それって嫁入りじゃなくて生贄だと思います!
やはり、この世界は美女とイケメンだらけのようだ。
まぁ、この館だけの話なのかもしれないけれど・・・。
庭師のおじいちゃんだとか下働きの人達はブラウン系の髪と瞳で、肌は白というよりも褐色に近い。
あと下働きの人たちはおじいちゃんだとかおばあちゃんが多いようだ。
侍女や執事的な印象を持つ人は銀髪、白髪が多く、瞳は赤い。
この館は日が当たりにくい構造なので、肌もみんな白い。
どんな立派なお屋敷でもまともに太陽の光があたらない欠陥住宅なんてごめんである。
あと表情筋が死んでるのかな、というくらい表情変化に乏しい。
愛らしく話しかけても恭しすぎる丁寧な対応だ。
もっと気軽に話したいのに。
こんなにたくさんの人がいるのになんだか一人ぼっちな気持ちを抱えているサーティリアの気持ちがわかる。
でも、館の使用人達の鉄仮面な表情は、美女をみるたびについニヤニヤする己の表情筋を思うとうらやましい。
母とは思えない深窓の令嬢のマリアンヌ様のみが微笑を浮かべている程度でほかはクール系ばかりである。
たとえば、お母様の専属と思われる侍女のエディット・カナート。ベッドでほぼ生活しているお母様の世話を甲斐甲斐しくしている。
お母様を見守り隊(私が勝手に作った)のエディットの愛情は母であるマリアンヌのみに向けられている。それはわかるが、その母に対してさえも表情は変わらない。ちなみに母以外には鉄仮面というか絶対零度の対応である。
私が可愛い女の子はみんな大好き派だとしたら、エディットはお母様一筋の一点突破型だ。
私のお世話をしてくれるのは主にククリスだ。
侍女見習いのようで年齢は14歳くらい。クール系美少女で、私の世話を問題なくこなしている。
それと家庭教師のクピディーダス先生。
一ヶ月に一度くらいのペースでやってくるインテリ系イケメン家庭教師である。
私が問題なくヴァンダイア公国に嫁入りができるように教育するのが仕事のようで、先日顔合わせをすませたばかりだ。
性格がきつそうな雰囲気がものすごく溢れている。
しかし、イケメンであるためにそこさえも魅力的にうつるのである。
イケメンとは許される存在なのである。まぁ、私はイケメンに興味ないけど。
声もイケメンであり、声優としても大活躍できそうである。この世界に声優という仕事がないことが
今日からヴァンダイア公国について詳しく学ぶようになっている。
まぁ、嫁入り先の状況はよく知っていた方がいいだろう。
私は真面目に学ぶつもり満々である。
そう、真面目に学ぶつもり満々であったが、クピディーダス先生の授業に追いつけなかった。
クール系が多い我が家の使用人たちの中でも、もはや冷酷ともいえる雰囲気をもつインテリ系イケメン家庭教師が淡々と説明している。
内容は聞いているはずなのに、理解が追いつかない。
私の理解が追いついているかどうか全く気にしていない様子はいっそ清々しい。
クピディーダス先生は、衝撃的な内容を淡々と述べたのである。
「ヴァンダイア公国を治める大公爵は他種族の血液が主なエネルギーだ。
それを供給することが其方の役割である。」と。
どのような血液が好ましいかをこれまた淡々と説明している。
・・・えーと?聞き間違いかな?解釈の違いかな?
理解のすれ違いだといいなぁ。
いや、すれ違いに違いない。
こんな内容を淡々といたいけな少女に語るはずがない!
「それは・・・私は嫁入りじゃなくて旦那様に血液を提供するためにヴァンダイア公国に行くということでしょうか・・・?」おそるおそる尋ねてみると、「いや、違う。」と返された。
やっぱりすれ違いだったんだ、相互理解の歩み寄りって大事だよね、うんうんと安心したのも束の間。
「其方は嫁として一族を支えるのだ。旦那様だけではなく、その一族に血液を提供できるよう、嫁入りまでにより良い血をつくることがこれからの其方の仕事だ。」と普段よりさらに冷たい視線で返された。解説したのになぜ理解できなかったのだ?という憮然とした表情さえ浮かべている。
え、それって旦那様だけじゃなくて家族になる人全員に血液を提供するってこと?!?!
何人いるのか知らないけど、前世と同じように失血死してしまいそうなんですけど?!
っていうか、一族に血液を捧げることが嫁入りっていうのはおかしいのではないでしょうか。
嫁入りの言葉の解釈についてすり合わせを要求したい!!!
「はぁ・・・。其方の理解度では口頭では追いつかないようなので、良い血液のつくり方についての本を渡しておく。次回までに読んでおくように。族王一族に血を捧げられることを誇りに思うように躾けなければな…。」そう不穏な言葉を付け足しながら冷酷なインテリ系イケメン家庭教師は去っていった。
ヴァンダイアって・・・ヴァンパイアみたいな感じなんだ・・・。
そういえば語感も似てるし、なんで気付かなかったの私!!!!!
ショックを受けつつ、立派な装飾をした本の表紙を撫でるとまるで人の肌のような触り心地だった。
(この本には好ましい血が書かれているんだよね・・・)本を撫でながら考える
。そして私は天才的なひらめきをした。
(・・・つまり、この本と逆のことをしたら嫌われる血になるってことだよね?!)
ふむふむ。天才だな、私!!!
じゃぁ、この本を読み尽くして、正反対のことをしよう。
そして欠陥血液令嬢となり、見事婚約を破棄されてみせる!!
そしたら私はマリアンヌ様とエディット様の百合を楽しむことに人生を捧げられる。
さらに嫁入りがなくなれば冷酷イケメン家庭教師もお役御免でいなくなるし、美女だらけのハーレム生活を堪能できる!!!
私は赤く萌えた瞳で本の表紙を読み始める。
ヴァンダイア族が好む血というのはいわゆる貧血気味の不栄養な血のようだ。
できるだけ肉をたべず、新鮮なものを食べず、日にあたらず、運動をしなければいいらしい。
あとにんにくなど匂いや味がきついものも食べてはいけないようだ。
この本はご丁寧に「すべきではないこと」が具体的に書かれている。
つまり、それを破れば良いということ。簡単である。
(っていうかバンダイア族の好む血液ってめちゃくちゃ不健康じゃない?!そんな生活してたら献血の採血で却下されちゃうよ?!)
献血のために日々良好な血を作るための健康生活を送っていた私にはびっくりである。
(ん?ってことは・・・?)
前世とおなじような健康献血生活をすればいいってことか!楽勝じゃん!!
私はウキウキした気分になる。
こんな気分はサーティリアになってはじめてである。
私は頭の中に思い浮かべる。
(肉をたべて、新鮮なものをたべて、日光浴して、運動したら良いってことよね!)
しっかり頑張って冷酷イケメン家庭教師および本の教えを破り、美少女なお母様や使用人達に囲まれたハッピーハーレムライフを送っていくことをひっそり決意するのだった。