけて町を追い出されるだろう、とぼんやりと思った。

平凡な幸せを積み重ねてきたのに失うのは一瞬だった。

せめて最初に死ぬのが自分であれば楽だったのに、と思うくらいには疲れていた。


いつ追い出されるかわからない。

もう我らの墓を管理する者もいなくなるだろう。


わしの育てる花を好きだといってくれた家族のため、わしら家族が生きてきた証のため、墓の周りに花を植えることにした。



庭から比較的無事な花を植え替え、墓が華やかになる。


「きれいですね。」突然話しかけられた。

もうこの街にわしに普通に話しかける者はいないというのに。


振り返ると見たことがない黒ずくめの服をきた女性だった。


きけば、住み込みの庭師を探しているという。

病弱で外に出られない主がせめて窓からの景色を楽しめるように庭園を作り、管理してくれる人を探しているのだ、と。

小さな子供もいるので、少しでも楽しめるような場所をつくりたい、と。



この町からは遠く、一度出たら戻ることは難しいだろうが来てくれないだろうかと誘われる。




誰にも必要とされず、責められる毎日から離れ、おだやかに花を育てながら家族を思って暮らしていきたい。

わしは住み込み庭師の仕事をすることを了承した。





働き始めて数年がたつ。

奥様とお嬢様の二人だけが暮らすこの大きな館はまるで牢獄のようだ。

使用人は住み込みで里帰りもしない。


ただ淡々とわしは花を育てていた。


ある日、何かが落ちる音と小さな悲鳴が聞こえてきた。

駆けつけたところ、お嬢様の上に木の枝が落ちてきた様子だった。


咄嗟に声をかけるが、反応がみられない。

倒れたお嬢様を前に、運んでいいものか助けを求めた方がいいのか思案する。

お嬢様が何かうめき声のような者を発し、体を起こそうとしていることに気づく。

あわてて手を添え、起こすのを助けようとしたところお嬢様はゆっくりと体を見下ろし、手を握ったり開いたりすることを繰り返す。


起き上がって館を見たとたん、また再び気を失った。


お嬢様を抱き抱え、わしをこの使用人として拾ってくれた筆頭侍女のエディット様にお嬢様を渡す。


エディット様は冷静にお嬢様を受け取るとお嬢さまの侍女のククリスに指示をして去っていった。



お嬢様のお見舞いに薔薇を見繕い、ククリスに渡した。

ククリスによれば目は覚めているとのことだったが、それ以上の話はなかった。

ここの使用人は必要最低限の会話しかしないのだ。



もともとお嬢様とは特に接点はないが、やはり気になる。



いつものように花を手入れしていると「ねぇ」と幼い声がする。


「この花はなんという花なのかしら?」にこにこと子供らしい顔をしたお嬢様が声をかけてくる。


「お嬢様、私のことはどうぞフィクトルと呼んで下さい。」そう答えながら、花について説明する。


孫娘が花を手入れするわしの側をうろつきながら「じいじ、これなに?」とキラキラさせていたことを思い出す。


お嬢様が興味を持った花は孫娘と同じ花だった。子供は同じようなものを好きになるのかもしれない。

昔、手にしていたはずの穏やかで幸せだった時間を思い出し、頬が緩む。


「ねぇ、フィクトル。私、お花に興味を持ったわ!図鑑とかってあるのかしら?」 お嬢様が花に興味を持ってくれたようだ。


私はほとんどの荷物を置いてきたが、字を読めない孫娘が絵を楽しんで読んでいた図鑑は墓標代わりに持ってきていた。

お嬢様に楽しんで読んでもらえたら、孫娘も喜ぶだろう。


「楽しみだわ。このお花って本当に素敵。紅茶みたいにして飲めるお花ってあるかしら?」


お嬢様にカモミールティーについて説明する。


孫娘が好きだったカモミールを私はこの庭でもひっそり育てていた。

庶民は花を育てるだけでなく、食料としても活用することが普通だった。


こんな裕福な館では食べられることはないと思いつつ、家族の思い出として育てることを続けていた。時々一人で楽しみ、家族に思いを馳せていた。


(それがまさか役にたつことがあるなんて)わしは喜んで説明した。


もし、お嬢様がハーブティーを好まれるようであればミントやレモングラスなんかも育ててみようと思う。


これだけの薔薇があるのだ。

贅沢すぎるのでまだ作ったことはないが、以前から構想していた薔薇のジャム作りに挑戦するのも良いかもしれない。

ご機嫌な様子で部屋に戻るお嬢様をみながら、久しぶりに胸が躍るのを感じた。



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