美人院長がいる孤児院で献血することになりました!
食事と血液の関連研究は私一人では比較ができないとのことで、孤児院に連れて行かれた。
このヴァンダイア公国の孤児院は人間に捨てられた子に食事を施す代わりに、対価として搾血をするとのことだった。
非道であるように思うが、ヴァンダイアが施しを行わなければ孤児らがどうなるかを考えると一方的に批難しづらく、複雑な気持ちである。
親に捨てられた子供、か。
必要とされないつらさは前世で身を持って経験済みだ。
搾血なんて恐ろしいものではなく、健康な血液をつくって献血のようにギブアンドテイクをすればいいな・・・。
私とレーナみたいな関係というか。
美味しい食事と安心できる環境を得て、快く献血をしてもらいたい。
できれば怪我をせずに安全に血液がとれたらいいんだけれど・・・。
これは要研究である。
◇
実際、子供たちと会うために孤児院に行って驚いた。
ひどく劣悪な環境だった。
でも、子供たちは互いに助け合い、美人で優しく穏やかなアーヤ院長のもと、慈しみ合い、仲がよかった。
グループにわけて対象実験をおこなうことになった。
同じ食事内容でも年齢や個人の資質で結果が変わるかもしれないので、5人前後のグループで行うことにした。
もともと4~5人ごとに年長児と年少児が混ざって部屋が割り当てられていたので、そのままのグループでまずは行うことにした。
子供たちに苗字はなく、名前だけだそうだ。
ガリガリで明らかに必要最低限の食事しかもらっていない子どもたち。
いきなりご馳走を与えるとお腹を壊すだろう。
野菜スープなどから始めると良いかもしれない。
まずはハーブティーを渡した。
あわせて献血について説明した。
献血をした子にはキャロットケーキやかぼちゃクッキーなどのおやつとハーブティーのご褒美を出すと子供達と伝えたところ、子供たちはやるといってくれた。
初めて飲むお茶と美味しいお菓子。
子供たちの目にキラキラとしたものを感じる。
うん、やっぱり子供には希望をもって生きて欲しい!
環境を改善し、幸せハッピーライフを子供らに感じてもらうのだ!
研究対象とはいえ、食事が提供されることが子供たちはとても喜んでいた。
血液を提供するだけで食べものがもらえると大喜びだ。
なんだか胸がいたむけど、これからは私の知識と経験を使って、しっかり栄養のあるものを食べさせようと決意する。
もちろん、レーナや血が必要なヴァンダイアのための研究っていうのはわかってるけど・・・。
誰かが誰かのために搾取されるだけの関係より、win-winの関係を目指したい!!
私は食事改善のほか、病気にならないように孤児院を清掃し、衛生面も整えた。
衛生面が悪いと疫病も蔓延しやすい。
健康な血液のためには病気にならないことはとっても大切なことだ!
自分たちの健康のため、おいしいご飯を食べるためにも孤児院内を綺麗な状態をキープするよう伝えた。
子供達も気合いをいれて守っている様子が伺えた。
そう決意して取り組むこと数週間。
子供たちはみるみるうちにふっくらとした子供らしい体型と肌ツヤを取り戻していった。
この研究がおわり、食事提供が終わってからのことをふと思う。
孤児らと接するうちに、子供だちが自立できるようなシステムを作りたいと思うようになった。
料理は子供たち自身が行うように変更した。
そうしたら食事提供がおわっても、材料が手に入れば自分たちで作ることができる。
食べれる植物を育てて、自分たちで食べる。
そうやって健康になってほしい。
畑などをすれば体力作りになるだろうし!
骨と皮だけの体では健康な血液はつくれないのだから研究目的にもあってるはず!!
また子供たちが自分たちで食材を用意できるように稼ぐ手段が必要だ。
孤児院に現金が入るようにする良い手段があれば・・・そうだ!
私は名案を思いついた。
そう、孤児院に業務委託して現金を支払うのだ!!
ミーアさんにも相談して、一定の成果が出ていることから実践研究の対象者を広げることを提案し、
炊き出しをし、炊き出しを受けた人は血液を提供するという事業を行うことにした。
その炊き出しは孤児院への業務委託ということで、金銭を支払うことにしたのだ!
アーヤ院長は最初は断っていたが、子供のたちのためにも受け取って欲しいと熱弁したら、たおやかな笑顔で受け取ってくれた。
「これで子供たちに服を用意してあげられる。」と嬉しそうに微笑む姿が聖母すぎる。
今回の献血研究で栄養が十分に補給されるようになったことから、子供たちが成長したため服をどうやって用意するか悩んでいたそうだ。
全然気付かなかったよ・・・。
現金を用意できて本当によかった!!
まずは小規模で実験するということで、いつもより多めに孤児院での食事をつくってもらい、孤児院側の広場で炊き出しを行った。
すると予想以上に人がきた。血液を引き換えにしてでも、食べるものを必要としている人がこんなにもいるのだと驚いた。
ミーアさんは来る人来る人みんなに笑顔を向けてお礼を述べている。まさに天使だ。
しかも名前と年齢、職業をきいて、メモをしている。無職だと答える人には何をして過ごしているのかをきいている。天使だ。ナイチンゲールのようだ。
マヤリーさんは的確に人をさばいている。炊き出しを受けた人を採血に回している。有能すぎる。
子供たちも一生懸命だ。特に明るくリーダー的な存在のリアッカを中心に、ムードメーカーのムロランたちがマヤリーの真似をして行列をさばいている。
真面目なカムアはミーアさんの真似をして、採血中の人にお礼を述べて名前や年齢、職業などを聞き取っている。
カムアは孤児にしては珍しく拙いながらも字が書ける。
アーヤ院長のお手伝いを積極的にしており、その中で字も教えてもらっているようだ。
カタコトみたいな文字ではあるが、メモとしてなら十分だろう。
十分な食事で健康を取り戻した子供たちはなかなか可愛い見た目をしている。
その中でも抜群に美しいのはカッコとモエットの仲良し二人組だ。
一生懸命に炊き出しの呼びかけをしてくれているのだが、その可愛い見た目につられてきている人も多い。
第一回目の炊き出しは大成功だったと思う。
でも、ミーアさんによれば炊き出しで採血したものはやはり質が悪く、また摂取もサンプル程度の微量でしかできなかったとのことだ。
定期的に炊き出しをすることで、大人がどれくらい改善されるのかが楽しみだと笑顔だ。
「リアのひらめきのおかげだわ!」そういってキラキラな笑顔で両手をぎゅっと握りしめてくれる。真面目で前向きとかお嫁さんになってほしいランキング第一位すぎる。
私が喜びにひたっていると、マヤリーさんも「本日はありがとうございました。」と握手を求めてくれた。ボディーコミュニケーション、万歳である!
これからは定期的に炊き出し業務を依頼すること、また他の仕事も依頼するつもりだと話すととても安心した様子だった。
冬支度のための薪など、こまごまとしたものを用意するためにも金銭のやりくりをどうするか悩んでいたらしい。
いまは実践研究の報酬として食事が提供されるが、今後のためにも金銭を貯蓄にも回したいと話していた。
孤児院の運営といっても食べ物を与えればいいってもんじゃないよなぁと改めて思った。
食事を用意できたことで私は安心していたが、まだまだ不十分なことを知った。
もっと子供たちが安心して暮らせる環境や体制をどう作るか、まだまだ検討の余地はありそうだ・・・。